『美しきセルジュ』

この週末は、ブルーレイで『美しきセルジュ』を見た。

美しきセルジュ クロード・シャブロル Blu-ray

美しきセルジュ クロード・シャブロル Blu-ray

1958年のフランス映画。
製作・監督・脚本は、ヌーヴェルヴァーグの旗手クロード・シャブロル
撮影は、『恋人たち』『シシリアン』『チェイサー』のアンリ・ドカエ
主演は、ジェラール・ブラン、ジャン・クロード・ブリアリ。
いとこ同志』で名高いクロード・シャブロルのデビュー作。
僕が本作を知ったのは、大学1年の時。
僕の在籍していた学部には、1年次の教養演習で「ヌーヴェルヴァーグ研究」という授業があった。
人気の授業で、抽選だったが、僕は当選して、登録することが出来た。
ヌーヴェルヴァーグの主要作品十数本を鑑賞して、学生が討論し、先生が批評するという内容だった。
最初のガイダンスで、先生が「クロード・シャブロルと言えば、『いとこ同志』が有名ですが、この授業では、『美しきセルジュ』を取り上げたいと思います」と言った。
僕が『美しきセルジュ』という映画を知ったのは、この時が初めてで、その後も、人の口から、このタイトルを聞いたことがない。
僕は当時、極めて怠惰な学生で、この授業にも、最初の1回しか出席しなかった。
だから、『美しきセルジュ』も見なかった。
本作の日本初公開は1999年らしいから、当時はビデオでしか出ていなかったのだろう。
今にして思えば、ヌーヴェルヴァーグの代表作を何本もタダで見て、先生の解説まで聴けるのだから、この授業に出なかったことを本当に後悔している。
しかし、こんな作品が、今ではブルーレイで見られるのだから、いい時代になったものだ。
アイ・ヴィ・シーというメーカーは、ヨーロッパ映画の名作を廉価で提供してくれて、素晴らしい。
モノクロ、スタンダード。
画質は良い。
最初に、字幕で「この作品はクルーズ県サンダンで撮影された」と出る。
フランスの地理は全く分からないが、シャブロルの故郷らしい。
野道を走るマイクロ・バス。
牧歌的なテーマ曲。
若い男フランソワ(ジャン・クロード・ブリアリ)がバスから降りる。
里帰りだ。
旧友ミッシェルが迎えに来ている。
遠巻きに見掛けた、かつての親友セルジュ(ジェラール・ブラン)に声を掛けるフランソワ。
ミッシェルによると、このところ、セルジュはアル中でへべれけらしい。
余談だが、セルジュの革ジャンの着こなしは、先日、新宿区長選挙の時に神楽坂の駅前で見掛けた(そして、記念写真を撮って頂いた)自由党山本太郎共同代表とソックリだ。
山本太郎さんは、政治家としても尊敬しているが、役者としても素晴らしかった。
光の雨』の熱演は、今でも脳裏に焼き付いている。
さて、フランソワが故郷に戻って来たのは12年ぶりだ。
セルジュはイヴォンヌ(ミシェル・メリッツ)と結婚したという。
フランソワとミシェルはカフェへ。
その上がフランソワの下宿だ。
フランソワは、結核の療養のために故郷へ戻った。
しかし、タバコは吸う。
さすがフランスである。
ミシェルがフランソワにセルジュのことを語る。
セルジュは大学にも受かっていたが、イヴォンヌが妊娠したので結婚し、今はトラックの運転手だ。
当のセルジュは、義父グロモーと朝から飲んだくれている。
カジュアルなガラスのコップになみなみとワインを注ぐ。
そこへフランソワがやって来る。
旧友との再会に男泣きするセルジュ。
グロモーは、次女のマリー(ベルナデット・ラフォン)と二人暮らし。
この町は、吉幾三もビックリの、牛が道を歩いているようなのどかな所だ。
翌朝、フランソワはミシェルに尋ねて、セルジュの家を訪ねる。
セルジュは未だ寝ている。
妻のイヴォンヌは、彼に水をかけて起こす。
家にはマリーもいる。
セルジュは、昨日のことを覚えていない。
典型的なアル中だな。
マリーはフランソワに色目をつかっている。
セルジュは朝から酒を飲む。
セルジュ、フランソワ、マリーが出掛ける。
セルジュは、トラックを無茶苦茶に運転する。
今なら、飲酒運転で即刻逮捕だな。
セルジュは、ガソリンスタンドでワインを仕入れ(何でそんなものを売っているんだ?)、ラッパ飲みしながら運転する。
まあ、セルジュの荒れっぷりはよく出ているが。
マリーはフランソワに「送って」と言う。
二人は一緒に歩く。
マリーは17歳だという。
実年齢は分からんが、17歳とは到底思えない色気がある。
フランソワはたまらず、彼女にキスをする。
今なら、淫行条例違反で即刻逮捕だな。
マリーの家へ行くと、父親はいない。
マリーの初めての相手はセルジュだったらしい。
田舎の人間関係は狭いな。
と言うより、マリーがメチャクチャなのだが。
マリーは、グロモーは実の父親じゃないが、グロモーはそのことを知らないと告白する。
一方、セルジュは仕事を終えて、トラックから降りる。
ワインが1本、空いている。
ロンドンで逮捕された日航副操縦士も真っ青だ。
余談だが、例の副操縦士は、ワイン1.5リットルとビール1.8リットルを飲んだらしい。
スゴイ量だ。
僕も試してみたのだが、ワイン1.1リットルとビール1リットルを飲むと、次の日は一日中、胃がムカムカして大変だった。
ワインは、飲んでいる時は気持ちいいのだが、残るんだな。
だから、セルジュの飲み方は、異常としか思えない。
まあ、フランス人は、ワインをジュースのように飲むらしいが。
それにしてもヒドイということを、本作は描いている。
で、セルジュは自宅へ。
妻に悪態を吐く。
「フランソワが戻った。オレはヤツに何を自慢出来る?」と。
セルジュは家を飛び出す。
そして、フランソワを見掛ける。
フランソワは教会へ。
神父に挨拶する。
フランソワは、教員資格試験をフイにしたという。
本作の登場人物は皆、何らかの形で挫折している。
神父曰く、「村人は昔と変わった。全てに無気力だ。若いミシェルもセルジュも、最早神を信じない。万聖節なのに、教会には6人しか来ない」と。
僕は京都の郊外の出身だが、高校卒業後、小学校(地元の公立)の同窓会で旧友達と再会して、文化の違いに驚いた記憶がある。
何というか、皆荒れているのだ。
本作の登場人物と重なるというか。
ハロウィンで渋谷に集まる若者達も、こんな感じなんだろう。
若者が集まるのなら、革命を起こさなければ意味はない。
コスプレなんかしてどうする?
立ち上がれ!
話しが逸れた。
セルジュは、教会の前で神父と対立する。
フランソワはセルジュの家へ。
だが、セルジュはいない。
イヴォンヌはフランソワに「私達のことは放って置いて!」と訴える。
セルジュは、カフェでワインを飲んでいる。
彼は、子供達にもバカにされている。
フランソワの下宿へ行く。
「フランソワに会いたい」と、彼を探してさまようセルジュ。
彼は墓地を通る。
ここが近道なのだ。
セルジュは、死産した最初の子を恨んでいる。
一方、フランソワはマリーとデートだ。
セルジュは、酔っ払って倒れるように眠る。
朝、大家さんがフランソワに「あの娘はやめなさい」と、カフェオレを注ぎながら告げる。
本場のカフェオレは、鍋でコーヒーとミルクを温めて、同時にカップに注ぐんだな。
フランソワはセルジュと会い、「奥さんと別れるべきだ」と言う。
セルジュは、マリーのことを「あばずれだ」と。
で、この後、フランソワは酔っ払ったグロモーに「娘に近付くな」と絡まれ、売り言葉買い言葉で、マリーは本当の娘じゃないと口走ってしまう。
そうしたら、グロモーはマリーを強姦するのだ。
もう、ヒドイね。
さあ、これからどうなる?
本作の人間関係は狭い。
特に大事件が起きる訳ではないが、グイグイと最後まで引っ張る。
セルジュのどこが「美しい」かは分からなかったが。
本作の原題は「Le Beau Serge」だ。
「beau」というのは、英語の「beautiful」の語源だ。
英語の日常語は大抵ゲルマン語起源なのだが、これはフランス語起源の珍しい例。
僕は大学1年の時、フランス映画に憧れて、フランス語の授業を取ったのだが、最初の1時間で挫折してしまった。
今からでも、勉強してみるかな。
しかし、僕はもう英語とドイツ語とラテン語だけで手一杯だ。
『美しきセルジュ』は、時期的には、『大人は判ってくれない』や『勝手にしやがれ』よりも前に発表されているんだな。
正に、「ヌーヴェルヴァーグの発火点」と言える作品かも知れない。