『バンド・ワゴン』

この週末は、ブルーレイで『バンド・ワゴン』を見た。

1953年のアメリカ映画。
監督は、『巴里のアメリカ人』のヴィンセント・ミネリ
脚本は、『踊る大紐育』『雨に唄えば』のベティ・コムデンアドルフ・グリーン
製作は、『イースター・パレード』『踊る大紐育』『巴里のアメリカ人』『雨に唄えば』のアーサー・フリード
主演は、『イースター・パレード』『タワーリング・インフェルノ』のフレッド・アステア
共演は、『雨に唄えば』のシド・チャリシー
要するに、同じようなスタッフ、同じようなキャストで、同じような映画を作っていたということだな。
MGM、テクニカラー、スタンダード・サイズ。
華やかで優美な音楽から始まる。
ロサンゼルスでオークションが行われている。
かつて一世を風靡した映画スター、トニー・ハンター(フレッド・アステア)の私物がオークションに掛けられる。
しかし、買い手は付かない。
落ち目感が漂う。
大陸横断特急の車内、食堂車(バー)での客同士の会話。
公然とトニー・ハンターの悪口が語られている。
本人が乗っているのに、誰も気付かない。
同じ列車にエヴァ・ガードナーが乗っていて、そちらの方は大騒ぎされていると言うのに。
余談だが、当時の大陸横断特急の車内は立派だ。
コンパートメントも、開放車も、素晴らしいシートである。
そして、ポーターは黒人だ。
非常に階層性が透けて見える。
さて、落ち込んでいるトニーを、旧知のレスター(オスカー・レヴァント)とリリー(ナネット・ファブレイ)のマートン夫妻が出迎える。
彼らは脚本家であった。
今度の新作はトニーを主演に起用し、演出は新進気鋭のジェフリー・コルドバ(ジャック・ブキャナン)であった。
トニーは、コルドバなんて演出家は知らないので、あまり気乗りがしない。
でも、マートン夫妻は、コルドバを「天才」と持ち上げる。
トニーは、昔の栄光にすがっている。
遊技場へ行くと、貧しい子供が物乞いをしてくる。
靴磨きは黒人。
格差社会だ。
この時代にポラロイド写真があるのには驚かされる。
トニーとマートン夫妻は、コルドバ演出の『オイディプス王』の舞台を観に来た。
この後、明らかになるが、コルドバというのは、スノッブな古典マニアである。
オイディプス王』も、原作はギリシア語なのに、英語で演じるのが気に入らないほど。
終了後、彼らは楽屋に挨拶に行く。
マートン夫妻には挨拶するコルドバだが、かつての大スター・トニーには全く気付かない。
マートン夫妻がコルドバに舞台のプロットを説明すると、「それは現代版ファウストだ!」と興奮するコルドバ
そして、ミュージカル・コメディ用の脚本を書き直すよう二人に指示する。
コルドバは、マートン夫妻の話しを全く理解していない。
更に、「コメディじゃないならぼくはお呼びでない」と出演を渋るトニーに、「古い栄光にしがみつくな」とシェイクスピアまで持ち出して説得。
「それがエンターテイメントだ(ザッツ・エンターテインメント)」だって。
結局、トニーがファウストコルドバが悪魔、それにバレリーナを付けようと言う。
いよいよトニーは気が進まない。
古典とエンターテインメントの融合。
一見、立派なように見えて、本作はそれを批判的にとらえている。
まあ、僕も古典趣味だから、一概に否定はしないけど、難しいね。
振付師はポール・バード(ジェームズ・ミッチェル)であった。
曲は、ソング・ライターでもあるマートン夫妻が書く。
「歌える大女優を探している」というので、ポールは自分の恋人であるガブリエル・ジェラルド(シド・チャリシー)を推す。
コルドバは、スポンサーを集めて、新作の概要を説明している。
それは、マートン夫妻が持って来た脚本とは、全く違っていた。
完全に深刻で仰々しい古典になっている。
まあ、僕も高校の文化祭で『リア王』をやった時、「シェイクスピアなら優勝出来る」という下心があったのも事実だが。
で、コルドバがスポンサーを説得している部屋の外で、ガブリエルとトニーが偶然出会う。
自分のことを彼女が知っていて喜ぶトニーだったが、彼女は「博物館で見た」という。
ガッカリするトニー。
二人はささいなことでケンカをして、決裂。
一方、コルドバはスポンサーをうまく説得し、振付はポール、作家はマートン夫妻、主演はトニー・ハンター、共演はガブリエルということに決定した。
さて、いよいよリハーサルが開始される。
ガブリエルはトニーを嫌っている。
コルドバの演出は独断専行。
いよいよトニーはブチ切れる。
「来る日も来る日もリハーサル。僕はマーロン・ブランドじゃない。この子(ガブリエル)にバカにされた。ウンザリだ!」と言って、出て行く。
さすがに、ガブリエルはトニーの部屋に謝りに来る。
で、色々あって、「一緒に踊りましょう」となる。
『バンド・ワゴン』というのは、この新作舞台のタイトルである。
何とか初日にこぎつけたが、結果は見るも無惨な「大失敗」。
古典は現代人には受けないのか。
「『ファウスト』は止めて、『天路歴程』に」という声も出る。
メンバー達は話し合い、最初とは全然違う、アメリカンな舞台を作ることになった。
後半は、ずっとその舞台の様子である。
前半は面白かったんだけど、後半は何だか冗長で退屈。
この手のミュージカルはいつもそうだが、ラストはご都合。