『ポセイドン・アドベンチャー』

この週末は、ブルーレイで『ポセイドン・アドベンチャー』を見た。

1972年のアメリカ映画。
タワーリング・インフェルノ』と並ぶパニック映画の代表作である。
これまでに何回見たかは分からない。
僕が小学生の頃は、テレビの洋画劇場で事ある毎に目玉作品として放映していたような気がする。
タワーリング・インフェルノ』などパニック映画の名作とされているものは皆そうだが、本作も、登場人物の人間模様が非常によく描かれている。
いわゆる「グランド・ホテル方式」だ。
2006年に『ポセイドン』というリメイクがあったが、これが本作の人間ドラマを全て排除し、単にCGを使ったパニック・シーンを貼り合わせただけの、完全な駄作であった。
どこをどういじれば、こんなにヒドイ映画が作れるのだろうか。
「リメイクに名作ナシ」とは言うけれども…。
僕も色々と駄作を見たが、これに匹敵するのは、公然ワイセツ犯が主演していた『日本沈没』くらいだろう。
こう言えば、どれくらいの駄作だったか、分かって頂けると思う。
さて、『ポセイドン・アドベンチャー』の監督はロナルド・ニーム
製作は、後に『タワーリング・インフェルノ』も手掛けるアーウィン・アレン。
主演は、『俺たちに明日はない』『フレンチ・コネクション』『スケアクロウ』『カンバセーション…盗聴…』等のジーン・ハックマン
決して二枚目ではないが、本作の彼は、間違いなくヒーローである。
同時代の『フレンチ・コネクション』と比べても、全く違うキャラクターだが。
共演は、『ワイルドバンチ』のアーネスト・ボーグナイン、『猿の惑星』シリーズのロディ・マクドウォール、『ロリータ』のシェリー・ウィンタースといったオールスター・キャストである。
音楽は、『屋根の上のバイオリン弾き』『タワーリング・インフェルノ』『大地震』『ジョーズ』『スター・ウォーズ』『未知との遭遇』『スーパーマン』等も手掛けた、ハリウッドを代表する映画音楽家であるジョン・ウィリアムズ
本作は、アメリカン・ニューシネマ等小品流行りだった時代に、オールスター・キャスト、派手な特殊効果で製作された大作であり、世界中で大ヒットを記録、パニック映画ブームの火付け役となった。
また、アカデミー賞で9部門にノミネートされる等、作品としての評価も高い。
しかし、最初は企画がなかなか通らなかったらしく、製作費は500万ドルと、1400万ドルの『タワーリング・インフェルノ』と比べると、それほど高くない。
最初は、嵐の大海原を進むポセイドン号から始まる。
ブルーレイの高画質でよく見ると、波も大きく、ミニチュアであることがバレバレである。
ただ、ミニチュアはそんなに登場しないので、あまりカネを掛けなかったのだろうか。
今なら、何でもCGで表現出来てしまうが、この時代は嵐の海を行く豪華客船の全景は、ミニチュアでしか描きようがなかった。
改めて本作を見ると、当たり前だが、後の『タイタニック』にかなり影響を与えていることが分かる。
本作の特撮は、合成もほとんどなく、もっぱら実物大の船内のセットにおける撮影で成り立っている。
だから、今見ても全く古びた印象を受けない。
いやむしろ、ゲームのようにチャチなCGの映像を見慣れてしまった目で見ると、実物大のセットで、本物の炎や大量の水に役者達が挑んでいる迫力に圧倒されてしまう。
冒頭の部分で、登場人物が一通り紹介される。
牧師のスコット(ジーン・ハックマン)、警部補のロゴ(アーネスト・ボーグナイン)、ボーイのエイカーズ(ロディ・マクドウォール)、元水泳選手のベル婦人(シェリー・ウィンタース)等、主要人物は10名。
それぞれのキャラクターの描き分け、今後の展開への伏線の張り方が見事である。
いつの間にか天候は回復。
船内の大ホールで演奏しているバンドは長髪・ヒゲで、如何にも70年代初頭風。
演奏されているのは本作の主題歌「モーニング・アフター」。
僕の記憶では、とっとと転覆したような気がするが、思ったよりも導入部が長い。
ホールでは、新年のパーティーが行われている。
やはり、「蛍の光」は年が明けてから歌われる。
その頃、遠洋では海底地震が発生していた。
もちろん、乗客達は、そんな事知る由もない。
操舵室では、地震の影響を調べていた。
パーティー会場と操舵室のカットバックが緊迫感を盛り上げる。
やがて、大津波が船に向かってやって来た。
大きく揺れる船内。
乗客達は、何が起きているのか理解出来ない。
とりあえず、その辺の物につかまるが、船はどんどん傾いて行く。
とうとう引っ繰り返ってしまう船。
落ちて行く人々。
逆さまになってしまったセットが大変である。
床が天井になり、天井が床になった。
天井に集まっている人々に向けて、正義感の強いスコット牧師は呼び掛ける。
「ここにいても死ぬだけだ。救助は上の船底から来る。上を目指そう!」
けれども、大多数の人は躊躇している。
「救助が来るまでここで待て」と主張するベテラン船員との意見の対立もある。
ここで、リーダーシップの強いスコットの性格が出ている。
倒れてしまったツリーを立て、リネン室の布をつないで固定し、一部の人達は登って行く。
真っ先に登ったのは元気な少年・ロビン。
数人がツリーを登り終えた時、大きな爆発が起き、ホールに大量の水が流れ込んで来る。
それまで残っていた人達が、「蜘蛛の糸」のように一斉にツリーを登る。
その重さに耐え切れず、倒れるツリー。
海水に飲み込まれる人々を、スコットはどうすることも出来ず、見捨てて行くしかない。
スコットとロゴは、事ある毎に対立する。
二人は似た者同士なのだ。
リーダーシップを持った二人が対立すると困ると、たしなめられる。
ここから、正に「アドベンチャー」の名の通り、次から次へと困難が押し寄せて来る。
大量の水、炎の連続。
丸っきり『タイタニック』だ。
印象的なのは、逆さになってしまったトイレ。
本作の逆さのセットは芸術品である。
さあ、彼らは無事に脱出出来るのだろうか。
アカデミー賞歌曲賞、特別業績賞受賞。
1973年洋画興行収入1位。