ドイツ語を学ぼう

ドイツ語を学ぼう
高校時代、僕はフランス映画に憧れていました。
大学に入学してから第二外国語でフランス語を選択しましたが、授業に最初の1時間出ただけで挫折。
覚えたのは、アルファベの発音と、セシールのCMの最後に流れるボソボソとした文言(言えますが書けません)だけ。
数年後、今度は通信制大学(日大)でドイツ語を学びます。
発音が全くわからないので、初心者向けの辞書を引きながら、カタカナ発音をテキストの全ての単語の下に一つ一つ書き込んで行きました。
そして、英語よりもはるかに複雑な文法に悪戦苦闘。
ご存知の方も多いでしょうが、ドイツ語には名詞の性が三つあります。
それぞれの名詞に男性・中性・女性の区別があり、性別によって付く冠詞が違うので、名詞を覚える際は性別も一緒に覚えなければなりません。
それから、格変化というのがあります。
日本語の「〜が」「〜の」「〜に」「〜を」に対応して、冠詞の形が変化します。
三つの性別と複数形のそれぞれに四つの格変化があるので、計16通りの冠詞のパターンを覚え込まなければなりません。
さらに、主語によって動詞が活用します。
一人称、二人称、三人称に、それぞれ単数、複数があるので、合計6通りに動詞の語尾が変化するのです。
同じゲルマン語系の英語にも「三単現のs」なんていうのが残っていますが、これが6パターンあると思って下されば良いでしょう。
当初は、こういった複雑な文法を理解出来ず、レポート1本を仕上げるのにも大変な苦労をしました。
しかしながら、高校時代からドイツ語を学んでいた友人(現・細君)に、夕食をごちそうして教えてもらい、何とかレポートを提出出来たのです。
その後、スクーリングで3人の先生方にドイツ語を教わりました。
独学で全く分からなかった箇所も、先生の説明により、パッと視界が明るくなります。
ドイツ留学から戻って来られたばかりの若い女の先生、独和辞典や教科書なども執筆されているようなベテランの先生など、日大の先生は皆さん素晴らしく優秀な方々でした。
こうして、ドイツ語の成績は全て「A」を修めることが出来、細君と先生方には本当に感謝しています。
けれども、初歩文法を少しかじった程度では、すぐに忘れてしまうのです。
現在の日本では、英語は街中に氾濫していますが、ドイツ語に触れる機会というのは皆無に等しいでしょう。
でも、外国語は英語だけではありません。
ドイツ語を学ぶことによって、英語も数多くの言語の中の一つに過ぎないことがよく分かりました。
にもかかわらず、昨今の日本における英語偏重は異常なものがあります。
大学においても、近頃は第二外国語が必修ではないところが増えているようです。
いや、それどころか、語学そのものが選択制の大学もあると聞きます。
日大の先生も「ドイツ語教師の仕事がどんどん少なくなっている」と、嘆いていらっしゃいました。
かつての旧制高校では、ほとんどの学生がドイツ語を学んだのです。
とりわけドイツ語が第一外国語である「文科乙類」では、週に10時間近くもドイツ語の授業がありました。
学生たちは、単に授業で習うのみならず、原書でゲーテニーチェを読破したといいます。
いや、そこまで昔に遡らなくても、僕の細君も、大学のドイツ語の授業では、『ツァラトゥストラ』を原文で読んだそうです。
ところで、僕は今でも時々、NHK教育テレビの語学講座を見ていますが、この番組の堕落ぶりは本当にヒドイですね。
以前は、大学で第二外国語を学んでいる学生に合わせて、きちんと基礎から文法を教えていました。
それが、今や簡単な会話のフレーズを並べるだけで、後は延々と観光地の紹介をするような、語学の習得には何の役にも立たない、ただ海外旅行の下準備をするだけの番組に成り下がってしまったのです。
フランス語はオシャレなイメージがあって相変わらず女性に人気ですし、中国語や韓国語は、昨今のアジア・ブームの影響か、違う意味で持てはやされていますが、ドイツ語は堅苦しくて人気がありません。
このままでは、日本からドイツ語学習の灯が消えてしまいます。
こんなことで良いのでしょうか(いや、良くない)。
そこで僕は、ドイツ語の学習を、もう一度ゼロからやり直すことにしました。
今まで何回もそう思い立っては挫折して来ましたが、今年は本腰を入れて、毎日学習に取り組みます。
僕は、どうしても旧制高校生のように、ゲーテを原書で読んでみたいのです。
基礎文法の復習から始めて、目標達成はどれくらい先になるか分かりませんが、頑張ります。
『関口初等ドイツ語講座
【上巻】
2013年1月7日に始めた『関口・初等ドイツ語講座(上巻)』を、3月4日にようやく読了しました。

CD付 関口・初等ドイツ語講座〈上巻〉

CD付 関口・初等ドイツ語講座〈上巻〉

平日は毎日2時間ずつ本書に取り組みましたが、ほぼ2ヵ月掛かったことになります。
当初は1ヵ月くらいで終了するつもりでしたが、全ての単語を辞書で引いて単語ノートを作り、全ての例文をノートに書き出しながら進めたので、思いのほか時間が掛かりました。
けれども、英語と違って普段全く触れる機会のないドイツ語を初歩から学ぶのですから、時間が掛かるのは仕方がありません。
さらに、通勤の電車の中でもテキストを読み、付属のCDも自宅で繰り返し聴きました。
付録のCDの吹込者はHans-Joachim Knaup氏。
落ち着いた男性の声で、発音は明瞭ですが、収録されているのが、最初の「発音」の章を除いて、読本部の例文だけというのが残念です。
本文中にも、文例など、音声が必要な箇所はたくさんあります。
CDの収録時間は34分38秒で、容量にはまだまだ余裕があるのですから、改善出来ないものでしょうか。
しかし、昔はCDなど付いていなかったのだから、贅沢を言ってはいけませんかね。
本書は、ドイツ語の神様・関口存男先生による入門書です。
初版は何と1956年(82年に改訂)。
半世紀以上も生き残って来た本です。
1956年と言えば、新制大学発足からまだ数年。
大学進学率が10パーセント台の時代です。
関口先生は当然、旧制の教育(上智大学哲学科卒)を受けているので、この本には旧制の空気が残っています。
50分授業が週4回の旧制高校(文科甲類)と、90分授業が週2回の新制大学では、ドイツ語の授業時間数自体は大差ありません。
通常、新制大学の1年生では、文法と読解の授業を並行して行います。
本書には、文法の解説と読本が織り交ぜられているので、この本の「初級」は、新制大学発足当初に目標とされた大学1年生のレベルと言えるでしょう。
単語だけは、「よく使う4〜500語のみを何度も何度も繰り返し登場させる」という方針のため、初級(独検3級)レベルと言われる約1500語には足りませんから、他で補う必要があります。
旧制高校では、アルファベートを習った次の時間からショーペンハウエルの原書を読んだそうです。
さすがに、それは伝説だとしても、先日ネットで読んだ旧制第一高等学校(現・東京大学教養学部)文科乙類(ドイツ語が第一外国語のコース)出身の方の文章によると、一高では、文法の授業は1〜2ヵ月で終わり、1年の夏休みには、もうヘルマン・ヘッセの『車輪の下』やテオドール・シュトルムの『みずうみ』などを原書で読んだといいます。
スゴイですね!
もちろん、一高の文乙はドイツ語の授業が週10時間もあったので、それくらいの短期間で文法を終えることは可能かも知れません。
そして、在学中にゲーテの『ファウスト』やカントの『純粋理性批判』なども原書で読破したそうです。
今なら大学院レベルではないでしょうか。
それはさておき、現在の日本では、おそらく本書より中身の濃い初級講座はないと思います。
従って、本シリーズをマスター出来れば、新制大学の1年生に本来想定されていた「初級」レベルの上限に到達出来るはずです。
内容は、英語で言えば『英文法講義の実況中継』(語学春秋社)と『ビジュアル英文解釈』(駿台文庫)を合わせたような感じであり、口語調で大変分かりやすくなっています。
何よりも、この本には、著者の明確な哲学が感じられるのです。
それがはっきり分かる部分を、以下に「序言」から少し引用しておきましょう。
まずは、1巻ではなくて全部で3巻もある理由です。

簡単にまとめた1冊の入門書は、数えられないほどたくさん出ていますが、正直に批評すると、そんなものはみんな子供だましです。1冊になっていると、定価も安く、早くカンタンにドイツ語がわかるような錯覚が生ずるものだから、その錯覚を利用して大勢に買わせようというのが狙いで、つまり「商策」です。現に商売人にきくと、良い悪いに関係なく、3冊物よりは1冊物の方がよく売れるそうです。

最近は、これよりももっとひどい状況に陥っているのではないでしょうか。

もっとも、広い世間には、あんな程度の「取っつき易い」本でないと歯の立たない程度の人達が大勢いるのでしょうから、あれはあれでもよいのだとは思いますが、しかし、本当は、1冊物などで1つの語学の基礎が得られるものではありません。1冊物というのは、極端にいえば、つまりちょっと食いついて見てすぐまた止してしまう人達にピントを合わせてアレンジしたものです。本当に物にしようとする人は、どうせまた別な本を買ってやり直さなければならないのです。

かなりの毒舌ですが、真実ですね。
次に、ドイツ語の基礎を叩き込むために文法を重視しています。

まず本講座の特徴を端的に一口でいえば、終始一貫した1つの力強い線に沿って行われる基礎訓練です。具体的にいえば、『文法』の基礎を習熟させる。それだけです。それ以外には何の副目的もない。その代り、文法の基礎を叩き込むという点では、考え得る限り最も有効な方法を取っています。

それから、基礎単語の徹底反復の重要性を訴えています。

ほんとうに初めてドイツ語をやり出す人をつかまえて、一時もはやく見当がつくようにしてやるにはどうしたらいいか? それは、すぐにABCDの字を叩き込み、次に語の発音をおしえ、発音がわかったら(不完全でもよろしい!)次にはすぐに、男とか女とか子供とか家とか本とか木とか道とか、「置く」とか「行く」とか「眠る」とかいった四、五百の基礎単語を何度も何度も繰りかえしながら、それらの結合法(すなわち文法!!)を叩き込むことです。すなわち、右も見ず、左も見ず、馬車馬的に文法の一本道を引っぱって行くことです。

単語の数は絞ってありますが、なるべく機会を設けて単語を覚えさせようという工夫は随所に見られます。
1982年に本書を改訂したのは、著者の孫である故・関口一郎氏です。
一郎氏は「改訂の序」で次のように述べています。

私自身本書を再読し、存男の文法解釈及び「序文」で述べている本書の方針は現在でも妥当なものであり、祖父が存命していたとしたなら、現在でも同じような入門書を書いただろうと思い、次のような基本方針のもとに改訂の仕事に着手したわけです。
改訂の対象とした主なものは、日本語の表記、仮名による発音表記、ドイツ語の例文とその日本語訳です。日本語については存男の文体を損わぬように注意する一方、現代日本語として耳なれぬ表現をなおし、漢字と送り仮名についても現代表記にあらためました。(中略)しかし存男が意図して挙げた人生論的な内容の文例についてはあまり手を加えることはしませんでした。

最初は、「字体について」から始まります。
ドイツ語の字体には、ドイツ文字とラテン文字があるのですが、関口先生の解説を見てみましょう。

しばらく前までは、ドイツ古来のドイツ文字の方が多く用いられていましたが、現在では、特殊な場合を除いては、英語やフランス語と同じラテン文字しか使われなくなりました。それで、本講座では、(ことに根本方針の文法一路という線と、地面の凹凸をできるだけ少なくするという主義の線に沿って)英語などと同じラテン文字の方を用いて行きます。
ただ、ドイツ文字を全然知らないでは、ドイツ本国で発行される書の中にはドイツ文字のものもあるかも知れませんし、図書館の蔵書にはドイツ字体の古書も多いので、皆さんの専門によっては一大支障を来たすことにもなります。それで、ドイツ字体の読み方に関して注意する点を巻末にまとめておきました。

ドイツ文字など、昨今の安直なテキストには載っていないことの方が多いのですが、「皆さんの専門によっては一大支障を来たすことにもなります」というところに、関口先生の学生思いな人柄が表れています。
本当に、本書には、あちこちに関口先生の人柄がにじんでいて、例えば、「発音の部」の冒頭の言葉は次の通りです。

まず、どう発音するか?これが大問題です。まだまだ意味どころの騒ぎではありません。この発音の部には、数多くの単語が出て来ますが、それらはべつに全部暗記せよというのではなく、単に発音を説明するための手段にすぎません。しかし、自然に覚えられるものは10でも20でも覚えていけば、あとで助かります。

発音は、全てカタカナで表記されています。
その理由は、次の通りです。

幸いな事には、英語やフランス語にくらべると、ドイツ語の発音は非常に容易で、仮名を頼りに覚えても、結構ドイツ人と話ができるのです。まだ1度もドイツ人と話をした経験のない人ですら、仮名で覚えたドイツ語の発音をそのまま振り回せば、たとえば万国音標文字で厳密に発音を習った人などと比べて、結果においては何の差も生じません。

ここから、具体的な発音の説明に入りますが、これが実に見事です。
白眉なのは「ach-Laut」の発音の解説でしょう。

まずこのach!の発音を練習して見ましょう。――近頃はドイツ映画も種々上映されるようになりましたから、都会に居られる方は、少し注意しておいでになればドイツ人の発音を直接に研究することができます。たとえ大部分は何をしゃべっているのだかはわからないにしても、このach!などはよく聞き取れます。たとえば楽屋で女優さんが顔作りをしている。そこへ召使いが花束を届けに来る。女優はそれを受け取って、「誰なの?」と問う。召使いは「そこに名刺が付いております」という。いわれて女優は花束に付いている名刺を一目見る。彼女の無心な態度はたちまち一変し、まず花束を抱くようにして胸に押しつけながら、深く息を吸って胸をふくらませ、さてあこがれの瞳を天に向けてその次に何というか? Ach!という。

「Rの発音」については、こんな感じです。

日本人にとって1番やさしいのは舌端を振動させる、いわゆる江戸っ子の巻き舌です。これなら東京の下町に生れた人には大抵できるはずです。「何だってべらんめえ…」というときの「ベランメー」は、ドイツ語に移せば正にberammeh!(或いはbärammäh!の方が近いかも知れません)で、そのうちに段々と酔いが回って来て、クルッとケツをまくって、手拭いを左肩へほうり上げ、右拳でヒョイと鼻をこすってベランメー!とどなるときには、berrammeh!と、rは相当景気よくふるえるでしょう。皆さん、ちょっとやってみませんか?

まるで、関口先生の生講義を受けているようですね。
時々脱線し過ぎて、とんでもない方向へも行ってしまいますが。

喉の奥の何がふるえるのか、という事もついでに述べておきましょう。アーといって大きく口をあけると、喉の奥に、俗に„のどひこ“とか„のどちんこ“とかいう、変なものがブラさがっているでしょう?風邪を引いたときに、例のイヤな茶褐色の薬をグイと塗られてゴホン・ゴホンとやるじゃありませんか。あの時にはこの„のどちんこ“の周辺を薬でなで回されるのです。„のどちんこ“だって何ちんこだって、一体ちんこって奴は繊細かつ敏感ですから、こいつに薬を塗られちゃあやり切れない、誰だってゴホン・ゴホンよとやります。

読本の部は、関口先生も特に力を入れて執筆したようで、第1課の冒頭と末尾で次のように述べています。

同じ単語を何度も何度も繰り返して用いますから、ただ1度読んで通ったきりでもある量の単語は完全に覚えるはずです。こういう風にやりながら、次第に程度を上げて行こうというのが読本部の計画です。常用単語の基礎を作る意味も加味されてあるのですから、読本はほとんど暗記するほど、何度も繰り返してお読み下さい。

読本部が完全に読めたら、それだけでは満足しないで、なおも一歩を進めて、こんどは日本語訳の方を見ながら、原文を思い出しつつノートにでも書いてごらんなさい。そうすると断然自信ができてきます。小生もラテン語を初めてやる時にそうやりました。ラテン語は神田のアテネ・フランセで教わったのですが、校長のCotteさんに認められて、始めてから1年後に、厚顔にもそのラテン語を教える先生になりました。よく勤まったものだと思って、思い出すと顔が赤くなるが、それは、とにかく今いったような方法で勉強したから、中級以上のことは大してわかりもしないくせに、まず初歩だけは相当自信ができてしまったというわけだったのです。この方法は切におすすめします。

所々に挿入されている「休けい時間」という講師と読者のやり取りは、ドイツ語学習のポイントをユーモラスに解説しています。
2箇所ほど引用してみましょう。

講師 (中略)講座の精神とは、「わかる!」というのでは駄目です。わかる講座なんてのはすでに古いですな。
読者 すると、わからない講座が新しいんですか?
講師 そうじゃない。「わかる」講座はもう古いんで、「わかり過ぎる」講座でなくっちゃあ駄目だと思うんですな。
読者 なるほどね。
講師 その意味において私は「まる暗記」をしなくちゃならない方面の事柄は、その量を最小限度に限定しています。単語がまずそういう事柄に属します。どんどんと課が進んで行くにつれて、やっかいになって、結局途中で投げ出すという結果になるのは、要するに覚えきれないからです。多量の単語をぼやぼやっと記憶するよりは、少量の基礎単語が何度も何度も出てきて、読んで行くうちに自然と覚えるといったような方法の方が、こうした初級講座の理想じゃありませんか。

講師 (中略)とにかくマア、つづりというやつだけは克明(こくめい)に覚えて下さい。
読者 つづりを克明に覚えるにはどういう方法を取ったらよいでしょう?
講師 それは自分で書いてごらんになるのが一番いいでしょうね。自分で書いて見るとはっきり覚えていきます。見ていくだけの語学は決して発達しませんよ。――そうかといって、何の目あてもなく、ただ書き取って見るばかりでは興味が続きません。それにはいい方法があります。読本の部を下から逆に練習するのです。すなわち、読本に出てくる独文には、次にその訳がついているでしょう?まず独文が読めたら、それをよく読み直して、ほとんど暗記するほどに口につけてしまいます。その次に、訳文の方を見ながら、テキストの独文を思い出してぼつぼつと書いて御覧になるのです。これにはかなりの努力が要りますが、本講座の独文は他に絶対に例を見ない程やさしくできていますから、そういう風にして和文独訳とつづり方とを練習なさるにはもってこいです。これは切におすすめします。

『ビジュアル英文解釈』の「Home Room」という読み物にあるI先生、G君、R君のやり取りは、間違いなく本書の真似でしょう。
全部で3巻あるので、僕が以前使っていた1巻ものの入門書と比べると、かなり内容が詳細です。
昨今は、ゆとり教育の学生に媚びているのか、「サルでもわかる」というタイトルの薄っぺらい入門書か、旅行会話の本しかありません。
でも、結局は、しっかりした教材の方が身になると思います。
ドイツ語は活用や変化が多いので、薄い本だと単なる表の羅列になり、かえって分かりにくいです。
本書は、「なぜそうなるか」まで掘り下げて説明してくれるので、納得しながら読み進めることが出来ます。
この本は、関口先生の肝の据わり方が並ではありません。
「発音」のコーナーでは、「1人や2人のドイツ人の発音をきいて早合点すると変なことになりますから、ドイツ人の発音をきく人はよく御注意下さい」と、ネイティヴ信仰を一蹴しています。
ドイツ語教育に対して、よほどの確信がなければ、言えることではありません。
確かに、外国人がキム・タクの日本語を正しいと思って真似ようとしていたら、「人格を疑われるからやめなさい」と全力で止めますよね。
しかも、普通の教科書ならほんの数ページで終わる「発音」の章が、何と44ページもあります。
ドイツ語の発音は、英語と違って規則的なので、こんなにたくさんのページは必要ないような気もしますが、これだけあれば、一つの音に対して、幾つも幾つも例語を挙げられるのです。
それも、長年の経験に基づいて、実に合理的に配列されています。
それにしても、何とも濃密な本です。
解説では、古いドイツ語や英語のみならず、時には日本語や漢文、さらにはラテン語サンスクリット語(!)にまで言及しています。
3巻で約600ページと、紙数に余裕がある分、初心者が間違えやすい箇所を懇切丁寧に指摘し、さらに授業中の脱線まで再現されているのです。
例文では、デカルトの「Ich denke, also bin ich(我思う、故に我あり)」が早くも第3課で登場したり、使われている単語も、日常語ばかりでなく、例えば、Wahrheit(真理)、Recht(権利)、Pflicht(義務)など、抽象語も取り上げています。
教養主義の名残りでしょうか。
各講の後にある「定期試験」の問題は、文法定義の説明など抽象的なものが多いので、これは確認程度にして、独訳や和訳に力を入れると良いと思います。
問題が難しかったら、テキストや辞書を参考にしながら解いてもいいでしょう。
と言うより、そうしなければ初心者には歯が立ちません。
読本では、比較的複雑な構造の例文もたくさん出て来ます。
本書の内容は大変信頼出来ますが、稀に誤植もあるので、やはり辞書を引きながら読むべきでしょう。
本書では、「辞書の引き方」にも触れていますね。
例文も面白いです。
著者が愛飲家、愛煙家だったのか、やたらと酒やタバコにまつわる例文が多いですね。
また、哲学科出身だからか、哲学的な例文もたくさんありますし、他にも愉快な例文が多々あります。
特に、愛と金に関係した例文が。
巻末には、定期試験の解答と単語集が付いています。
【中巻】
3月5日から、『関口・初等ドイツ語講座(中巻)』を始めた。

CD付 関口・初等ドイツ語講座〈中巻〉

CD付 関口・初等ドイツ語講座〈中巻〉

上巻と同様、辞書を引き、ノートを作りながら読んでいる。
現時点で、全183ページの内、26ページまで進んだ。
相変わらず、分かりやすい解説である。
最初は形容詞。
僕は、日大通信のスクーリングを受けた時、形容詞までは習わなかったのだが、非常によく理解出来た。
本当に講義を受けているようである。
引き続き頑張ろう。
【追記】
2013年3月5日から読み始めた『関口・初等ドイツ語講座(中巻)』を、5月9日、ようやく読了した。
上巻とほぼ同じ、約2ヵ月で読み終えたことになる。
相変わらず関口先生の語り口は冴え渡り、素晴らしかった。
以下、気付いたことを少し。
CDを、ゆっくりと速くの2回読むのは、単なる尺稼ぎであまり意味がない。
それなら、本文中の例文を読んで欲しい。
ゆっくりと言っても、単に区切って読んでいるだけ。
そして、読むスピードが一定しない。
特に、ゆっくり読む時は、遅かったり速かったり、バラつきがある。
解説は文法中心で、会話などはない。
講義中の文例では、その課の文法事項以外の項目は極力出て来ないように配慮されている。
定期試験は、テキストや辞書を見ながらでないと到底無理。
読本では、複雑な構文や抽象語も意識的に使われているので、ドイツ語の文章を読むことを目指す者にはちょうど良い。
読本のLEKTION10からの逐語訳は、煩雑なだけではないか。
読本は、LEKTION10から突然長く、難しくなる。
LEKTION11では、過去形が登場したからか、早くも物語風の文が現れる。
巻末の「不規則動詞変化表」には、自分で書き込めるように一部が空白になっているが、動詞の3要形は既に印刷されている。
接続法と命令形は、ほぼ空白になっているが、未だ習っていないので、書き込むことがほとんどない。
「口調上のe」が、僕の使っている辞書(『アポロン独和辞典』)では不規則変化扱い、本書では空欄なので、これを入れる程度。
しかし、この一覧表を見ると、まだまだ知らない単語ばかりだということを痛感する。
引き続き、(下巻)に取り組もう。
【下巻】
5月9日から始めて、なかなか思うように進んでいなかった『関口・初等ドイツ語講座(下巻)』であるが、最近、「ドイツ語強化月間」と銘打って、土日も取り組むようにしているので、ようやく132ページまで到達した。
CD付 関口・初等ドイツ語講座〈下巻〉

CD付 関口・初等ドイツ語講座〈下巻〉

ついに、ドイツ語文法の最後にして最大の関門である接続法に突入である。
と言っても、本書は200ページ以上あるので、未だ先は長いが。
僕は、接続法というのは、英語で言うところの仮定法と同じかと思っていたが、事はそう単純ではなさそうだ。
では、これまで本書を進めて来て気が付いたところを簡単にまとめておく。
「定期試験」は、巻が進むにつれて基本的な問題になって来ている。
基本問題でもなかなか出来ないのに、そんな難しい問題は誰も出来ないから、手加減しているのであろうか。
特に独作文は、書いてあるものを読むのと、実際に自分で書くのは違うと、改めて痛感した。
「定期試験」と「読本」は、どちらを先に課すのが良いのだろうか。
本書は「定期試験」の方が先だが、例文だけでは未だ知識が定着していないので、問題を解くのは難しい。
しかし、「定期試験」で確認してから「読本」に進むのが良いのだろうか。
「休けい時間」のコーナーは、「下巻」になると先生が投げやりである。
付いて来られない学生が増えるからだろうか。
下巻になると、読本の頻度が増した。
これくらい複雑な文章になって来ると、確かに「逐語訳」はありがたい。
ただ、読本の逐語訳は、読み直す時に単語が日本語の順番(バラバラ)に並べられていて、非常に見づらい。
古い表現にも配慮してくれているので、古典を読みたいと思っている者にはありがたい。
「定期試験」では本文で解説されていない事項も出て来るので、試験ではなく、そこで覚えるつもりで取り組む。
CDの1回目は、ちっともゆっくり読んでいない。
「休けい時間」はP.99〜103が最後。
LEKTION20辺りから読本の文章が長く、そして難しくなっている。
何とか7月上旬くらいには読み終えて、ゲーテに移りたい。
引き続き頑張ろう。
【追記】
7月1日、ようやく『関口・初等ドイツ語講座(下巻)』を読み終えた。
これで、文法の基本は一通り理解した(習得した、ではない)ので、いよいよゲーテの原書を読み始めようと思っている。
本書を読んでいて、気が付いた点を以下に。
「接続法」は随分きちんと分類して、分かりやすく解説している。
フランス語との比較まで出て来た。
「定期試験」は、練習問題としては全く足りない。
「読本」では、本当に同じ単語を繰り返し登場させている。
LEKTION21(接続法)の注は、さすがにたくさんある。
「数詞」などは、文法の大筋から見れば瑣末な事項だから、接続法の後にまとめてあるのか。
数字については、かなり詳しく載っている。
本書では、「400〜500の基本語を繰り返して習熟させる」とあったが、実際はもっとありそうだ。
この本に出て来る単語を全て覚えれば、かなりの量になりそうだ。
やはり分厚いだけのことはある。
しかも、重要そうなものばかり選ばれている。
第39講「名詞の性に関する細則」は、これまでに知った単語の整理になって、ありがたい。
ちなみに、最後の読み物は、初心者用の本としてはあり得ないことに、訳が付いていないので、パスした。
これからイヤと言うほど原文を読むのだから、いいだろう。
初級独和辞典を選ぶ
ドイツ語学習を始めるに際して、辞書は『アポロン独和辞典』(同学社)を選びました。
アポロン独和辞典

アポロン独和辞典

1972年刊行の『新修ドイツ語辞典』をルーツとする、日本で最も歴史のある学習用独和辞典です(『アポロン』の初版は1994年)。
ポピュラーな初学者用辞典には、他に『アクセス独和辞典』(三修社)と『クラウン独和辞典』(三省堂)がありますが、何でも一番伝統のあるものを選んでおけば、間違いはありません。
辞書は、改訂を重ねる度に改良されるものなので、歴史のある辞書は、それだけ最初のものより改善されていると考えられます。
それに、後発組は、最初に出たものを安易に模倣しているだけということも(『アクセス』や『クラウン』がそうだとまでは言いませんが)。
刊行当時、『新修ドイツ語辞典』は、初学者のための配慮と工夫をこらした先駆的な学習辞典として、広く学習者に迎えられたそうです。
もっとも、教養主義がまだ残っていた70年代の大学では、この辞書を使っているとバカにされたという話もありますが。
その頃の学生は、「木村・相良」や「シンチンゲル」といった上級者向けの辞書を、無理して使っていたようです。
それはさておき、『アポロン独和辞典』の見出し語は約5万語。
これは、『アクセス』の約7万3500語、『クラウン』の約6万語と比べて少ないですが、そもそも初学者用の辞書にそんなにたくさんの語数は必要ないと思います。
初級の教科書にそんな難しい単語が出て来るはずはありませんし、仮に出て来ても、注が付いているはずですから。
初学者用の独和辞典は、英語で言えば、中学生用(『初級クラウン』『ニューホライズン』など)と高校生用(『クラウン』『アンカー』『ライトハウス』など)の辞書を合わせたようなものです。
通常、第二外国語は週2コマで2年間。
1年目に文法を習い、2年目に文章を読むというのが一般的です。
この程度では、そんなに高度な単語は出て来ません。
あっても、固有名詞くらいです(それならば、大抵は教科書に注が付いています)。
大学2年修了程度とされている独検3級でも、語彙は1500語レベルなのですから。
僕の細君は学生時代、第一外国語として3年間、ドイツ語を学びましたが、辞書は前述の『クラウン』1冊で事足りたそうです。
ドイツ語は複合語が多いので、ほとんどの場合、辞書に載っていない単語も、分解すれば意味が分かるようになっています。
まあ、独文科で文学作品を読むとなれば話は別ですが、その時は、もっと上級者向けの辞書を買い足せば済みますから。
アポロン』は、重要語を赤色で示しています(現在の二色刷りの辞書はみんなそうですが)。
これが、学習の初期段階で最も重要と思われる約500語には星三つ、さらに次の段階で重要と思われる約500語には星二つ、それに次いで重要な約900語には星一つ、その他に一般的に使用頻度の高い約3500語は星なしと分けられていますが、そんなに細かく分類する必要はないでしょう。
せいぜい、教養課程で必要な語と、専門課程で必要な語の2段階くらいで十分なのではないでしょうか。
そして、これは初学者向け辞典の特徴なのかも知れませんが、活用や変化形などもいちいち見出し語として扱われています。
ドイツ語は非常に変化が多いため、文法を全部終えていない初学者は辞書を引くのが難しいのですが、これのおかげで探している語を大変見付けやすくなっているのです。
特に重要な語は、見出し語の下に変化形が一覧表で掲載されています。
発音は、原則として全ての見出し語について、仮名で表記。
また、基本的な単語の代表形、重要語などについては発音記号による表記も併用しています。
初学者向けの辞書でも、『クラウン』は重要語のみ仮名発音なので、本書の方が取っ付きやすいと言えるでしょう。
訳語の理解を助けるために、重要語には「英語同意語」が示されています。
ドイツ語は英語と似ている語が多いので、これは本当にありがたいです。
英語を見ると、そのドイツ単語の大体のレベルが分かりますから。
こうして考えると、中学・高校で英語を習った後に、大学で第二外国語としてドイツ語またはフランス語を習うというのは、実に理にかなっていますね。
ドイツ語は英語と同じゲルマン語起源なので、初期の英語の形を残しているのです。
一方、フランス語は、1066年のノルマン・コンクエスト以降、多くの語彙を英語に流入させて大きな影響を与えているので、いずれにしても、深い関係にあります。
さらに、本辞典は挿絵や写真が充実しており、所々にある「ドイツ・ミニ情報」というコラムも、ドイツ文化への理解を深めるために役立つでしょう。
このコラムは、たまたま単語を引いた時に、息抜きのつもりで読むと楽しいです。
付録にある「和独の部」は見出し語4000語で、ちょっとドイツ語の単語を調べるのに重宝します。
ただ、簡易的なものなので、やはりこれだけでは足りません。
「文法表」も最低限で、到底文法書の代わりにはならないでしょう。
本辞典の組版・印刷は、研究社印刷です。
そう言えば、活字が見慣れた字体ですね。
製本もしっかりしています。
厚さも、ちょうど手に馴染むくらいで、使いやすいです。
【その他の初級独和辞典】
『アクセス』は、語数を増やしたせいで分厚くなり過ぎ、しかも製本が今一つ頼りない感じで、長く使う辞書としては心許ないような気がします。
アクセス独和辞典 第3版

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『クラウン』は、ちょっと活字が詰まっている感じで、見辛いのではないでしょうか。
クラウン独和辞典

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『新・独検合格 単語+熟語1800』
単語は、『新・独検合格 単語+熟語1800』を使います。
新・独検合格 単語+熟語1800

新・独検合格 単語+熟語1800

初版の発行年は分かりませんが、細君がドイツ語を学んでいた頃には既に出ていたそうなので、おそらく20年ほどは歴史のある本です。
独検が始まったのは1992年。
細君が大学に入学したのは1993年で、ドイツ語の成績が良かったため、軽い気持ちで「独検3級でも受けてみるか」と考えて単語帳を探したものの、当時は、まだ本書くらいしか出ていなかったそうです。
と言うことは、本書が一番伝統のある独検単語帳ということですね。
僕は独検を受けるつもりなど全くないのですが、現在取り組んでいる『関口・初等ドイツ語講座』(三修社)は、文法の解説に焦点を絞り、語彙数を4〜500に抑えているということなので、それでは不足する基礎単語を本書で押さえたいと思います。
本書の著者の一人、在間進氏は東京外国語大学名誉教授。
数多くの辞書や参考書を執筆している、日本のドイツ語学の第一人者です。
もう一人の著者、亀ヶ谷昌秀氏は慶應義塾大学理工学部講師。
さて、本書の構成は次のようになっています。
メインの第1章はレベル別。
「超基礎(5級)」「4級」「3級」「差が出る熟語」の四つに分かれ、「熟語」以外の各級は、それぞれ「名詞」「動詞」「その他」に分かれています。
名詞は単語の意味のみ、それ以外の品詞は1語につき1文、例文も掲載。
熟語は、これだけでは足りないと思います。
第2章の「テーマ別」は、切り口を変えて単語を載せていますが、まあ、おまけのようなものだと思った方がいいでしょう。
第3章の「2級レベル」は申し訳程度しかなく、これでは到底2級には足りません。
巻末には、「主な動詞変化表」「INDEX」「数詞」がまとめられています。
タイトルは「1800」となっていますが、熟語を除いた実際の語彙数は、1600語強といったところでしょうか。
本書は、単語の章にも熟語が混ざってしまっています。
それから、本書のみならず、そもそも単語集自体の欠点なのですが、一つ一つの単語についての情報量が少な過ぎるのです。
まず、多義語なのに意味が一つしか載っていないなど、語義が足りません。
それから、ドイツ語は極めて変化が多いですが、単語集の限られたスペースでは、重要な変化形をほとんど載せることが出来ないのです。
そこで、単語集はあくまで重要語のリストと割り切り、辞書を使って覚えるようにした方が良いでしょう。
僕の使い方は、まず、本書の見出し語を、自分の使っている辞書(僕の場合は同学社の『アポロン独和辞典』)にマーカーで印を付けます。
この時に、レベル毎に色を決めておけば、辞書を引く度に「ああ、この単語は○級レベルなんだな」と分かるので便利です。
あとは、辞書の語義・例文などを、よく読みながら覚えて行きます。
まあ、僕のように記憶力が極度に悪いと、なかなか覚えられませんが。
ちなみに、本書の例文はそんなに難しくはありません。
各文は短く、また、文法事項も各級に対応したものになっているようです。
本書の付録のコラムには、面白いものもあります。
以下に少し引用しましょう。
コラム1「何語覚えればいいのか」より、在間氏の語彙力について。

私自身の語彙力も決して大きいものではなく、1万語を少々越える位ではないかと思っています(こんなことを書くとみなさんにバカにされるかな)。

ドイツ語の単語を1万語というのは、もちろん途方もない値ですが、数々の辞書を編纂した在間氏としてはどうでしょうか。
正直なところ、少し意外でした。
特に興味深かったのが、コラム4「著者の修業時代(在間編)」です。

私の学生時代(と言ってももう35年以上も前のことですが)10数万語の「相良独和辞典」を何度も何度も読み返し、とうとう最後まで読み通した同級生がいました。本当にすべての単語を覚えたかどうかは定かではありませんが、彼の単語力が私のものをはるかにりょうがしていたことは事実です。かつてコンサイス英和辞典をすべて「食べて覚えた」という人の話を聞いたことはありますが、それにしても彼の努力は大したものでした。
私は単語を暗記するのが苦手で、いつも苦労をしていたのですが、ある時、とにかく原書を根気よく読めば、自然にドイツ語ができるようになるという話を読み、私も大学2年の夏から毎日ドイツ語の原書を100ページ読む決心をし、3年の冬まで続けました。一日100ページを読むのですから、当然精読はできませんし、また、最初は文の意味もわからず、ただページをめくるのですから、乱読とも言えません。「単語を読んだ」というのが正確かもしれません。しかし、「単語を読んだ」だけかもしれませんが、それでも、それを数ヶ月続けていくうちに、大学の授業のテキストが、バカらしく思えるほど簡単になったのです。

ドイツ語の第一人者の在間氏が、単語を覚えるのが苦手だなんて、何だか安心しますね。
そして、やはり多読が大切だということでしょうか。
『例文活用 ドイツ重要単語4000』
2冊目の単語集として、『例文活用 ドイツ重要単語4000』を選びました。

例文活用 ドイツ重要単語4000

例文活用 ドイツ重要単語4000

初版は1968年。
編者は、羽鳥重雄、平塚久裕の両氏。
本書は、ミニ辞書のようで、記述量に限界があります。
やはり、辞書には勝てません。
第1部は、基本単語2030語。
見出し語の下には、若干の派生語も掲載されています。
文字が細かいので、見にくいです。
スペースがないため、変化形などは全く掲載されていません。
発音がカタカナではないので、初心者向けではないでしょう。
ただし、発音記号自体は難しくありませんが。
「例文活用」とうたっている通り、1語につき1〜2文の例文が付いています。
まれに誤植がありますね。
「新正書法対応」となっていますが、古い綴りのままの箇所もあるようです。
第2部はテーマ別なので、単語の選定基準、網羅性などが気になります。
と言うのは、辞書の重要語と重ならない語が多いからです。
本書は、前半と後半のレベルが違い過ぎます。
初学者向けの辞書には載っていない語も結構あります。
後半の例文は申し訳程度しかありません。
さすがドイツ語だけあって、医療関係の語がやたら多いです。
索引がないので、使いにくいですね。
Handy(携帯電話)が載っているので、一応改訂はしているようです。
そもそも、4000語を覚えようとするのは初学者ではないので、第2部は発音記号すらほとんど示されていません。
第2部は、スペースを節約するためか、文字が詰まっていて見にくく、レイアウトにも難があります。
それにしても、辞書に載っていない語が多過ぎます。
言い回しが古いのでしょうか。
複数の語義がある語でも、スペースがないため、一つしか意味が載っていません。
本書はネット上での評判は良いのですが、やはり、単語集で単語を覚えようとするのは無理なようです。
なぜ僕は本書を選んだのでしょうか。
確かに、ネットで評判が良いというのもあるのですが、「語彙数が4000語だから」というのもあります。
本書と同じ4000語を収録した単語集は、現在出回っている中では他に1冊だけ(『ドイツ基本単語4000』、本書より収録語数が多い本も1冊(『ドイツ単語5500』)しかありません。
では、「4000語」にはどんな意味があるのでしょうか。
僕の愛読書である北杜夫の『どくとるマンボウ青春記 (新潮文庫)』から引用します。

対外宣伝部で私の片腕であった文科の一友人は、望月さんのところに出入りしていたこともあって、ドイツ語ばかり勉強した。おそらく他の課目をやろうとすると絶望感に打ちひしがれたからであろう。彼は『ドイツ単語四千語』という単語集をとうに暗記してしまって、今度は『一万語』というのをやりだした。知っている単語は赤鉛筆で塗りつぶし、おそらく受験には不必要であろう残ったむずかしい単語をせっせと暗記していた。
私もそれを見ていると不安になって、同じく『一万語』を買ってきて、彼と競争でやりだした。二人が会うと、お互に教科書なんぞに出てこない単語を知っているかと問いあうのだった。
あるとき、彼がふと真剣に言った。
「パピアってなんだっけ?」
私にもそれがわからなかった。
「よく聞いた言葉のようだが……」
二人は考えこみ、ずいぶんと時間が経ち、ついに彼が叫んだ。
「馬鹿、パピアは紙じゃないか!」
私たちはあきれ返った視線を見交した。役立たずの滅多に出てこない単語を覚えるのに夢中になりすぎ、一年の教科書の冒頭に出てくるような単語を忘れてしまっているのだ。
「これは大変なことだぞ、お前さん」
「一万語はやめて、四千語をもう一度やるか」
「あんなものはとうに真赤に塗りつぶしてしまった。ああ、ああ、おれたちは勉強をしすぎたのだ。これじゃ大学はとても無理だ。大学の上の学校があれば受かるかも知れんが」
と、彼はため息をついた。
そのとおり、彼は浪人する身となった。

北杜夫は、旧制松本高等学校(現・信州大学)理科乙類から東北大学医学部(旧制)に進学しました。
旧制高校の理科乙類というのは、ドイツ語が第一外国語のコースで、竹内洋先生の『立身出世主義―近代日本のロマンと欲望』(世界思想社)によると、週に最大8時間も授業があったそうです。
そして、北杜夫東北大学の医学部をドイツ語で受験しました。
上の記述から分かることは、週8時間の授業を3年間受けても、4000語レベルを超える単語は教科書には出て来なかったということです。
また、当時の大学受験のドイツ語の語彙は4000語レベルだったということも。
さらには、1万語載っている単語集が出ていたことまで。
昔は、向学心旺盛な若者がいたのですね。
僕も、何とかして、かつての旧制高校生レベルのドイツ語力を身に付けたいと思い、この『例文活用 ドイツ重要単語4000』を選びました。
【追記】
以前、『例文活用 ドイツ重要単語』について書いたが、一通り目を通したので、更に追記したい。
後半は、日常的な単語が多い(物の名前など)。
抽象語は少ないような印象。
テーマ別にしているので、その単語の第一義でないことが多い。
英語でも知らないような単語が載っている。
その分、基本単語が欠けているのではないか。
4000語の単語集は他に1冊しかない。
テーマ別は、覚えやすくするための工夫だろうが、網羅性という点では失敗ではないか。
時々、語の重複がある。
ドイツ語は複合語が多いので、辞書に載っていない語も多い。
辞書を引いてみると、今では使わないという語も結構多い。
鉱物の名前ばかり並べられても、という気はする。
(英語はおろか、日本語でも知らない花の名前なんか出されても。)
テーマに沿った意味しか載っていないので、その語の他の重要な意味が抜けている可能性がある。
軍隊用語ばっかり延々と覚えさせられても。
ネット上では絶賛されているが、正直どこがいいのか分からなかった。
4千語レベルになると、他に選択肢があまりないからだろう。
まあ、本当の基本単語は前半の2000語できちんと押さえられてはいるのだろうが。