『西部戦線異状なし』

この週末は、ブルーレイで『西部戦線異状なし』を再見した。

西部戦線異状なし [Blu-ray]

西部戦線異状なし [Blu-ray]

  • 発売日: 2012/05/09
  • メディア: Blu-ray
1930年のアメリカ映画。
我が家にあるブルーレイでは、一番古いトーキー映画である。
僕が学生の頃、和久井映見目当てで、「事件は現場で起きているんだ」が主演で、シャブ中が主題歌を歌っている『就職戦線異状なし』というクソ映画を観に行ったことがあるが、これはもちろん、本作からタイトルをパクッている。
監督はルイス・マイルストン
原作はエーリッヒ・マリア・レマルク
主演は、『最後の猿の惑星』『オーメン2/ダミアン』のリュー・エアーズ。
モノクロ、スタンダード。
古典的なテーマ曲から始まる。
画質は素晴らしい。
とても90年前の映画だとは思えない。
最近のデジタル修正技術の進歩はスゴイ。
更に、エイゼンシュテインの後だから、既に映画の文法は出来上がっている。
今見ても、古びた感じはしない。
考えてみれば、トーキー最初期の映画なんだよな。
冒頭、「この物語は非難でも懺悔でもなく、ましてや冒険談でもない。なぜなら死に直面した者にとって死は冒険ではないからだ。これは、たとえ砲弾から逃れたにしても戦争によって破滅させられた、ある時代の男たちを描こうとしただけである」という字幕が出る。
舞台は第一次世界大戦中のドイツ。
掃除をしている老夫婦。
街には戦場へ行く兵隊の群れが溢れている。
「フランスから捕虜を連れて来た」などという会話が交わされている。
老夫婦の家に配達に来た郵便屋も入隊することに決めたと言う。
大学であろうか、老先生が学生を好戦的に鼓舞している。
まるで、『スターシップ・トゥルーパーズ』みたいだ。
黒板には何語か分からない言葉が筆記体で書かれている。
ウムラウトがあるので、多分、ドイツ語だろう。
字幕が出ないので、何と書いてあるのかは分からない。
先生は、ラテン語の格言も述べる。
これも字幕は出ない。
それはともかく、先生に感化された学生達が、次々に立ち上がって、戦争へ行く決意を表明する。
その中には、主人公のポール(リュー・エアーズ)もいる。
授業は、学生が皆、戦争へ行くので、これにて終了。
志願した新人達の訓練が始まる。
郵便配達員が訓練教官(ヒンメルストス軍曹)になっている。
気軽に話し掛ける学生達を怒鳴り付ける訓練教官。
軍隊には階級があるのだ。
ヒンメルストスは、新人達をしごきまくる。
まるで、『フルメタル・ジャケット』である。
本作には、既に後の戦争映画の名作と呼ばれる作品の原型が詰まっている。
泥の中で匍匐前進させられるシーンがスゴイ。
どうでもいいが、本作はドイツが舞台なのに、セリフは英語である。
夜、新人達は、酔っ払ったヒンメルストスを袋叩きにして、溜飲を下げる。
翌日から、彼らは前線に送られた。
早くも、仲間がやられる。
更に、早速新人イジメの洗礼。
食事調達人のカチンスキイは、「戦場ではカネなんか紙切れだ。酒かタバコを持って来い」と言う。
夜、鉄条網の敷設を命じられる新兵達。
本物の砲撃に、ビビってお漏らしする者もいる。
戦場の洗礼。
ユーモラスに描きつつも、生々しい。
この時代に夜間撮影がまともに行われているのがスゴイ。
ポールの親友のべームが無残な死を遂げる。
仲間が敵に撃たれても、助けに行ってはいけない。
自分もやられてしまうからである。
新兵達は、だんだんおかしくなって来る。
つい先日には、あれほど血気盛んだったのに。
宿舎にはドブネズミの群れ。
皆で叩きのめす。
とても、まともな人間とは思えない。
翌日、激しい戦闘が始まる。
この戦闘シーンは、凄まじい迫力である。
当然のことながら、CGなどない時代だ。
いや、現在のCGまみれの映画では、この本物の迫力は決して出せないだろう。
戦闘シーンに説得力があるからこそ、反戦のメッセージが生きて来る。
撮影は大変だったに違いない。
昨今のCG映画の戦闘シーンなんて、ゲームの画面を見ているようにしか見えない。
もっとも、ボタン一発で大量の人を殺せるなど、実際の戦争もゲーム化しているのかも知れないが。
鉄条網をつかんだ兵士が爆撃され、両腕だけが残るシーンなど、大変ショッキングである。
でも、これが戦争の真実なのだろう。
塹壕の中に敵の歩兵たちが突っ込んで来て、銃剣で片っ端から突き刺す。
本当に生々しい戦闘描写である。
記録フィルムのようだ。
戦闘シーンはトーキーならでは(爆発音など)。
兵士達は、瓶の口を割って、酒を回し飲みする。
血の付いたパンをかじる。
150人いた隊が、1日で80人に減ってしまった。
ケガをした仲間を見舞いに行く。
彼は足を切断したのだ。
「これで家に帰れる」という。
でも、彼は助からない。
持ち物は盗まれる。
軍医は、少しくらい具合が悪い兵がいても、一々構っていられない。
何しろ、足を切断した者だけでも何十人もいるのだ。
戦場では、どんどん死者が出る。
元上官のヒンメルストスも、戦場では腰砕けだ。
実際の戦場では、最早階級など意味を持たないのである。
さあ、これからどうなる?
この後も、戦争の悲惨さを切々と綴る。
決して大袈裟な演出ではない。
むしろ、ユーモアも交えているくらいだが。
戦争の恐ろしさが伝わって来る。
以前、野党が批判していた安保法案を「戦争法案」と言い切っていいのかは、僕には分からない。
しかし、自衛隊は、いざと言う時には実際の戦闘に巻き込まれる。
死者も出るかも知れない。
軍隊の仕事と言ってしまえばそれまでだが。
果して、それでいいのか。
僕の高校の同級生が自衛隊に入って職業軍人になった時、彼のお母さんは電話口で泣いていた。
本作の後半は、いよいよ主人公が大変な状況に追い込まれて、見ていられない。
ラスト・シーンは、静かだが、辛い。
あらゆる戦争映画は、本作の焼き直しに過ぎない。
アカデミー賞作品賞、監督賞受賞。

All Quiet on the Western Front Official Trailer #1 - Lew Ayres Movie (1930) HD