『万事快調』

この週末は、ブルーレイで『万事快調』を見た。

万事快調 Blu-ray

万事快調 Blu-ray

1972年のフランス・イタリア合作映画。
監督は、『勝手にしやがれ』『軽蔑』『アルファヴィル』『気狂いピエロ』のジャン・リュック・ゴダールと、ジャン・ピエール・ゴラン(ジガ・ヴェルトフ集団)。
映画史的には、ゴダールが商業映画と決別して、政治映画を撮っていた時期の作品である。
まあ、ゴダールの活動なんか、個人的にはほとんど興味がないのだが。
主演は、『恐怖の報酬』『グラン・プリ』のイヴ・モンタン、『チャイナ・シンドローム』のジェーン・フォンダ
舞台は1972年のフランス。
オープニング・タイトルはゴダールの好きな青、白、赤(フランス国旗の色)。
撮影開始のカチンコの音。
「映画を撮ろう。」
延々と製作費関連の小切手にサインする手元のアップ。
「スターなら客が集まる。」
モンタンとフォンダをキャスティング。
かまやつひろしみたいな髪型のジェーン・フォンダ
「恋愛映画なら客が集まる。」
と言って、恋愛映画にすることが決まる。
映画本編を、映画を製作する最初の段階から再現しようとしているのか。
相変わらず実験的な手法である。
この短い映画に、そんなことをして何の意味があるのかは分からないが。
暗に商業映画を批判しているのか。
映画のストーリーが作られて行く過程を、製作サイドから解説する。
ウチの会社で次の新刊の企画を決める時と同じくらい適当だということは分かる。
農民、労働者を写し、その中にスターをハメ込む。
政治家は偽物。
社会の変動を描く。
労働運動。
乗り込む機動隊。
如何にも、60年代末から70年代初頭の光景である。
特にフランスは、五月革命の影響が強かったのだろう。
スーザン(ジェーン・フォンダ)はアメリカのラジオ局からフランスに派遣された特派員。
ラジオ局で英語で放送している。
一方、精肉工場では朝から無期限ストが行なわれている。
ジャック(イヴ・モンタン)はスーザンの夫で映画監督。
しかし、コマーシャル・フィルムを撮っている。
スーザンとジャックは精肉工場の社長にインタビューをしに行く。
工場では、一部過激派の労働者が社長と対立し、彼を社長室にを監禁していた。
とんだ騒動の最中に社長に会いに来たものだから、スーザンとジャックも一緒に社長室に監禁され、出られなくなる。
工場の全体で起きていることが見渡せるように、舞台のように一方向だけ壁がない、田の字型の不思議なセットである。
まるで、小学生の頃に透明なガラス瓶で観察したアリの巣のようだ。
労働者は、団結を示すために合唱する。
片や、社長はマルクス主義を批判する。
長回しで社長をアップにし、長ゼリフ。
説明的なセリフで、内容にあまり意味はないが、要するに労働者どもはケシカランと言っている。
今度は労働者代表の長ゼリフ。
これも長くて退屈だが、要するに最低賃金を上げろと言っている。
今度は組合代表の長ゼリフ。
これも、簡単に言うと、社内の一部の過激な労働者が暴走しているので、資本家を批判する一方で、労働者の団結を訴える内容。
この実験的手法に何か意味はあるのか?
労働者同士の対立は収拾が付かない。
労働者達は、組合代表の指導を無視して、闘争を続ける。
彼らは、社長室から逃げようとする社長を集団の力で押し戻す。
今度は、工場労働者達の主張をアップで。
みんなカメラ目線である。
確かに、労働者の置かれた悲惨な状況には、大いに同情するところがある。
これは、ゴダール版の『戦艦ポチョムキン』なのか。
社長の監禁は続く。
今度は、アフレコが多用される。
あまり内容とは関係がなさそうな、映画技術の多用。
その中で、労働者達の生活、家族関係が描かれる。
さて、社長がとうとう社内電話で「トイレに行かせてくれ」と懇願する。
急いでトイレにたどり着くも、使用中である。
中の労働者は「小便くらいゆっくりさせろ!」と言って、悠々と「インターナショナル」を歌っている。
切羽詰まった社長は他のトイレへ走る。
しかし、そこでは数人の労働者が陣取っていて、社長に使わせない。
「俺達労働者はトイレの時間も決められているんだ!」
悲惨な労働者の状況は分かる。
だが、こうなって来ると、「労働争議」と言うより、最早「イジメ」だ。
連合赤軍のリンチを思い起こさせる。
生理現象に労働者も資本家もない。
社長は、社長室に駆け込み、窓ガラスを割って外へ向かって放尿した。
しかも、ジャックとスーザンの見ている前で。
ちょっと気の毒。
こんなことをしている間に、ラジオから午後5時の時報が。
そして、そのまま夜に。
女工員は「我々は立ち上がる!」と叫ぶ。
事態が進展しないまま、ついに翌日を迎える。
スーザンは、社長室で記事を書く。
労働者達も、膠着状態にイライラして来た。
けれども、ストは続行。
労働組合の代表者が社長室に入り、社長と秘密の相談。
ようやくジャックとスーザンは社長室から出る。
二人は労働者達に取材する。
工場の悲惨な状況を延々と聞かされる。
この工場労働の描写がスゴイ。
まるで『蟹工船』だ。
この映像では、イヴ・モンタンが労働者の中で働いている。
社長は、今回の騒動を主導しているのは「新左翼」だと批判する。
ついに機動隊が導入され、社長は五日振りに解放された。
普段の僕なら、「国家権力粉砕!」「労働者万歳!」と叫ぶところだが。
う〜ん、これでいいのだろうか。
労働者の悲惨な現状を描きたかったのは分かるが、ゴダールがどこに軸足を置いているのかがよく分からん。
彼の政治的立場からは、もちろん資本家を批判しているのだろうが。
本作は、内容そのものではなく、単にゴダールが撮ったということで話題になっただけではないのか。
少なくとも、この映画を見終わった後に、すんなりと労働者側の見方をする気にはなりにくい。
余談だが、後半でペニスの写真が無修正で映る。
しかも、長々とドアップで!
こういうものが無意味に修正されなくなったのは良い。
それから、一瞬映るカメラはニコンだ。
後半では、本場のカルフールが舞台になる。
やたらだだっ広い。
映像としては、横の移動撮影等で面白いとも言えるが、それによって何を訴えたかったのか。
資本主義システムの批判?
でも、共産党を批判している部分もあるよ。
相変わらず、ゴダールの映画はよく分からん。