『オペラの怪人』(1943)

この週末は、ブルーレイで『オペラの怪人』を見た。

1943年のアメリカ映画。
監督はアーサー・ルビン。
原作はガストン・ルルー
主演はネルソン・エディとスザンナ・フォスター。
怪人役は、『透明人間』『スミス都へ行く』『狼男』『カサブランカ』『アラビアのロレンス』のクロード・レインズ
要するに、特殊メイクに耐えられる役者として選ばれたのであろう。
ユニバーサルのモンスター・シリーズの1本ということになっているが、実に気の毒な話しで、現在の感覚では、到底ホラーとか、ましてやモンスター等と言ってはいけない作品だろう。
それから、原題は「Phantom of the Opera」だが、phantomって、「怪人」じゃなくて、「幽霊、お化け」じゃないの?
劇団四季のミュージカルなんかで、タイトルだけは昔から知っていたが、どういう話しかはよく分かっていなかった。
実は、恥ずかしながら、以前、グレイデッド・リーダーズで読んだのだが、内容をよく覚えていないのだ。
だから、いわゆる「多読」というのは信用ならん、と僕なんかは思うのだが。
それはさておき。
ユニバーサル映画。
テクニカラー、スタンダード・サイズ。
優美なテーマ音楽。
画質は素晴らしく、とても戦時中の作品だとは思えない。
最初は、「マルタ」という曲をパリのオペラ座で演奏しているところから始まる。
楽団の中に、ヴァイオリンを弾いているエリック・クロウデン(クロード・レインズ)がいる。
観客席の天井からは、巨大なシャンデリアがぶら下がっている。
素晴らしい声のオペラである。
舞台の裏からは、ラウル・ドーベール警部(エドガー・バリア)が観ていた。
彼は、駆け出しのソプラノ歌手クリスティーヌ・デュボワ(スザンナ・フォスター)に想いを寄せている。
ドーベールと話していて、クリスティーヌはカーテン・コールに出ることが出来なかった。
どうでもいいが、パリが舞台なのに、登場人物達は英語を話している。
バリトン歌手のアナトール・ガロン(ネルソン・エディ)は、「何故姿を消したのか」とクリスティーヌを叱る。
アナトールもクリスティーヌを愛していた。
この女が、どっちにもいい顔をしているからいけないのだが。
クリスティーヌは、「仕事と普通の生活のどちらを選ぶのか」で悩んでいる。
控え室から出て来たクリスティーヌとバッタリ会ったクロウデンは、思わず彼女を名前で読んでしまう。
戸惑うクリスティーヌ。
一介の楽団員と、歌手の卵とでは、住んでいる世界が違うのか。
クロウデンは、ヴァイオリンで不協和音を出していると苦情を言われる。
彼は最近、左の指の調子が悪く、うまくヴァイオリンを弾けないのであった。
20年間も所属していたのに、あっけなくクビになるクロウデン。
彼はカネがなかった。
下宿代を6週間も払っていないのだ。
クロウデンは、クリスティーヌの歌の先生に会いに来た。
解雇されたことを告げると、「レッスンは中止だ」と言われる。
しかし、「何とか続けて下さい」と懇願する。
要するに、彼はクリスティーヌにひそかに恋をしていて、彼女のためにレッスン料を払っているのだった。
もちろん、彼女はそんなことはつゆ知らない。
今なら、中年男のストーカー行為として、気持ち悪がられるところだろうが。
クロウデンは、レッスン料を捻出するために、自分の書いた協奏曲を出版しようと思い立つ。
音楽系の専門出版社へ行くが、相手にされない。
思い詰めた彼は、社長室へ直談判に行く。
社長は、真っ昼間から愛人とお取り込み中であった。
けしからんね。
で、何だか、この社長は最近、エッチングに凝っているという。
楽譜の写しを取っていなかったクロウデンは、出版する気がないのなら譜面を返してくれと社長に迫る。
だが、突然入り込まれて、愛人との逢瀬を邪魔された社長は、彼を邪険に扱う。
隣では、フランツ・リストがピアノで、今、正にクロウデンが持ち込んで来た曲を弾いていた。
「いい曲だ。これは出版するように社長に言おう。」
クロウデンは、何を思ったか、社長に「オレの曲を盗んだな!」と詰め寄る。
ここまでの展開は、実によく分かる。
何もかも失ったクロウデンの生き甲斐はクリスティーヌへの恋だけだった。
彼女にレッスンを受けさせるために、渾身の思いで書き上げた譜面を、こんな風に扱われて、逆上してしまった。
これが悲劇を生む。
クロウデンは、社長の首を締めて、殺してしまったのだ。
そばにいた愛人は、とっさにそこにあったエッチング液を彼に浴びせる。
悲鳴を上げながら、部屋を飛び出すクロウデン。
これは、気の毒な話しですよ。
過って社長を殺していなかったら、僕は100パーセント、クロウデンに同情する。
もうネタバレになってしまうが、有名なシーンなのでいいだろう。
クライマックスで、クロウデンはクリスティーヌに仮面を剥がされる。
それで、薬品でただれた醜い顔が現れるのだが。
それを「怪人」と呼ぶなんて、酷い差別じゃないの?
僕は許せないね。
まあ、いいや。
話しを先に進めよう。
逃げ場所のないクロウデンは、マンホールの下に隠れる。
地下水道を歩き、薬品で焼けた顔を下水で(!)冷やす。
場面変わって、オペラ座では衣装とマスク、マスター・キーが盗まれる。
控え室でクリスティーヌとアナトールが歌っている。
そこへ、ラウルが訪ねて来る。
クリスティーヌに「エリック・クロウデンを知っているか?」と尋ねる。
「私に何の関係が?」
ピンと来ていない彼女。
アナトールがクリスティーヌにプレゼントした彫像が、クロウデンの部屋から出て来たという。
「クロウデンは、君に恋をしたんだ。」
今度は、オペラ座で『恋と栄光』を上演。
セリフは英語だが、看板はフランス語で書かれている(だが、その上から貼られる告知は英語)。
クリスティーヌは、控え室で、「クリスティーヌ、君は有名な歌手になる。してみせる」という謎の男の声を聞く。
アナトールにそのことを告げると、彼は「それはオレの心の声だ」などと、もっともらしいことを言う。
主演の歌姫マダム・ビアンカロリが劇中でワインを飲む場面がある。
その小道具の盃に、謎の男が毒を入れた。
彼女は、演目の途中で倒れ、急きょ、クリスティーヌが代役に選ばれる。
劇の途中で突然配役が変わって、出演者も観客もビックリする。
けれども、クリスティーヌの圧倒的な声量に一同、聞き惚れる。
本作の主演の二人は立派な歌手で、吹き替えではないらしい。
クリスティーヌ役のスザンナ・フォスターの高音には驚かされる。
まるで、ミニー・リパートンみたいだ。
で、成り行きはともかく、主演の座を手に入れたクリスティーヌの歌声を、地下で怪人は満足そうに聴いていた。
もちろん、マダムは大激怒。
さあ、これからどうなる?
本作は、セットも素晴らしくて、カネは掛かっている。
オペラ座のセットは、1925年、ロン・チェイニー主演で製作されたサイレント版『オペラの怪人』のために作られたものだそうだ。
何と立派なセットだろう。
本作以降も、色々な作品で使われているらしい。
衣装も豪華で、音楽も(もちろん)見事で、一連のユニバーサルのB級ホラーとは全然別の作品だと思う。
クライマックスの、舞台と殺人が同時進行なのは、『ゴッドファーザー PARTIII』のよう(もちろん、あちらが真似ているのだろう)。
有名なシャンデリアが落下するまでの緊迫感もスゴイ。
でも、本作は公開後、あまり評判が良くなかったらしい。
上で書いた、怪人がマスクをクリスティーヌに剥ぎ取られる場面の特殊メイクは、やや控え目である。
これは、ホラー映画の色を着けたくないクロード・レインズの意向だったとか。
アカデミー賞美術賞(カラー)、撮影賞(カラー)受賞。