『悪霊』(1987)

お盆休みのブルーレイ鑑賞第三弾は、『悪霊(1987)』。

1987年のフランス映画。
監督は、ポーランドの巨匠アンジェイ・ワイダ
地下水道』や『灰とダイヤモンド』は学生の頃、ビデオで見たが、衝撃的だった。
原作はドストエフスキー
僕は、恥ずかしながら、ドストエフスキーは1作も読んだことがない。
脚本はジャン・クロード・カリエール
代表作は、『昼顔』『ブリキの太鼓』『シラノ・ド・ベルジュラック(1990)』など。
美術はアラン・スタルスキ。
代表作は、『シンドラーのリスト』『戦場のピアニスト』など。
主演は、『パッション(1982)』のイェジー・ラジヴィオヴィッチ。
共演は、『アラビアのロレンス』『ローマ帝国の滅亡』『ドクトル・ジバゴ』のオマー・シャリフ、『パッション(1982)』のイザベル・ユペール、『北ホテル』のベルナール・ブリエ。
『悪霊』は有名な作品なので、いつか見たいと思っていたが、Blu-rayが千数百円で手に入るとは、すごい時代になった。
カラー、ワイド。
悲愴な音楽が流れる。
タイトル・バックは、雪の中、荷車を引いて墓場に向かい、穴を掘って何かを埋める男。
彼の名はシャートフ(イェジー・ラジヴィオヴィッチ)。
「1870年頃、若い過激派の一団で同じ村の出身者たちがスイスからロシアへ帰って来て、旧体制の転覆を口にしていた。オルグのピエールの到着が待たれた。彼がグループの鼓吹者のスタヴローギンを連れて来るはずだった。彼が新しい時代の救世主なのだ。ロシアの人間は不安を抱きながらも、皆が急激な革命の到来を信じていた。自由主義者は警戒をしていたが、グループの真の意図は分からなかった。その一人印刷工シャートフはグループから離れた。彼は心配もあったが、ピエールとスタヴローギンの帰国を待った」という、説明的で長い長い字幕。
本編が始まる前に固有名詞を幾つも出されても、分かる訳がない。
本作の前半は、ほぼ登場人物の人間関係を把握するだけで終わる。
セリフも観念的なので、眠くなって来る。
原作は、もっとセリフの嵐らしいが。
後半になって、ようやく物語が展開し始める。
で、ロシアのあり地方の町にあるスチェパン教授(オマー・シャリフ)の元へ、シャートフが再びやって来る。
スチェパンは彼を歓迎する。
シャートフは、彼らの組織が本当に民衆のことを思っているかに疑問を持ち、怒っている(だから、一旦組織を離れた)。
なお、本作はロシアが舞台だが、セリフはフランス語なので、違和感がある。
スチェパンの息子ピエール(ジャン・フィリップ・エコフェ)は破壊的な思想の持ち主。
反乱分子の首は斬れなどとすぐに口にする。
彼は、本は一切読まないと断言する。
そんな息子を、「シェイクスピアユゴー民衆の敵ではない」と諭すスチェパン。
ピエールは、シャートフにチラシの作成を依頼するが、シャートフは「印刷機は隠した」と告げる。
冒頭、墓場で穴に埋めたのは印刷機だったのだ。
シャートフは、友人の建築技師で自殺志願者のキリーロフ(ローラン・マレ)を訪ねる。
所変わって、駅前の酒場で自称・元軍人のレビャドキンが昼間から酒を飲んでいると、貴族の令嬢リーザがやって来る。
そこへ、汽車が到着し、ニコラス・スタヴローギン(ランベール・ウィルソン)が降りて来る。
彼は、終始ニヒルな笑みを浮かべている。
過激派に絡んでいるが、上流階級に属しているようである。
リーザがニコラスに声を掛けるが、そこへ顔が白塗りで足の悪い娘が現われ、ニコラスにひざまずく。
彼女はレビャドキンの妹マリアであった。
レビャドキンは彼女を連れて立ち去る。
シャートフはニコラスに近付き、ビンタをする。
それを見たリーザが卒倒。
今度は、教会にシャートフがやって来る。
教会の周りは見るからに貧しい人ばかり。
リーザは自分の指輪やイヤリングをお布施する。
教会には知事もいる。
雨の中、ニコラスがキリーロフの家を訪れるが、すぐに去る。
キリーロフは自殺主義者であり、神を信じない。
そこへ、ピエールが来る。
シャーロフがニコラスに銃を向ける。
ニコラスはシャーロフに、「君は殺される」と。
しかし、ニコラスはシャーロフを騙したので、シャーロフは信じない。
キリーロフに言ったのと逆のことを言ったのだ。
さて、ニコラスの妻はマリアであった。
ニコラスはレビャドキンの家を訪ねる。
レビャドキンは、「私はフォルスタッフでした」と言う。
大酒飲みということか。
ニコラスは、賭けをして負けたから、マリアと秘密の結婚をしたのであった。
マリアは、ニコラスの姿を見て驚く。
この娘は、足だけでなく、頭もおかしいようだ。
逃げ出すニコラス。
歩いていると、懲役囚のフェージカがニコラスに近寄り、レビャドキン兄妹殺しを1500ルーブルで引き受けると持ち掛ける。
翌日、ニコラスを訪ねるピエール。
リーザからことづかったという手紙をニコラスに渡す。
ニコラスは、昨晩、フェージカからレビャドキン兄妹殺しを持ち掛けられたという話しをする。
ピエールとニコラスは馬車で会合に向かう。
車中で、ピエールはニコラスに「我々が中央委員会だ」と告げる。
会場に着いたが、集まったメンバーは「これは会議か懇親会かで決を採ろう」などと揉めている。
要するに、民主的な会議の仕方など全く知らない連中が集まっているということだ。
ピエールは発言せず、コニャックを頼む。
ニコラスも何も言わない。
シャーロフも無言。
ようやく、一人の学生が「僕の理論では、無限の自由は無限の専制に達する」と発言する。
ピエールは「バカげている」と一蹴。
ピエールは出席者に、「君達は密告するの?」と尋ねて回る。
皆、一様に「ノー」と答える。
しかし、シャーロフは出て行く。
これで、ピエールはメンバーに、「シャーロフは密告者だ」と印象付けることに成功した。
それを見たニコラスも帰る。
ピエールがニコラスを追い掛ける。
ピエールは「革命を起こそう」と呼び掛けるが、ニコラスは「君は頭がおかしい」と吐き捨てる。
そりゃそうだろう。
あんな幼稚なメンバーで、どうやって革命を起こそうというのか。
だが、ピエールはニコラスにひざまづいた。
どうしてもカリスマ性のあるニコラスをシンボルに副えたいのだ。
その願いもむなしく、ニコラスは去ってしまった。
この辺りまで、ほぼ登場人物の紹介。
原作は読んでいないから何とも言えないが、長編小説の内容を短い時間に詰め込み過ぎて、説明的になっているのではないか。
一方、ピエールは、知事を懐柔しようともしていた。
知事の元を訪ねるピエール。
その頃、工場では、給料の不払いを巡って、労働者達が知事に談判しようと立ち上がっていた。
知事の屋敷に向けて行進を始める労働者達。
やっと革命らしくなって来た。
そこへ、たまたま通り掛かったシャーロフは、「君に頼るしかない」とリーダーにされる。
シャーロフを先頭に進む労働者達。
知事の屋敷の前で、「給料を支払え」と叫ぶ。
知事は「けしからん!」と激怒。
官憲が投入される。
まるで、首相の演説に野次を飛ばしたら警察に排除されたどこかの国のようだ。
自由で民主的なはずの先進国は、19世紀のロシアと同じくらい退化しているのである。
知事は労働者達を捕らえ、鞭打ちの刑を命ずる。
ピエールは、知事に耳打ちし、「シャーロフを釈放して下さい」と頼む。
労働者が裸にされ、次々と鞭打ちにされる中、何故かシャーロフの釈放が宣言される。
明らかに怪訝そうな顔をする労働者達。
自分がリーダーなのに、釈放される訳には行かないと、自ら服を脱ぐシャーロフだが、抵抗空しく、屋敷の外に放り出されてしまった。
これで、シャーロフのメンツは丸潰れ。
労働者達の団結は解けてしまった。
ピエールというのは、一体何がしたいのか。
過激派のリーダーのクセに、権力者側ともつながりを持ち、労働運動を妨害する。
さあ、これからどうなる?
これらは全てピエールのシャーロフに対する私怨だということが、次第に分かって来るのだが。
クライマックスの火事のシーンは、『サクリファイス』の10倍くらいスゴイ。
昔は、こういうシーンを、CGではなくて、ちゃんとセットを組んで撮影したんだな。
『乱』もそうだった。
火を使った撮影は難しい。
タワーリング・インフェルノ』なんか、スゴイと思う。
それから、最後の方で教授が言う「シェイクスピア、ラファエルは科学よりもすぐれている」というセリフが印象的。
私立文系なもんで。
本作を見ていると、この連中は、連合赤軍なんかと大差ないなと思う。
如何にマルクス主義が素晴らしい理論であったとしても、人間は理論通りには決して動かないから。
それこそ、シェイクスピアが描いたように、複雑でドロドロしている。
最後は、比較的あっさりと終わる。

Les possédés (1988) Bande Annonce VF [HD]