『オーソン・ウェルズのフォルスタッフ』

この週末は、ブルーレイで『オーソン・ウェルズのフォルスタッフ』を見た。

1966年のスペイン・スイス合作映画。
監督・脚色・衣装デザイン・主演は、『市民ケーン』(製作・脚本・出演)、『偉大なるアンバーソン家の人々』(製作・監督・脚本)、『第三の男』(出演)、『黒い罠』(監督・脚色・出演)、『審判(1963)』(監督・脚色・台詞・出演)、『007/カジノ・ロワイヤル(1967)』(出演)の名優オーソン・ウェルズ
原作はウィリアム・シェイクスピア
撮影は、『審判(1963)』のエドモン・リシャール
出演は、『エレファント・マン』『炎のランナー』『ガンジー』『ハムレット(1997)』の名優ジョン・ギールグッド、『恋人たち(1957)』『鬼火(1963)』『審判(1963)』の大女優ジャンヌ・モロー
本作は、僕が学生の頃、どこかの名画座かミニ・シアターの特集上映に掛かっていたが、観に行こうと思いながら、結局、観に行かなかった。
フォルスタッフは、シェイクスピアの『ヘンリー四世』(恥ずかしながら未読)に出て来る、肥満で、大酒飲みで、女好きで、臆病な老騎士。
シェイクスピアの作品では、シャイロックと並ぶ人気キャラクター。
エリザベス1世は、フォルスタッフをいたく気に入り、シェイクスピアに彼を主演にした作品を書くよう命じて、『ウィンザーの陽気な女房たち』(恥ずかしながら未読)が書かれた。
『ヘンリー四世』の続編が『ヘンリー五世』(恥ずかしながら未読)で、こちらはローレンス・オリヴィエケネス・ブラナーが映画化している。
ローレンス・オリヴィエ版は彼の監督第1作で、1945年だがカラーの大作であり、見事な合戦シーンもある。
スタンリー・キューブリックは、自分が好きな映画のベスト10に挙げている(ちなみに、『市民ケーン』もその中に入っている)。
スパルタカス』や『バリー・リンドン』への影響を感じさせる。
ローレンス・オリヴィエ版は以前、DVDで見た。
ケネス・ブラナー版は1989年、やはり彼の監督第1作で、「ローレンス・オリヴィエの再来」と言われた。
これは、僕は高校時代に京都の朝日シネマで観ている。
シェイクスピアの史劇については、『リチャード三世』以外、ほとんど読んでいないな。
精進しなければ。
あと、オーソン・ウェルズシェイクスピア映画だと、『オーソン・ウェルズのオセロ』も斬新で良かったな。
話しを『フォルスタッフ』に戻す。
モノクロ、ワイド。
画質はイマイチ。
軽快な笛の音。
雪の中、小屋へと到着するフォルスタッフ(オーソン・ウェルズ)とシャロー(アラン・ウェッブ)。
「何と懐かしい時でしょう」とシャロー。
余談だが、オーソン・ウェルズは目が和田秀樹先生にちょっと似ているな。
和田先生のお腹はこんなに大きくないが。
タイトル・ロール。
コミカルなテーマ曲。
時は、リチャード二世が殺され、ボリングブルック公(ジョン・ギールグッド)がヘンリー四世として即位した1400年。
王は先王の世継ぎの婚姻であるパーシー一族の若武者ホットスパー(ノーマン・ロッドウェイ)に怒り心頭。
「裏切り者にはカネを払わん!」
まあ、しかし、背景には色々とあって、先王はエドマンドを後継者にしたはずだが、ボリングブルックがヨークの大司教を云々…。
この辺は、イギリスの歴史に詳しくないとよく分からん。
ちなみに、高校世界史レベルでは、そんなに詳細な部分まで出て来ない。
ただ、本作は、喜劇として非常によく出来ていて、そんな細かいことが分からなくても、十分に人間関係を把握して、楽しめるようになっている。
で、皇太子ハル(キース・バクスター)は、下町の怪しい売春宿に入り浸り、フォルスタッフとつるんでいる。
フォルスタッフは、騎士なので、「サー」の称号は持っているが、借金漬けで、常にカネがない。
宿代もツケなので、ハルや従臣ポインズ(トニー・ベックリー)も誘って、追い剥ぎに行く。
皇太子が売春宿に入り浸って、追い剥ぎって、とんでもないよね。
一方、ホットスパーの父は病気で動けない。
ホットスパーは、妻のケイト(マリナ・ヴラディ)が止めるのも振り払って、王に戦いを挑むため出陣する。
一方、フォルスタッフは追い剥ぎに成功するが、ハルとポインズが役人に変装して、フォルスタッフからそのカネを奪う。
まあ、変装というのは、シェイクスピア劇のお家芸だね。
僕は、シェイクスピアの戯曲で読んでいないのはたくさんあるが(自慢にならない)、映画化作品は結構見た。
戯曲というのは、役者が演じて初めて完成するものだから、これでいいのである。
一方、王はホットスパーの反乱に怒っていた。
毎日放蕩三昧のハルを探せと部下に命じる。
その頃、フォルスタッフはハルとポインズを「臆病者」とののしっていた。
しかし、本当の臆病者はフォルスタッフであった。
フォルスタッフは毎度、ウソの武勇伝をでっち上げる。
何か、バリー・リンドンが死にかけの息子に戦争の手柄話しをでっち上げたのを思い出すが。
で、武勇伝はウソでも、結果的に、奪われたと思ったカネはハルとポインズが持っていたので、カネが戻って来てフォルスタッフは喜ぶ。
そして、またドンチャン騒ぎに興じるのであった。
一方、裏切り者のホットスパーは戦争を始める。
フォルスタッフは、そんなことは構わず、王のモノマネを披露しては、自画自賛している。
ハルも対抗して王のモノマネを披露する。
自画自賛していたフォルスタッフをボロカスにけなす。
一同大ウケ。
何か、ちょっとフォルスタッフが気の毒になるが。
それにしても、オーソン・ウェルズは丸々と太って、まさに適役だ。
そして、素晴らしい演技力。
演出も、コメディーとして見事だ。
フォルスタッフは、王のモノマネをして、「ハルの取り巻きとしてフォルスタッフだけは残しなさい」と告げるのだが、果たして、この言葉はハルに通じたのか…。
売春宿に手入れが。
女達は逃げ惑う。
ハルがベッドで女を侍らせながら応対する。
「フォルスタッフはここにいない。帰れ!」
さすがの官憲も、皇太子に言われては、引き下がらざるを得ない。
たとえ相手が裸でも。
戦争が始まるぞ。
ハルは城へ戻った。
フォルスタッフは、馴染みの娼婦ドル(ジャンヌ・モロー)と別れを惜しむ。
王は「謀反人の手下に成り下がるな」とハルに警告する。
王とハルが二人きりで話す。
「お前の低俗な仲間。先王は道化どもを連れ歩き、王の権威を汚した。お前も同じだ!」
「これからは心を入れ替えます。」
ホットスパーの方がお前より王の資質を備えている。」
こうまで言われて、ハルは決意する。
ホットスパーの首をとる!」と。
フォルスタッフも戦争へ行くことになった。
誰も軍資金を出さないので、貧しい兵隊しかいない。
フォルスタッフは、こんな時でも酒を求める。
ホットスパーは、王も皇太子も取り巻きも迎え撃つ覚悟。
フォルスタッフはシャローを訪ねる。
6名の勇敢な兵士を紹介されるが、どいつもこいつもロクなのがいない。
フォルスタッフの人選もデタラメ。
一方、戦場ではホットスパーの使者と王が対峙していた。
ハルがホットスパーとの一騎打ちを申し込む。
戦闘シーンは、まるでクロサワ映画のような迫力である。
馬の疾走感がスゴイ。
ホットスパーの下へ使者が戻り、戦いをけしかける。
フォルスタッフは、ハルに「名誉は命を守ってくれない」と、如何にもシェイクスピアっぽいセリフを残す。
合戦シーンは『影武者』なみにスゴイのだが、時々コマ落としを使ったりして、コミカルさを出している。
巨大な鉄兜姿のフォルスタッフが戦場をうろちょろする様は、ギャグである。
しかし、兵士が棍棒で相手をボコボコにする場面は迫力がある。
とにかく、棍棒が重そうなのだ。
ぬかるみに馬が足を取られるシーンは、『七人の侍』を彷彿とさせる。
で、フォルスタッフは何もせず、突っ立っている。
とうとう、ホットスパーとハルの決闘が始まる。
さすがに、王の血を引いているだけあって、あんなにチャラチャラした遊び人だったハルが立派に戦い、ホットスパーにとどめを刺す。
フォルスタッフは死んだフリをしている。
そして、ホットスパーを仕留めたことまで、自分の手柄にしようとするのであった。
さあ、これからどうなる?
フォルスタッフの名ゼリフ「強い酒をしこたま飲め。」
それから、喜劇だが、途中、王の独白があり、これはジョン・ギールグッドが朗々と唱えて素晴らしい。
さすが、伝説の名優である。
そして、本作の結末は切ない。
実に切ない。
シェイクスピアは敷居が高いと思っている人も、本作を見ると、いつの間にか引き込まれることだろう。
笑いあり、涙ありの、喜劇のお手本だな。
カンヌ国際映画祭20周年記念大賞、技術大賞受賞。

Chimes at Midnight Re-Release Trailer 1 (2016) - Orson Welles Movie HD