『若者のすべて』

この週末は、ブルーレイで『若者のすべて』を見た。

若者のすべて ルキーノ・ヴィスコンティ Blu-ray

若者のすべて ルキーノ・ヴィスコンティ Blu-ray

1960年のイタリア・フランス合作映画。
監督は、『イノセント』の巨匠ルキノ・ヴィスコンティ
脚本は、『イノセント』のスーゾ・チェッキ・ダミーコ
音楽は、『ロミオとジュリエット(1968)』『ゴッドファーザー』『ゴッドファーザーPART II』『ナイル殺人事件』の巨匠ニーノ・ロータ
撮影は、『天地創造』のジュゼッペ・ロトゥンノ。
主演は、『シシリアン』『フリック・ストーリー』『チェイサー』の大スター、アラン・ドロン
共演は、『ピンクの豹』『ウエスタン』の大スター、クラウディア・カルディナーレ
モノクロ、ワイド。
不安げなテーマ曲。
前奏から哀愁漂う歌に。
ミラノ駅に列車が到着する。
母親ロザリア・パロンディ(カティナ・パクシヌー)とその息子シモーネ(レナート・サルヴァトーリ)、ロッコアラン・ドロン)、チーロ、ルーカが降りて来る。
長男のヴィンチェンツィオは迎えに来ていない。
彼らはイタリア南部からやって来た。
見るからに貧しい田舎者である。
バスに乗ってヴィンチェンツィオの家に向かいながら、ミラノの都会ぶりに驚いている。
ヴィンチェンツィオは恋人ジネッタ(クラウディア・カルディナーレ)との婚約パーティの真っ最中。
ヴィンチェンツィオはもう貧しい故郷に戻るつもりはない。
都会での生活を選んだ。
ロザリアが息子達を連れてミラノへ出て来たのは、夫が亡くなったからであった。
ロザリアはヴィンチェンツィオの結婚の話しを知らなかった。
兄弟達は、ミラノでの仕事を見付けなければ、泊まる部屋もない。
で、このパーティの席上、ロザリアはジネッタの母親と大ゲンカを繰り広げ、家を飛び出す。
成り行きで、ヴィンチェンツィオまで出て行くハメに。
ヴィンチェンツィオは知人の家を訪ねる。
そこで、まずアパートを借り、家賃を滞納して、立ち退きになったら施設に入れるという方法を教えられる。
翌日、家族でアパートへ。
雪が降って、家族は大騒ぎ。
南部から来たから、雪を知らないのだろう。
そして、雪が降ると、兄弟達は雪かきの仕事にありつけるのであった。
もう、このアパートでの暮らしが本当に貧しそうである。
寒いのに、みんな裸足だ。
ヴィンチェンツィオはジネッタと再会するが、彼女を「ものにする」と言って、ビンタされてしまう。
ヴィンチェンツィオは、父親とケンカをして家を飛び出したというナディア(アニー・ジラルド)という娘と知り合い、家へ連れて帰る。
ナディアは、雪が降っているのに、半袖で超ミニスカートである。
兄弟達はミラノに出て来て1ヶ月経っても定職が見付かっていない。
ナディアにはボクシングをやっている知り合いがいる。
チャンピオンになれば大金持ちだ。
しかし、ロザリアはナディアに対して、「商売女!」と激怒する。
ナディアは警官がやって来ると、窓から逃げて行った。
ヴィンチェンツィオが通っているボクシング・ジムに、シモーネとロッコが見学に来る。
着替えろと言われたが、衣装がないので、下着姿で出て来て、居合わせた者達にさんざん笑われる。
こういう描写を見ていると、僕も上京したばかりの頃に、カネがなくて悲惨な思いをしたことを思い出した。
ヴィスコンティは貴族出身なのに、底辺の庶民の暮らしを実にリアルに描いている。
ヴィンチェンツィオが働いている工事現場に、ルーカがやって来る。
「アパートに家賃の取り立てが来た」と。
ヴィンチェンツィオは、(家賃を滞納して立ち退きになり、施設へ行けるように)「うまくやれよ」と弟にアドバイスする。
シモーネはジムで「ボクシングをやるなら禁煙しろ」と言われる。
そこへ、有名ボクシング・ジムであるチェッリのところから、モリーニ(ロジェ・アナン)という男がシモーネを引き抜きに来る。
ロッコは素質はあったが、気立てが優しいので、本当はボクシングには向いていないと思っていた。
このロッコの優男っぷりが本作のキモで、後半、それが際立って行く。
まるで、『ニキータ』のジャン・ユーグ・アングラードのようだ。
対戦ではシモーネが勝利する。
その夜、外で大勢の殴り合いが起きていた。
ヴィンチェンツィオやらジネッタやらロッコやらルーカやらも交えて大騒ぎになっていたが。
シモーネはモリーニから「メシでも食いに行くか」と誘われていたが、例のナディアがシモーネに近付き、シモーネはモリーニとの約束をブッチする。
シモーネはナディアの部屋へ。
彼女は貧しい生い立ちであった。
本当に、貧困はロクなことがない。
今の日本も他人事じゃない。
僕の知り合いに、格差や貧困をテーマに風俗嬢を取材しているライターがいるが。
その人のルポを読むと、この映画の描いている世界と大差ない。
ルーカはチーロに、夜間学校の案内を持って来る。
しかし、彼らは小学校も出ていないのか?
ロッコクリーニング屋で働いていたが、字が読めないようで、客の名前を間違える。
もちろん、他の店員は「まさか」と思っているのだが。
戦後のイタリアに、未だ文盲がいたのか。
僕の友人に、中卒で、アルファベットが読めない者がいる(日本語は読める)。
今の日本でアルファベットが読めなければ、生活出来ないだろう。
義務教育を受けているはずなのに(中学時代はロクに学校に行かなかったらしいが)、どうしてこんな状態で彼を社会に放り出したのか。
安倍政権なんか、庶民の暮らしを全く見ていないよな。
怒りが込み上げて来る。
で、シモーネがロッコの店に訪ねて来て、ロッコに「カネを貸してくれ。旅に出る」と。
そして、店に置いてあった高給そうなシャツを盗む。
もう、この辺からシモーネはおかしくなっている。
ロッコはシモーネのジムへ行く。
モリーニは、突然シモーネがいなくなったので、激怒している。
ロッコに、シモーネのお目付け役になれと言う。
チェッリは「変な連中と付き合わせるな」と。
ボクサーになりたければ、女、タバコ、酒は禁止だ。
その頃、シモーネはナディアと旅行していた。
しかし、どうやら彼女は本気ではないようだ。
まあ、商売女だからな。
シモーネは、ロッコの働くクリーニング屋に盗んだシャツを返しに行く。
クリーニング屋の女店主は激怒する。
しかし、シモーネは彼女にキスし、今度は胸のブローチを盗む。
この一件で、ロッコは店に居づらくなる。
夜、ヴィンチェンツィオを訪ねてナディアが家へやって来るが、いないのでロッコが応対する。
ナディアは、シモーネがクリーニング屋の店主から盗んだブローチを返しに来る。
あろうことか、彼女にプレゼントしていたんだな。
もちろん、彼女は曰くありの品だと気付いた。
で、「(シモーネに)ナディアは消えた」と伝えてと。
シモーネが帰宅する。
ロッコクリーニング屋を辞めたという。
なぜなら、召集令状が来たからだ。
イタリアは徴兵制なんだな。
まあ、今の日本も、このまま安倍政権が続いたら、徴兵制の導入とか言い出しかねないが。
ロッコはシモーネにナディアのことを告げる。
当然、シモーネは激怒する。
で、ロッコは軍隊へ。
ロザリアから手紙が来る。
「シモーネは試合に勝った。チーロは夜学を終えてアルファロメオへ。ヴィンチェは結婚して出て行った。給料が出たらお金を送って」と。
兵隊に取られている息子に、最後にカネの無心をする母親というのが、本作における貧困の深刻さを物語っている。
この母親は、ものすごい肝っ玉母ちゃんなのだが、やはりカネだけはないんだな。
チーロがアルファロメオというのがスゴイ。
真面目に勉強していたからな。
現在では考えられないだろうが。
僕の母も、中卒だったが、某大手企業から内定をもらったらしい。
まあ、1950年代の話しだ。
で、ロッコは町で偶然ナディアと出会う。
彼女は、刑期を終えて出て来たばかりだと。
まあ、売春をしていたからな。
ロッコは都会に馴染めない。
ナディアから「私のこと、どう思う?」と聞かれ、最初は「別に」と答えていたが、話す内に、「君のこと、気の毒で」「僕を信じて」と言う。
優し過ぎるのは、本当に罪だよ。
本作を最後まで見たら、きっと誰でもそう思う。
ナディアはロッコに「帰ったら連絡くれる?」と言う。
ロッコは兵役を終えて、家に帰った。
ロザリアだけがいる。
兄弟達は、ヴィンチェンツィオの子供の洗礼式に出掛けていた。
ロザリアは行かないのだが。
ジネッタの家がヴィンチェンツィオを入れてくれないらしい。
まあ、最初のパーティの大ゲンカが未だに尾を引いているのだろう。
シモーネは明日が試合であった。
ジムで練習相手にロッコを指名する。
いい相手であった。
ロッコは素質を見出される。
軍隊でもボクシングをやっていたらしい。
一方、ロッコはナディアとも会っていた。
ナディアは優しいロッコと付き合って更生し、タイプ学校へ通っていた。
シモーネは試合で黒人ボクサーにやられる。
チェッリは激怒し、ロッコに代わりをやれと命じる。
シモーネは、ロッコとナディアが付き合っていることを知らなかった。
悪い仲間からそのことを聞いたシモーネは、連中と現場を押さえに行く。
二人が会っているのを見たシモーネは、嫉妬にかられ、ロッコに「謝れ!」とビンタする。
そして、ロッコの目の前でナディアを強姦するのであった。
ヒドイね。
ヒド過ぎて、言葉も出ない。
泣くロッコ
ナディアも泣く。
ナディアは去る。
ロッコはシモーネに「人間のクズめ」と。
そりゃそうだろう。
そして、殴り合いになる。
ボクサー同士の殴り合いだから、悲惨だ。
倒れるロッコ
さあ、これからどうなる?
3時間の長い映画だが、ものすごい力強さで最後まで引っ張る。
兄弟愛がテーマなんだろうけど、ロッコのは行き過ぎている。
僕は兄弟がいないので、分からないが。
結局、ロッコが優し過ぎて、悲劇を生んだとも言える。
一方、貧困が人間をここまでダメにするというのもテーマだろう。
しかし、そんな貧困の中でも、立派に生きている兄弟もいる。
いずれにせよ、これは傑作だ。
イタリア映画はスゴイね。
ヴェネツィア国際映画祭審査員特別賞受賞。