『透明人間』(1933)

この週末は、ブルーレイで『透明人間』を再見した。

透明人間 [Blu-ray]

透明人間 [Blu-ray]

  • 発売日: 2016/08/24
  • メディア: Blu-ray
1933年のアメリカ映画。
監督は、『フランケンシュタイン』のジェームズ・ホエール
原作は、SFの父H・G・ウェルズ
僕は小学生の頃、市立図書館で『透明人間』の原作を借りて読んだ記憶がある。
少年版だったが、面白くて夢中で読んだ。
主演は、『スミス都へ行く』『カサブランカ』『アラビアのロレンス』のクロード・レインズ
本作が映画デビューである。
共演は、『タイタニック』のグロリア・スチュアート
ローズ(ケイト・ウィンスレット)のお婆さん時代を演じて、アカデミー賞にノミネートされた、あの人である。
更に、チョイ役で『西部開拓史』のウォルター・ブレナン、『十戒』のジョン・キャラダイン(ピーター・リッチモンド名義)等も出ている。
『透明人間』は、ピンク・レディーが歌う前から誰でも知っている超有名作品であるため、続編やリメイクも多数、作られている。
僕は2000年にケヴィン・ベーコン主演で映画化された『インビジブル』(ポール・バーホーベン監督)を観に行った。
確かに、CGの登場で透明人間の描写は昔とは比べ物にならないかも知れない。
しかし、全ての原点は、この1933年版にあるのである。
当時の最新技術を駆使して撮影された映像は、今見てもスゴイと思う。
公開された頃は、さぞ観客の度肝を抜いたことだろう。
ユニバーサル映画。
モノクロ、スタンダード・サイズ。
不安気なテーマ音楽。
猛吹雪の中を歩く包帯姿の男。
小さな村で見付けた宿屋に入る。
それまで、浮かれて飲み騒いでいた客達が静まり返る。
「部屋を用意しろ」と告げる包帯男。
長期の滞在になるという。
「あの包帯は何だろう」と客が噂している。
包帯男は2階の部屋に泊まることになった。
宿の女将が部屋を尋ねると、「邪魔するな!」と怒鳴る包帯男。
実に凶暴な性格だ。
そして、この独特のダミ声が実に耳に残る。
当時、全くの無名役者だったクロード・レインズを、監督は声で選んだのだという。
包帯男はジャック・グリフィン(クロード・レインズ)という科学者だった。
彼は、クランリー博士の研究所にいた。
クランリー博士の娘フローラ(グロリア・スチュアート)は、グリフィンの婚約者。
彼女は、グリフィンから1ヵ月以上も音沙汰がないと言って、とても心配している。
フローラは「何かあったのよ」と、泣き出す。
グリフィンの書類は全て燃やされていた。
様子もヘンだったという。
彼は、秘密の薬品を戸棚に入れていたのだが。
グリフィンの同僚アーサー・ケンプ博士は、グリフィンがいないスキにフローラに言い寄ったりしているが、彼女は取り合わない。
一方、宿ではグリフィンが「元に戻る方法が何かあるはずだ」と頭を抱えていた。
宿の女将は、主人に「今すぐあの人を追い出して!」と詰め寄る。
グリフィンは、宿代を1週間も未払いなのであった。
宿の主人はグリフィンの部屋に行き、「出て行ってくれ」と言うと、グリフィンは頭に血が上り、主人を突き飛ばす。
主人は階段から落ちてケガをしてしまった。
「警察を呼べ!」
果たして、お巡りが来た。
しかし、包帯男は一向に動じない。
「オレの正体を見せてやろうか!」と、高らかに笑いながら包帯を解く。
中身は何もない。
透明人間だ。
初めてグリフィンが包帯を解くこのシーンは、透明人間の正体に説得力を持たせるための大事なシーンだ。
それが、実に見事に撮れている。
今ならCGで簡単に作れてしまう映像だろうが、当時の技術では大変だった。
メイキングで、このシーンのカラクリを説明していたが。
いや、スゴイよ。
映画技術史に残る仕事だと思う。
当時の観客は、皆ぶったまげたに違いない。
で、グリフィンの宿屋の人達や警官も、同様にビビって部屋から逃げ出した。
「あいつは透明人間だ。服を脱いだら捕まえられん。」
案の定、グリフィンは服を脱ぎ、透明になって、宿の中で暴れ回り、外へ飛び出した。
だが、警察の上層部は信じてくれない。
その頃、クランリー博士はグリフィンの薬品リストを発見していた。
その中には、「モノカイン」という薬品があった。
これは劇薬で、強烈な漂白剤だ。
犬に注射すると、凶暴になり、白くなって死ぬ。
その夜、ケンプは自宅でくつろいでいた。
ラジオから透明人間のニュースが流れる。
その時、ケンプの部屋にグリフィンが入って来た。
もちろん、姿は見えない。
「逃げたら殺すぞ!」
ケンプは、怖くて電話も出来ない。
その頃、警察は必死で捜査をしていたが、姿が見えないので、何も見付けられない。
グリフィンはケンプと話しをする。
グリフィンは、宿で復元薬の研究をしていたが、愚かな連中に邪魔されたのだと。
「私はこの薬によってパワーを手に入れた! 世界を我々のモノに! パートナーはお前だ! 人殺しもやる!」
何か、言っていることがどこかの国の独裁者とソックリだ。
映画が公開されたのは、ナチスが政権を掌握した頃だが、既にヒトラーの危険性は内外に知られていたのだろうか。
最近も、どこかの国の気の狂った大統領が人種差別政策を推し進めようとしていたが、さすがに、彼の国では未だ民主主義が生きているようで、司法から「待った!」が掛かった。
どこのネトウヨか知らんが、トランプを救世主扱いして、彼を批判するのは頭の古い人間だみたいなことを言っていたが。
アホか!
ヨソの国のことだけど、ありゃオカシイよ。
あれをオカシイと思わないヤツの方が狂っている。
アメリカ国民も、半分は未だ良識が残っていて、今度はバイデンが当選したのが、唯一の救い。
日本も、状況は似たようなものだからな。
差し障りがあるので具体名は挙げないが、安倍とか小池とか、ああいうのを野放しにしておくと危険だ。
ガースーも散々だが。
本当に気を付けないと。
話しが逸れた。
グリフィンの自己陶酔な演説を聞かされたケンプは、「冗談じゃない!」と言う。
しかしながら、姿の見えない恐ろしさで、何の抵抗も出来ない。
グリフィンは、宿に研究ノートを忘れて来て、それを取りに戻るから、車を出せとケンプに命じる。
その頃、宿では警察の偉いさんが村人を尋問していた。
彼らが集団でありもしない透明人間の話しをでっち上げ、警察を騙したというのだ。
このオッサンは、善良な市民の言うことを全く信じていない。
この映画は、権力者というものについて考えさせる。
市民を信用しない警察なんて、何の存在意義があろう。
ただ危険なだけじゃないか。
グリフィンは警察署の前で大暴れする。
そして、「透明人間なんてデタラメだ」と言い放った警察署長を殴って殺す。
彼のやることはどんどんエスカレートして行った。
これもクスリの副作用のようだ。
クスリもコワイね。
さあ、これからどうなる?
後半、ニャンコに色付きのスプレーを吹き付けるシーンがある。
今なら、動物虐待として問題になるだろう。
グリフィンは、ついにポイントを切り替えて列車事故まで起こすが、このシーンはミニチュア。
多少のケチもあるが、当時としては驚愕の特殊技術と、色々と考えさせられる問題提起の数々。
テンポも良くて、ラストまでグイグイ引っ張る。
やはり、古典になるような作品には理由があるということだろう。

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