『怒りの葡萄』

この週末は、ブルーレイで『怒りの葡萄』を4年ぶりに再見した。

1940年のアメリカ映画。
監督は、『わが谷は緑なりき』『荒野の決闘』『西部開拓史』の大巨匠ジョン・フォード
原作はジョン・スタインベックだが、情けないことに未読。
しかし、原作を読まずに映画を見ても、この映画自体が教養なので、昨今話題の「ファスト教養」ではない。
音楽は、『荒野の決闘』『イヴの総て』『七年目の浮気』『西部開拓史』『大空港』のアルフレッド・ニューマン
主演は、『荒野の決闘』『戦争と平和(1956)』『間違えられた男』『十二人の怒れる男』『史上最大の作戦』『西部開拓史』『ウエスタン』の大スター、ヘンリー・フォンダ
共演は、『十戒』のジョン・キャラダイン
20世紀フォックス
モノクロ、スタンダード・サイズ。
テーマ曲は、学校の音楽の授業で習った「赤い川の谷間」。
舞台は1930年代のアメリカ・オクラホマ
長い一本道をこちらに向かって歩いて来る一人の男。
運送会社のトラックが停まっている。
「乗せてくれ」と運転手に頼む男。
2キロ先の家まで帰るという。
男の名はトム・ジョード(ヘンリー・フォンダ)。
出稼ぎの小作農。
人殺しで刑務所に4年いたという。
聞かれもしないのに、強引に自分のみの上を運転手に聞かせる。
トラックを降りるトム。
家の近くで、元説教師のケーシー(ジョン・キャラダイン)に遭遇。
彼は最早、説教をすることもないという。
トムは、刺されたからシャベルで殴り返し、相手の頭を潰したから刑務所に入っていたが、4年で仮出所して来た。
砂嵐が来る。
二人でトムの家に行くが、人の気配がない。
奥にミューリーという男がいた。
ジョード家は2週間前に伯父のジョンの所へ行ったらしい。
しかし、ジョン伯父の家もすぐに立ち退き、家族でカリフォルニアへ行くという。
この地域は強い砂嵐のため、小作制度を続けて行けない。
そのため、地主が立ち退きを命じたのだ。
ここに住んでいた者達はトラクターで追い立てられた。
仲間も食うために土地会社に寝返った。
ラクターでバリバリと家ごと潰すのである。
ヒドイ話しだ。
だが、ミューリーはこの土地から出て行けないと言う。
管理人の車がやって来た。
隠れる3人。
翌日、ジョン伯父の家では、ジョード家の人間が朝食を摂っていた。
彼らはカリフォルニアで800人の求人があるという話しをしている。
そこへ、トムとケーシーがやって来る。
トムは母親(ジェーン・ダーウェル)と再会する。
トムは家族みんなから「脱獄か?」と聞かれる。
そこへ地主がやって来て、「明日までにここを出て行け」と告げる。
固まってしまう家族。
彼らは家財を売って旅費を作った。
荷物をオンボロ・トラックいっぱいに積み込む。
このトラックが、本当に今にも潰れそうな代物で、ハラハラさせられる。
農奴の悲哀を感じさせられる。
運転席に乗れない家族は皆、荷台に乗る。
ケーシーも一緒だ。
正にパンク寸前である。
じいさんが「わしは行かん」と強行に主張する。
仕方がないので、鎮静剤を飲ませる。
登場人物の一人一人に強烈な個性というか、クセがある。
労働者階級独特の、とでも言おうか。
これが、この映画に説得力を与えている。
トラックは走り出した。
オクラホマから国道66号線をひた走る。
途中で休憩を取る。
じいさんはやはり「行きたくない」と言っていたのだが、卒中で死んでしまう。
葬式も出せないので、家族で野原に埋葬する。
悲惨な話しだが、この時点では、家族は未だカリフォルニアに夢を抱いていた。
警察に疑われないように、「人殺しではない」と書いた紙切れを瓶に入れ、傍に置いておいた。
元説教師のケーシーが祈りを捧げる。
じいさんは死んだが、相変わらずの大家族である。
夜、50セント払ってキャンプに泊まる。
トムの妹の旦那がギターの弾き語りを聞かせる。
彼は歌が上手い。
キャンプで一緒になった人達にも皆、色んな事情があった。
カリフォルニアの現地を見て来た人は、当地の悲惨な状況を語る。
500人の枠に、職のない3000人が押し寄せている。
賃金を下げられ、この人は妻と二人の子供を亡くしたという。
それも、栄養失調で。
ニュー・メキシコに入った。
ガソリンを入れ、カフェでパンを買おうとする。
店員は、貧乏人に対して露骨にイヤな顔をする。
でも、15セントのパンを10セントで売る。
子供達はキャンディーを欲しがった。
お代は見かねた他の客が払ってくれた。
ものすごく重い映画だが、わずかな救いか。
ニュー・メキシコを出て、アリゾナに入った。
ここは通過するだけである。
(と言うより、法的に途中で降りられない。)
羊の大群とすれ違う。
そして、雄大コロラド川
ここを越えたら、ついにカリフォルニアである。
アメリカの地理には全く疎いが、本作はロード・ムービーでもある。
ボロボロのトラックは荷物と人を載せ過ぎて、今にも倒れそうである。
家族はひととき、川で水浴びをする。
ばあさんは「じいさんに会いたい」とうわ言のようにいう。
トラックはガタガタである。
これから、この車で砂漠を越えなければならない。
ガソリン・スタンドの店員は「貧農め」と完全に見下している。
ばあさんの体調が悪かった。
砂漠を夜、越える。
昼間なら、渇きで死んでしまう。
それに、車がなければ、とても歩ける所じゃない。
検問で「荷物を調べるから、車から降ろせ」と言われる。
ボロボロのトラックに積み込んだ大量の荷物である。
降ろすのは大変な手間だ。
懇願すると、「野菜か種がなければ」と見逃してくれた。
ばあさんの調子が悪いが、医者は13キロ先である。
エンストでトラックを押していると、目の前に素晴らしい緑の景色が広がった。
だが、母親は「ばあさんが死んでしまった」と告げる。
実は、亡くなったのは検問の前だったが、止められると困るから隠していたのだ。
涙が出るね。
何が何でも一家で砂漠を越えなければならないという思い。
ばあさんをカリフォルニアに埋めると誓う。
ところが、彼らを待ち受けていたのは、想像を遥かに超える過酷な現実であった。
「働き場所なんかある訳ない」と告げられる。
摘み取りの仕事も1ヶ月前までだった。
「キャンプへ行け」と命じられる。
市内で泊まると逮捕だと。
大変な困難を乗り越えてやって来た移民は、どこまで虐げられるのか。
「うまい話しなんかない。煽ったヤツが悪い。」
3キロ先のキャンプには貧農が溢れていた。
途方に暮れる家族。
周りの子供達は、食い物を恵んでくれと群がって来る。
まるで物乞いの集団だ。
この映画を見ると、こんな時代を超えて、今のアメリカがあるんだということを思い知らされる。
保安官は資本家とグルである。
資本家に楯突く労働者に発砲する保安官。
その弾が一般女性に当たる。
何と悲惨な。
地主階級、資本家の搾取の実態。
立ち向かう労働者には、ものすごい葛藤がある。
それが克明に描き出されている。
母親役のジェーン・ダーウェルは大変な名演だった。
当然のように、アカデミー賞を獲っている。
故郷を追われた人達の悲哀。
まるでユダヤ人のようである。
しかし、同じ人間として、こんなのが見過ごせるか。
現在の日本も、格差・貧困が問題になっている。
もう、ずっと景気は悪い。
コロナでさらに悪化した。
我々も、いつ失業者になるか、分からない。
この映画で描かれていることは、対岸の火事ではない。
何故、現代の日本では暴動が起きないのか。
アカデミー賞監督賞助演女優賞(ジェーン・ダーウェル)受賞。

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