『イヴの総て』

この週末は、ブルーレイで『イヴの総て』を見た。

1950年のアメリカ映画。
監督はジョゼフ・L・マンキーウィッツ。
悪名高い『クレオパトラ』を撮った人だな。
製作は、『史上最大の作戦』『トラ・トラ・トラ!』のダリル・F・ザナック
音楽は、『西部開拓史』『大空港』のアルフレッド・ニューマン
衣裳は、『サムソンとデリラ』『麗しのサブリナ』『泥棒成金』『明日に向かって撃て!』『スティング』『ファミリー・プロット』のイーディス・ヘッド。
主演は、『ナイル殺人事件』のベティ・デイビス
共演は、『私は告白する』『十戒』のアン・バクスター、『サムソンとデリラ』のジョージ・サンダース、『地球の静止する日』のヒュー・マーロウ、『裏窓』『西部開拓史』のセルマ・リッター
あと、マリリン・モンローもチョイ役で出ている。
僕は最初、本作をマリリン・モンロー主演だと思っていた。
そして、彼女には全く興味がないので、「どうせ下らないラヴ・ロマンスか何かだろう」と思っていたのだが、ゴメンナサイ。
食わず嫌いだった。
本作は、芸能界の舞台裏を暴露した映画である。
昨今の我が国の芸能界を少し見れば、この映画の公開から60年以上経った日本でも、状況は何ら変わっていないことが分かる。
20世紀フォックス
モノクロ、スタンダード・サイズ。
画質は良い。
壮快なテーマ音楽から始まる。
アメリカ演劇界最高の栄誉であるセイラ・シドンズ賞の授賞式。
シドンズ協会会長らしい老俳優の長演説が続くが、そんなものはどうでもいい。
今日の主役は、史上最年少で受賞した女優のイヴ・ハリントン(アン・バクスター)。
淡々としたナレーションで語るのは、批評家アディソン・ドゥイット(ジョージ・サンダーズ)。
イヴの受賞に対して、会場にいる先輩達の実に冷ややかな視線。
本作の主要登場人物が早くも巧みに紹介されるのだが、これで、この先の展開も見事に暗示される。
受賞の瞬間、ストップ・モーションになる。
ここから、劇作家の妻カレン・リチャーズ(セレステ・ホルム)の回想。
本作は、全編を通して、登場人物によるナレーションを実に効果的に使っている。
イヴはラッキー・ガールだった(大いに皮肉を込めて)。
数ヶ月前、毎晩劇場の楽屋口に立っている田舎娘(イヴ)に、カレンが声を掛ける。
イヴは、女優マーゴ・チャニング(ベティ・デイビス)に憧れて、毎日彼女の舞台を観に来ていたのであった。
マーゴは、4歳の時に『真夏の夜の夢』でデビューしたという大女優。
カレンは、マーゴにイヴを紹介する。
イヴは、自分の身の上を語る。
彼女はウィスコンシン出身で、子供の頃からお芝居の真似事が好きだった。
しかし、家が貧乏で、家計のために学校を辞めて、秘書になる。
町には小さな演劇サークルがあり、そこで知り会った無線技士と結婚。
だが、彼は戦争に行って、死んでしまう。
この話しを聞いて、あまりの哀れさにマーゴは泣き出してしまった。
マーゴはイヴをいたく気に入り、自分の家で付き人として働かせることにする。
この時の、先輩付き人女性の、ものすごく怪訝そうな顔が、物語の先行きを、またも暗示している。
マーゴには、若手演出家のビル・サンプソン(ゲイリー・メリル)という愛人がいた。
彼は、「今の演劇界は汚い」と言って、ハリウッドへ行くことにする。
マーゴがビルを見送りに行く時、イヴも同行する。
この時点で、ビルもイヴのことを気に入っていることが示される。
マーゴは、イヴを自宅の客間に住まわせることにした。
それを聞いた付き人のオバチャンは、露骨にイヴのことが気に入らない態度を見せる。
イヴは、表向きはよく気が付く娘であったが、実は毎週、秘かにビルに取り入るために手紙を送っていた。
それを知ったマーゴは、イヴに警戒心を抱き始める。
この、これまでイヴを信頼していた人達が、少しずつ彼女を不審に思うようになって行くのが、本作のミソ。
ある日、ビルの誕生パーティーがマーゴ邸で行われた。
ビルは、マーゴをないがしろにして、ずっとイヴと話している。
マーゴは、それを見て嫉妬してしまう。
ビルは、「いい娘じゃないか」と、やたらイヴの肩を持つ。
その夜は、多くの演劇人達が集まっていた。
会話の中に、ハムレットやらマクベスやらが何度も出て来る。
批評家のアディソン・ドゥイットは、新進女優カズウェル(マリリン・モンロー)を売り込むために、この会場に来ていた。
知らずに見ていると、全くマリリン・モンローとは分からないが、彼女も、本作と同様、大女優になって行くのであった。
何と象徴的な。
ドゥイットは、イヴに声を掛ける。
このオッサンは、若い女の子で、芸能界でのし上がれそうな原石を常に探している。
彼の目は鋭く、手口はいつも同じだ。
ああ、何か、最近の日本でも、同じようなことをしているプロデューサーがいるね。
A◯Bとか、何とか坂とか、集団で出て来ては、どんどん食い物にされて、消えて行く女の子達。
どうだ、この予言的な映画は!
ドゥイットを演じたジョージ・サンダースは、この見事な怪演で、アカデミー賞助演男優賞を受賞する。
マーゴは、もう今日のパーティーの何もかもが面白くない。
飲み過ぎて、泥酔してしまう。
彼女は、もうイヴにはウンザリしていて、一刻も早く、自分の元から手放したいのであった。
彼女は大女優だったが、40歳を超えて、年齢にコンプレックスがあった。
こればかりはどうしようもない。
誰にだって、若い時代はあったのだが。
それにしても、老けた40歳だな。
僕は今年45歳になるので、ショックだ。
この時代は、皆今よりも10歳は老けていたのかな。
このタイミングで、ちょうど舞台でマーゴの代役を努める女優がお産で休むことになった。
こんな千載一遇のチャンスを見逃すイヴではない。
彼女はカレンに取り入って、「私を代役に使って」と頼む。
イヴは、とにかく自分が表舞台に出て、喝采を浴びたいのであった。
こういうタイプの女はいるよね。
最近の日本でも。
特に政治家に多い。
差し障りがあるので、実名は挙げないが、某都知事とか、某野党第一党の党首とか。
こんなのがトップに立ったら、自分が目立つことしか考えないから、周りは大迷惑だ。
で、イヴはマーゴの知らない内に代役の座をまんまと手に入れる。
ドゥイットは、オーディションでイヴを大絶賛。
「若い時の君みたいだ」とマーゴに言う。
当然ながら、マーゴは激怒する。
プライドをズタズタにされたマーゴは、愛人のビルや、劇作家のロイド・リチャーズ(カレンの夫)に当たり散らす。
これには、味方だったカレンも、少し頭に来てしまった。
こうして、イヴはマーゴの人間関係をメチャクチャにしながら、自分の野望を次々と実現して行くのであった。
さあ、これからどうなる?
物語が進むと、イヴが最初に語った身の上話も、ウソだと分かる。
男は手玉に取られ、深く関わった者は、皆彼女の本性に気付く。
いやあ、女はコワイね。
イヴの変貌っぷりが素晴らしい。
もちろん、それは対称となるマーゴがいるからこそなのだが。
更に、「因果は巡る」と言わんばかりのラスト。
何と、普遍的な作品だろう。
本作は、アカデミー賞史上最多の14部門でノミネート(後に、『タイタニック』が並ぶ)。
アカデミー賞の舞台裏でも、映画を地で行くバトルが。
何と、アン・バクスターが「助演」でのノミネートに納得せず、ベティ・デイビスと二人が主演女優賞にノミネートされたのだ。
同じ作品から二人の女優が「主演」でノミネートされたのは史上初。
その結果、票を食い合って、二人とも受賞を逃したという。
アカデミー賞作品賞、監督賞、脚本賞助演男優賞、衣裳デザイン賞(白黒)、録音賞受賞。