『疑惑の影』

この週末は、ブルーレイで『疑惑の影』を見た。

1943年のアメリカ映画。
監督は、『私は告白する』『裏窓』『泥棒成金』『ハリーの災難』『間違えられた男』『めまい』『北北西に進路を取れ』『サイコ』『鳥』『フレンジー』『ファミリー・プロット』のアルフレッド・ヒッチコック
音楽は、『我が家の楽園』『スミス都へ行く』『私は告白する』『ナバロンの要塞』『ローマ帝国の滅亡』のディミトリ・ティオムキン
主演は、テレサ・ライトと、『第三の男』『トラ・トラ・トラ!』のジョゼフ・コットン
ユニバーサル、モノクロ、スタンダード。
華やかな音楽。
謎の男チャーリー・オークリー(ジョゼフ・コットン)が自宅のベッドにスーツを着たまま、横になっている。
立派なスーツである。
ベッドの周りに紙幣が散らばっている。
体調が悪そうだ。
黒人のお手伝いが、「客が二人来たが、帰ってもらった」と告げる。
しかし、窓から覗くと、男が二人、家の前で張っている。
チャーリー・オークリーは「証拠はないはず」とつぶやき(ツイッターではない)、出掛ける。
先の二人の男が後を追って来る。
チャーリー・オークリーは、カリフォルニア州のサンタ・ローザという町に住んでいるニュートン夫人に電報を打つ。
当のニュートン家の電話がなる。
こまっしゃくれた女の子が電話にでる。
彼女は読書に夢中なので、電報の文章を書き取るのを面倒臭がり、「後から掛け直す」と言って電話を切る。
彼女は、クソガキなのに、『アイヴァンホー』なんぞを読んでいると。
この家の長女チャーリー(テレサ・ライト)が、何だか両親にグチをこぼす。
「チャーリー叔父さんに電報を打ちに行く」と言って、出掛ける。
入れ違いに彼女の母(つまり、ニュートン夫人)が電話で電報の内容を確認する。
「チャーリーが来るって!」
チャーリー・オークリーは、ニュートン夫人の末の弟であった。
つまり、この家の長女チャーリーから見れば、叔父に当たる。
姪のチャーリーは、同じチャーリーという名前なので、叔父に非常に親近感を持っていた。
擬似恋愛かと思ってしまうほどである。
まあ、しかし、ここまでは単なる導入だ(詳しく書き過ぎたが)。
サンタ・ローザの駅まで、ニュートン氏が子供達と一緒に、叔父チャーリーを迎えに来る。
車内(一等車)でも、叔父チャーリーは体調が悪かった。
ニュートン氏に遅れて、姪チャーリーが駅に着く。
叔父チャーリーと再会。
叔父チャーリーは、先程までとは打って変わって、元気である。
仮病だったのか。
ニュートン家へ。
この家の人達に贈り物をしまくる叔父チャーリー。
実に気前が良いようだ。
姪チャーリーには、エメラルドの指輪を送る。
指輪の裏に、何かイニシャルのようなものが彫ってあることに、姪チャーリーが気付く。
でも、叔父チャーリーは「指輪屋に騙された」と言うだけで、意に介さない。
これが、実は後の重要な伏線になる。
と言うよりも、本作の前半は、後半のための伏線だらけ(だけ?)である。
叔父チャーリーは、新聞を読んで何かの記事を見付ける。
これをごまかすために、姪チャーリーの妹に、新聞紙で下手な工作を披露したりする。
そして、件の記事は破り取ってしまった。
姪チャーリーは、新聞記事が切り取られていることに気付くが、叔父チャーリーは「何でもない!」と、色をなして怒る。
何だかよく分からないが、叔父チャーリーには、何か秘密にしておきたいことがあるようだ。
政府の調査員と称する二人組の男が、ニュートン家の住人にインタビューをしたいと言って来たらしい。
インタビューが嫌いな叔父チャーリーは、「そんなものは断ってくれ」と言う。
ニュートン夫人が、叔父チャーリーの昔のことを姪チャーリーに語る。
彼は子供の頃、自転車で市電に衝突したのだとか。
翌日、ニュートン氏の勤める銀行に、現金4万ドル(!)を持って口座を作りに行く叔父チャーリー。
彼は銀行が嫌いらしく、タチの悪いジョークを連発して、ニュートン氏を困らせる。
チャーリーがニュートン家へ戻ると、政府の調査員が来ている。
叔父チャーリーが泊まっている部屋に入って、写真を撮る。
明らかに、何かを探っているようだ。
更に、叔父チャーリー本人の写真も無断で撮る。
叔父チャーリー、激怒して「フィルムを渡せ!」と言う。
調査員は、姪のチャーリーからも何かを聞き出そうとする。
彼らは、実は刑事であった。
叔父チャーリーが、ある事件の容疑者になっているらしい。
刑事は、姪チャーリーに、このことを口止めする。
だが、姪チャーリーは信じない。
彼女にとっては、叔父は理想の存在であり、犯罪に手を染めることなど、あり得ないことなのであった。
しかし…。
ここまでが前半。
ここから、謎解きが始まる。
話しはゆったりと展開する。
これ見よがしなシーンはない。
心理戦である。
これを戦時中に撮ったアメリカはスゴイ。
ネタバレになるが、叔父チャーリーが死ぬシーンが強烈だ。
おそらく、当時この映画を観た人は皆、衝撃を受けただろう。
余談だが、叔父チャーリーは、ブタのことを「swine」と言っている。
ゲルマン語由来の単語で、「このブタ野郎!」みたいなニュアンスがある。