『ナイル殺人事件』

この週末は、ブルーレイで『ナイル殺人事件』を見た。

1978年のイギリス映画。
監督はジョン・ギラーミン
タワーリング・インフェルノ』やリメイク版の『キングコング』を撮った人だ。
原作はアガサ・クリスティ
彼女の「エルキュール・ポアロ」シリーズの第一作だそうだ。
主演はピーター・ユスティノフ
クォ・ヴァディス』や『スパルタカス』で有名だ。
先に映画化された『オリエント急行殺人事件』のアルバート・フィニーが辞退したため、彼に回って来たようである。
ファンにとっては、アルバート・フィニーポアロ役が最高で、ピーター・ユスティノフは違和感があるらしい。
まあ、僕も先に見たのが『オリエント〜』の方なので、そのイメージが付いてしまってはいる。
が、アガサ・クリスティにもポアロにも特に思い入れはないので、これはこういうものとして受け入れよう。
ピーター・ユスティノフは素晴らしい役者だと思っている。
『オリエント〜』もそうだったが、本作もキャストが豪華だ。
ロイス・チャイルズ(『華麗なるギャッツビー』)、ミア・ファロー(『ローズマリーの赤ちゃん』『華麗なるギャッツビー』)、ジェーン・バーキン(『ナック』『ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ』『美しき諍い女』)、ジョージ・ケネディ(『暴力脱獄』『大空港』『大地震』『人間の証明』『復活の日』)、オリヴィア・ハッセー(『ロミオとジュリエット』『復活の日』)、ジャック・ウォーデン(『大統領の陰謀』『チャンス』)等。
更に、恥ずかしながら僕が出演作を未だ見ていない大ベテランや、著名なシェイクスピア俳優が出演している。
オールスター・キャストだが、個性的で演技力のある役者を多数起用したため、それぞれが埋没せずに自分の持ち味を発揮している。
どうでもいいことだが、名前だけのキャスティングに終始している昨今のNHK大河ドラマなんか、見習った方がいいんじゃないの。
音楽はニーノ・ロータ
大巨匠なので、作品は省略。
この人の音楽は甘美で哀愁が漂っていて、うっとりする。
本編は、のどかな田舎町の風景から始まる。
クラシックな車が走る。
屋敷に着いた。
アメリカ生まれの美女リネット(ロイス・チャイルズ)が出て来る。
それにしても、スゴイ屋敷だ。
メイドのルイーズ(ジェーン・バーキン)も登場。
ちょっと元気がない。
僕は高校生の頃からシャルロット・ゲンズブールのファンなので、そのつながりでジェーン・バーキンの映画を観たり、CDを聴いたりしていたが、こうして見ると、やはり似ているなあ。
ルイーズは、ちょっとフランス語っぽい英語を話す(本当はイギリス人のクセに)。
リネットの屋敷に、旧知のジャクリーン(ミア・ファロー)が来ている。
ジャクリーンの婚約者サイモン(サイモン・マッコーキンデール)が失業し、生活に苦しんでいるため、手を貸して欲しいという相談であった。
リネットはサイモンと会うが、その直後に、彼女はサイモンとの電撃結婚を発表する。
略奪婚だ。
新婚旅行はエジプトへ。
リネットの叔父で財産の管理人であるアンドリュー(ジョージ・ケネディ)は、身分不相応な結婚のニュースに驚き、エジプトへ向かうことにする。
このようにして、主要なキャストが順番にエジプトに行くことになる。
サイモンとリネットがピラミッドに登る。
それにしても、ピラミッドというのは近くで見ると、これほどゴツゴツとした石の集まりだとは思わなかった。
二人がピラミッドのてっぺんに登り詰めると、そこにジャクリーンが現れた。
恋人を取られて、エジプトまで追い掛けて来た執念のストーカーである。
女の恨みは怖いねえ(男でも同じか)。
またミア・ファローは、こういう頭のおかしな女の役が似合うんだ。
彼らが泊まっている同じホテルに、名探偵ポアロピーター・ユスティノフ)もいる。
更に、社会主義者ファーガスン(ジョン・フィンチ)は、旅のお供に『資本論』を読んでいる。
僕も、いつか『資本論』を読もう。
彼の恋人がロザリー(オリヴィア・ハッセー)。
彼女は作家サロメアンジェラ・ランズベリー)の娘である。
こうやって、主要キャストを順に紹介して行く手法なんだね。
ミア・ファローは、恐ろしいことに、ピストルを持参している。
今の日本なら、銃刀法違反で現行犯逮捕だろう。
翌朝。
エジプトの町へ出る。
ロケがいいね。
画面のくすんだ感じが心地良い。
時代背景は、多分戦前なんだろう。
ちょっと古い時代の雰囲気を出しているのかも知れない。
で、ホテルに泊まっていた偉そうな人達が、みんなで遊覧船に乗る。
琵琶湖のミシガンのような外輪船だ。
この船の中で事件が起きる。
豪華な乗り物の密室の中での殺人事件というのは、『オリエント急行殺人事件』と同じパターンだな。
上流階級ばかりだから、衣装がまたリッチそうだ。
本作は、アカデミー賞衣装デザイン賞を受賞している。
遊覧船が動き出した。
船客である富豪の老婦人ヴァン・スカイラー(ベティ・デイヴィス)を、川岸から尻を出してからかう現地人の少年達。
児童ポルノだ。
彼女の付き添い人がバウアーズ(ベティ・デイヴィス)。
登場人物が多いので、人物紹介だけでも時間が掛かるが、仕方がない。
船の中で、メイドのルイーズはリネットに「婚約者が待っているので、仕事を辞めて、これまでのお勤め代を払って欲しい」と頼むが、すげなく断られる。
叔父のアンドリューもリネットに、財産の書類に無理矢理サインさせようとする。
マルクス主義者のファーガスンは、そもそもブルジョワジーを嫌悪している(当然だ!)。
一々ここに書き切れないが、リネットは向かうところ敵だらけだ。
船の中で一泊して、翌日、乗船客らはカルナック神殿を訪問する。
ここで何かが起こりそうなサスペンスフルな雰囲気である。
さあ、神殿の上から、リネットに大きな石が落ちて来た。
カメラは、神殿の上からもその様子を捉えている。
スゴイ撮影だ。
間一髪、リネットは危機を免れるが、驚いた人々が集まって来る。
誰が怪しいのか。
誰も彼も怪しい。
と思っていたら、ラメセス2世の像の前にジャクリーンが立っていた。
やはり、彼女が犯人なのか。
しかし、華奢な彼女が大きな石を落とせるだろうか。
さて、乗客は皆、船に戻った。
ポアロは至る所に登場して、人々の会話に耳を傾けている。
彼は盗み聞きが得意なのだ。
夜のサロンでは、ジャクリーンが酒をあおって荒れており、誤って元恋人サイモンの足を撃ってしまう。
彼女は半狂乱になる。
『チャンス』で大統領を演じていたジャック・ウォーデンが医者の役である。
騒ぎが大きくなっている間に、銃が消えてしまった。
そして翌朝、何とリネットが自分の部屋で頭を撃たれて死んでいたのである。
第一発見者はメイドのルイーズ。
乗船客には、みんなアリバイがある。
ポアロが推理を重ねて行く。
その様子が、映像で再現される。
これがなかなかリアルで良い。
黒澤明の『羅生門』のようである。
みんなアリバイがあるが、乗船客は誰もがリネットを快く思っていなかったから、みんな怪しくもある。
「乗客全員が敵だ。」
犯人が差し向けたのであろうか、ポアロの部屋に毒ヘビがいる。
幸い退治されたが、ヘビは一撃で死ぬのだろうか。
ちょっとウソ臭い。
こんなことをしている内に、第二の殺人が起きてしまう。
被害者はルイーズ(ジェーン・バーキン)。
僕は、ジェーン・バーキンのクレジットが2番目に出ていたから、きっと彼女が犯人に違いないと思っていたのだが(後に、単なるアルファベット順と判明)。
更に、「犯人を見た」と語るサロメが、その名前を口にしようとした瞬間に撃たれる。
使われたのはアンドリューの銃。
だが、その銃の存在は乗船客みんなが知っていた。
さあ、犯人は一体誰だろう。
この後、全員がサロンに集まり、名探偵ポアロの謎解きが始まる。
まあ、いつも同じパターンだな。
もちろん、結末は書かないが、こういう推理物は、どうも毎度話が出来過ぎのような気がする。
しかしながら、最後に更なるドンデン返しが!
1979年の洋画興行収入2位(1位は『スーパーマン』)。