『トパーズ』

この週末は、ブルーレイで『トパーズ』を見た。

1969年のアメリカ映画。
監督は、『レベッカ』『逃走迷路』『疑惑の影』『白い恐怖』『ロープ』『見知らぬ乗客』『私は告白する』『裏窓』『泥棒成金』『ハリーの災難』『知りすぎていた男』『間違えられた男』『めまい』『北北西に進路を取れ』『サイコ』『鳥』『マーニー』『引き裂かれたカーテン』『フレンジー』『ファミリー・プロット』の巨匠、アルフレッド・ヒッチコック
音楽は、『史上最大の作戦』『アラビアのロレンス』『ドクトル・ジバゴ』『グラン・プリ』の巨匠、モーリス・ジャール
主演はフレデリック・スタフォード。
共演は、『ダーティハリー』『アウトロー』のジョン・ヴァーノン、『フレンチ・カンカン』『軽蔑』のミシェル・ピコリ、『007は二度死ぬ』のカリン・ドール、『ハリーの災難』のジョン・フォーサイス
ニュー・シネマ・パラダイス』のフィリップ・ノワレも出ているね。
本作は「キューバ危機」を題材にしている。
ヒッチコックの前作『引き裂かれたカーテン』の「鉄のカーテン」なら、我々の世代でもよく分かるが、「キューバ危機」というのは僕が生まれる前のことなので、余りピンと来ない。
本作は、複雑な政治的駆け引きを背景に、淡々と物語が進行する。
異色のヒッチコック映画であると言える。
そのためか、作品の評価は余り芳しくないようだ。
それから、アメリカ映画だから当たり前なのだが、ソ連の敵視が余りにも自明のこととして進む。
僕は、別にアメリカにもソ連にも加担したくないので、そういう立場から見ると、違和感もある。
ユニバーサル映画。
テクニカラー、ワイド。
勇ましいテーマ音楽から始まる。
タイトル・バックは東側の軍事パレード。
余談だが、衣装はピエール・バルマンらしい。
最初に、「政府に反する高官が亡命を試みた」と字幕が出る。
1962年のデンマークコペンハーゲン
ヒッチコック映画らしく、亡命の手口がスリリングに描かれる。
ただ、ここで登場するソ連情報部の副長官クセノフは、余り本筋には関わって来ない。
妻と娘を連れての亡命は、なかなか手に汗握らせるのだが。
本作の中で、最もヒッチコック映画的なシークエンスだと言える。
で、彼らはアメリカに亡命し、ワシントン郊外の邸宅に匿われる。
娘は車の中からホワイトハウスを見て、「It's nice.」とつぶやく。
本作は国際色豊かで、色んな国の人物が登場するが、皆一様に英語を話すのが不自然だ。
まあ、いいや。
映画が始まって大分経ってから出て来るのが、主人公であるフランス情報部のアンドレ・デベロウ(フレデリック・スタフォード)。
髪型がちょっと独特である。
豊田真由子議員に怒鳴られそうだ。
アンドレは、クセノフの隠れ家を探せと命じられるが、「何故?」と疑念を抱く。
この辺り、当時のアメリカ、ソ連、フランスの立ち位置を理解していないと分かり難いよな。
この頃、クセノフはアメリカの偉いさん達から色々と聞かれているのだが、「トパーズとは何か?」と聞かれて、「知らない」と答える。
この、タイトルにもなっている「トパーズ」というのが、なかなか出て来ない。
そして、そんなに重要な事なのかどうかが、イマイチ伝わって来ない。
その頃、アンドレは親友のマイケル・ノードストロム(ジョン・フォーサイス)と会って、情報交換をする。
アンドレの妻ニコール(ダニー・ロバン)は、スパイを嫌っている。
その頃、クセノフはキューバについて質問されているが、知らないことが多い。
ソ連キューバに補給している軍需品の覚書は、国連のキューバ首席代表リコ・パラ(ジョン・ヴァーノン)が持っている」とクセノフは言う。
アンドレはニコールとニューヨークへ行く。
空港で娘のミシェル(クロード・ジャド)と、娘の夫フランソワ(ミシェル・シュボール)と落ち合う。
今回は、家族での私的な旅行のはずだったのだが、ホテルの部屋にはノードストロムがいた。
「リコ・パラの秘書は反米派だから、フランス人であるアンドレが近付け」という命令であった。
アンドレは花屋へ行く。
何の変哲もない花屋だが、実はスパイ組織の一端であった。
アンドレは、黒人の主人に、リコ・パラの秘書と接触して、覚書の写真を撮って来るように指示する。
黒人の主人はホテルへ行って、リコ・パラの秘書と会う。
最初は全然相手にされなかったが、ワイロを渡して、交渉がまとまったようだ。
で、猥雑なホテルへ秘書の導きで入る。
アンドレは、ホテルの前で見守っている。
黒人の主人がフランス人記者のフリをして、リコ・パラの写真をバルコニーで撮らせて欲しいと頼む。
写真を撮っている間に、秘書が書類の入ったカバンを持ち出す。
なかなかスリリングで、ヒッチコック映画らしい息の詰まるシーンだ。
部屋に戻ったリコは、カバンがないのに気付く。
同じフロアの別室にカギが掛かっている。
リコがドアを部下に蹴破らせると、秘書の隣で黒人が書類をパシャパシャと撮影していた。
リコは拳銃で撃つ。
窓から逃げる黒人。
もちろん、ホテルの周辺は大騒ぎ。
カメラを、ホテルの前のアンドレにサッと渡す。
そして、まんまと花屋へ戻った。
アンドレキューバへ行くことになった。
まあ、今の日本で例えると、北朝鮮に行くようなものなのだろう。
ニコールはアンドレを引き留めようとするが、もちろん、止められない。
彼女が気にしているのは、キューバの地下運動家ファニタ・デ・コルドバカリン・ドール)。
「美人らしいわ」と。
要するに、夫の愛人ではないかと疑っているのだ。
本作には、メロドラマ的な要素も多分にあるが、これも余り本筋と絡んでいるとは思えない。
キューバに行ったアンドレは、ファニタの元を訪ねる。
彼女は、リコ・パラによって身の安全を保証されていた。
で、案の定、ファニタとキスするアンドレ
何故フランスがキューバの心配をするのか?
しかし、キューバは既にソ連の手中にあった。
つまり、核兵器を持ち込んでいると。
これが「キューバ危機」なんだな。
まあ、これはアメリカを中心にした考え方だろう。
恐ろしいのは、伝説の女性革命家が、実はフランスのスパイの愛人で、その愛人を通じて、情報がアメリカに筒抜けだというところだろう。
アンドレは、ファニタに小型のガイガー・カウンターを渡す。
これは、時計の文字盤のラジウム(蛍光塗料に含まれている)にも反応する位、高精度なものだった。
これで、核兵器を積んだトラックが通過したら、分かるという。
更に、ニコンのカメラも。
この後、偵察撮影に使われるカメラは、オリンパス・ペンだ。
いわゆる、「ハーフ・サイズ」という小型カメラだな。
何を隠そう、僕は昔、オリンパス・ペンを持っていた。
そして、抱き合う二人。
やはり、メロ・ドラマだ。
どうでも良いが、キューバでも人々は英語を話している。
後半、舞台はフランスへ移るが、ここでも皆、英語を話している。
不思議だ。
さあ、これからどうなる?
結局、トパーズというのは、アメリカの情報をフランス経由でソ連に流す組織だったんだけどね。
ラストは、ヒッチコック映画としては珍しく、非常に重い。
娯楽映画色が余りない作品だ。
70年代の日本の刑事ドラマも、こういう雰囲気があったなあ。
スパイ映画とは言っても、『007』みたいに俗っぽくない。
まあ、「キューバ危機」について、もう少し勉強してみようとは思った。
予告編は、ちょっと『大空港』っぽくて、スタイリッシュだ。