『幽霊と未亡人』

この週末は、ブルーレイで『幽霊と未亡人』を見た。

1947年のアメリカ映画。
監督は、『イヴの総て』の巨匠ジョーゼフ・L・マンキーウィッツ。
クレオパトラ』でミソを付けたが、彼は才能ある監督だと改めて思った。
音楽は、『地球の静止する日』『間違えられた男』『知りすぎていた男』『めまい』『北北西に進路を取れ』『サイコ』『鳥』『タクシードライバー』のバーナード・ハーマン
撮影は、『麗しのサブリナ』『荒野の七人』『西部開拓史』のチャールズ・ラング。
美術は、『波止場』『トラ・トラ・トラ!』のリチャード・デイ。
主演はジーン・ティアニーとレックス・ハリソン。
共演は、『イヴの総て』のジョージ・サンダース。
『理由なき反抗』『ウエスト・サイド物語』のナタリー・ウッドが子役で出ている。
本作は、タイトルから想像していたような内容とは、全く違う映画だった。
20世紀FOX
モノクロ、スタンダード・サイズ。
悲壮なテーマ音楽。
舞台はロンドン。
時は「世紀の変わり目」とあるから、1900年代頭ということだろう。
若き美しき未亡人ルーシー(ジーン・ティアニー)は、夫が亡くなったので、「ここには住めない」と、夫の実家を去る決意をする。
同居していた義母と義姉が反対し、特に義姉とは深刻な対立を生むが、頑固なルーシーは聞く耳を持たない。
娘アンナ(ナタリー・ウッド)と家政婦マーサ、それに飼い犬と一緒に出て行く。
彼女は、ホワイトクリフという町へ。
早速、不動産屋を訪ねる。
幾つかの物件の内、彼女は安過ぎる物件を選んだが、何故か不動産屋が頑なに渋る。
それを押し切って現地へ行ってみると、海岸にある素敵な家であった。
が、中にはホコリが溜まっている。
何しろ、4年も空き家だったそうだ。
壁には、ダニエル・グレッグ船長(レックス・ハリソン)の絵が飾られている。
不動産屋は「この家はおよしなさい」と言う。
部屋には、食事の痕跡がそのまま残されている。
先週来た掃除人がそのままにして帰ったらしい。
突然、大きな笑い声が起きる。
不動産屋が飛んで逃げる。
しかし、気の強いルーシーは「幽霊が出るのね。面白いわ!」と全く意に介さない。
何でも、船長は自殺したらしい。
ルーシーは、この家を借りることにする。
家政婦のマーサが「船のようにピカピカ」に掃除する。
この家で飼っているワンコは、実に演技派だ。
ルーシーは昼寝をすることにした。
いつの間にか、勝手に窓が開いている。
海辺なので、景色がキレイだ。
その夜は嵐だった。
勝手に灯りが消え、窓が開く。
余談だが、この時代は、家の中で未だロウソクとランプを使っていたようだ。
「いるんでしょ?出てらっしゃい!」とルーシーは大声で呼び掛ける。
グレッグ船長の幽霊登場。
船長が言うには、「私は自殺じゃない。ヒーターを蹴飛ばして、ガス中毒になったんだ。窓を開けるのは君を救うためだ」と。
彼は、家を守るために化けて出るのだと言う。
ついでに、ルーシーのことを「君は美人だ」とも。
でも、ルーシーは「私はここを気に入った。絶対に出て行かない!」と言い張る。
気の強い女性はヒロインに向いている。
映画史上に名が残っている作品のヒロインは、みんな気が強いじゃないか。
船長は、彼女の勢いに負け、「ここにいていい」と言う。
それどころか、「寝室で一緒に寝る」とまで言い出す。
いかに実体のない幽霊だとは言え、それはどうだろう。
船長は自分の絵をルーシーの寝室に飾るように命じる。
彼女が着替えようとしたら、絵の視線が気になる。
「なかなかいい身体をしているじゃないか」とまで言われたので、船長の絵に布を被せて隠す。
この辺は、少しコメディー・タッチ。
船長が大事にしていた庭の木をルーシーが切って、幽霊が怒る。
ルーシーが船長に、夫との思い出を語る。
まあ、しかし、この辺はそんなに重要じゃない。
ルーシーの語り口から、彼女はそんなには夫を愛していなかったようだ。
実際、ストーリーにもほとんど絡んで来ない。
船長は、キーツの詩を暗誦する。
海の男は、詩人でもある。
さて、ある日、ルーシーの義母と義姉が訪ねて来た。
会社が破産して、ルーシーの株が紙切れになってしまったのだと言う。
ルーシーは、口を出して来る船長に「ほっといて!」と叫ぶが、幽霊の姿が見えない義母と義姉は、自分達に言われたと勘違い。
二人はルーシーに「家に帰っておいで」と言うが、幽霊は彼女に「ここにいろ」と言って、二人を追い返す。
それにしても、ここは自然の美しい町だ。
羊がたくさんいる。
また、ある日、不動産屋が訪ねて来た。
コイツは、美しいルーシーに色目を使う。
それを見て取った幽霊は、不動産屋を追い返す。
強気なルーシーだが、生活費がないことには困る。
そこで、船長が一計を案じる。
何と、ルーシーに「本を出せ」と言うのだ。
タイトルは『血と蛮勇』。
船長が語り、ルーシーがそれを書き取る。
本が書き上がるまでの生活費はどうするのか?
それには「宝石を売れ」と。
毎晩、船長の語りを書き取るルーシー。
船長は、海の男だけあって、下品な言葉を使う。
ルーシーはそれがイヤだった。
だが、船長は「文法は変えていいが、迫力は残せ」と釘を刺す。
不動産屋からは、毎日のように家賃の督促状が送られて来るようになった。
ようやく本を書き上げ、ルーシーは、船長に言われた通り、ロンドンの出版社を訪ねる。
けれども、編集長はアポがなければ会ってくれない。
ちょうどそこに、編集長とアポがあったミスター・フェアリー(ジョージ・サンダース)がいた。
彼が、自分のアポを譲ってくれたので、ルーシーは代わりに編集長に会うことが出来た。
さあ、これからどうなる?
この後、このフェアリーという男はとんだ一杯食わせ者だと判るのだが。
イヴの総て』でもそうだったが、ジョージ・サンダースというのは、腹にイチモツを抱えた男を演じさせたら天才的だな。
余談だが、ルーシーがロンドンから帰る時に乗る列車は、コンパートメントである。
彼女は、働かずに暮らしていけるくらいだから、それなりに上流階級なんだな。
ドレスも立派だし。
それから、さっきも書いたが、ワンコの表情が実に良かった。
それから、音楽がいい。
コメディなのに、何でこんな哀愁の漂う音楽なんだろうと最初は思ったが。
本作は、言ってみればファンタジーである。
幽霊は所詮、幽霊でしかない。
現実に生きている人間に、必要以上は関われない。
それを、うまく活かした素晴らしい脚本だ。
幽霊を題材にした映画なんて、古今東西たくさんあるだろうが、かなり本作をパクっているだろう。
実に味のある、切ない話しであった。
船長とルーシーが、最後までキスをしないのも良い。
それをすると、安っぽいメロドラマになってしまうから。
細君も本作を称賛。
映画が大好きな僕の勤務先の社長も、本作は「いい映画だよね」と言っていた。