『いとこ同志』

この週末は、ブルーレイで『いとこ同志』を見た。

いとこ同志 クロード・シャブロル Blu-ray

いとこ同志 クロード・シャブロル Blu-ray

1959年のフランス映画。
製作・監督・脚本は、『美しきセルジュ』の巨匠クロード・シャブロル
撮影は、『美しきセルジュ』のアンリ・ドカエ
主演は、『美しきセルジュ』のジェラール・ブランとジャン・クロード・ブリアリ。
ヌーヴェルヴァーグを代表する作品と言えば、ゴダールの『勝手にしやがれ』、トリュフォーの『大人は判ってくれない』、そして、この『いとこ同志』である。
怪獣で例えれば(普通は例えないが)、ゴジラモスララドンに当たるだろう。
僕は、本作を10年位前に一度、DVDで見たのだが、その時はワインを飲みながらだったので、途中で寝てしまった。
終わってから、細君が「スゴイ話しだったよ」と言ったのだが、レンタルだったので、そのまま返してしまったのだ。
残念なことをした。
という訳で、今回はシラフで見た。
本作では、主演のジェラール・ブランとジャン・クロード・ブリアリの演じる役柄が、『美しきセルジュ』とは全く逆になっている。
しかも、全く違和感がなく、見事にその役になり切っている。
これを見ると、本当に「役者やのう」と思う。
モノクロ、スタンダード。
画質は良い。
ヌーヴェルヴァーグの代表作が、こんな高画質で見られるとは、いい時代になったものだ。
駅を降り立つ青年シャルル(ジェラール・ブラン)。
田舎からパリへ上京して来たのだ。
タクシーに乗る。
穏やかなテーマ曲。
タクシー到着。
いとこのポール(ジャン・クロード・ブリアリ)の部屋へ。
ポールは怪しい口ひげを残して、如何にも遊び人風である。
純朴そうなシャルルとは対照的(これが本作の基軸なのだが)。
部屋にはポールの仲間のクロヴィス(こいつがまた、とんだ一杯食わせ物)がいる。
彼は無職だが、どうやって食っているかは「今に分かる」という。
クロヴィスが格好を付けて英語を話したりすると、ポールは「外国語ならドイツ語を使え!」と叫ぶ。
ポールの伯父は愛人とニューヨーク〜マイアミ間を飛行中。
ポールの上京の目的は大学入学。
大学の手続きは済ませた。
ポールにジュヌヴィエーヴから電話が来る。
ポールがもう捨てた女だ。
何故か分からないが、クロヴィスが荒れている。
ポールはドイツかぶれらしく、何かにつけてドイツ語(の詩か何か)を唱えている。
ややマザコンの気があるシャルルは、部屋で母親に近況報告の手紙を書く。
まあ、僕が上京したばかりの時も、さびしくて、よく実家に電話をしたりしていたから、この気持ちは分かる。
この時代のフランス映画は、登場人物全員がタバコをスパスパ吸っている。
今の日本では考えられない光景だ。
ジュヌヴィエーヴがポールを尋ねて来る。
どうやら彼女は妊娠しているらしい。
ポールはクロヴィスに堕胎費用を渡す。
もう、このただれた雰囲気が、根岸吉太郎監督の映画『狂った果実』(1981年)みたいだ。
僕は、この映画が大好きなのだが。
なお、中平康監督の『狂った果実』(1956年)は、実際にヌーヴェルヴァーグに影響を与えたらしい(ウィキペディアにも書いてある)。
確かに、遊び人の兄(石原裕次郎)と純真な弟(津川雅彦)というのが、本作の設定と似ている。
まあ、どちらも映画史上の重要な作品だが。
で、翌朝、ベッドで寝ていたシャルルは、ポールに起こされ、車でぱり見物に出掛ける。
凱旋門なんかの辺りをドライヴする二人。
二人はカルチェ・ラタンのクラブへ。
チャラ男のポールは、道行く女の子にも片っ端から声を掛ける。
クロヴィスはポールに「女の件は片付けた」と耳打ち。
反吐が出るね。
このクラブの地下を、ポールは「売春窟」と呼んでいた。
人前でイチャついている男女が何組も。
連中の中に、不器用なフィリップがいる。
ポールはマルティーヌに声を掛ける。
マルティーヌはこれから、「講義に出る」という。
シャルルはブリッジ(カード)に誘われる。
連中から「ポールと従兄弟なのに似ていない」と言われる。
シャルルはフローランスという娘が気になり、ポールに紹介してもらう。
シャルルは、出て行った彼女を追って、カード・ゲームはそっちのけで外へ。
しかし、見失う。
傍にあった古本屋へ入るシャルル。
バルザックを探し、『ゴリオ爺さん』を見付ける。
店主との会話で、「僕は読書ばかりだ」と打ち明けるシャルル。
シャルルを気に入った店主は、彼にタダでバルザックを与える。
この店主が、『大人は判ってくれない』の担任の教師ではないかと思うのだが。
で、シャルルが店を出るとポールがいて、「カードを抜け出したので、連中が怒っている」と告げる。
シャルルが母親に手紙。
「驚いたことに、大学では皆、ノートを取らずに、講義録をコピーしています」と。
日本の大学生は勉強しないなどとよく言われるが、大学生が勉強しないのは古今東西共通ということだろう。
ポールが自宅で友人とパーティーを開く。
フィリップはシャルルに、「僕はみんなに嫌われている。君もそうなる」と告げる。
モーツァルトのレコードを掛けるポール。
遊び人だが、金持ちのボンなので、ドイツ語を話したり、クラシックを好んだりするのだろう。
フィリップの元恋人フランソワーズ(ステファーヌ・オードラン)は別の男とやって来る。
シャルルは田舎者なので、明らかに場の雰囲気に馴染めない。
そこへフローランスがやって来る。
緊張するシャルル。
彼女に声を掛け、「本気なんだ」と告げる。
フィレンツェからやって来たアルカンジェロ伯爵が、黒人の青年を追い出す。
貴族だか何だか知らないが、人種差別はイカンよ。
そこへ、ジュヌヴィエーヴもやって来る。
モーツァルトを止めて、今度はワーグナーを掛けるポール。
地獄の黙示録』かと思った。
電気を消して、ロウソクを持ち、ドイツ語の詩を暗唱するポール。
シャルルはフローランスにキスをする。
電気が点くと、フィリップが女性を巡ってケンカを始める。
飛び出すフィリップ。
シャルルとフローランスも外へ。
キスをする二人。
彼女は「あなたが世界一好きよ」と言うが、純情なシャルルは「好きだ」と口に出して言えない。
ウジウジと心情を吐露する。
おまけにマザコン
どう見ても、恋愛にはマイナス。
彼女は詰まらなそう。
「ドライヴしよう」とシャルル。
彼が車のカギを取りに部屋へ戻ると、乱痴気騒ぎが繰り広げられている。
伯爵が酔っ払って、「女を寄越せ」などと悪態を吐いている。
おまけに、空のピストルを振り回している(これが、ラストへの重要な伏線)。
クロヴィスは瓶を割りまくる。
シャルルが「カギを貸してくれ」と言うと、ポールは「みんなでドライヴへ行こう!」と。
全員ヘベレケである。
皆で外へ。
フローランスは一人、待ちぼうけ。
彼女は、ポールの車に乗せられる。
ポールは「180キロ出すぞ!」と叫ぶ。
究極の飲酒運転である。
当時は、車の量が少なかったから、大丈夫だったのか。
フローランスは怒った表情。
車はどんどん出発する。
朝、シャルルとポールは車で帰宅。
部屋に戻ると、兵どもが夢の跡。
眠っているユダヤ人の青年を、「ゲシュタポだ!」とドイツ語で脅すポール。
飛び起きる青年。
何て悪趣味なんだろう。
まだ戦後十数年しか経っていないから、当時の記憶も生々しいだろうに。
恋愛慣れしていないシャルルは、フローランスの電話番号を聞き忘れた。
しかし、彼女から電話が掛かって来る。
「一緒に授業に行こう」と約束する。
しかし、何故か彼女は時間を間違える。
ポールの部屋に来たフローランス。
シャルルはいない。
ポールは彼女に色々と吹き込む。
クロヴィスも参戦。
要するに、彼女は、実はこれまでも男関係が色々あり、純情なシャルルとは絶対にうまく行かないと。
で、あろうことか、とうとうポールとキスしてしまう。
もう、この後は悲劇でしかないのだが。
僕もシャルルみたいに不器用だったから、彼には感情移入してしまう。
まあ、もう少し大人になれば、必ずしも遊び人が成功する訳ではないと分かるのだが。
もう、スゴイ力でグイグイと最後まで見せる。
ロシアン・ルーレットを最初に効果的に使った映画は『ディア・ハンター』だと思っていたが、本作だね。
ラストは、絶望的に救いがない。
ベルリン国際映画祭金熊賞受賞。