『キャット・ピープル』(1942)

この週末は、ブルーレイで『キャット・ピープル』を見た。

キャット・ピープル Blu-ray

キャット・ピープル Blu-ray

  • 出版社/メーカー: IVC,Ltd.(VC)(D)
  • 発売日: 2019/11/29
  • メディア: Blu-ray
1942年のアメリカ映画。
監督はジャック・ターナー
主演はシモーヌ・シモン
本作には、ポール・シュレイダー監督によるリメイク版(1982年)がある。
主演は、ナスターシャ・キンスキーマルコム・マクダウェル
リメイク版は、見たことはないが、ちょうど僕が高校生くらいの頃、近所のレンタル屋に置かれていたから、よく覚えている。
エロティック映画のコーナーにあった。
パッケージのナスターシャ・キンスキーが、それはそれはなまめかしかった。
この頃の僕は、美人のナスターシャ・キンスキーが大好きだった。
なぜ借りなかったのだろう。
今となっては覚えていない。
で、本作はホラー映画の古典とされている。
リメイク版のように(多分)、エロチックな描写があまりないのは、時代のせいだろう。
そう言えば、『郵便配達は二度ベルを鳴らす』も、リメイク版はジェシカ・ラングが官能的らしい(未見だが)。
モノクロ、スタンダード・サイズ。
不安げなテーマ曲から始まる。
「谷底に霧が漂うように先祖の罪ははびこり、いつまでもさまよい続ける“死者の先祖返り”ルイス・ジャド」という字幕。
マンハッタンのセントラル・パーク動物園で、ファッション・デザイナーを生業とするセルビア生まれの女性イレーナ(シモーヌ・シモン)が、檻の中にいる一匹の黒ヒョウをスケッチしている。
失敗した絵を丸めて捨てると、一人の男性が「ゴミはゴミ箱へ」的な掲示を指差す。
そして、その男性が声を掛けて来る。
要するに、ナンパだ。
その男性は、造船技師のオリバー(ケント・スミス)だった。
イレーヌの捨てた絵には、剣の刺さったヒョウが描かれていた。
二人は一緒に立ち去る。
話しているうちに、イレーヌの家に着く。
「お茶でもいかが」とオリバーに声を掛けるイレーヌ。
イレーヌにとって、アメリカ人の友達は初めてだという。
この家には、近所の動物園からライオンのうなり声が聞こえて来る。
住民は嫌がっているが、イレーヌは好きだという。
しかし、彼女は、ヒョウのうなり声は嫌いだった。
彼女の部屋には、ネコを刺し貫いた剣を高々と掲げている、セルビアのジョン王の彫像があった。
「なぜこの像が?」と尋ねるオリバーに、彼女は「アメリカ人が大統領を好きなのと同じよ」と答える。
僕は天皇が好きじゃないし、安倍はもっと嫌いだが。
で、ネコは悪魔の使いで、ジョン王が征服した村の住民達は、悪魔に帰依して魔女になったのだと。
それが私の生まれた村なのだとイレーヌは言う。
ともかく、二人は翌日の夜に食事をする約束をする。
翌日、オリバーの勤務先の「C・R・クーパー造船会社」。
オリバーは箱に入った可愛い子猫を連れて来ている。
会社の同僚達は、「オリバーに彼女が出来た」と噂している。
実際、オリバーはそのネコをイレーヌにプレゼントするつもりであった。
ところが、彼がネコを連れて行くと、彼女に対して尻尾を立てて威嚇する。
彼女はネコには好かれないのであった。
仕方がないので、ペットショップに行って、他の動物と交換することにする。
しかし、イレーヌが店に入ると、店内の動物達が皆、一斉に騒ぎ出した。
が、彼女が店を出ると、静かになる。
仕方がないので、オリバーだけが店に入って、カナリアを選んだ。
二人はイレーヌの家へ。
イレーヌは、オリバーに、自分はネコ族の末裔で、キスをしてはいけない、恋に落ちてはいけないという。
自分には邪悪な過去があると説くイレーヌに、「ネコ族なんておとぎ話しさ」と笑うオリバー。
で、早くもオリバーとイレーヌの結婚式。
セルビア・レストランで晩餐会。
店内にいたネコ顔の女が突然、イレーヌに近付いて来て、「私の妹」とつぶやいて去った。
真っ青な顔になるイレーヌだが、他の出席者はセルビア語が分からないので、全く状況が飲み込めない。
オリバーは、その話しを一笑に付す。
で、簡単に言うと、イレーヌは、自分の中の魔性が目覚めてしまうので、セックスが出来ない。
その辺の描写が、当時は検閲の関係で出来なかったのだろう。
だから、リメイク版は官能描写が多くなったらしいが。
そう言えば、キューブリックの『ロリータ』も検閲の都合で性的な描写が出来なかった。
リメイク版は大胆な性描写が盛り込まれたが、だからと言って、名作になった訳ではない。
『キャリー』もそうだったな。
リメイク版がオリジナルを超えることは、まずない。
昨今は、本当にリメイクと続編しかないという、映画文化にとって悲惨な状況だ。
まあいいや。
で、「私の魔性に打ち勝つまで待って」とイレーヌが告げ、二人は別々に寝る。
イレーヌは、結婚して以来、来ていなかった動物園に、1ヶ月ぶりに黒ヒョウを見に来る。
飼育員は、ヒョウは聖書に「最も凶暴な動物」と書かれているとイレーヌに告げる。
イレーヌが自宅で洋服のデザイン画を描いている。
ふと、カナリアのいるカゴに手を入れると、カナリアは暴れ回って死ぬ。
彼女は、カナリアの死骸を手に取り、動物園に行くと、黒ヒョウのエサにした。
これは、なかなか残酷なシーンだ。
描写よりも、行為が残酷だ。
夜になっても、彼女は元気がない。
家の中の雰囲気も暗い。
「あの鳥は私におびえて死んだ。」
「普通のことだよ。」
「無意識に黒ヒョウにやった。それがコワイ。」
「君が信じていることが問題。何とかしなければ。知的な方法で解決しよう。」
で、精神科へ行く。
精神科医催眠療法を行う。
「私の中にいる、目覚めてしまう邪悪」について告白するイレーヌ。
目覚めた彼女は何も覚えていなかったが、精神科医は「スゴイ話しだ」と興味を持つ。
彼女が言うには、嫉妬や欲望を持ったら、ヒョウに変身する。
キスすると邪悪の心が芽ばえ、相手を殺してしまう。
精神科医が分析するには、イレーヌの父親は彼女が生まれる前に死に、幼い頃に友達から「ネコ女」の罵られたことがトラウマになっているのではないかと。
イレーヌが家に帰ると、オリバーの会社の同僚のアリスがいる。
アリスは、精神科医を紹介したのは私だと言う。
オリバーが他の女に結婚生活の悩みを相談していたことを知って、アリスには嫉妬心が芽生える。
「個人的なことを話すなんて! 女には他の女に聞かせたくないことがあるの!」
夜、ヒョウのうなり声が聞こえる。
イレーヌは、真夜中に動物園にヒョウを見に行く。
帰宅して、オリバーに「私を嫉妬させてはいけない」と告げるイレーヌ。
翌日、会社でアリスから、イレーヌは初診以来、精神科に行っていないと聞かされ、心配になるオリバー。
「オレは今まで恵まれて来た。どうしたらいいか分からない」と嘆く。
その話しを聞いたアリスは泣く。
「あなたの苦しんでいるのが耐えられない。心からあなたを愛してる。」
ここで疑問なのだが、それならば何故、アリスとオリバーは先に付き合っていなかったのか?
イレーヌよりも先に知り合っていて、会社の同僚で毎日、顔を合わせていたというのに。
オリバーは「愛とは何だか分からなくなった。オレは妻のことを知らない。」
アリス「私はあなたと分かり合っている。」
一方、イレーヌが動物園に行き、黒ヒョウを見ていると、精神科医がいる。
精神科医は、「人間には邪悪なものを解放したい欲望、殺人願望がある」とイレーヌに告げる。
イレーヌは、「問題は心じゃないの」と言う。
要するに、私の身体が本当に変化してしまうと言いたかったのだろう。
相変わらず、彼女の家の中は暗い。
オリバーは、「君は心を閉ざしている」とイレーヌに言う。
しかし、ここで、あろうことか、またアリスの名前を出してしまう。
その瞬間、イレーヌの表情が硬直する。
ああ、何か分かるねえ、この展開。
オリバーは「ケンカはしたくない」と告げ、仕事が残っているからと会社へ戻る。
会社の入り口では、清掃員のおばさんが掃除をしている。
オリバーは、おばさんに「サリーの店でコーヒーを飲んで来る」と伝える。
イレーヌが会社に電話をすると、残業していたアリスが電話に出る。
沈黙…ガチャ切り。
アリスは帰ろうとするが、会社の出口で、おばさんからオリバーはサリーの店にいると聞き、自分も向かう。
そして、落ち合う二人。
嫉妬に駆られたイレーヌは、店の外から、二人が一緒にいるところを目撃してしまう。
この時点では、未だ浮気ではないのだが、今のイレーヌにそんな言い訳は通じない。
二人が分かれた後、アリスの後を追うイレーヌ。
さあ、これからどうなる?
後半、イレーヌがヒョウに変身しても、姿を見せない。
もちろん、技術的な問題もあるのだろうが、それがかえって恐怖感を増している。
と言うより、本作がホラーの古典として評価されているのは、この部分だろう。
照明と編集で怖さを作る。
今のCGに汚染された映画は、こういう手法を少し思い出した方がいい。
それから、ヒョウがよく演技をしている。
低予算で、短期間で撮影されたらしいから、こういう絵を撮るのは大変だっただろう。
ラスト、何故かジョン・ダン(イギリスのルネッサンス期の有名詩人。普通に英文学史のテキストに出て来る)の詩が引用されている(本物かどうかは知らんが)。

Cat People (1942) Trailer