『みずうみ(湖畔、インメンゼー)』を原文で読む(第14回)

(テキスト26ページ、2行目〜)

Die Abreise rückte heran; vorher aber kam noch mancher Reim in den Pergamentband.

die Abreise(女)(ふつう単)旅立ち、(旅行のための)出発(英:departure)(複:Abreisen)
rücken(自)(方向を表す語句とともに)(~へ)出動する(過去:rückte)(過分:gerückt)(完了:haben)
heran~(分離動詞の前つづり/つねにアクセントをもつ)((~へ向かっての)接近)
vorher(副)それ以前に、その前に(英:before)
aber(接)(並列接続詞)(相反・対比)しかし、けれども、だが(英:but)
kommen(自)(方向を表す語句とともに)(しかるべき所へ)収められる、入れられる(過去:kam)(過分:gekommen)(完了:sein)
noch(副)さらに、その上(ほか)に
manch(代)(不定代名詞/語尾変化はdieserと同じ)(付加語として)(全体の中で)幾人かの、いくつかの、ある部分の(英:some)
der Reim(男)韻、(特に)脚韻(=Endreim)(英:rhyme)
in(前)(空間的に)(どこへ)(4格と)~の中へ(英:in)
das Pergament(中)羊皮紙(複:Pergamente)
der Band(男)(本の)巻、冊(英:volume)(複:Bände)

Das allein war für Elisabeth ein Geheimnis, obgleich sie die Veranlassung zu dem ganzen Buche und zu den meisten Liedern war, welche nach und nach fast die Hälfte der weißen Blätter gefüllt hatten.

allein(副)ただ~だけ(=nur)
für(前)(4格とともに)(関連・判断の基準)~にとって、~の割に、~にしては(英:for)
Elisabeth(女名)エリーザベト(複;なし)
das Geheimnis(中)秘密(英:secret)(複:Geheimnisse)
obgleich(接)(従属接属詞/動詞の人称変化形は文末)~にもかかわらず、~ではあるが(=obwohl)
die Veranlassung(女)きっかけ、動機、誘因(英:cause、motive)(複:Veranlassungen)
zu(前)(3格とともに)(関係)~に対して、~について
ganz(形)(付加語としてのみ)全部の、全体の(英:whole)
das Buch(中)本、書物、書籍(英:book)(複:Bücher)
meist(形)(vielの最上)たいていの、大部分の(英:most
das Lied(中)叙事詩(複:Lieder/3格のみ:Liedern)
welch(代)(関係代名詞/語尾変化はdieserと同じ、ただし2格はない/動詞の人称変化形は文末)(~である)ところの
nach und nach しだいに
fast(副)ほとんど、ほぼ(英:nearly)
die Hälfte(女)半分、2分の1、半ば(英:half)(複:Hälfen)
weiß(形)白い、白色の(英:white)(比較:weißer)(最上:weißest)
das Blatt(中)(本などの)ページ(複:Blätter)
füllen(他)(容器など4格を)満たす、いっぱいにする(英:fill)(過去:füllte)(過分:gefüllt)(完了:haben)

Es war im Juni; Reinhard sollte am andern Tage reisen.

es(代)(人称代名詞)(形式的な主語として)(時間などを表す表現で)
in(前)(時間的に)(時点・期間)(3格と)~(中)に、~のうちに
der Juni(男)(ふつう単)6月(英:June)(複:Junis)
Reinhard(男名)ラインハルト(複:なし)
sollen(助動)(話法の助動詞)(zuのない不定詞とともに)~の予定である(過去:sollte)(過分:sollen)(完了:haben) ・ich soll、er soll
an(前)(時間的に)(3格と)~(の時)に、~日に
ander(形)その次の ・am anderen Tag 翌日に
der Tag(男)日、1日、1昼夜(英:day)(複:Tage)
reisen(自)旅立つ(英:travel)(過去:reiste)(過分:gereist)(完了:sein) ・du reist

Nun wollte man noch einmal einen festlichen Tag zusammen begehen.

nun(副)今となっては、こうなった今は
wollen(助動)(話法の助動詞)(zuのない不定詞とともに)~するつもりだ、~しようと思う、~したい(と思う)(英:will、want)(過去:wollte)(過分:wollen)(完了:haben) ・ich will、du willst、er will
man(代)(不定代名詞)(つねに単数)人は、人々は(日本語ではこのmanを訳す必要のない場合が多い)/(自分(たち)を指して)
noch einmal もう一度
festlich(形)(祭りのように)盛大な、華やかな
zusammen(副)いっしょに、みんなで(英:together)
begehen(他)(祭・儀式など4格を)挙行する、(誕生日など4格を)祝う

Dazu wurde eine Landpartie nach einer der nahe gelegenen Holzungen in größerer Gesellschaft veranstaltet.

dazu(副)(目的)そのために
werden(助動)(動作受動の助動詞)(過去分詞とともに受動態をつくる)~される(過去:wurde)(過分:worden)(完了:sein) ・du wirst、er wird
die Landpartie(女)(田舎への)遠足、ピクニック(複:Landpartien)
nach(前)(3格とともに)(方向・目標)~(の方)へ、~に向かって(英:to)
einer(代)(不定代名詞)だれか(一人)、何か一つ(英:one)
nahe(形)(距離的に)近い、近くの(英:near)(比較:näher)(最上:nächst)
belegen=gelegen(形)適当な、都合のいい
die Holzung(女)森林(複:Holzungen)
in(前)(方法・様態)(3格と)~で(英:in)
größer(形)(großの比較)より大きい
die Gesellschaft(女)団体、協会(複:Gesellschaften)
veranstalten(他)(行事・集会など4格を)催す、開催する(英:organize)(過去:veranstaite)(過分:veranstaltet)(完了:haben) ・du veranstaltest、er veranstaltet

Der stundenlange Weg bis an den Saum des Waldes wurde zu Wagen zurückgelegt; dann nahm man die Proviantkörbe herunter und marschierte weiter.

stundenlang(形)数時間の
der Weg(男)(複なし)道のり、道程(複:Stunde)
bis(前)(4格とともに)(空間的に)~まで(英:to)/(他の前置詞とともに/名詞の格は後続の前置詞によって決まる)bis an den Rhein ライン河畔まで
an(前)(bis an ~の形で)(時間的・空間的に)(4格と)~まで
der Saum(男)(一般に)縁、へり(=Rand) ・der Saum des Waldes 森のへり
der Wald(男)森、林、森林(地帯)(英:woods、forest)(複:Wälder)
zu(前)(3格とともに)(移動の手段)~で
der Wagen(男)馬車(複:Wagen)
zurück|legen(他)(ある道のり4格を)あとにする(完了:haben)
dann(副)それから、そのあと(英:then)
nehmen(他)(手に)取る、つかむ(英:take)(過去:nahm)(過分:genommen)(完了:haben) ・du nimmst、er nimmt
der Proviant(男)(ふつう単)(携帯用の)食料(複:Proviante)
der Korb(男)かご、ざる(英:basket)(複:Körbe)
herunter~(分離動詞の前つづり/つねにアクセントをもつ)((上からこちらの)下へ)
marschieren(自)(早足で長距離を)歩く(過去:marschierte)(過分:marschiert)(完了:sein)
weiter~(分離動詞の前つづり/つねにアクセントをもつ)(前方へ・先へ)

Ein Tannengehölz mußte zuerst durchwandert werden; es war kühl und dämmerig und der Boden überall mit feinen Nadeln bestreut.

die Tanne(女)モミ(英:fir)(複:Tannen)
ge~(アクセントをもたない)(名詞・形容詞・動詞の語幹と結合して)(集合・共同)
das Holz(中)(複は種類を表すときのみ)木材、(素材として)木、材木(英:wood)(複:Hölzer)
müssen(助動)(zuのない不定詞とともに)~しなければならない、~する必要がない、~せざるをえない(英:must)(過去:musste)(過分:müssen)(完了:haben) ・jch muss、du musst、er muss
zuerst(副)最初に、まず第一に(英:first)
durchwandern(他)(ある地域4格を)歩いて横断する、歩き回る(完了:haben)
es(代)(人称代名詞)(形式的な主語として)(自然現象の表現で)
kühl(形)涼しい、うすら寒い(英:cool)
dämmerig=dämmrig(形)薄明るい、薄暗い(夜明け・夕暮れなど)
der Boden(男)地面(英:ground)
überall(副)いたるところで(に)(英:everywhere)
mit(前)(3格とともに)(手段/材料)~で、~を使って
fein(形)細かい、細い、小粒の(英:fine)
die Nadel(女)(ふつう複)針葉(英:needle)(複:Nadeln)
bestreuen(他)(A4格 mit B3格 ~)(A4格にB3格を)振りかける、まく(完了:haben)
【参考文献】
みずうみ (対訳シリーズ)』中込忠三、佐藤正樹・編(同学社)
アポロン独和辞典』(同学社)
新コンサイス独和辞典』(三省堂

『スローターハウス5』

この週末は、ブルーレイで『スローターハウス5』を見た。

1972年のアメリカ映画。
監督は、『明日に向かって撃て』『スティング』の巨匠ジョージ・ロイ・ヒル
撮影は、『アマデウス』のミロスラフ・オンドリチェク。
主演は、『続・激突!/カージャック』のマイケル・サックス。
共演は、『スーパーマン』のヴァレリー・ペリン、『未知との遭遇』『アルカトラズからの脱出』のロバーツ・ブロッサム。
本作のタイトルは、僕が学生の頃、バイトをしていた映画館で、映画にものすごく詳しい先輩から初めて聞いた。
「『これは見ろ』という映画を挙げて下さい」と言ったら、本作の名前が出て来たのだ。
高校生くらいまでは、自分は映画に詳しいつもりだったが、上京して映画館で働いたり、大学の映画研究会に顔を出したりすると、周りが皆、詳しい人ばかりなので、自分なんか大したことがないということが分かった。
その中でも、この先輩は特別に詳しく、僕が目標にしている人だった。
当時、この先輩は24歳だったが、お気に入りの映画ソフトを、VHSで400本、レーザーディスクで50本も持っているという。
今のように、レンタルより安くDVDが買えるような時代じゃない。
それ以来、僕は映画ソフトを400本揃えることが目標になった。
しかし、学生の頃はカネがなく、バイトの給料が入って、何枚か中古CD屋(高田馬場にあったタイム)で買っては、給料日前に売るということを繰り返していたので、全く揃わなかった。
最近になって、ブルーレイ・ディスクが映画鑑賞料金より安く手に入るようになったので、また揃え始めた。
今度は売ったりしていないので、ようやく350枚くらいになった。
ただ、ブルーレイは全く流行っていないので、近い将来、かつてのレーザーディスクのように消えてしまいそうだが。
で、先輩に薦められてから四半世紀を経て、ようやく『スローターハウス5』を見たのだが、もっと早く見なかったことを後悔した。
ユニヴァーサル映画。
カラー、ワイド。
父親を呼ぶ女性が家の中から見える。
返事はない。
タイプライターで編集者に手紙を書くビリー・ピルグリム(マイケル・サックス)。
それによると、彼は時間から遊離した人間であり、過去や未来を飛躍するという。
ただし、それは彼の意志とは関係なく起こる。
突然、ドイツ軍がうごめく第二次大戦中のベルギーに飛ぶ。
雪の中、一人で道に迷う。
今日の午前中まで、ビリーはトラルファマドール星にいたというのに。
ビリーは、対独戦線でアメリカ兵に捕まる。
ビリーの職業は牧師であった。
ここは、作戦のリーダーである伍長も逃亡するほどの苛酷な戦場。
トラルファマドール星で一緒にいた美女(実はポルノ女優)モンタナ(ヴァレリー・ペリン)が「戦場への時間旅行はイヤでしょ」と言っていた。
そのことを戦場で思い出すビリー。
本作は、このように時間を行ったり来たりする。
しかし、編集が巧みなので、混乱することはない。
そして、行き来する時間はどれも人生のある場面なので、それが同時進行することによって、最終的にはビリーの生涯が一つに繋がるようになっている。
だから、本作をSFとして特別視しなくとも、一人の男の生涯を描いた作品として見ることも出来る。
で、ビリー達はドイツ兵に捕まる。
今度はビリーの新婚生活へ。
要するに、戦争が終わったら結婚するんだな。
それをほのめかすのは一瞬で、また戦時中に。
やはり、本作は第二次大戦中の悲惨な状況(特に、クライマックスのドレスデン爆撃)を描きたいのだろう。
戦時中の場面に一番重点が置かれている。
ドイツ軍の捕虜になったアメリカ兵達が歩いている。
ビリーは頻繁に、傍を歩いている足の悪い兵士の足を踏んでしまう。
ビリーはドイツ兵によって一人だけ列から外され、写真を撮られる。
そして、再び列に戻り、輸送用の貨物列車に乗せられる。
病院のベッドの上で目覚めると、母親がいる。
「ビリーは婚約した」と言っている。
戦争は終わったのだ。
また戦時中へ。
貨物列車の中は捕虜達が物のように押し込まれている。
ビリーの隣にいた足の悪い兵士が死んでしまう。
この兵士の友人だというラザロ(ロン・リーブマン)は、彼が死んだのはビリーのせいだと決め付け、復讐するという。
これがこの先の重要な伏線。
貨物列車が目的地に着き、捕虜達は降ろされる。
例のラザロがドイツ兵とケンカを始める。
彼は気が短く、好戦的なのだ。
言葉は通じないが、ケンカは出来る。
ビリーがシャワーを浴びていると、子供の頃へ。
子供の頃の裸のビリー。
これは、18歳未満の衣服の全部または一部を身に着けていない様態の描写なので、現在の日本の法律では児童ポルノに当たる。
SF映画史上の傑作とされている本作を児童ポルノ扱いするとは!
国家権力を断じて許さない!
話しが逸れてしまった。
少年ビリーはプールに放り込まれてしまう。
再び、第二次大戦中へ。
アメリカ軍の捕虜収容所に着いた捕虜達は、先輩達にグリークラブのような合唱で出迎えられる。
赤十字のミスで、毎月50箱のはずの物資が500箱送られて来るので、食事も豪勢だ。
が、ビリーは途中で気絶してしまう。
戦後の新婚生活へ。
庭で子犬と戯れるビリー。
ビリーが消防車を運転すると、走って飛び乗る子犬。
ビリーは子犬に芸を仕込む。
しかし、部屋にいた嫁の足元にオシッコをかけてしまい、彼女の逆鱗に触れてしまう。
その夜、家の外で落ち込んでいるビリーと子犬。
空から、青白く光る何かが接近して来る。
未知との遭遇か。
しかし、また去って行く。
再び、第二次大戦中へ。
ビリーがベッドで寝ていると、ラザロに絡まれる。
一方、親切にしてくれる同僚もいた。
ナチスや日本の世界侵略が許せなくて」陸軍に入ったという元教師のダービー。
本作では、日本や広島に3度も言及されている。
しかし、戦争という意味では、どちらが正義も悪もない。
戦後へ。
かなり時間が経って、ビリー夫妻も結構な中年になっている。
今日は結婚記念日。
ビリーは妻に、戦争中にドイツで手に入れたというダイヤをプレゼントする。
自宅のカギの壊れたトイレに入ると、息子がエロ本を持っている。
ビリーはそれを没収する。
開いてみると、ピンナップに、冒頭のトラルファマドール星で一緒にいた美女モンタナのヌード・グラビアが。
再び戦時中へ。
捕虜達はドレスデンへ移送されることになった。
捕虜の中でリーダーを決めることに。
ラザロとダービーの名前が挙がったが、ラザロが辞退し、ダービーがリーダーに選ばれる。
時代ははるか戦後へ。
老年に差し掛かったビリーがライオンズ・クラブのリーダーに選ばれる。
本作では、カットバックが多用される。
中年時代のビリー一家。
夜、ドライブイン・シアターで映画を観ている。
映画の中で、モンタナが裸で入浴するシーンが。
ビリーは一生懸命観ているが、妻や娘が「家族で観る映画じゃないわ!」と激怒。
再び、戦時中へ。
貨物列車で移送される兵士達。
再び、中年時代。
息子が墓石を仲間と倒して、現行犯逮捕されたと聞き、愛車のキャデラックで駆け付けるビリー。
戦時中へ。
ドレスデンの駅に列車が着く。
ダービーがドイツ兵に交渉するも、全く相手にされない。
本作では、ダービーの人柄の良さが強調される。
これが、後半への重要な布石。
ドレスデンは、歴史のある美しい街だ。
まあ、アメリカなんか新しい国だから、ヨーロッパのような歴史はない。
アメリカ兵達も、美しい街を眺めながらゾロゾロと歩く。
その時、ビリーは突然、道端にいたじいさんにビンタされる。
アメリカ兵が憎いのだろう。
中年時代へ。
妻の父親と一緒にカナダへ行くことになったビリー。
プロペラ機に乗るが、イヤな予感がする。
「この飛行機は25分後に墜落する!」と叫び、離陸を止めさせようとする。
が、操縦士にたしなめられる。
機内では、またグリークラブのような合唱。
そして、飛行機は墜落する。
戦時中へ。
捕虜達が連れて来られたのは、シュラハトホーフ・フュンフ(Schlachthof Fünf)と呼ばれる場所だった。
せっかくなので、少しドイツ語の解説。
die Schlachtは、第一義的には「戦い、戦闘」だが、「屠殺」という意味もある。
動詞だと、schlachtenで「屠殺する」。
der Hofは「館」。
ドイツ語は、二つ以上の名詞をつなげる時は、そのまま綴るので、「Schlachthof」になる。
Fünfは数詞で「5」。
つまり、英語にすると、スローターハウス5(Slaughterhouse-Five)だ。
要するに、「屠殺場5号」ということだな。
「屠殺場を宿舎にするなんて、ジュネーヴ協定違反だ!」と騒ぎ出す捕虜達。
中年時代へ。
雪の中に墜落した飛行機の残骸。
血まみれのビリーが「シュラハトホーフ・フュンフ」とつぶやく。
さあ、これからどうなる。
クライマックスのドレスデン爆撃というのは、日本で言えば、東京大空襲のようなものだろう。
連合軍は、正義の名の下に、何の罪もない一般市民を何十万人も殺したのである。
これが戦争の本質だ。
広島・長崎への原爆投下も、アメリカは正当化する。
だが、こんなのは、有色人種を使った新兵器の実験である。
日本人は、もっと怒るべきだ。
何で、戦後70数年も経つのに、未だにアメリカにへいこらとおべんちゃらを使っているのか。
あと、「南京大虐殺はなかった」とか言いたがる右翼。
自分達に都合の悪いことはなかったことにしたいんだろう。
本作は、「スローターハウス5」というタイトルから想像していた内容とは、全く違っていた。
僕は、ホラー映画か何かだとすら思っていたのだ。
本作の完成度は素晴らしく、SFを超越している。
一人の男の人生を描いた作品として見ても良い。
2001年宇宙の旅』もそうだが、優れたSFは、SFの枠にとどまらない。
カンヌ国際映画祭審査員賞受賞。

Slaughterhouse-Five Official Trailer #1 - Valerie Perrine Movie (1972) HD

『星の王子さま』を原文で読む(第4回)

(テキスト10ページ、1行目~)

Elles m'ont répondu: «Pourquoi un chapeau ferait-il peur?»

elles(人称代名詞)(3人称女性複数形)彼女ら、それら(→elle)(英:they)
m' meの省略形(母音または無音のhの前)
me(人称代名詞)(1人称単数の(直接・間接)目的語人称代名詞。母音または無音のhの前ではm'となる)
ont avoirの直・現在・3・複
avoir(助動詞)avoir+過去分詞(全ての他動詞、大部分の自動詞の助動詞となり複合時制をつくる)(英:have)
répondre(他)(répondre A à B)B(何、人)にA(何)(を、で)答える、返事をする(過分:répondu)(英:answer、respond)
pourquoi(疑問副詞)なぜ、どうして、何のために(英:why)/(直接疑問)
un(e)不定冠詞)(複数はdes)(不特定の)ある、1つの、1人の(英:one、a)
chapeau(男)(複:chapeaux)(縁のついている)帽子(英:hat)
faire(他)引き起こす、生じさせる(英:make、do) ・faire peur à ~(人)を怖がらせる
il(人称代名詞)(主語)彼は(英:he、it)
peur(女)恐れ、恐怖(英:fear)

Mon dessin ne représentait pas un chapeau.

mon(所有形容詞)(所有・関係)私の(英:my)
dessin(男)素描、デッサン(英:drawing、sketch)
ne(副)(動詞に伴い、これを否定する)(他の否定語と併用される場合)~ない(英:not)/ne ~ pas ~ない
représenter(他)表わす、描く、表現する(英:represent)
pas(副)(否定)~ない(英:not、no)/(neと共に)~ない/(ne+動詞+pas)

Il représentait un serpent boa qui digérait un éléphant.

serpent(男)(動物)蛇
boa(男)(動物)ボア(南米産の大蛇)
qui(関係代名詞)(性・数不変)(先行詞を伴って)(主語として働き先行詞は人でもものでもよい)~するところの(英:who、whom/which、that)
digérer(他)消化する(英:digest)
éléphant(男)(動物)ゾウ(象)(英:elephant)

J'ai alors dessiné l'intérieur du serpent boa, afin que les grandes personnes puissent comprendre.

je(人称代名詞)(母音または無音のhの前ではj'となる/J'aime)(主語)私は、私が(英:I)
ai avoirの直・現在・1・単
alors(副)(接続詞的に)それで、だから、従って(英:then)
dessiner(他)(線で)描く、デッサンする(英:draw)
l'(定冠詞)le、laの母音字省略形
le(定冠詞)(女性単数:la、複数:les)(普通名詞の前)(名詞が形容詞・補語・従節などによって特定化されるとき)
intérieur(男)内部、内側 ・l'intérieur de ~の内側
du(=de le。前置詞deと男性単数定冠詞leの縮約形)(→de)~の、~から(英:of the、from the)
afin que(接・句)(afin que+接続法)~するために
les(定冠詞)(定冠詞le、laの複数形)→le
grande personne(子供の言葉で)大人(=adulte)
pouvoir(他)(pouvoir+不定詞)(可能)~することができる、~しうる(英:can、be able to、may)
comprendre(他)分かる、理解する(英:understand、include)/(目的語を略して)

Elles ont toujours besoin d'explications.

toujours(副)常に、いつも、絶えず(英:always/still)
avoir besoin de ~ ~を必要とする
des不定冠詞)(複)(un、uneの複数形)いくつかの、いく人かの(前置詞deのあとではdesは省略される) ・avoir besoin de vacances バカンスが必要だ
explication(女)説明、解説(英:explanation)

Mon dessin numéro 2 était comme ça:

numéro(男)番号、ナンバー(英:number)
était êtreの直・半過去・3・単
comme ça そのように、こんな風な、そうなれば、では

Les grandes personnes m'ont conseillé de laisser de côté les dessins de serpents boas ouverts ou fermés, et de m'intéresser plutôt à la géographie, à l'histoire, au calcul et à la grammaire.

conseiller(他)(conseiller à A de+不定詞)A(人)に~するように勧める(英:advise)
de(前)(de+不定詞)(他動詞の目的語)(英:of、from)
laisser(他)(laisser ~+属詞(状態を示す補語))~を~のままにしておく、打ち棄てておく(英:leave、let) ・laisser ~ de côté(何)を打ち棄てておく
de côté うっちゃって ・laisser ~ de côté(~を)うっちゃっておく、無視する
de(前)(種類・用途・目的)(英:of、from)
ouvert(e)(<ouvrirの過去分詞)(形)開いた、開いている(英:open)
ou(接)あるいは、または(英:or)
fermé(e)(形)閉じた、閉ざされた(英:closed)
et(接)(列挙)そして、と(英:and)
s'intéresser(代動)(àに)関心がある、興味を抱く
plutôt(副)むしろ、それよりは、どちらかといえば(英:rather)
à(前)(動詞の間接目的語)~に(英:to、at、in)
la(定冠詞)(女性単数)→le
géographie(女)地理(学)
histoire(女)歴史(英:history、story)
au=à+le→à
calcul(男)計算(英:calculation)
grammaire(女)文法(学)(英:grammer)

C'est ainsi que j'ai abandonné, à l'âge de six ans, une magnifique carrière de peintre.

C'est ~ que ~(主語以外の語句の強調)
ainsi(副)その(この)ように、こうして ・C'est ainsi que ~. こうして~。
abandonner(他)やめる、あきらめる、捨てる(英:abandon)
à(前)(時間)(時点)~に、のときに
âge(男)年齢(英:age) ・à l'âge de vingt ans 20歳で
six(数形容詞)(不変)6の(英:six)
an(男)~歳 ・à l'âge de dix ans 10歳で
magnifique(形)すばらしい、見事な
carrière(女)職業(教育・軍隊・政治・ジャーナリズムなどをさす)(英:career)
de(前)(文法的機能に重点のある虚辞的用法)(同格を示す)~という(英:of、from)
peintre(名)画家(女性に対しても男性形を用いる)

J'avais été découragé par l'insuccès de mon dessin numéro 1 et de mon dessin numéro 2.

avai- →avoir
été êtreの過去分詞
être(助動詞)(être+過去分詞)(受動態をつくる)(英:be)
découragér(<courage)(他)落胆させる、がっかりさせる、気力を失わせる(英:discourage)
par(前)(動作主)(受動態)~によって(英:by)
insuccès(男)不成功、失敗 ・l'insuccès de ~の失敗

Les grandes personnes ne comprennent jamais rien toutes seules, et c'est fatigant, pour les enfants, de toujours leur donner des explications...

ne, n'(母音または無音のhの前ではn'となる)(副)(動詞に伴い、これを否定する)(他の否定語と併用される場合)~ない(英:not)/ne ~ jamais 決して~ない/(rien、personne、nul、aucunなどの否定語(不定代名詞、不定形容詞)とともに)/ne ~ rien 何も~ない
jamais(副)(否定)(ne ~ jamais)決して~ない、一度も~ない(英:never、ever)
rien不定代名詞)(neとともに)何も~ない(英:nothing、anything)
tout seul 独力で、ひとりで、ひとりでに
c'est それは~です→ce
ce(指示代名詞)(文中の要素を受けて)(c'est ~ de+不定詞)(de+不定詞を受けて)~するのは~だ
fatigant(e)(形)うんざりさせる、うるさい
pour(前)(対象・関与)~に対する、~に対して、~にとって(の)
enfant(名)(男女同形)(大人に対する)子供、児童、(法律)未成年者(英:child)
et(接)(強調)(同一語句を並べて)(英:and)
leur(人称代名詞)(間接目的語3人称複数)→lui
lui(複数:leur)(人称代名詞)(3人称・間接目的語)彼(女)に(英:(to)him、her、it)
donner(他)(動作を)する、加える(英:give)

J'ai donc dû choisir un autre métier et j'ai appris à piloter des avions.

donc(副)それ故、従って(英:so、therefore、indeed
 <devoirの過去分詞
devoir(他)(devoir+不定詞)(助動詞的)(義務)~しなければならない、~すべきだ(英:have to、must/owe)
choisir(他)選ぶ、(どれかに)決める(英:choose)
autre不定形容詞)別の、ほかの(英:other、another)/un(e) autre ~(不特定の別のものを指す)
métier(男)職業、仕事(英:trade、profession)
apprendre(他)(apprendre à+不定詞)~することを学ぶ、覚える(過分:appris)(英:learn、teach)
à(前)à+不定詞(動詞の目的語)(英:to、at、in)
piloter(他)操縦する、(機械などを)運転する
avion(男)飛行機(英:airplane)

J'ai volé un peu partout dans le monde.

voler(自)飛ぶ、飛行する(英:fly)
un peu partout あちこちを(に)
dans(前)(場所)~の中に(で、へ)、において
monde(男)(人間の住んでいる)世界(英:world/people)

Et la géographie, c'est exact, m'a beaucoup servi.

exact(形)正確な、正しい(英:exact、punctual) ・C'est exact. そのとおりです。
a avoirの直・現在・3・単
beaucoup(副)たいへん、非常に、いっぱい、大いに(英:much、many)
servi(e) servirの過去分詞
servir(自)(servir à A)A(人)の役に立つ(過分:servi)(英:serve、be used for)

Je savais reconnaître, du premier coup d'œil, la Chine de l'Arizona.

sav- →savoir
savoir(他)(savoir+不定詞)~できる、~する術(すべ)を心得ている(英:know)
reconnaître(他)(見覚え・聞き覚えがあって)それと分かる、見分ける、覚えている(英:recognize)
de(前)(手段)~で、~によって
premier(形)(名詞の前)最初の、第1の、1番目の、初めの、1番前の
coup d'œil 一瞥(べつ)
Chine(固有)(女)中国(英:China)
de(前)(根拠・出典)~から、~をもとに(英:of、from)

C'est très utile, si l'on est égaré pendant la nuit.

très(副)非常に、大変(英:very)/(形容詞句、副詞句を修飾)
utile(形)役に立つ、有用な、有益な(英:useful)⇔inutile
si(接)(条件のsi)もし~ならば(英:if)/(si+直説法現在または過去)(単なる仮定)
on不定代名詞)(不特定の人)人は、人々は(英:one、people、someone、we)
est êtreの直・現在・3・単
s'égarer(代動)道に迷う
pendant(前)(時間)~の間(英:during) ・pendant la nuit 夜の間に
nuit(女)夜、深夜、夜間(英:night)

J'ai ainsi eu, au cours de ma vie, des tas de contacts avec des tas de gens sérieux.

eu(e) avoirの過去分詞
avoir(他)(定冠詞とともに)(英:have)
au cours de ~ ~の間に、の期間中に
ma(所有形容詞)(女)→mon
vie(女)人生(英:life)
des不定冠詞)(un、uneの複数形)(多数を強調)いくつも、多くの
tas(男)(des tas de ~)たくさんの~
de(前)(程度・数量)~だけ(英:of、from)
contact(男)(avec)(人との)接触、交際、連絡(英:contact)
avec(前)(対人関係)~に対して、~と(英:with)
gens(男)(複)(形容詞とともに)~な人々(英:people、person)
serieux(形)まじめな(英:serious)

J'ai beaucoup vécu chez les grandes personnes.

vécu(e) <vivreの過去分詞
vivre(自)暮らす、生活する、住む(過分:vécu)(英:live) ・vivre chez ~と一緒に暮らす
chez(前)(人を示す名詞・代名詞の前で)~の家で、~のところで(に、へ)、(手紙で)~方(英:at the house of、at、in)

Je les ai vues de très près.

les(人称代名詞)(3人称・複数形・直接目的語)→le
le(人称代名詞)(女性単数la、複数les)(直接目的語人称代名詞3人称形)(名詞に代わる)(直接目的語)彼(女)を、それを
vu(e) <voirの過去分詞
voir(他)見る、見える(過分:vu)(英:see)
de près 間近から

Ça n'a pas trop amélioré mon opinion.

ça(指示代名詞)(中性)それ、あれ、これ(英:that)/(目の前のもの、状況や事柄を受けて)
n' neの省略形→ne
trop(副)pas trop あまり~でない(英:too、too much)
améliorer(他)改良(改善)する、向上させる
opinion(女)意見、見解
【参考文献】
対訳 フランス語で読もう「星の王子さま」』小島俊明・訳注(第三書房)
クラウン仏和辞典 第7版』(三省堂

日本近代文学を文庫で読む(第5回)『五重塔』

今回は、幸田露伴の『五重塔』を取り上げます。
文語体なので、読んだことがあるという人はそんなにいないのではないでしょうか。
かく言う僕も、高校生くらいの頃には読んでみようとすら思わず、最近になってようやく読みました。
五重塔』は、当然ながら、高校日本史の教科書にも載っています。
例えば、僕の手元にある『詳説日本史』(山川出版社)には、第9章「近代国家の成立」の「おもな文学作品」という一覧表の中です。
幸田露伴については、本文中に、尾崎紅葉と対比して、次のように書かれています。

尾崎紅葉らの硯友社は、同じく写実主義を掲げながらも文芸小説の大衆化を進めた。これに対して幸田露伴は逍遥の内面尊重を受け継ぎ、東洋哲学を基盤とする理想主義的な作品を著した。

『精選日本文学史 改訂版』の脚注には、次のようにあります。

幸田露伴 慶応三(一八六七)年―昭和二十二(一九四七)年。小説家・随筆家・考証家。東京都生まれ。本名は成行。『幻談』『運命』などもある。第一回文化勲章を受ける。

また、同書の本文には、次のようにあります。

紅葉と並び、西鶴風の擬古文調で名を成したのが幸田露伴である。漢語や仏教語を駆使した『露団々』や、『風流仏』が出世作となった。『一口剣』や『五重塔』など、芸道に生きる理想主義的な男性像の造型に特色を見せた。写実的な女性描写を得意とした紅葉と対照され、紅・露時代と言われる。その後露伴は、『風流微塵蔵』などの写実風の作品も書き、後年は、「芭蕉七部集」などの研究や、随筆・史伝に優れた仕事を残した。

『田村の[本音で迫る文学史]』(大和書房)でも、露伴について述べられているので、そちらも引用しておきます。

幸田露伴は、やはり井原西鶴に影響を受けながら、深い東洋文学の素養のもとに「理想主義」と呼ばれる作品を書いた。
作品『風流仏』は、成就しなかった恋の相手を仏像に刻む仏師の話で、『五重塔』は、世間的人間関係に迎合せずただひたすらに自己の理想を追ってそれを全うした大工の話であるが、露伴はこうした職人気質を描くことを得意とし、その文体は男性的な力強いものであった。

前回も書きましたが、上の引用の中に「その文体は男性的な力強いものであった」とありますが、本文の引用はありません。
これでは、本当に露伴の文体が男性的かどうかは分からないでしょう。
受験対策の虚しさです。
高校生の時は名前だけ覚えるにしても、大学に入ったら、出来るだけたくさんの文学作品を読むべきだと思います。
と偉そうに言っている僕は、学生時代は、映画ばかり観て、ロクに本は読まずに過ごしてしまったのですが。
最近、同じ学部の国文科の人と話す機会があったのですが、近代文学の古典は一通り読んだと言っていました。
さすが国文科です。
露伴なんて、普通の高校生はまず読まないし、もちろん国語の教科書にも載っていないので、ますます本文の引用を少しでも載せて欲しかったですね。
さて、露伴の略歴について、少し詳しく述べておきましょう。
幸田露伴は、1867(慶応3)年、江戸で生まれました。
幼少の頃は私塾で手習いや素読を学びます。
1875(明治8)年、東京師範学校附属小学校(現・筑波大附属小)に入学。
この頃から草双紙、読本を愛読するようになります。
卒業後の1878(明治11)年、東京府第一中学(現・都立日比谷高校)正則科に入学。
尾崎紅葉や上田萬年、狩野亨吉らと同級生でした。
後に家計の事情で中退し、数え年14歳で、東京英学校(現在の青山学院大学)へ進みますが、これも途中退学。
図書館に通ったり、塾で、漢学、漢詩を学んだりします。
数え年16歳の時、給費生として逓信省電信修技学校に入り、卒業後は官職である電信技師として北海道余市に赴任しました。
その頃、坪内逍遥の『小説神髄』や『当世書生気質』と出会い、文学の道へ志す情熱が芽生えたと言われています。
そのせいもあり、1887(明治20年)職を放棄し帰京。
父が始めた紙店に勤め、一方で井原西鶴を愛読しました。
1889(明治22)年、「露団々」が山田美妙の激賞を受け、さらに『風流仏』(1889年)、谷中天王寺をモデルとする『五重塔』(1893年)などを発表し、作家としての地位を確立しました。
この頃に同世代の尾崎紅葉ととも「紅露時代」と呼ばれる黄金時代を迎えます。
写実主義尾崎紅葉、理想主義の幸田露伴」と並び称され、明治文学の一時代を築いしました。
1908(明治41)年には京都帝国大学文科大学の国文学講座の講師となります。
日本文脈論(日本文体の発達史)・『曽我物語』と『和讃』についての文学論・近松世話浄瑠璃などの講義内容で、決して上手な話し手ではありませんでしたが、学生の評判は非常に良かったそうです。
学者としても充分な素養があったのですが、夏季休暇で東京に戻ったまま、僅か一年足らずで大学を辞してしまいました。
官僚的で窮屈な大学に肌が合わなかったようです。
大学を辞めた翌年の1911(明治44)年に文学博士の学位を授与されます。
1947(昭和22)年、満80歳で没。
それでは、ここで、『五重塔』のあらすじを簡単にまとめておきます。

大工の十兵衛は、腕は確かだが世渡りが下手なため、仲間から「のっそり」と呼ばれ、貧乏暮らしに甘んじていた。
ある時、江戸・谷中の感応寺で五重塔を建てることになる。
周囲は当然、名棟梁・川越の源太が仕事を請け負うものだと思っていた。
しかし、なぜか十兵衛は、この仕事をどうしても自分が完成させたいと思い立つ。
五重塔の五十分の一大の模型を作って、感応寺の住職のもとを訪れる。
源太は十兵衛の親方である。
周囲からは「恩知らず」と反感を買い、源太も面白くない。
だが、十兵衛は一生に一度自分の腕をふるって大仕事を成し遂げ、後世に名を残したいと考え、どうしても譲らない。
感応寺の住職は、そんな十兵衛の気持ちがよく分かる。
源太と十兵衛を呼んで仕事の譲り合いを提案し、二人で話し合って決めるように言う。
源太は共同で建てることを提案するが、十兵衛は納得しない。
あくまでも自分一人で建てたいと言い張るのだ。
源太は途方に暮れ、結局辞退を申し出る。
そして、五重塔の工事は十兵衛に任せられた。
工事が始まると、十兵衛の意気込みはすさまじく、鬼気迫るものがある。
しかしながら、日頃源太の下で働いている大工たちは、十兵衛を馬鹿にしているため、なかなか言うことを聞かない。
ある日、十兵衛は源太の弟子に襲われ、ノミで片耳をそがれてしまう。
それでも十兵衛は仕事を休まない。
彼のことを見下していた大工たちは、この心意気に動かされ、熱心に働くようになる。
とうとう五重塔は完成した。
落成式前夜、江戸は暴風に襲われた。
十兵衛の家も屋根が飛ばされたが、彼は「五重塔は絶対に倒れない」とどっしり構えている。
一夜明け、江戸中が大きな被害を受けている中、十兵衛の建てた五重塔は無傷でそびえ建っていた。
住職は落成式で「江都の住人十兵衛之を造り、川越源太之を成す」と記し、これをたたえたのであった。

五重塔』は、旧漢字・旧仮名遣いで文語体の作品ですが、100ページ強の中編なので、すぐ読めます。
ちょっと短くて、あらすじを読んでいるような感じですが。
文体は、『平家物語』を思わせるような格調高い七五調です。
岩波文庫版の「解説」が非常に簡潔にまとまっているので、そこから重要そうな箇所を引用しておきます。

幸田露伴は、明治二十二年から二十四年にかけて、求心的な文体をつよめていって、そういう求心性のつよい文体と釣り合う構成の佳作、秀作をのこした。
五重塔』はその頂点に達した秀作である。
のっそり十兵衛という、狷介で頑固、世渡り下手の寺社建築の大工が主人公である。腕はあるのに小才が利かぬ性格の故に、職人仲間からややもすればさげすまれ、「年が年中長屋の羽目板の繕ひやら馬小屋箱溝の数仕事」に明け暮れ、貧乏暮しをしている。
この大工が、谷中の感応寺に次いで五重塔が建てられるという噂を耳にする。谷中感応寺の建築を請け負ったのは、川越の源太という、日頃ひとかたならぬ世話になっている大工で、感応寺の出来栄えが見事だったので、自然、五十塔も源太にやらせようと寺の上人は考えている。
その仕事を、のっそり十兵衛は、ぜひ自分がやりたくてならず、寺の上人に直談判をして、哀訴、懇願する。
この筋立ては、露伴がこれまで書いてきた『風流仏』や『一口剣』とちがうものである。無名の仏師や、あるいは世間に見捨てられた刀鍛冶が、藝に打ち込むことによって、恋や現世の煩悩から解脱するというのが、これまでの小説の筋である。藝に打ち込む動機と精進は、宗教的な捨身にひとしいようにみえる。結果として主人公らは、その精魂こめた仕事によって世俗の名声、栄誉を得るけれども、小説の力点はあくまで、彼らのおのれをむなしくした藝への精進にある。
五重塔』では、そこのところが、力点がずれている、というか複雑になっている。

この小説は、むかしから、嵐の吹きすさぶ場面の一種凄絶な文章によって人びとにいいつたえられてきた。見事な文章にはちがいないが、この嵐の描写は、ぜんたいの叙述の中の位置としては、十兵衛の魔性を証するための手段である。嵐という人為を超えた自然の力に、十兵衛の人為による五重塔が打ち克ったというのである。
小説の結末は、嵐の過ぎた日の落成式に、感応寺の上人が塔の銘に「江都の住人十兵衛これを造り川越源太郎これを成す」と墨書して、両人に花をもたせる、いわゆる幸福な結末である。

明治二十年代前半の文壇小説の中で、紅葉と露伴は出色の存在だった。おなじ時代に彗星のように登場した批評家北村透谷は、その両者を「当代の両名家」と認めながらも、あきらかに好みにおいて露伴に傾いていた。
「われは「風流仏」及び「一口剣」を愛読す。常に謂へらく、此二書こそ露伴の作として不朽なる可けれ。何が故に二書を愛読する、曰く、一種の沈痛深刻なる哲理の其中に存するあるを見ればなり。」(『「伽羅枕」及び「新葉末集」』)
しかし「一種の沈痛深刻なる哲理」は、『五重塔』にこそふさわしい評言と思われる。日本の近代小説は、『五重塔』において露伴が創造した人間性の極限を摘出する分析力に冴えを示しはしたが、卑小な衝動と崇高な理想の落差に架橋する造型方法を見いだすことはできなかったのである。

文語体なので難しい箇所もありますが、文章全体がぐいぐいと力強く、一気に読ませる作品です。
五重塔』の文庫版は、岩波から出ています。
岩波文庫

五重塔 (岩波文庫)

五重塔 (岩波文庫)

初版は、何と1927年7月。
岩波文庫の立ち上げと同時です。
現在出回っているのは、1994年の改版。
解説は桶谷秀昭氏。
【参考文献】
詳説日本史B 改訂版 [日B309] 文部科学省検定済教科書 【81山川/日B309】笹山晴生佐藤信五味文彦、高埜利彦・著(山川出版社
精選日本文学史』(明治書院
田村の〈本音で迫る文学史〉 (受験面白参考書)』田村秀行・著(大和書房)

『追想』(1975)

この週末は、ブルーレイで『追想』を見た。

追想 [Blu-ray]

追想 [Blu-ray]

1975年のフランス・西ドイツ合作映画。
監督はロベール・アンリコ。
ロベール・アンリコと言えば、『冒険者たち』だな。
主演は、『トパーズ』のフィリップ・ノワレ
しかし、フィリップ・ノワレと言えば、何と言っても、『ニュー・シネマ・パラダイス』だろう。
それから、『審判』のロミー・シュナイダー
MGM。
カラー、ワイド。
ノスタルジックなテーマ曲が流れる。
タイトル・バックは、チャリを漕ぐ3人の家族と、一緒に走るワンコ。
微笑ましい風景。
だが、これが一変するのだ。
舞台は、1944年、ドイツ占領下のフランスの小都市モントバン。
街では銃声が響くのが日常。
首を吊られたゲリラの死体も並んでいる。
主人公のジュリアン・ダンデュ(フィリップ・ノワレ)は外科医で、町の病院に勤務している。
彼は、美しい妻クララ(ロミー・シュナイダー)、娘フロランス、母と4人で暮らしていた。
しかし、戦争の進展と共に、ドイツ軍は連合軍の上陸に備えるべく、全市町村の掃討作戦を開始。
ジュリアンの病院にも連日、ドイツの負傷兵や、ゲリラの重傷者が担ぎ込まれて来た。
彼らの描写が実に生々しい。
そこへドイツ軍が乱入してくる。
片っ端からベッドを探り、政治犯を発見。
ジュリアンは「患者を勝手に動かすな」と告げるが、逆にドイツ軍から「医者じゃなきゃ、あんたは銃殺だ」と脅される。
政治犯は、拉致されるかのように連れ去られて行った。
物資が不足して、薬もない。
ジュリアンが帰宅すると停電が起きるが、家族は慣れっこになっている。
ジュリアンの家にはお手伝いもいて、結構いい暮らしぶりである。
ここで、娘の入浴シーンがある。
娘(連れ子)がこの時点で何歳かは分からない。
だが、小学5年生で成績優秀者で表彰されるシーンがあった。
ジュリアンとクララは結婚5年目だから、どう考えても18歳未満である。
日本の法律では、18歳未満が衣服の一部または全部を身に着けていないと児童ポルノに該当する。
巨匠ロベール・アンリコの、セザール賞作品賞まで獲った作品を児童ポルノ扱いするとは!
国家権力の横暴を断じて許せない。
先の「表現の不自由展」の顛末を見ても分かるが、この国の政治家は本当に文化度が低い。
それはさておき、ジュリアンは病院の地下にゲリラを隠した。
ドイツ軍からは「家族に気を付けろ」と脅されている。
家族の身を案じたジュリアンは、同僚であり友人でもあるフランソワの助言により、家族をバルベリー村へ疎開させることにした。
そこにはジュリアンの古い城があった。
翌日、クララとフロランスはフランソワの運転する車に乗ったが、母親は残るという。
ジュリアンは、「僕も2~3日のうちに会いに行くからね」と約束して、病院へ向かう。
連日の手術で忙しく、あっと言う間に五日が経った。
家族からの電話もないので、心配になり、ジュリアンはバルベリーへ向かって車を走らせた。
戦時下とは思えない南フランスの美しい緑豊かな風景。
ジュリアンの古城も絶壁の上にそびえ立っていた。
宿舎に到着したが、妻と娘の姿は見当たらない。
礼拝堂に行ってみると、老若男女村人全員の銃殺死体が転がっていた。
壮絶なシーンだ。
ジュリアンは、医者なのに吐いてしまう。
ドイツ兵がいる。
逃げるジュリアン。
城の中庭に行ってみると、フロランスの血まみれの死体が。
更に、妻の黒コゲの死体も。
ドイツ兵に強姦された後、火炎放射を浴びたのである。
何ということだ!
余りのことに嗚咽するジュリアン。
僕も、自分の家族がこんな目に合わされたら、気が狂って死んでしまうだろう。
戦争は悲惨だ。
最近も、「領土を取り戻すには戦争するしかない」などという暴言を吐いた政治家がいたが、恥を知れ!
どんなことがあっても、戦争はいけない。
ジュリアンは礼拝堂に行き、そこに立っていたキリストの像を叩き壊す。
信仰なんて、何の役にも立たないじゃないかと。
ここから、妻の回想シーンが何度も挿入されながら、話しが進んで行く。
ジュリアンの城の尖塔の上に、古い猟銃が隠してあった。
かつてイノシシ狩りに使ったものだ。
ジュリアンはそれを取り出し、引き裂いたカーテンの布で磨く。
城は、今やドイツ軍に占拠されていた。
夜、ジュリアンは灯かりと銃を持ってドイツ軍のいる場所へ。
城の周りの谷の上に架かっている古い木の橋の橋桁を、下の窓から鉄棒を突き刺して外す。
スゴイ仕事だが。
飲料タンクの水を抜く。
マジック・ミラー越しに、ドイツ兵達が備蓄してあったワインで酒盛りをしているのが見える。
ドイツ軍の大佐は「この村はゲリラの巣だったが、殲滅した」という。
どこからか8ミリの映写機とフィルムを見付けて来たドイツ兵。
テーブル・クロスをスクリーン代わりにして上映。
映し出されたのは、何と若い頃のジュリアンとクララだった。
涙ぐむジュリアン。
妻の回想。
娘の回想。
「ママは何故出て行ったの?」と尋ねるフロランス。
朝、へべれけのドイツ兵が顔を洗おうとすると、水が出ない。
「ゲリラが侵入したかも知れん!」と叫ぶドイツ軍の大佐。
娘の回想。
娘が小学校で成績優秀者で表彰される。
賞品としてもらったのは『シラノ・ド・ベルジュラック』の本。
シラノのセリフを諳んじてみせるジュリアン。
異常にうまい。
フィリップ・ノワレは元舞台役者らしいから、きっとシラノも演じたことがあるんだろう。
妻と娘の思い出を胸に、ジュリアンはドイツ兵への復讐を誓うのであった。
全編を通して、フィリップ・ノワレの演技が素晴らしい。
戦争の悲惨さが伝わって来る。
彼は決して、人前では家族を惨殺された悲しみを表に出そうとしない。
それが、ラストの名演技につながる。
さっきも書いたが、戦争で家族を惨殺された悲しみなんて、本当に計り知れない。
何を言っても、経験していないから、軽くなってしまう(そして、決して経験したくない)。
なお、原題の「Le vieux fusil」は、leが男性定冠詞(英語のthe)で、vieuxが「古い(英語のold)」、fusilが「銃(英語のgun)」。
象徴的なタイトルだ。
邦題の「追想」も、妻と娘の回想シーンを多用している語り口から、いいタイトルだと思う。

Bande-annonce Le Vieux Fusil

『嵐が丘』を原書で読む(第26回)

(テキスト27ページ、5行目〜)

‘What do you mean?’ asked Heathcliff, ‘and what are you doing? Lie down and finish out the night, since you are here; but, for heaven’s sake! don’t repeat that horrid noise—Nothing could excuse it, unless you were having your throat cut!’

what(代)(疑問代名詞)(不定数量の選択に関して用いて)何、どんなもの(こと)、何もの、何事/(目的格の場合) ・What do you mean? どういう意味ですか。
do(助動)(be以外の動詞の疑問文に用いて)
mean(他)(人が)(~で)(~を)意味する、(~の)意味で言う ・What do you mean by that suggestion? どういうつもりでそんな提案をするのか。
ask(他)(物事を)聞く、尋ねる(+引用)
Heathcliff ヒースクリフ(Emily Brontëの小説Wuthering Heights(1847)の主人公/復讐の鬼)
lie down 横になる
out(副)最後まで
since(接)(理由)~だから、~のゆえに
for Heaven's sake(命令形を強めて)お願いだから
don't do notの短縮形
do(助動)(否定の命令法を作って)
that(形)(指示形容詞)(軽蔑などの感情をこめて用いて)例の、あの
horrid(形)恐ろしい、いまわしい
could(助動)(仮定法(叙想法)で用いて)(現在の事実に反対の仮定の帰結節に用いて)~できるだろう
excuse(他)(通例否定文で)(事情が)(~の)弁解(言い訳)になる ・Nothing will excuse such rude behavior. どんな事情があってもそのような無礼な行為をしていいという言い訳にはならない。
unless(接)(否定の条件を表わして)~でない限り、もし~でなければ
have(他)(もの・人を)(~して)もらう、(~)させる(+目+過分) ・When did you last have your hair cut? この前髪を刈ってもらったのはいつですか。
your(代)あなた(たち)の、君(ら)の
throat(名)のど、咽喉(いんこう)

‘If the little fiend had got in at the window, she probably would have strangled me!’ I returned.

fiend(名)悪魔、悪霊、(悪)鬼
get in(中に)入る
would(助動)(仮定法(叙想法)で用いて)(would have+過分で/過去の事柄について帰結節で無意志の仮定を表わして)~しただろう
strangle(他)(人を)絞め殺す
return(他)(~に対して)(返事を)する、答える(+引用)

‘I’m not going to endure the persecutions of your hospitable ancestors again— Was not the Reverend Jabez Branderham akin to you on the mother’s side? And that minx, Catherine Linton, or Earnshaw, or however she was called—she must have been a changeling—wicked little soul! She told me she had been walking the earth these twenty years: a just punishment for her mortal transgressions, I’ve no doubt!’

I’m I amの短縮形
be going to do ~するつもりである、~することにしている
endure(他)(~を)耐え忍ぶ
persecution(名)迫害、虐待
of(前)(主格関係を表わして)(動作の行為者、作品の行為者を表わして)~が、~の
hospitable(形)(人が)もてなしのよい、客扱いのよい(⇔inhospitable)
ancestor(名)先祖、祖先(=forbear)
reverend(形)(the Reverend/聖職者の敬称または呼び掛けに用いて)~師(聖職者に対する敬称としては、姓と名をつけるのがていねいな用法)
akin(形)(~と)血族で、同族で(to)
to(前)(行為・作用の対象を表わして)~にとっては、~には
on(前)(近接を表わして)~に接して、~に面して ・on ~ side ~側に
side(名)(通例父・母の修飾語を伴って)(血族で)~方(かた)
minx(名)生意気娘、おてんば娘
Catherine(名)キャサリン(女性名/愛称Cathy、Kate、Kitty)
Linton(名)リントン
Earnshaw(名)アーンショウ(Emily BrontëのWuthering Heightsに登場する、主人公Heathcliffの養家の名)
however(副)(譲歩の副詞節を導いて)どんなに(どんな方法で)~でも(=no matter how)
call(他)(人を)(~と)呼ぶ、称する(+目+補)
must(助動)(当然の推定を表わして)(must have+ppで過去についての推定を表わして)~したにちがいない
changeling(名)取り替え子(さらった子の代わりに妖精たちが残すとされた醜い子)
wicked(形)(人・言行など)(道徳的に)邪悪な、不思議な、不正な
soul(名)霊魂、魂
tell(他)(人に)(~を)話す、告げる、語る、言う、述べる(+目+that)
walk(他)(場所を)歩いて見回る
earth(名)(通例the ~)(天空に対して)地、地表、地上
twenty(形)(基数の20)20の、20個の、20人の
just(形)(要求・報酬など)正当な、当然な
punishment(名)罰、処罰、懲罰、折檻(せっかん)(for)
for(前)(対象)(報償・返報を表わして)(好意・成果など)に対して、~の返報として
her(代)彼女の
mortal(形)永遠の死を招く、地獄に落ちる、許されない(⇔venial)
transgression(名)(宗教・道徳上の)罪
I've I haveの短縮形
have(他)(感情・考えなどを)(心に)抱いている
no(形)(主語・目的語になる名詞の前に用いて)(複数名詞、不可算の名詞の前に用いて)どんな(少しの)~もない
doubt(名)疑念、不信(感) ・I have my doubts about her honesty. 彼女が正直かどうかは疑わしいと思う。

Scarcely were these words uttered, when I recollected the association of Heathcliff’s with Catherine’s name in the book, which had completely slipped from my memory till thus awakened.

scarcely ~ when ~するかしないうちに
word(名)(しばしば複数形で)(口で言う)言葉
utter(他)(声・言葉・うなり声・ため息などを)口から出す、発する
recollect(他)(過去のことを)(努力して)思い出す、回想する
association(名)関連(with)
with(前)(接触・交際・結合などを表わして)~と
which(代)(関係代名詞)(非制限的用法で/通例前にコンマが置かれる)/(主格・目的格の場合)そしてそれは(を)
completely(副)完全に、完璧(かんぺき)に
slip(自)(頭・記憶などから)抜ける、消える(from)
from(前)(分離・除去などを表わして)~から(離して)
my(代)私の
till(接)(動作・状態の継続の期限を表わして)~まで(ずっと)
thus(副)このように、かように
awaken(他)=awake(他)(感情・関心などを)呼び起こす

I blushed at my inconsideration; but, without showing further consciousness of the offence, I hastened to add,
‘The truth is, sir, I passed the first part of the night in—’ Here I stopped afresh—I was about to say ‘perusing those old volumes,’ then it would have revealed my knowledge of their written, as well as their printed contents; so, correcting myself, I went on,
‘In spelling over the name scratched on that window-ledge. A monotonous occupation, calculated to set me asleep, like counting, or—’

blush(自)顔を赤らめる、(顔が)赤くなる(at)
at(前)(感情の原因を表わして)~に(接して)、~を見て、聞いて、考えて
inconsideration(名)無思慮、無分別、軽率
without(前)(主に動名詞を伴って)~せずに
show(他)(感情・態度・気配などを)表わす、(好意・感謝などを)示す
further(形)(farの比較級)そのうえの、それ以上の
consciousness(名)(またa ~)問題、事物(の存在)に対する意識、自覚(of)
offence(名)(英)=offense(名)(義務・慣習などの)違反、反則
hasten(自)(副詞句を伴って)急ぐ、急いで行く(する)(+to do)
add(他)(言葉を)付け加える(+引用)
truth(名)真実、真相、事実(⇔lie、falsehood) ・The truth is(that)~ 実を言うと~
sir(名)(男性への呼び掛け)あなた、先生、閣下、お客さん、だんな(見知らぬ人に、召し使いから主人に、生徒から先生に、店員から客に、目下から目上に、または議会で議長に対する敬称/日本語ではこの語を訳さず文全体を丁重に訳せばよい場合が多い)
pass(他)(時間などを)過ごす、つぶす(+目+前+doing)
in(前)(行為・活動・従事を表わして)~して、~に従事して(+doing)
here(副)(文頭に用いて)この点で、ここで
stop(自)止まる、停止する
afresh(副)さらに、新たに、再び
about(形)今にも(~し)かけていて(+to do)
say(他)(人に)(~と)言う、話す、述べる、(言葉を)言う(+引用)
peruse(他)(~を)読む
old(形)古い
volume(名)(特に、分厚い)本
then(副)(通例文頭または文尾に用いて)それなら、(それ)では
would(助動)(仮定法(叙想法)で用いて)(条件節の内容を言外に含め陳述を婉曲(えんきょく)にして)~であろう、~でしょう
reveal(他)(秘密・事実などを)(人に)漏らす、明かす、明らかにする、暴露する(⇔conceal)
knowledge(名)(またa ~)知る(知っている)こと、知識、認識(of)
of(前)(目的格関係を表わして)(しばしば動作名詞または動名詞に伴って)~を、~の
their(代)彼らの
written(形)書いた、書面にした
as well as ~ ~はもちろん、~も~も
print(他)(印刷機・コンピューターなどが)(文字・写真などを)印刷する、プリントする
content(名)(複数形で)(書物・文書などの)内容
so(接)(等位接続詞として)そこで、それで、~ので
correct(他)(誤りを)訂正する、直す(=rectify)
myself(代)(再帰的に用いて)(一般動詞の目的語に用いて)私自身を(に)
go on(行動・関係を)続ける
spell(他)(語を)つづる、(~の)つづりを言う(書く)
over(副)繰り返して ・read it over 繰り返して読む
scratch(他)(~に)(印・名前などを)ひっかくようにつける(書く)(on)
windowledge(名)=windowsill(名)窓敷居、窓台(窓下の外側または内側にある横材で。よく植木鉢などが置かれる)
monotonous(形)単調な、一本調子の
occupation(名)職業、業務
calculated(形)(~することを)意図されて、狙って(=designed)(+to do)
set(他)(~を)(~の状態に)する、させる(+目+補)
asleep(形)眠って(⇔awake)
like(前)(たとえば)~のような(=such as)
count(自)数を数える、計算する

‘What can you mean by talking in this way to me!’ thundered Heathcliff with savage vehemence.

can(助動)(可能性・推量を表わして)(疑問文で)~はずがあろうか、いったい~だろうか
by(前)(手段・方法・原因・媒介を表わして)(doingを目的語にして)(~すること)によって
talk(自)(人と)話をする、話し(語り)合う(to)
in(前)(方法・形式を表わして)~で、~をもって ・in this way この方法で、こうやって
this(形)(指示形容詞)この/(対話者同士がすでに知っているもの(人)をさして)(⇔that)
way(名)やり方、手段 ・in this way このように(して)
to(前)(行為・作用の対象を表わして)~に対して、~に ・talk to ~と話をする
thunder(他)どなって言う、大声で言う(+引用)
with(前)(様態の副詞句を導いて)~を示して、~して
savage(形)(人が)かんかんに怒った
vehemence(名)激烈さ、猛烈さ、熱情 ・with vehemence 激しく、熱烈に

‘How—how dare you, under my roof?—God! he’s mad to speak so!’

How dare you ~! よくもまあ(ずうずうしくも)~できるものだ。
under a person's roof 人の家に(泊めてもらって)、人の世話になって
God(名)(感嘆・のろい・祈願などに用いて)
he's he isの短縮形
mad(形)ばかげた、無謀な、無分別な(=crazy、frantic)(+to do) ・You were mad to do that. そんなことをしたなんて君も無分別だった。

And he struck his forehead with rage.

strike(他)(~を)打つ、たたく、殴る
his(代)彼の
forehead(名)額(ひたい)、前額部(=brow)(人間の感情・性格を示す部分とされている)
rage(名)(またa ~)(抑えがたい)激怒、憤怒 ・with rage 怒りで

I did not know whether to resent this language, or pursue my explanation; but he seemed so powerfully affected that I took pity and proceeded with my dreams; affirming I had never heard the appellation of ‘Catherine Linton’ before, but, reading it often over produced an impression which personified itself when I had no longer my imagination under control.

know(他)(~を)知る、知っている、(~が)わか(ってい)る(+wh.)
resent(他)(~に)腹を立てる、憤る、憤慨する(怒りが必ずしも表情・動作などに現われることは意味しない)
language(名)下品な言葉、悪態、ののしり
pursue(他)続行する
explanation(名)釈明、弁解
seem(自)(~と)見える、思われる、(~)らしい(通例話し手の推量をこめた見方・判断を示す語で、文法上の主語と判断の主体は一致しないことが多く、時に判断の主体を示すのにto a personを従えることがある)(+補)
so(副)(程度・結果を表わして)(so ~ that ~で)(順送りに訳して)非常に~なので~
powerfully(副)協力に
affected(形)影響を受けた
that(接)(副詞節を導いて)(so ~ thatの形で程度・結果を表わして)(非常に)~なので、~(する)ほど
take(他)(感情などを)感じる、経験する ・take pity 哀れむ、同情する
pity(名)哀れみ、同情 ・take pity 気の毒がる
proceed(自)(中断後)(~を)続ける、続けて(~)する(=continue)(with)
with(前)(処置・関係の対象を導いて)~に対して、~について、~にとっては
affirm(他)(再度繰り返したり、質問に答えて)(~を)断言する、確言する(=assert)(+that)
appellation(名)名称、名
of(前)(同格関係を表わして)~という、~の、~である
before(副)(時を表わして)以前に、かつて、すでに
read over(~を)読み通す、通読する
produce(他)(~を)引き起こす、招来する
impression(名)印象、感銘
which(代)(関係代名詞)(制限的用法で)~する(した)(もの、事)(通例「もの」を表わす名詞を先行詞とする形容詞節をつくる)/(主格の場合)
personify(他)(人間以外のものを)擬人化する、人格化する
itself(代)(再帰的に用いて)それ自身を(に)/(一般動詞の目的語に用いて)
when(接)~する時に、~時(時を表わす副詞節をつくる)
have(他)(部分・属性として)(特徴・性質・能力などを)もっている
no longer もはや~しないで(でない)
imagination(名)想像、想像力、構造力 ・have one's imagination 想像力がある
under(前)(状態を表わして)(~の支配で・監督・影響など)のもとに ・under the control 支配下にあって
control(名)支配(すること)、取り締まり、管理、監督、管制 ・under the control 管理(支配)下に
【参考文献】
Wuthering Heights (Penguin Classics)』Emily Brontë・著
嵐が丘(上) (光文社古典新訳文庫)小野寺健・訳
新英和中辞典 [第7版] 並装』(研究社)
リーダーズ英和辞典 <第3版> [並装]』(研究社)
リーダーズ・プラス』(研究社)

日本古典文学を原文で読む(第3回)『日本書紀』

日本書紀』について
日本書紀』は、『古事記』と並び称される、日本で最も古い書物の一つです。
けれども、やはり『古事記』と同様、実際に読んだことがある人は少ないでしょう。
もちろん、僕もこれまで読んだことはありませんでした。
ただ、小学生の頃、市民図書館で手に取ってみたことはあります。
初期の天皇が百何十歳まで生きたという記述を見て、「ウソをつけ」と突っ込んだ記憶があるので。
最初の方の神話の部分の内容は、『古事記』と重なっています。
旺文社の『古語辞典』には、「『古事記』に比べ諸説を列挙するなど考証的であり」とありますが、諸説を列挙しているのは最初の神話の部分だけです。
日本書紀』には、神代から持統天皇までの歴史が記述されています。
文学色が強い『古事記』と比較して、歴史書ですので、出来事を羅列した、淡々とした記述です。
なので、歴史の教科書のようで、読んでいても面白くはありません。
僕は私立文系でしたが、高校時代は世界史も日本史も苦手で、第一志望が英語・国語・小論文で受験出来る大学だったので、早々と歴史の勉強を投げ出してしまいました。
今では大いに後悔していますが。
日本書紀』は、『古事記』ほどではありませんが、人気があるようで、世の中には関連書もたくさん出ています。
しかし、高校の古文の教科書には、『日本書紀』は載っていません。
前回も書きましたが、僕が受験生の時に持っていた(使った訳ではありません)駿台の『古典文学読解演習』という参考書には、1問目から『古事記』と『日本書紀』の問題文が載っていて、驚いたことがあります。
先程も書いたように、『日本書紀』は歴史書ですので、『古事記』のように国文科で読むことはあまりないようです。
僕が在籍していた学部でも、当時のシラバスを見ると、国文科ではなく、東洋文化専修に『日本書紀』を読む演習のクラスがありました。
もっとも、僕は英文科だったので、この授業は受けていませんが。
日本書紀』は、当然ながら、日本史の教科書にも出て来ます。
山川の『詳説日本史』を引いてみましょう。

天武天皇の時代に始められた国史編纂事業は、奈良時代に『古事記』『日本書紀』として完成した。(中略)720(養老4)年にできた『日本書紀』は、舎人親王が中心となって編纂したもので、中国の歴史書の体裁にならい漢文の編年体で書かれている。神話・伝承や「帝紀」「旧辞」などを含めて、神代から持統天皇に至るまでの歴史を天皇中心に記している。

なお、脚注には次のようにあります。

本文中には中国の古典や編纂時点の法令によって文章を作成した部分もあることから十分な検討が必要であるが、古代史の貴重な資料である。この『日本書紀』をはじめとして朝廷による歴史編纂は平安時代に引き継がれ、『続日本紀』『日本後紀』『続日本後紀』『日本文徳天皇実録』『日本三大実録』と六つの漢文正史が編纂された。これらを「六国史」と総称する。

僕の手元にある高校生用の文学史のテキストにも、もちろん解説があるので、こちらも引いてみましょう。

日本書紀 三十巻。養老四(七二〇)年成立。舎人親王らの編。天武天皇の時代、『古事記』と前後して編集事業開始。巻一、二が神代。三以下は歴代天皇紀。持統天皇(六八六―六九七在位)までの歴史を歌謡を除いてほぼ純粋な漢文体で記す。官撰国史の最初。

テキストについて
それでは、実際に読むには、どのようなテキストがあるのでしょうか。
ここでは、現在の日本で流通している主な文庫版を取り上げたいと思います。
岩波文庫版(全5巻)

日本書紀〈1〉 (岩波文庫)

日本書紀〈1〉 (岩波文庫)

初版は1994年。
坂本太郎家永三郎井上光貞大野晋・校注(各巻共通)。
本書は、『日本書紀』の訓み下し文に注を施してあり、中ほどには詳しい補注、更に、その後に原文が掲載されています。
もっとも、原文は漢文なので、そのままでは到底読めませんが。
現在、文庫で『日本書紀』の原文・書き下し文が収録されているのは岩波版しかありません。
(一)には、神代から祟神天皇までを収録。
日本書紀〈2〉 (岩波文庫)

日本書紀〈2〉 (岩波文庫)

初版は1994年。
(二)には、垂仁天皇から安康天皇までを収録。
日本書紀〈3〉 (岩波文庫)

日本書紀〈3〉 (岩波文庫)

初版は1994年。
(三)には、雄略天皇から欽明天皇までを収録。
日本書紀〈4〉 (岩波文庫)

日本書紀〈4〉 (岩波文庫)

初版は1995年。
(四)には、敏達天皇から斉明天皇までを収録。
日本書紀〈5〉 (岩波文庫)

日本書紀〈5〉 (岩波文庫)

初版は1995年。
(五)には、天智天皇から持統天皇までを収録。
講談社学術文庫版(全2巻)
日本書紀(上)全現代語訳 (講談社学術文庫)

日本書紀(上)全現代語訳 (講談社学術文庫)

初版は1988年。
訳は宇治谷孟(上・下巻共通)。
本書は、『日本書紀』の全文を初めて現代語訳したものです。
今でも、文庫で『日本書紀』の全現代語訳が読めるのは講談社学術文庫版のみです。
(上)には、神代から宣化天皇までを収録。
日本書紀(下)全現代語訳 (講談社学術文庫)

日本書紀(下)全現代語訳 (講談社学術文庫)

初版は1988年。
(下)には、欽明天皇から持統天皇までを収録。
河出文庫
現代語訳 日本書紀 (河出文庫)

現代語訳 日本書紀 (河出文庫)

初版は2005年(ただし、基になった版は1976年)。
訳は福永武彦
本書は、『日本書紀』全三十巻のうち、文学的と思われる箇所を選んで、現代口語に翻訳した抄訳です。
現在、新刊書店で流通している『日本書紀』の文庫版は以上の3種類しかありません。
原文読解
それでは、『日本書紀』本文の冒頭部分を読んでみましょう。
下に、「原文(書き下し文)」「現代語訳」を記しました。
書き下し文は岩波文庫版、現代語訳は講談社学術文庫版からの引用です。
また、書き下し文の下には、語注も付けてあります。
なお、原文は縦書きですが、ここでは、ブログの書式のため、横書きになりますが、ご了承下さい。

日本書紀 巻第一

日本書紀(作品名)歴史書。三十巻。舎人(とねり)親王ら撰(せん)。養老四年(七二〇)完成奏上。神代から持統(じとう)天皇に至る歴史を漢文編年体で記す。「古事記」と密接な関係を有するが、「古事記」に比べ諸説を列挙するなど考証的であり、また漢文風潤色が施されている。「日本紀(にほんぎ)」とも。「六国史(りくこくし)」の第一。
(くゎん)(接尾)書籍などを数える。
第一(だいいち)(名)いちばん初めであること。最初。

神代上

神代(かみよ)天地開闢(かいびゃく)から神武天皇の前までの神々が国を治めたという神話時代。
(かみ)(名)はじめ。冒頭。
(1)

(訓み下し文)
(テキスト16ページ、3行目~)
古に天地未だ剖れず、陰陽分れざりしとき、渾沌れたること鶏子の如くして、溟涬にして牙を含めり。

(いにしへ)(名)遠く過ぎ去った世。見たこともない遠い昔。古代。太古。
(格助)時を示す。~(とき)に
天地(あめつち)天と地。乾坤(けんこん)。
未だ(いまだ)(副)(下に打消の表現を伴って)まだ。今でもまだ。
わかる(自ラ下二)分離する。一つのものが別々になる。「天地(あめつち)のわかれし時ゆ(=カラ)」
(助動特殊型)打消の意を表す。~ない。
(名)(陰陽の)陰。「陰陽(を)分かれざりしとき」
(名)(陰陽の)陽。「陰(め)陽分かれざりしとき」
(助動特殊型)今より前(過去)に起こったことをいう。以前~た。~た。
とき(名)ころ。時分。折。場合。
まろかる(自ラ下二・四)「まろがる」とも。丸く固まる。固まって一つになる。
たり(助動ラ変型)動作・作用が継続・進行している意を表す。~ている。
とりのこ(名)卵。特に、鶏卵。
(格助)「ごと(し)」「まにまに」「から」「むた」などの形式語を下に伴う。
如し(ごとし)(助動ク型)ある一つの事実と他の事実とが同類・類似のものである意を表す。~ようだ。~と同じ。
して(接助)連用修飾語に付いて状態を表す。~の状態で。~で。
ほのか(形動ナリ)(音・形・色・光などが)かすかだ。ぼんやり。
きざし(名)芽ばえ。「溟涬(ほのか)にしてきざしをふふめり」
含む(ふふむ)(外に現さず、まだ内にじっと秘めている意)(自マ四)花や葉がまだ開かない。
(助動ラ変型)完了した動作・作用の結果が存続している意を表す。~ている。~てある。

(現代語訳)
天地開闢と神々
昔、天と地がまだ分かれず、陰陽の別もまだ生じなかったとき、鶏の卵の中身のように固まっていなかった中に、ほの暗くぼんやりと何かが芽生えを含んでいた。

(2)

其れ清陽なるものは、薄靡きて天と為り、重濁れるものは、淹滞ゐて地と為るに及びて、精妙なるが合へるは搏り易く、重濁れるが凝りたるは竭り難し。

それ(接)(漢文「夫」の訓読から)文のはじめに用いて、改まった感じで以下の事柄を述べたてる意を表す。そもそも。いったい。
澄む(すむ)(自マ四)くもりがなく明らかになる。濁りなく清らかになる。
明らか(あきらか)(形動ナリ)明るいさま。くもりがないさま。
もの(名)(形式名詞として)ある属性を有する実体や事柄を表す。
(係助)特にとりたてて区別する。~は。~の方は。
たなびく(自カ四)雲や霞(かすみ)などが横に長く引く。雲や霞のように長く連なる。
(接助)ある事が起こって、次に後の事が起こることを表す。~て、それから。そうして。
(あめ)(名)天。天空。⇔地(つち)
(格助)~の状態になる意を表す。変化の結果を示す。~と。
なる(自ラ四)(それまでと違った状態やものに)なる。成長する。変化する。
重し(おもし)(形ク)どっしりしている。落ち着いている。重々しい。
濁る(にごる)(自ラ四)(水・酒などが)不透明になる。にごる。
ツツヰ 積り、こもって止る意。
(つち)(名)大地。地上。地面。⇔天(あめ)
(格助)動作の帰着点を示す。~に。
及ぶ(およぶ)(自バ四)ある所にまで届く。達する。至る。
くはし(形シク)精妙でうつくしい。うるわしい。
(たえ)(形動ナリ)神々(こうごう)しいほどにすぐれている。何ともいえずすばらしい。霊妙だ。
(格助)体言・活用語の連体形に付き、あとに述べる事態をもたらしたものを指示する。一般に主語を示すといわれるもの。~が。
合ふ(あふ)(自ハ四)離れていたものが一つになる。一緒になる。
易し(やすし)(形ク)(動詞の連用形に付いて)そうなる傾向がある。そうなりがちである。
凝る(こる)(自ラ四)寄り集まって固まる。凝結する。
かたまる(自ラ四)固くなる。
難し(-がたし)(接尾ク型)~するのが困難だ、~しにくい、の意を表す。

やがてその澄んで明らかなものは、のぼりたなびいて天となり、重く濁ったものは、下を覆い滞って大地となった。澄んで明らかなものは一つにまとまりやすかったが、重く濁ったものが固まるのには時間がかかった。

(3)

故、天先づ成りて地後に定る。

(かれ)(接)それゆえに。だから。それで。そこで。さて。
先づ(まづ)(副)はじめに。さきに。
成る(なる)(自ラ四)(自分の力によるのではなく)成り立つ。実現する。できあがる。
(のち)(名)あと。次。以後。
定まる(さだまる)(自ラ四)(物事が)決まる。

だから天がまずでき上って、大地はその後でできた。

(4)

然して後に、神聖、其の中に生れます。

然して(しかうして)(接)「しかして」「しかうじて」とも。そうして。それから。
かみ(名)神話で、国土を創造し、支配した存在。神代に登場する神々。
其の(その)近い前に話題にのぼった事物であることを示す語。その。あの。
(なか)(名)内部。うち。
(格助)場所を示す。~に。~で。
生れます(あれます)(自サ四)「生(あ)る」の尊敬語。出現なさる。お生まれになる。

そして後から、その中に神がお生まれになった。

(5)

故曰はく、開闢くる初に、洲壌の浮れ漂へること、譬へば游魚の水上に浮けるが猶し。

曰く(いはく)言うこと。言うことには。言うよう。
ひらく(自カ四)あく。広がる。開く。
初め(はじめ)(名)最初。はじまり。第一。
くに(名)国土。国家。日本国。
(格助)主語を示す。~が。
浮かる(うかる)(自ラ下二)自然に浮く。浮かぶ。
漂ふ(ただよふ)(自ハ四)浮かんで揺れ動く。
こと(名)ことのようす。さま。
たとへば(副)他の物にたとえて言えば。
あそぶ(自バ四)動きまわる。
(いを)(名)「うを」とも。さかな。
(みづ)(名)飲み水や、川・海・湖・池などの水。
(格助)連体修飾語をつくる。所有を表す。~が持っている。~のものである。
(うへ)(名)上の位置。高い所。上のほう。⇔下(した)
浮く(うく)(自カ四)空中や水面などに、支えから離れて不安定な状態にある。浮かぶ。漂う。
(格助)体言・連体形の下に付き、「ごと」「ごとし」「むた」「まにまに」「からに」などに続ける。

それで次のようにいわれる。天地が開けた始めに、国土が浮き漂っていることは、たとえていえば、泳ぐ魚が水の上の方に浮いているようなものであった。

(6)

時に、天地の中に一物生れり。

(とき)(名)そのころ。当時。
一つ(ひとつ)(名)数の名。一。ひとつ。
(もの)(名)ふつうのもの。一般の事物。
(助動ラ変型)動作・作用の完了した意を表す。~た。

そんなとき天地の中に、ある物が生じた。

(7)

状葦牙の如し。便ち神と化為る。

かたち(名)物の形態。外形。姿。
葦芽(あしかび)(名)葦の若芽。=葦角(あしづの)
すなはち(副)すぐに。たちまち。ただちに。

形は葦の芽のようだったが、間もなくそれが神となった。

(8)

国常立尊と号す。

(格助)言ったり、思ったりする内容を受けていう。引用の「と」。
まうす(他サ四)(人の呼び名などを格助詞「と」を介して受けて)「世間で~という」の意の謙譲語。~と申し上げる。

国常立尊と申しあげる。

(9)

至りて貴きをば尊と曰ふ。自余をば命と曰ふ。並に美挙等と訓ふ。

至りて(いたりて)(副)いたって。きわめて。非常に。
貴し(たふとし)(形ク)あがめ敬うべきである。崇高だ。尊い
をば 動作・作用の対象を強く示す意を表す。
命・尊(みこと)(命)神や天皇また目上の人を敬っていう語。
いふ(自他ハ四)名付ける。呼ぶ。
これ(代)近接の指示代名詞。話し手に近い事物・場所などをさす。/事物をさす。このもの。このこと。
より(格助)一定の範囲を限定する意を表す。~以外。
余り(あまり)(名)あまったもの。残り。余分。
並びに(ならびに)(副)全部。すべて。ことごとく。両方ともに。

――大変貴いお方は「尊」といい、それ以外のお方は「命」といい、ともにミコトと訓む。

(10)

下皆此に効へ。

(しも)(名)あとの部分。終わりのほう。
(名・副)すっかり。残らず。
(格助)動作の対象を示す。~に。~に対して。
ならふ(他ハ四)学ぶ。習得する。体得する。

以下すべてこれに従う――

(11)

次に国狭槌尊。次に豊斟渟尊。凡て三の神ます。

(つぎ)(名)あとに続くこと。また、そのもの。
すべて(副)全部合わせて。全部ひっくるめて。
-はしら(接尾)神仏を敬って数える。
(格助)連体修飾語をつくる。
ます(自サ四)「あり」「居(ゐ)る」の尊敬語。いらっしゃる。おいでになる。

次に国狭槌尊、次に豊斟渟尊と、全部で三柱の神がおいでになる。

(12)

乾道独化す。

乾道 坤道に対する言葉。乾は陽、坤は陰。したがって乾道は陽気を意味する。
独り(ひとり)(名)単独であること。また、その物だけであること。
なす(他サ四)つくる。こしらえる。

この三柱の神は陽気だけをうけて、ひとりでに生じられた。

(13)

所以に、此の純男を成せり。

ゆゑ(名)原因。理由。いわれ。事情。
(格助)原因・理由を表す。~により。
この 話題となっているものを指示する語。この。
純男 純粋な男性
(格助)対象としてとりあげたものを示す。~を。

だから純粋な男性神であった、と。

(14)

一書に曰はく、天地初めて判るるときに、一物虚中に在り。

ある(連体)人や物や所などを漠然とさす語。ある。
ふみ(名)文書。書物。
初めて(副)最初に。初めて。
そら(名)太陽・月・星・雲のある空間。天。天空。
(格助)連体修飾語をつくる/所属を表す。~のうちの。
在り(あり)(自ラ変)存在する/(物が)ある。

ある書(第一)ではこういっている。天地が始めて分かれるとき、一つの物が空中にあった。

(15)

状貌言ひ難し。

かたち(名)ようす。ありさま。
言ふ(いふ)(自他ハ四)ことばで形容する。

そのありさまは形容しがたい。

(16)

其の中に自づからに化生づる神有す。

自ら(おのづから)(副)自然と。ひとりでに。
(格助)場合・状況などを示す。~に。~の場合に。
なりいづ(自ダ下二)生まれ出る。生まれつく。
います(自サ四)「あり」「居(ゐ)る」の尊敬語。いらっしゃる。おありになる。

その中に自然に生まれ出た神がおられた。

(17)

国常立尊と号す。

国常立尊という。

(18)

亦は国底立尊と曰す。

(また)(副)もう一つ。別に。

別名を国底立尊ともいう。

(19)

次に国狭槌尊。亦は国狭立尊と曰す。

次に国狭槌尊、別名を国狭立尊という。

(20)

次に豊国主尊。亦は豊組野尊と曰す。

次に豊国主尊、別名豊組野尊という。

(21)

亦は豊香節野尊と曰す。亦は浮経野豊買尊と曰す。亦は豊国野尊と曰す。亦は豊齧野尊と曰す。亦は葉木国野尊と曰す。亦は見野尊と曰す。

また豊香節野尊とも、また浮経野豊買尊とも、また豊国野尊とも、また豊齧野尊とも、また葉木国野尊とも、また見野尊ともいう。

(22)

一書に曰はく、古に国稚しく土稚しき時に、譬へば浮膏の猶くして漂蕩へり。

いし(形シク)語義未詳。ととのわない・幼いの意か。
浮かぶ(うかぶ)(自バ四)空中や水面などに、支えから離れて不安定な状態で存在する。「海(うなはら)の上に浮かべる雲の根」
あぶら(名)植物の種子などから絞りとった、水に溶けない液体、および動物の脂肪。

また一書(第二)ではこういっている。昔、国がまだ若く、大地も若かった時には、譬えていえば、水に浮かんだ脂のように漂っていた。

(23)

時に、国の中に物生れり。

生る(なる)(自ラ四)生まれる。生じる。

そんなとき、国の中にある物が生まれた。

(24)

状葦牙の抽け出でたるが如し。

ぬけいづ(自ダ下二)離れて出る。抜け出る。

形は葦の芽がつき出したようであった。

(25)

此に因りて化生づる神有す。

(格助)動作のよりどころを示す。~に。
よる(自ラ四)(「~によりて」「~によって」の形で、接続助詞のように用いて)~のために。~ので。~から。
(接助)原因・理由を表す。~のために。~ので。

これから生まれた神があった。

(26)

可美葦牙彦舅尊と号す。

可美葦芽彦舅尊という。

(27)

次に国常立尊

次に国常立尊

(28)

次に国狭槌尊

次に国狭槌尊

(29)

葉木国、此をば播挙矩爾と云ふ。

葉木国――これをハコクニという。

(30)

可美、此をば干麻時と云ふ。

可美――これをウマシという。

(31)

一書に曰はく、天地混れ成る時に、始めて神人有す。

まろかる(自ラ下二・四)「まろがる」とも。丸く固まる。固まって一つになる。
成る(なる)(補助ラ四)自然にそのような状態になる。

また一書(第三)ではこういっている。天地がぐるぐる回転して、かたちがまだ定まらないときに、はじめて神のような人があった。

(32)

可美葦牙彦舅尊と号す。

可美葦芽彦舅尊という。

(33)

次に国底立尊。

次に国底立尊。

(34)

彦舅、此をば比古尼と云ふ。

彦舅――これをヒコジという。

(35)

一書に曰はく、天地初めて判るるときに、始めて俱に生づる神有す。

ともに 一つになって。~といっしょに。

また一書(第四)ではこういっている。天地がはじめて分かれるときに、始めて一緒に生まれ出た神があった。

(36)

国常立尊と号す。

国常立尊という。

(37)

次に国狭槌尊

次に国狭槌尊

(38)

又曰はく、高天原に所生れます神の名を、天御中主尊と曰す。

(また)(副)同じく。同様に。やはり。また。
高天原(たかまのはら)(名)日本神話で、「天(あま)つ神」の住む天上の国。「葦原(あしはら)の中つ国」・「根の国」に対していう。
み-(接頭)(名詞に付いて)尊敬の意を表す。
(な)(名)他と区別するために呼ぶことば。呼び名。名前。

また高天原においでになる神の名を天御中主尊というと。

(39)

次に高皇産霊尊

次に高皇産霊尊

(40)

次に神皇産霊尊

次に神皇産霊尊

(41)

皇産霊、此をば美武須毗と云ふ。

皇産霊――これをミムスヒという。

(42)

一書に曰はく、天地未だ生らざる時に、譬へば海上に浮べる雲の根係る所無きが猶し。其の中に一物生れり。

うなはら(名)広々とした海。広い池や湖についてもいう。
(くも)(名)空に出て、日や月を隠し、雨や雪を降らせるもととなるもの。雲。また、比喩(ひゆ)的に、雲のように一面にたなびいて見えるもの。桜や藤(ふじ)の花の遠景にいう。
(ね)(名)物事のはじまり。起源。根源。
かかる(自ラ四)(雲・かすみなどが)おおう。かぶさる。
(ところ)(名)場所。
無し(なし)(形ク)存在しない。ない。

また一書(第五)ではこういっている。天地がまだ固まらないとき、たとえば海上に浮かんだ雲の根がないように、漂っていた中に、一つの物が生まれた。

(43)

葦牙の初めて埿の中に生でたるが如し。

(ひぢ)(名)どろ。また、ぬかるみ。=泥土(うひぢ)
おひいづ(自ダ下二)(人が)生まれ出る。(植物などが)生え出る。
たり(助動ラ変型)動作・作用が完了した意を表す。~た。

葦の芽がはじめて泥の中から生え出したようである。

(44)

便ち人と化為る。

すなはち(接)そこで。その時に。そして。

それが人となった。

(45)

国常立尊と号す。

国常立尊という。

(46)

一書に曰はく、天地初めて判るるときに、物有り。葦牙の若くして、空の中に生れり。

また一書(第六)にこういっている。天地がはじめて分かれたときに、ある物があり、葦の芽のようで空の中に生まれた。

(47)

此に因りて化る神を、天常立尊と号す。

これから出られた神を天常立尊という。

(48)

次に可美葦牙彦舅尊。

次に可美葦芽彦舅尊。

(49)

又物有り。浮膏の若くして、空の中に生れり。

またある物があり、浮かんだ脂のようで空の中にできた。

(50)

此に因りて化る神を、国常立尊と号す。

これから生まれた神を国常立尊という。
宇治谷孟・訳)

【参考文献】
旺文社古語辞典 第10版 増補版』(旺文社)
駿台受験叢書 古典文学読解演習 古典とともに思索を』高橋正治・著(駿台文庫)
1995年度 二文.pdf - Google ドライブ
詳説日本史B 改訂版 [日B309] 文部科学省検定済教科書 【81山川/日B309】笹山晴生佐藤信五味文彦、高埜利彦・著(山川出版社
精選日本文学史』(明治書院

『幸福な生活について』を原文で読む(第2回)

Lucius Annaeus Seneca

Lūcius -ī(男)ルーキウス(ローマ人の個人名(略称L.))
Annaeus -ī(男)アンナエウス(ローマ人の氏族名)
Seneca -ae(男)セネカ(Annaea氏族に属する家名/特に(1)L. Annaeus Seneca、Corduba生まれの修辞学者(前55?-?後40)。(2)L. Annaeus Seneca、(1)の息子/ストア哲学者・悲劇作家・政治家(前4?-後65)/Nero帝の師)

DE VITA BEATA

(前)(+奪格)(関連・限定)~に関して、~について
vīta -ae(女)(vivo)生活、暮らしぶり
beātus -a -um(形)(完了分詞)(beo)幸福な、祝福された、恵まれた
(テキスト8ページ、2行目~)

I. 1 Vivere, Gallio frater, omnes beate volunt, sed ad pervidendum quid sit quod beatam vitam efficiat caligant; adeoque non est facile consequi beatam vitam, ut eo quisque ab ea longius recedat quo ad illam concitatius fertur, si via lapsus est; quae ubi in contrarium ducit, ipsa velocitas maioris intervalli causa fit.

vīvō -ere -vixī victum(自)生きている、生きる
Galliōnis(男)ガッリオー(ローマ人の家名)
frāter -tris(男)兄弟
omnēs -ium(男)(女)(複)(omnis)すべての人々
beātē(副)(beatus)幸福に
volō velle voluī(他)欲する、望む、願う(+不定法)
sed(接)しかし、けれども
ad(前)(+対格)~のために、~の目的で
pervideō -ēre -vīdī -vīsum(他)(per-/video)見通す、見分ける
quis quis quid(代)(疑問詞)だれ、何、どれ
sum esse fuī(自)(繋辞として)~である
quī quae quod(代)(関係代名詞)(+直説法)(事実関係)~するところの(人・もの)
efficiō -cere -fēcī -fectum(他)(ex-/facio)もたらす、ひき起こす(+物・事の対格)
cālīgō -āre(自)(目が)かすむ
adeō(副)その程度まで、それほどに
-que(接尾辞)itaque、atque、quisqueなどのように副詞、接続詞、関係代名詞などに付けられる
nōn(副)(noenum)~でない
facile(副)(中性)容易に、たやすく
consequor -quī -secūtus sum(他)(形式受動相)(con-/sequor)達成する、獲得する
ut(副)(関係詞)(理由)~の故に、~だから
is ea id(代)(指示詞)彼、彼女、それ
quisque quaeque quidque(代)(quis/-que)(程度の奪格と比較級を伴って)~すればするほどますます
ab(前)(+奪格)(abは母音とhの前で)~から、~より
longus -a -um(形)遠い
recēdō -ere -cessī -cessum(自)(re-/cedo)離れる、遠ざかる
quō(副)(qui, quis)(+比較級)quō ~ eo ~であればあるほど
ad(前)(+対格)(空間的)~の方へ、~に向かって
ille illa illud(代)(指示詞)あれ、それ、あの人、その人、彼、彼女
concitātus -a -um(形)(完了分詞)(concito)急激な、急速な
ferō ferre tulī lātum(他)運ぶ、持っていく(+人の対格)
(接)もし~ならば/(+直説法)(単純な可能性)
via -ae(女)(人生の)道、進路
lapsus -a -um(完了分詞)→labor
lābor -bī lapsus sum(自)(形式受動相)(cf. labo)失敗する、間違える
quī quae quod(代)(関係代名詞)(連結詞として)=et is、sed isなど
ubī(接)~(の)時に
in(前)(+対格)(空間的)~へ、~に向かって、~の方へ、~の中へ
contrārium -ī(中)(contrarius)反対側
dūcō -ere duxī ductum(他)導く、連れて行く
ipse -a -um(強意代名詞)自ら、自身
vēlōcitās -ātis(女)(velox)(文体の)速度
mājor -or -us(形)(比較級)(magnus)より大きな
intervallum -ī(中)(時間的・空間的)間隔
causa -ae(女)理由、原因(+属性)
fīō fierī factus sum(自)(facioの受動として用いられる)なる

Proponendum est itaque primum quid sit quod adpetamus; tunc circumspiciendum qua contendere illo celerrime possimus, intellecturi in ipso itinere, si modo rectum erit, quantum cotidie profligetur quantoque propius ab eo simus ad quod nos cupiditas naturalis inpellit?

prōpōnō -ere -posuī -positum(他)(pro-/pono)前に置く、展示する、人目にさらす
ita(副)それゆえ
prīmum(副)(中性)(primus)まず、第一に、最初に
appetō -ere -petītī -petītum(他)(ad-/peto)(得ようと)努力する、熱望する、激しく欲求する(+物・事の対格)
tunc(副)(tum)それから、その次に
circumspiciō -ere -spexī -spectum(他)(circum-/specio)よく考察する
quā(副)(女性単数奪格)(qui)どの道を通って、どんな経路で
contendō -ere -tendī -tentum(自)(con-/tendo)急いで行く
illō(副)(男性単数奪格)(ille)その場所へ、そこへ、そちらへ
celer celeris celere(形)すばやい、迅速な
possum posse potuī(他)(~することが)できる(+不定法)
intellegō -ere -lexī -lectum(他)(inter-/go)(知的に)把握する、理解する
in(前)(+奪格)(ある状況・状態など)~で、~において、~のもとで ・in itinere 道中で
iter itineris(中)(eo/cf. itio)旅、旅行 ・in itinere 道中で
modo(副)(奪格)(modus)ただ、~だけ ・si modo(+接続法)もし~でありさえすれば
rectus -a -um(形)(完了分詞)(rego)正しい、正当な、適当な
quantus -a -um(形)(quam)(疑問詞)どれほど大きい(多い)
cotīdiē(quot/dies)毎日、日々
prōflīgō -āre -āvī -ātum(他)(pro-/fligo)打ち負かす、打ちのめす
quantō(副)(奪格)(quantum)(疑問詞)(疑問)どの程度、どれほど
-que(前接辞)(2語を並列する場合、2番目の語に付ける/語群や文の場合はその先頭の語に付ける)~と~、また、そして
propius(副)(比較級)(中性)(propior)より近く
ab(前)(+奪格)~によって
sīmus -a -um(形)(ギリシア語)平たい、平らな
ad(前)(+対格)(空間的)~の方へ、~に向かって
nōs(代)(複数)我々、私たち(→ego)
cupiditās -ātis(女)(cupidus)熱望、切望
nātūrālis -is -e(形)(natura)自然な、本来の
impellō -ere -pulī -pulsum(他)動かす、駆る、追いやる

2 Quamdiu quidem passim vagamur non ducem secuti sed fremitum et clamorem dissonum in diversa vocantium, conteretur vita inter errores brevis, etiam si dies noctesque bonae menti laboremus.

quamdiū(副)(関係詞)~の間
quidem(副)確かに、全く ・quidem ~ sed 確かに~(ではあるが)しかし
passim(副)(passus)いたるところに、あちらこちらに
vagor -ārī -ātus sum(自)(形式受動相)(vagus)さまよう、放浪する、動き(飛び)回る
nōn(副)(noenum)~でない
dux ducis(男)(女)(duco)指導者
sequor -quī secūtus sum(他)従う
sed(接)(否定辞の後で)(~ではなく)~で
fremitus -ūs(男)ぶつぶつ不平を言うこと
et(接)~と(そして)~
clāmor -ōris(男)叫び
dissonus -a -um(形)(dis-/sonus)(音が)不調和の
dīversus -a -um(形)(完了分詞)(diverto)異なった方向を向いた
vocō -āre -āvī -ātum(他)(vox)呼ぶ、呼び寄せる
conterō -ere -trīvī -trītum(他)(時を)過ごす
vīta -ae(女)(vivo)人生、生涯
inter(前)(+対格)(時間的)~の間に、~のうちに
error -ōris(男)(erro)さまようこと、放浪
brevis -is -e(形)(時間が)短い
etiam sī(接)たとえ~であっても
diēs -ēī(男)(女)昼間、日中
nox noctis(女)夜
bonus -a -um(形)強い、健全な
mens mentis(女)精神、心
labōrō -āre -āvī -ātum(自)(labor)骨折る、働く

Decernatur itaque et quo tendamus et qua, non sine perito aliquo cui explorata sint ea in quae procedimus, quoniam quidem non eadem hic quae in ceteris peregrinationibus condicio est: in illis comprensus aliquis limes et interrogati incolae non patiuntur errare, at hic tritissima quaeque via et celeberrima maxime decipit.

cernō -ere -crēvī -crētum(他)判決する、決定する、規定する
itaque(副)(ita/-que)従って、それゆえに
quō(副)(qui, quis)(疑問詞)どこへ
tendō -ere tetendī tentum(tensum)(自)伸びる、向かう、進む
sine(前)(+奪格)~がなく、~なしに
perītus -a -um(形)(cf. experior)経験のある、熟練した
aliquis -qua -quid(不定代名詞)(alius/quis)誰か、ある人
explōrātus -a -um(形)(完了分詞)確かな、確実な
prōcēdō -ere -cessī -cessum(他)(pro-/cedo)前に進む、進み出る
quoniam(接)~であるからには、~だから
īdem eadem idem(指示形容詞)(is/-dem)同じ、同一の、同様の
hīc(副)この機会(場合)に、この状況で
cēterus -a -um(形)その他の、それ以外の、残りの
peregrīnātiōnis(女)(peregrinor)外国旅行
condiciōnis(女)(condico)状況、事情
comprensus -a -um(完了分詞)=comprehensus
conprehensus -a -um(完了分詞)→comprehendo
comprehendō -ere -hendī -hensum(他)(con-/prehendo)知覚する、理解する
aliquis -qua -quid(不定代名詞)(alius/quis)何か、あるもの
līmes -mitis(男)(cf. limus)小道
interrogō -āre -āvī -ātum(他)質問する、尋ねる
incola -ae(男)(女)(incolo)居住者、住人
patior -tī passus sum(他)(形式受動相)(~の状態に)しておく、ほうっておく(+不定法)
errō -āre -āvī -ātum(自)誤る、間違う
at(接)(対照的に)しかし、それに対して
hic haec hoc(指示代名詞)これ、この人
tritis -is -e(形)(自然力などが)激しい、苛酷な、荒れ狂う
via -ae(女)道、道路
celeber -bris -bre(形)込んでいる、いっぱいになった
maximē(副)(最上級)最も
dēcipiō -pere -cēpī -ceptum(他)(de-/capio)欺く、だます
【参考文献】
幸福な生活について (大学書林語学文庫 3011)』山敷繁次郎・訳注(大学書林
羅和辞典 <改訂版> LEXICON LATINO-JAPONICUM Editio Emendata水谷智洋・編(研究社)

『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』

この週末は、ブルーレイで『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』を見た。

1977年のアメリカ映画。
監督は、『アメリカン・グラフィティ』のジョージ・ルーカス
音楽は、『屋根の上のバイオリン弾き』『ポセイドン・アドベンチャー』『タワーリング・インフェルノ』『大地震』『ジョーズ』『ファミリー・プロット』『未知との遭遇』『スーパーマン』『1941』『E.T.』の巨匠ジョン・ウィリアムズ
撮影は、『博士の異常な愛情』『フレンジー』『オーメン』『オーメン2/ダミアン』のギルバート・テイラー
編集は、『ファントム・オブ・パラダイス』『キャリー』のポール・ハーシュ、『アメリカン・グラフィティ』のマーシア・ルーカス、『カンバセーション…盗聴…』『カッコーの巣の上で』のリチャード・チュウ。
主演はマーク・ハミル
共演は、『アメリカン・グラフィティ』『カンバセーション…盗聴…』『ナバロンの嵐』『地獄の黙示録』のハリソン・フォード、『博士の異常な愛情』『エクソシスト2』のジェームズ・アール・ジョーンズ、『マダムと泥棒』『戦場にかける橋』『アラビアのロレンス』『ローマ帝国の滅亡』『ドクトル・ジバゴ』のアレック・ギネス、『エレファント・マン』『アマデウス』のケニー・ベイカー、『アレキサンダー大王』のピーター・カッシング
僕は小学生の頃、友達の家に皆で集まって、テレビ放送を録画した本作を見た。
しかし、内容はロクに覚えていない。
本作の初公開は1977年なので、その時の記憶はないが、『帝国の逆襲』や『ジェダイの復讐』を公開していた時に話題になっていたのは何となく覚えている。
でも、僕は全然興味が湧かなかった。
昔から、流行りものには背を向けて生きて来たのだ。
特撮には興味があったので、SFXの本などを読むと、よく本作のことが取り上げられていたが。
小学6年生の時には、学校の先生の影響で『2001年宇宙の旅』にハマッた。
その先生は、『スター・ウォーズ』のことを「見世物はつまらん」と斬って捨てた。
僕も素直にそれを信じた。
ちょうどその頃、駅前のスーパーの家電売り場でレーザー・ディスクのデモンストレーションが行われており、『2001年』のソフトが流されていた。
僕は毎日、学校帰りにそこへ通って、『2001年』を何十回も見た。
それ以来、僕の最も尊敬する映画監督はスタンリー・キューブリックである。
という訳で、今に至るまで、『スター・ウォーズ』の新作が公開される度に大騒ぎになるのも斜めに見ていたし、もちろん、第1作をもう一度見てみようという気も起こらなかったのだが。
でも、色々な意味で映画史上に残っている作品であるのは間違いないので、ちゃんと見直した方がいいだろうと思い、ブルーレイを買った。
細君も驚いていたが。
20世紀フォックス
カラー、シネスコ・サイズ。
「遠い昔、はるかかなたの銀河系で」という字幕。
例のテーマ曲が流れる。
「エピソード4 新たなる希望」。
本作は、ウィキペディアによると、デジタル合成やCG処理を加えてあるので、特撮部分はオリジナルとは違っているようである。
「時は内乱のさなか、凶悪な銀河帝国の支配に反乱軍は秘密基地から奇襲を仕掛け、帝国に対し初めて勝利を収めた。更にその戦闘の合間に反乱軍のスパイは帝国軍の究極兵器の設計図を盗み出すことに成功。それは“デス・スター”と呼ばれ、惑星をも粉々に粉砕にするパワーを持つ宇宙要塞基地だった。凶悪な帝国軍に追われながら、レイア姫は盗み出した設計図を手に故郷へと急いだ。人民を救い、銀河に自由を取り戻すために…」という長い長い字幕。
この間の『悪霊』もそうだったが、こんな長い説明的な字幕を最初に出されても、なかなか頭に入って来ない。
映画は映像で見せるものではないのか。
反乱軍の指導者の一人レイア姫キャリー・フィッシャー)は惑星オルデランへ帰還の途上、帝国軍に襲撃される。
ダース・ベイダーが乗り込んで来る。
船内に設計図があるものと、連中は探し回るが、見付からない。
レイア姫は、R2-D2に救援メッセージと設計図のデータを載せる。
本作の特撮は、やはり『2001年』の技術が基本になっていると思う。
レイア姫は捕まったが、設計図はないと言い張る。
気の強い女だ。
そして、一般的なヒロインほど美人ではない(ファンの人がいたらすみません)。
無人の脱出ポッドにR2-D2は相棒のC-3POと共に乗り込む。
飛んで行く脱出ポッドを見て、ダース・ベイダーは「設計図はあの中だ」と悔しがる。
脱出ポッドは砂漠の惑星に到着した。
突然、R2-D2は撃たれる。
R2-D2C-3POは、原住生物ジャワの軍団に連れて行かれる。
ジャワは、要するに奴隷の様にドロイドを売買するのが目的であった。
ある集落で、そこに叔父夫婦の元に暮らすルーク・スカイウォーカーマーク・ハミル)がC-3POR2-D2を購入する。
ルーク曰く、「ここは宇宙のド田舎だ。」
C-3POは通訳機であった。
突然、ルークの前でR2-D2がホログラムのレーア姫を映す。
「助けて、オビ・ワン・ケノービ!」
ルークは、「ベン・ケノービという老人なら知っているが。」
ルークの父親は既にこの世にいない。
叔父さんに「士官学校に行きたい」と頼むが、家の収穫が忙しいから、もう1年待てと諭される。
この星には太陽が二つあった。
夜、R2-D2が出て行った。
後を追ったルークはR2-D2を発見するが、サンド・ピープルにノック・アウトされる。
それをベン・ケノービ(アレック・ギネス)が見付け、助ける。
オビ・ワン・ケノービとは、ベン・ケノービの昔の名前であった。
そして、腕のもげたC-3POも見付かる。
彼らはオビ・ワンの家へ行く。
オビ・ワンはルークの父親とは戦友であった。
オビ・ワンはルークに、ジェダイ騎士の武器であるライトセーバーを渡す。
それから、フォースの話しをする。
このフォースというのは、本作の要となるのだが、イマイチよく分からない概念だ。
で、オビ・ワンの弟子ダース・ベイダーは帝国軍に寝返ったのだという。
その時、R2-D2が再びホログラムを映し出した。
ルーク姫のメッセージは「もう一度父を助けて下さい、ケノービ将軍」というものであった。
オビ・ワンはルークに、「私と一緒にオルデランへ行くか」と持ち掛けるが、ルークは家の仕事があるから行けないと断る。
ルークらは、ジャワが帝国軍にやられている現場を発見する。
心配になって家に帰ってみると、家は襲撃され、叔父夫婦も無惨に殺されていた。
その頃、帝国軍の要塞に捕まっていたレイア姫は、ダース・ベイダーから「秘密基地の場所を教えろ」と迫られていたが、頑として口を割らなかった。
で、叔父夫婦を殺されたルークは、オビ・ワンと共にオルデランへ行く決意をする。
彼らは、モス・アイズリー宇宙港へ行く。
そこは、宇宙の荒くれが集まっているところだった。
酒場へ行く。
何か、E.T.の親戚みたいな変な怪物がゴロゴロしている。
ルークはゴロツキにケンカを売られる。
オビ・ワンはライトセーバーで助ける。
オビ・ワンは、密輸商人のハン・ソロハリソン・フォード)とチューバッカ(ピーター・メイヒュー)と会う。
ハン・ソロは貨物船ファルコン号の船長だ。
危険な仕事は引き受けたくなかったハン・ソロだが、借金を抱えているので、1万7000の報酬を出すというオビ・ワンの言葉に、彼らをオルデランまで送り届ける仕事を引き受ける。
ハン・ソロは絡んで来たグリードという変な生物を撃ち殺す。
西部劇みたいだ。
ハン・ソロ達、船に乗る。
ファルコン号はポンコツだが、スピードが自慢だという。
光速の1.5倍だとか。
相対性理論も完全無視だな。
そこへ、さっきの酒場の揉め事で、帝国軍が捜しに来る。
銃撃戦。
振り切って、ファルコン号は出発。
超空間(ハイパー・スペース)へ。
さあ、これからどうなる?
ストーリーは意外と単純。
よく言われるように、『隠し砦の三悪人』が元になっている。
もう40年以上も前の映画だが、斬新なセットなどは、今見ても全く古臭くない。
宇宙なんだが、セリフがみんな英語だ。
クライマックスは、もうゲームそのもの。
子供の頃からゲームとは全く縁のなかった僕は、着いて行けない。
完全にドンパチだね。
編集の妙かな。
まあ、この作品からSF映画が変わったのは事実だが。
「フォースはいつも君と共にある」って、何だよ。
僕は、やっぱり『2001年』派かな。
そして、長い長いエンドロール。
今みたいな長いエンドロールは、この映画から始まったらしい。
アカデミー賞編集賞美術賞、衣装デザイン賞、作曲賞、録音賞、視覚効果賞受賞。
1978年洋画興行収入1位(ちなみに、2位は『未知との遭遇』。邦画の1位は『野性の証明』)。

Star Wars A New Hope 1977 Trailer

『悪霊』(1987)

お盆休みのブルーレイ鑑賞第三弾は、『悪霊(1987)』。

1987年のフランス映画。
監督は、ポーランドの巨匠アンジェイ・ワイダ
地下水道』や『灰とダイヤモンド』は学生の頃、ビデオで見たが、衝撃的だった。
原作はドストエフスキー
僕は、恥ずかしながら、ドストエフスキーは1作も読んだことがない。
脚本はジャン・クロード・カリエール
代表作は、『昼顔』『ブリキの太鼓』『シラノ・ド・ベルジュラック(1990)』など。
美術はアラン・スタルスキ。
代表作は、『シンドラーのリスト』『戦場のピアニスト』など。
主演は、『パッション(1982)』のイェジー・ラジヴィオヴィッチ。
共演は、『アラビアのロレンス』『ローマ帝国の滅亡』『ドクトル・ジバゴ』のオマー・シャリフ、『パッション(1982)』のイザベル・ユペール、『北ホテル』のベルナール・ブリエ。
『悪霊』は有名な作品なので、いつか見たいと思っていたが、Blu-rayが千数百円で手に入るとは、すごい時代になった。
カラー、ワイド。
悲愴な音楽が流れる。
タイトル・バックは、雪の中、荷車を引いて墓場に向かい、穴を掘って何かを埋める男。
彼の名はシャートフ(イェジー・ラジヴィオヴィッチ)。
「1870年頃、若い過激派の一団で同じ村の出身者たちがスイスからロシアへ帰って来て、旧体制の転覆を口にしていた。オルグのピエールの到着が待たれた。彼がグループの鼓吹者のスタヴローギンを連れて来るはずだった。彼が新しい時代の救世主なのだ。ロシアの人間は不安を抱きながらも、皆が急激な革命の到来を信じていた。自由主義者は警戒をしていたが、グループの真の意図は分からなかった。その一人印刷工シャートフはグループから離れた。彼は心配もあったが、ピエールとスタヴローギンの帰国を待った」という、説明的で長い長い字幕。
本編が始まる前に固有名詞を幾つも出されても、分かる訳がない。
本作の前半は、ほぼ登場人物の人間関係を把握するだけで終わる。
セリフも観念的なので、眠くなって来る。
原作は、もっとセリフの嵐らしいが。
後半になって、ようやく物語が展開し始める。
で、ロシアのあり地方の町にあるスチェパン教授(オマー・シャリフ)の元へ、シャートフが再びやって来る。
スチェパンは彼を歓迎する。
シャートフは、彼らの組織が本当に民衆のことを思っているかに疑問を持ち、怒っている(だから、一旦組織を離れた)。
なお、本作はロシアが舞台だが、セリフはフランス語なので、違和感がある。
スチェパンの息子ピエール(ジャン・フィリップ・エコフェ)は破壊的な思想の持ち主。
反乱分子の首は斬れなどとすぐに口にする。
彼は、本は一切読まないと断言する。
そんな息子を、「シェイクスピアユゴー民衆の敵ではない」と諭すスチェパン。
ピエールは、シャートフにチラシの作成を依頼するが、シャートフは「印刷機は隠した」と告げる。
冒頭、墓場で穴に埋めたのは印刷機だったのだ。
シャートフは、友人の建築技師で自殺志願者のキリーロフ(ローラン・マレ)を訪ねる。
所変わって、駅前の酒場で自称・元軍人のレビャドキンが昼間から酒を飲んでいると、貴族の令嬢リーザがやって来る。
そこへ、汽車が到着し、ニコラス・スタヴローギン(ランベール・ウィルソン)が降りて来る。
彼は、終始ニヒルな笑みを浮かべている。
過激派に絡んでいるが、上流階級に属しているようである。
リーザがニコラスに声を掛けるが、そこへ顔が白塗りで足の悪い娘が現われ、ニコラスにひざまずく。
彼女はレビャドキンの妹マリアであった。
レビャドキンは彼女を連れて立ち去る。
シャートフはニコラスに近付き、ビンタをする。
それを見たリーザが卒倒。
今度は、教会にシャートフがやって来る。
教会の周りは見るからに貧しい人ばかり。
リーザは自分の指輪やイヤリングをお布施する。
教会には知事もいる。
雨の中、ニコラスがキリーロフの家を訪れるが、すぐに去る。
キリーロフは自殺主義者であり、神を信じない。
そこへ、ピエールが来る。
シャーロフがニコラスに銃を向ける。
ニコラスはシャーロフに、「君は殺される」と。
しかし、ニコラスはシャーロフを騙したので、シャーロフは信じない。
キリーロフに言ったのと逆のことを言ったのだ。
さて、ニコラスの妻はマリアであった。
ニコラスはレビャドキンの家を訪ねる。
レビャドキンは、「私はフォルスタッフでした」と言う。
大酒飲みということか。
ニコラスは、賭けをして負けたから、マリアと秘密の結婚をしたのであった。
マリアは、ニコラスの姿を見て驚く。
この娘は、足だけでなく、頭もおかしいようだ。
逃げ出すニコラス。
歩いていると、懲役囚のフェージカがニコラスに近寄り、レビャドキン兄妹殺しを1500ルーブルで引き受けると持ち掛ける。
翌日、ニコラスを訪ねるピエール。
リーザからことづかったという手紙をニコラスに渡す。
ニコラスは、昨晩、フェージカからレビャドキン兄妹殺しを持ち掛けられたという話しをする。
ピエールとニコラスは馬車で会合に向かう。
車中で、ピエールはニコラスに「我々が中央委員会だ」と告げる。
会場に着いたが、集まったメンバーは「これは会議か懇親会かで決を採ろう」などと揉めている。
要するに、民主的な会議の仕方など全く知らない連中が集まっているということだ。
ピエールは発言せず、コニャックを頼む。
ニコラスも何も言わない。
シャーロフも無言。
ようやく、一人の学生が「僕の理論では、無限の自由は無限の専制に達する」と発言する。
ピエールは「バカげている」と一蹴。
ピエールは出席者に、「君達は密告するの?」と尋ねて回る。
皆、一様に「ノー」と答える。
しかし、シャーロフは出て行く。
これで、ピエールはメンバーに、「シャーロフは密告者だ」と印象付けることに成功した。
それを見たニコラスも帰る。
ピエールがニコラスを追い掛ける。
ピエールは「革命を起こそう」と呼び掛けるが、ニコラスは「君は頭がおかしい」と吐き捨てる。
そりゃそうだろう。
あんな幼稚なメンバーで、どうやって革命を起こそうというのか。
だが、ピエールはニコラスにひざまづいた。
どうしてもカリスマ性のあるニコラスをシンボルに副えたいのだ。
その願いもむなしく、ニコラスは去ってしまった。
この辺りまで、ほぼ登場人物の紹介。
原作は読んでいないから何とも言えないが、長編小説の内容を短い時間に詰め込み過ぎて、説明的になっているのではないか。
一方、ピエールは、知事を懐柔しようともしていた。
知事の元を訪ねるピエール。
その頃、工場では、給料の不払いを巡って、労働者達が知事に談判しようと立ち上がっていた。
知事の屋敷に向けて行進を始める労働者達。
やっと革命らしくなって来た。
そこへ、たまたま通り掛かったシャーロフは、「君に頼るしかない」とリーダーにされる。
シャーロフを先頭に進む労働者達。
知事の屋敷の前で、「給料を支払え」と叫ぶ。
知事は「けしからん!」と激怒。
官憲が投入される。
まるで、首相の演説に野次を飛ばしたら警察に排除されたどこかの国のようだ。
自由で民主的なはずの先進国は、19世紀のロシアと同じくらい退化しているのである。
知事は労働者達を捕らえ、鞭打ちの刑を命ずる。
ピエールは、知事に耳打ちし、「シャーロフを釈放して下さい」と頼む。
労働者が裸にされ、次々と鞭打ちにされる中、何故かシャーロフの釈放が宣言される。
明らかに怪訝そうな顔をする労働者達。
自分がリーダーなのに、釈放される訳には行かないと、自ら服を脱ぐシャーロフだが、抵抗空しく、屋敷の外に放り出されてしまった。
これで、シャーロフのメンツは丸潰れ。
労働者達の団結は解けてしまった。
ピエールというのは、一体何がしたいのか。
過激派のリーダーのクセに、権力者側ともつながりを持ち、労働運動を妨害する。
さあ、これからどうなる?
これらは全てピエールのシャーロフに対する私怨だということが、次第に分かって来るのだが。
クライマックスの火事のシーンは、『サクリファイス』の10倍くらいスゴイ。
昔は、こういうシーンを、CGではなくて、ちゃんとセットを組んで撮影したんだな。
『乱』もそうだった。
火を使った撮影は難しい。
タワーリング・インフェルノ』なんか、スゴイと思う。
それから、最後の方で教授が言う「シェイクスピア、ラファエルは科学よりもすぐれている」というセリフが印象的。
私立文系なもんで。
本作を見ていると、この連中は、連合赤軍なんかと大差ないなと思う。
如何にマルクス主義が素晴らしい理論であったとしても、人間は理論通りには決して動かないから。
それこそ、シェイクスピアが描いたように、複雑でドロドロしている。
最後は、比較的あっさりと終わる。

Les possédés (1988) Bande Annonce VF [HD]