『ジャイアンツ』

この週末は、ブルーレイで『ジャイアンツ』を見た。

ジャイアンツ [Blu-ray]

ジャイアンツ [Blu-ray]

1956年のアメリカ映画。
友人が以前、僕に薦めてくれた映画『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』の元ネタは、本作ではないだろうか。
監督はジョージ・スティーヴンス。
音楽は、『ナバロンの要塞』『ローマ帝国の滅亡』のディミトリ・ティオムキン
主演はロック・ハドソン
共演は、『クレオパトラ』『じゃじゃ馬ならし』のエリザベス・テイラー、『エデンの東』『理由なき反抗』のジェームズ・ディーン、『エクソシスト』のマーセデス・マッケンブリッジ、『理由なき反抗』『イージー・ライダー』『地獄の黙示録』のデニス・ホッパー、『大いなる西部』『西部開拓史』のキャロル・ベイカー、『理由なき反抗』『史上最大の作戦』『新・猿の惑星』のサル・ミネオ、『鳥』『大列車強盗(1973)』のロッド・テイラー等。
本作はカラー。
ジェームズ・ディーンの出演作は、50年代でありながら、3作ともカラーだったということになる。
ただし、本ブルーレイの画質は、あまり良くない。
まるでDVDのようだ。
勇壮な音楽が流れる。
タイトルバックは、大草原の中の池で、水牛の大群が水を飲んでいるところの俯瞰。
汽車に乗っているジョーダン(ロック・ハドソン)から始まる。
大草原を、多数の馬と競走するかのように走る汽車。
駅に着く。
迎えの車に乗るジョーダン。
連れて来られたのは、東部の名門の邸宅である。
この家の娘レズリーを演じるのはエリザベス・テーラー
本作は大河ドラマだ。
語り口は、妙なひねりなどなく、実にストレートである。
サクサク進む。
ジョーダンは、テキサスからはるばる馬を買いに来た。
彼は、59万エーカーもの土地を持つ大地主だ。
まあ、60平米そこそこのマンションに住む僕には、59万エーカーというのがどれくらいの広さか、全く想像が付かないが。
レズリーは、貴族と結婚してイギリスへ行くことになっていた。
しかし、彼女はジョーダンのことが気になる。
朝まで掛かってテキサスについて書いた本を読んだ。
朝食の時、ジョーダンに「テキサスはメキシコから盗んだ」と言い、彼を怒らせる。
まあ、ネトウヨ南京大虐殺従軍慰安婦について話すと、こんな感じになるかな。
この娘は、実にズケズケと物を言う。
このまま険悪になるかと思いきや、次の場面では一緒に汽車に乗っている。
しかも、「ななつ星」みたいな個室寝台に。
何と、二人は結婚したのであった。
婚約者のイギリス貴族は、妹に譲ったのだとか。
この感覚が信じられん。
二人の乗っている車両の外観は、一等展望車のようだ。
この一両に、二人しか乗っていないのである。
まあ、それだけ大金持ちだと言いたいのだろう。
長い旅の末、二人はテキサスに着いた。
アメリカの地理を理解していない僕には、東部とテキサスがどの程度離れているのか、ピンと来ないが。
テキサスは何もない所である。
ただただ広い土地が、地平線の果てまで続いている。
駅から更に車で90キロ。
大草原の中に大きな家がある。
レズリーは、「テキサスに来ても私は私」と主張する。
この我の強い女を見ていると、『じゃじゃ馬ならし』のカタリーナを思い出すよ。
ジョーダンは、同居の姉ラズ(マーセデス・マッケンブリッジ)とは折り合いが悪い。
更に、彼がクビにしたはずの使用人ジェット・リンク(ジェームズ・ディーン)がいる。
ジョーダンが問い詰めると、ジェットは「姉さんが行くなと」。
ジョーダンは、この使用人とも仲が悪かった。
ラズは東部のお嬢様が気に入らない。
レズリーに対して、「あなたには嫁の仕事は務まらない」と言い放つ。
まるで嫁・姑の間柄のようだ。
ラズは近所の人達を集めて、レズリーを紹介する。
ラズは未だ独身であった。
このパーティの席で、子牛の頭の丸焼きを見たレズリーは、気持ち悪くなって倒れる。
ラズは「やっぱりね」と吐き捨てる。
ところが、レズリーは次の朝から早起きして朝食を作るようになった。
ラズに対して「お互いの領域を侵さないで下さい」と宣戦布告。
「今後は失神なんかしない」と。
大自然の中の牛の大群(5万頭)がスゴイ。
レズリーは早くも「私はテキサス女よ」と宣言するが、ラズの方は「女主人は私よ」と譲らない。
僕は、母が亡くなってから結婚したので、嫁姑問題を実際に体験したことはない。
生前、母と現在の妻は仲が良かったが、もし母が生きていたら、やっぱり嫁姑戦争が勃発していたのだろうか。
あな恐ろしや。
テキサスでは、使用人は皆、メキシコからの移民である。
スペイン語が話せないと、メキシコ人は使えない。
ラズは、スペイン語もしゃべれないレズリーに、この牧場が切り盛り出来るはずはないと断言する。
それどころか、「彼女は敵だ」と。
この、言葉と力関係も、本作のテーマの一つである。
日本では、ほとんどの人が日本語を使って暮らしているので、言語の問題を誰も真剣に考えない。
仮に今後、人口減少に伴って移民を受け入れるようになったとすると、移民は日本人に同化することを強いられるだろう。
つまり、移民の方が日本語を話さなければならなくなるのである。
だが、移民の数がある程度以上に増えるとどうなるか。
彼らが自分達のコミュニティーを作り、日本語を全く理解しなかったとしたら。
彼らとコミュニケーションを取るには、共通の言葉が必要になる。
彼らが英語を理解するなら、それは英語になるかも知れない。
でも、英語も分からなければどうするのか。
日本人は、アメリカに占領されていた時代の感覚から未だに抜け出せていない。
英語は万能とは限らないのである。
言葉の問題は実に複雑で難しい。
ああ、話しがそれてしまった。
ジェットはレズリーを車で家へ送る。
「ここはメキシコ人から盗んだ土地だ」と彼は話す。
ジェットは土地を少し譲って欲しいのだが、ジョーダンとの折り合いが悪いので、到底かなわない。
ジェットはレズリーに「あんたが好きだ(ただし、I like you.)」と言う。
牧場の下働きの人達は、みんな大変貧しい暮らしをしている。
ジェットに現実を見せられて、お嬢様なレズリーは愕然とする。
余りに悲惨な暮らしぶりに、レズリーは心を痛めるが、「奥さん、帰った方がいいですよ。ここはあんたの来る所じゃない」と言われてしまう。
その頃、ジョーダンがレズリーの家から連れて来た気性の荒い名馬を乗りこなそうとしたラズは、落馬して重傷を負う。
医者が診たが、手の施しようもなく、彼女は死んでしまう。
そこへ帰って来たレズリーを、ジョーダンは「どこへ行っていたんだ!」と怒鳴りつける。
レズリーは、使用人のメキシコ人達の悲惨な暮らしを訴えるが、保守的なジョーダンは「我々とあいつらは違うんだ!」と全く相手にしない。
ジョーダンは、姉の落馬の原因となった馬を射殺する。
ラズの盛大な葬式が挙行された。
ブルジョアジープロレタリアートの、この落差。
本作のテーマは、「階級闘争」でもある。
ジェットを可愛がっていたラズは、「彼にも土地をやりたい」と遺言を残していた。
それは、オープニング・タイトルのバックで映った、水牛の池のある土地だった。
ジェットは、「唯一の味方を失った」と落胆する。
ジョーダンは自分の土地を分割したくないため、ジェットに「土地の値段の2倍のカネをやる」という条件を出す。
しかし、ジェットは土地を選んだ。
彼の土地への執着。
一方、ジョーダンの家に男達が集まって、政治談議に花を咲かせていた時、それを横で聞こうとしたレズリーは「選挙の話しには加わるな」と旦那から言われる。
タイタニック』にも、こんなシーンがあったな。
当時は、自由の国アメリカでも女性の政治参加に対する認識は、この程度のものだったのだろう。
この旦那は、典型的な共和党支持者に見えるが。
レズリーは、ジョーダンのことを「時代遅れ!」とののしる。
単細胞な彼は激怒。
「お前は女権拡張論者か!」
とは言え、僕もフェミニストは大嫌いである。
ケンカをしても、結局は仲直りする夫婦。
ちょっとメロドラマ調だよなあ。
で、レズリーは妊娠し、双子の男女が生まれた。
さて、メキシコ人のボロ家を医者と訪ねるレズリー。
医者はメキシコ人専用である。
医者さえも、「我々」と「メキシコ人」では区別されているのだ。
その後、彼女はジェットの土地「リトル・レアータ」を訪ねる。
彼の部屋のテーブルの上には、『正しい英語の勉強』というテキストが置いてある。
ジェットは、自分の出自にコンプレックスがあり、現在の境遇から脱出するためには、正しい英語を身に付けなければならないと強く思っているということだ。
これなど、正に言語が階層を決定する装置になっているということの証である。
茶店で必死にTOEICのテキストを開く日本のサラリーマンと何ら変わりはない。
レズリーは、ジェットにお茶を御馳走になった。
ジェットは、彼女のことを秘かに想っている。
もちろん、彼女は人妻であり、身分も違うので、絶対にかなわない恋だが。
レズリーが家に戻ると、ジョーダンは「また村に行ったのか!」と激怒する。
しかし、彼女は「私は助ける」と言い張る。
慈善活動に熱心な上流階級の人はいるけどね。
果して、それで現実が変わるのか。
ついに、ジェットの土地から石油が出る。
一方、ジョーダンとレズリーには3人目の子が生まれた。
ジョーダンは男の子ばかり可愛がる。
どうしても息子に跡を継がせたいのである。
息子の4歳の誕生日。
息子は馬に乗るのを怖がって泣き叫ぶ。
ジョーダンは、「オレの息子」を自分の思い通りに育てたい。
でも、うまく行かない。
僕も、残念ながら親の期待通りには育たなかった。
ゴメンナサイ。
家の中がギスギスして来たので、レズリーは「しばらく里へ帰らせて」と懇願する。
しかしながら、結局、元の鞘に収まる。
夫婦喧嘩というのは、食えないね。
さて、石油を掘り続けていたジェット。
ついに原油が噴き出す。
彼はお宝を掘り当てたのだ。
全身に石油を浴び、泥酔した体で、ジェットはジョーダンの家に報告に行く。
レズリーに馴れ馴れしい態度で接したため、ジョーダンとジェットは殴り合いのケンカに。
だが、隙を見て、ジェットはトラックで逃走。
やがて、ジェットは事業を拡大し、大金持ちになる。
ここまでで約半分。
3時間20分と長い作品だが、(このブルーレイには)休憩はない。
ここまでの展開を見ると、保守的なジョーダンと進歩的なレズリーと、労働者階級から成り上がったジェットの3人で、この先、ジョーダンは没落し、ジェットは階級闘争に勝利するのかな、と思わせる。
実際、僕の様なプロレタリアートは、そうなることを願ってしまうが、そうはならない。
ジェットは、度を越したアル中で、破滅する。
ジョーダンとレズリーの関係は、年月を重ねるに連れて穏やかになる。
差別主義的だったジョーダンも、次第に物分かりがよくなる。
むしろ、出自にコンプレックスのあるジェットの方が、差別感情をむき出しにして行く。
足軽の子から成り上がった秀吉が、一度権力をつかむと、他の者の身分移動を禁止したようなものか。
後半は、前半にも増して、話しの展開が早い。
確かに、長い年月を描いているのだが、まるであらすじを見せられているような感じで、深みがない。
全体を見ると、訴えたかったことは何となく分かるが。
アカデミー賞監督賞受賞。
1956年洋画興行収入1位。