『戦争と平和』(1956)

この連休中は、ブルーレイで『戦争と平和』を見た。

戦争と平和 [Blu-ray]

戦争と平和 [Blu-ray]

1956年のイタリア・アメリカ合作映画。
映画としては、1967年のソ連版の方が有名らしいが(僕は以前に予告編だけ見たことがある)。
監督はキング・ヴィダー
原作は、言うまでもなくトルストイ
僕は読んでいないが。
恥ずかしながら、ロシア文学はほとんど読んだことがない。
何せ長い作品ばかりなので。
製作は、『道』『カビリアの夜』『天地創造』『バラキ』『セルピコ』『キングコング(1976)』のディノ・デ・ラウレンティス
イタリアの大プロデューサーである。
製作総指揮は、『道』『軽蔑』『ドクトル・ジバゴ』『ひまわり』『カサンドラ・クロス』のカルロ・ポンティ
この人も大プロデューサーだ。
主演は、オードリー・ヘップバーン
ファンの人には申し訳ないが、僕は彼女にはほとんど興味がないので、今までに彼女の出演作は1本も見たことがないと思う。
それから、『史上最大の作戦』『西部開拓史』のヘンリー・フォンダ
あと、『史上最大の作戦』『ローマ帝国の滅亡』のメル・ファーラー。
物語は、この3人を軸に進む。
共演は、『ガンジー』『ハムレット(1996)』のジョン・ミルズ、『スパルタカス』『エル・シド』のハーバート・ロム等。
音楽は、『道』『カビリアの夜』『サテリコン』『太陽がいっぱい』『ロミオとジュリエット(1968)』『ゴッドファーザー』『ナイル殺人事件』の巨匠ニーノ・ロータ
撮影は、『ナイル殺人事件』のジャック・カーディフ
スタッフ、キャストを見ても、大変気合いを入れて作った作品であることが分かる。
カネも掛かっている。
何だかんだ言っても、昔の大作映画はスゴイよ。
今なら全部CGになるところを、実際に物量作戦で撮ってしまうんだから。
本作はヴィスタ・ヴィジョン方式で撮影されている。
画質は、60年前の映画とは思えないほど良い。
勇壮なテーマ曲で始まる。
舞台は19世紀初頭のロシア。
本作は、ロシアの話しなのに、セリフは英語である。
従って、登場人物の名前も英語式に呼んでいる。
まあ、仕方がないこととは言え、不自然である。
そう思うのなら、ソ連版を見ればいいのだが…。
フランスではナポレオンが台頭。
進歩的な青年ピエール(ヘンリー・フォンダ)は、フランス革命を成し遂げたナポレオン(ハーバート・ロム)を尊敬していた。
本作は、ロシアの物語なので、当然ながらナポレオンは不倶戴天の敵である。
今の日本で言えば、SEALDsが安倍を尊敬するようなものである。
そんなこと絶対にあり得ないだろ!
安倍を崇拝するヤツらは全員ファシストだ!
いかん、興奮してしまった。
違うな、ポイントは「革命」だ。
僕も、革命を成し遂げた人物なら尊敬する!
万国の労働者よ、団結せよ!
冒頭、モスクワで行なわれているパレード。
ものすごい人と馬の数である。
そして、街はチネチッタに作られたセットなのだとか。
信じられん。
ピエールが親しくしているロストフ伯爵家では、長男が出征するところであった(彼の結末はあっけない)。
母親である伯爵夫人は悲しんでいる。
「お国のために」なんて言うけれども、残された家族は悲しいに決まっている。
僕の高校の同級生は筋金入りの軍国少年で、大学卒業後、職業軍人になったが、お母さんは泣いていたよ。
戦争を美化しているネトウヨは、ちゃんと自分の身に置き換えて考えてみた方がいい。
それはさておき、ピエールはロストフ家の娘であるナターシャ(オードリー・ヘップバーン)を気に入っていた。
と言っても、大分年齢が離れているので、恋仲という訳ではない(まあ、ラストで全てをブチ壊すのだが)。
ニコラスの出征を見送ったピエールは、道楽者の友人の家でパーティ。
窓ガラスを壊し、窓枠に立ったまま、ウォッカを瓶で一気飲みするとか、昨今の大学生の親御さんが見たら卒倒しそうな乱痴気騒ぎ。
まあ、こんなのは無茶だが、酒の飲み方は知っておいた方がいいよ。
僕は18歳からの飲酒解禁に賛成だ(痔民党の案だけどね)。
何でも禁止すりゃいいってもんじゃない。
大学生なら皆、酒くらい飲んでいるんだから。
また、話しが逸れた。
で、ピエールの無二の親友アンドレイ(メル・ファーラー)が、ピエールの父親が危篤だと知らせに来る。
ピエールは婚外子なのであった。
貴族の人間関係は複雑だ。
僕みたいな庶民には、よく分からん。
ピエールは、父の遺言で正式に相続人となり、伯爵となる。
アンドレイは、病弱な妻と険悪で、早く戦場へ出たがっていた。
平和主義者であるピエールとの対比。
アンドレイは妊娠した妻を田舎に預け、戦争に入った。
伯爵になったピエールは、クラーギン公爵の派手な娘ヘレーネ(アニタ・エクバーグ)に誘惑され、彼女と結婚することになる。
無邪気なナターシャは、戦場での将兵の活躍を夢見ながら、絵を描いている。
アンドレイの指揮官はいい加減なオッサンだったが、後にこのいい加減さが活きて来る。
そして、大戦闘シーン。
アンドレイは足を撃たれて負傷する。
結果は散々な敗戦。
休戦条約が結ばれ、将兵はモスクワへ帰って来た。
ナターシャの兄も、かろうじて逃げ帰って来る。
アンドレイが足を痛めて帰って来た頃、ちょうど妻は臨月であった。
だが、彼女はお産で死んでしまう。
まあ、この辺までは、物語は淡々とあらすじのように進む。
いまいち起伏がないので、面白みに欠ける。
まあ、長編小説を映画の枠に収めるのは大変だろうが。
とは言っても、3時間半位あるけどね。
さて、ピエールの嫁のヘレーネは遊びまくっている。
彼は苦しんでいた。
ピエールはタチの悪い友人に酒席で侮辱されて、決闘を申し込む。
この時代には、未だ決闘の習慣があったんだな。
バリー・リンドン』みたいだ。
どうでもいいが、ロシアでは、乾杯した後、グラスを投げる風習があるのか。
で、決闘には勝ったが、結局、ピエールは派手好きな嫁と別居することになる。
彼はモスクワを出て、ナターシャの一家と田舎へ行くことにした。
ピエールはナターシャの姿を見ることだけを慰めとしていた。
田舎では、優雅な狩りのシーンもある。
ナターシャは初めての舞踏会に参加した。
そこでアンドレイと踊り、「彼と結婚したい」と思う。
それはいいのだが、この後の彼女の行動の軽薄さは異常。
このヒロインには、全く感情移入出来ない。
古典文学に出て来る女性は、どうしてこうも思慮が足りないのか。
アンドレイは、プロシア和平使節団へ行くことになり、「1年間待っていてくれ」とナターシャに言い残す。
ある日、ナターシャはオペラを観に行った。
どうでもいいが、オペラのパンフレットはロシア語で書かれている。
話しているのは英語なのに。
で、オペラの席に偶然来ていたヘレーネの兄が、ナターシャを口説く。
こいつが、とんでもないチャラ男で、反吐が出そうなのだが。
最初は拒んでいたナターシャも、彼から強引にキスを奪われて、あっさりと恋に落ちる。
何なの、これ?
しかし、実はこのチャラ男は既婚者であった。
ある晩、秘かに彼と駆け落ちしようとしていたナターシャを、ピエールが止めに来る。
ナターシャは泣き崩れるが、自業自得。
噂はモスクワ中に広まっていた。
アンドレイは負傷して戻って来るが、ナターシャに対しては許せない思いが渦巻く。
そりゃそうだろう。
「どうぞ許して」と黒い涙を流すナターシャ。
泣きゃいいと思っているのか。
これだから女は…(以下、自主規制)。
休戦が終わる。
アンドレイは、ナポレオンにロシア皇帝からの手紙を届ける役目を与えられる。
ナポレオンは、気ままな暴君として描かれている。
日本では英雄として伝えられるナポレオンだが、立場が変われば見方も変わるということだ。
ネトウヨにとって英雄である安倍が、実際は気ままな暴君であるように。
ナポレオンが進撃して来た。
決戦の時は迫る。
平和主義者のピエールも、モスクワを出て、戦場のアンドレイを訪ねる。
今の日本も、政府は「徴兵制など絶対に導入しない」と言っているが、そんなもん、いざ戦争が始まったら簡単に覆されるからね。
政治屋の「絶対」ほど当てにならん言葉はない。
浪速のヒトラーを見てみろ。
まあ、いいや。
さあ、これからどうなるだろうか?
クライマックスの戦闘シーンのスケールはスゴイ。
超俯瞰で、あちこちの軍隊の動きをワン・ショットで収めている。
黒澤明もビックリだ。
何でも、戦闘シーンのエキストラは1万5000人のエキストラだとか。
でも、ソ連版の『戦争と平和』は12万人のエキストラというから、どんなもんだろう。
本作は、戦争の悲惨さを描きたかったのだろうから、戦闘シーンにリアリティがなければ、全く説得力がなくなってしまうが。
いやあ、立派なもんです。
雪の行軍は『八甲田山』のよう。
撮影は大変だっただろう。
それにしても、この長い映画に「休憩」はないのか。
本作は、原作を全く読んだことがなくても、充分に分かり易く作られている。
ただ、全編を貫くメロドラマ調がなあ…。
ラストなんか、ホントにヒドイよ。