『夜の大捜査線』

この週末は、ブルーレイで『夜の大捜査線』を見た。

1967年のアメリカ映画。
監督は、『華麗なる賭け』『ジーザス・クライスト・スーパースター』のノーマン・ジュイソン
脚本は、『ポセイドン・アドベンチャー』『タワーリング・インフェルノ』『ダーティハリー3』のスターリング・シリファント
音楽は、『ゲッタウェイ』のクインシー・ジョーンズ
撮影は、『華麗なる賭け』『アメリカン・グラフィティ』『カッコーの巣の上で』のハスケル・ウェクスラー
編集は、『華麗なる賭け』『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』(監督)、『チャンス』(監督)のハル・アシュビー
主演は、シドニー・ポワティエと、『波止場』『史上最大の作戦』『ドクトル・ジバゴ』のロッド・スタイガー
共演は、『1941』のウォーレン・オーツ、『オーメン2/ダミアン』のリー・グラント、『華麗なるギャツビー(1974)』のスコット・ウィルソン
ユナイテッド・アーティスツ
カラー、ワイド。
レイ・チャールズのテーマ曲。
これはジャズ調なんだけど、本編で使われている音楽は、昔の日本の刑事ドラマ(『太陽にほえろ』)みたいな、エレキの曲が中心。
もちろん、日本の方が真似たのだろうが。
タイトル通り、夜。
舞台は、ミシシッピーの田舎町スパルタ。
アメリカの土地勘がないので、詳しくは分からないが、要するに南部で、黒人差別が根強く残っているというのが本作の前提。
きったねえ場末のカフェから始まる。
警官サム・ウッドウォーレン・オーツ)が夜食を取っている。
彼は深夜のパトロール中に、道に倒れている人を発見する。
確認すると、血が。
死んでいる。
サムは急いで応援を呼ぶ。
遺体は町の実業家コルバート氏と判明。
サムは、署長のビル・ギレスピー(ロッド・スタイガー)から捜査を命じられる。
駅の待合室に黒人が一人でいる。
サムは、この黒人を発見するや、いきなり拘束する。
黒人の名はヴァージル・ティッブス。
ティッブスは、訛りから北部の人間のようだ。
で、サムは署長の所へティッブスを連れて行く。
何の証拠もないのに、事件現場の近くの駅にいたというだけで、最初から犯人扱い。
ギレスピーは、終始コーラを飲みながら、ガムを噛んでいる。
田舎町でくすぶっていて、ヤル気のない様がよく表われている。
ちなみに、本作では、タイアップではないかと思う位、「コカ・コーラ」の看板が頻繁に出て来る。
しかし、ティッブスは警察官であった。
南部では、黒人が知的な職業に就くことはないようだ。
ヒドイ差別がまかり通っている。
サムは身元確認もせずに拘束した。
それについては、ギレスピーから「バカヤロー!」とドヤされる。
聞いてみると、ティッブスはギレスピーよりも高給取りであった。
それを聞いて、非常に面白くなさそうなギレスピー。
このギレスピーの、屈折した感情が、本作では非常によく表現されている。
もちろん、背景には人種差別があるのだが。
ティッブスは上司に電話で事の顛末を報告する。
ティッブスは殺人課のベテランであった。
上司から、今この町で起きた殺人事件の捜査を「手伝え」と命じられる。
散々な対応を受けていたので気乗りしないティッブスだったが、渋々引き受ける。
ギレスピーは、殺人については専門外であった。
ティッブスは、遺体を前に、的確に判断する。
そこへ、「容疑者逃走」の報が入る。
現場へ急行するギレスピー。
逃走劇の末、彼は容疑者を確保する。
一方、警察署には亡くなったコルバート氏の夫人(リー・グラント)が来ている。
ティッブスがコルバート氏の死を告げると、愕然とする夫人。
で、ティッブスは容疑者を確保したので、とっとと用済みにされそうであったが。
この容疑者は、「遺体の横に落ちていた財布を拾っただけだ」と主張。
またもズサンな見込み捜査のようだ。
ティッブスの推理では、コルバート氏を殺した犯人は左利きのはず。
逮捕された容疑者は左利きではない。
しかし、そもそも黒人刑事の存在自体が面白くないギレスピーは、ティッブスを屈辱的に厄介払いしようとする。
腹に据えかねたティッブスは、遺体の鑑定資料を「FBIに回す」と。
コルバート夫人は、都会の出身なので、黒人には偏見がない。
彼女は、地元警察の体たらくに呆れ、「犯人を見付けなさい!」と強く言い放つ。
だが、ギレスピーは、何とティッブスを「証拠物件の隠匿」で勾留する。
しかも、例の容疑者と同じ房に。
例の容疑者は、地元の白人青年だから、案の定、黒人に対してヒドイ偏見がある。
スーツ姿のティッブスに「白人の服を着やがって!」などと言う。
けれども、ティッブスが根気強く話しを聞くと、容疑者にはアリバイがあった。
で、頭を冷やしたギレスピーは、ティッブスを釈放する。
それにしても、半世紀前のアメリカの田舎町では、警察はこんなにも人権無視の逮捕を繰り返していたのだろうか。
今度は、ギレスピーは市長(ウィリアム・シャラート)に呼び出された。
コルバート夫人が、市長に「誤認逮捕の隠蔽」を訴えたのである。
夫人は、「黒人の刑事を呼び戻せ!」と強く主張。
市長も同意する。
気に食わないギレスピーに、市長は「成功したら手柄は君のもの。失敗しても、君に責任はない」と言う。
ギレスピーは渋々、駅までティッブスを呼び戻しに行く。
コルバート氏はシカゴからスパルタに工場を建てに来ていた。
夫人は、「犯人を逮捕しないと工場を引き上げる」と言っているらしい。
市長が焦っているのは、工場を引き上げられると、町の経済に大打撃だからだ。
なお、工場の労働者の大半は黒人である。
黒人は貧困層なんだな。
ギレスピーは、ティッブスを説得する。
「お前は白人より頭が切れる。真犯人を逮捕して、オレ達を見返してみろ!」
ティッブスはギレスピーをにらみ付ける。
スゴイ対決だ。
で、結局は引き受ける。
後半は、ティッブスが地道な捜査で真犯人に迫って行く。
邦題は「夜の大捜査線」だが、このタイトルはちょっと違うと思う。
一人の黒人刑事が、自分の足で、地道に犯人を突き止めて行く話しだ。
原題は「In the Heat of the Night」だから、「夜の熱の中で」だろう。
この方が、もちろん本作の雰囲気を正確に表現しているが。
これじゃあ、タイトルが地味だと思ったのだろうか。
60年代後半ということで、公民権運動が盛り上がっていた時期だ。
黒人差別の凄まじさが「これでもか!」という位、描かれている。
何せ、警察が「正当防衛」の名の下に、黒人を射殺しても許されるというのだから。
まあ、今でも、白人警官が黒人を射殺したといって、時々ニュースになるが。
この映画を見ると、「さもありなん」という気がする。
白人は黒人なんか動物以下だと思っている。
日本人だって、第二次大戦中には、「黄色いサル」だと思われていた。
だから、真珠湾を奇襲されたのが我慢ならなかったし、原爆を落として大量虐殺しても平気だったんだろう。
人種差別はイカンよ。
同様に、ネトウヨがよく2ちゃんねるにヘイトな書き込みをしているが、こういうのも読むと大変気分が悪い。
アカデミー賞作品賞、主演男優賞(ロッド・スタイガー)、脚色賞、音響賞、編集賞受賞。