『カサブランカ』

この週末は、ブルーレイで『カサブランカ』を見た。

カサブランカ [Blu-ray]

カサブランカ [Blu-ray]

1942年のアメリカ映画。
監督はマイケル・カーティス
音楽は『キングコング(1933)』『風と共に去りぬ』の巨匠マックス・スタイナー
助監督として、『ダーティハリー』『アルカトラズからの脱出』(いずれも監督)のドン・シーゲルが参加している。
主演はハンフリー・ボガート
共演は、『オリエント急行殺人事件』のイングリッド・バーグマン、『アラビアのロレンス』のクロード・レインズ、『カリガリ博士』のコンラート・ファイト、『海底二万哩』のピーター・ロ―レ、『ベン・ハー(1925)』『独裁者』のレオ・ホワイト等。
映画史上の名作とされているが、僕はこれまで見る機会がなかった。
沢田研二の「カサブランカ・ダンディ」ならリアルタイムで知っているが、歌詞の中の「ボギー」がハンフリー・ボガートのことだとは、先日、YouTubeで改めてこの曲を聴くまで気付かなかった。
で、本作だが、想像していたのとは大分違ったが。
このブルーレイは画質が素晴らしい。
モノクロだが、そんなに古い映画という感じがしない。
第2次大戦中、ドイツの侵略によるヨーロッパの戦災を逃れた人の群れは、中立国のポルトガル経由でアメリカへの亡命を図ろうとしていた。
途中、仏領モロッコカサブランカに立ち寄らなくてはならない。
当時のモロッコは、親ドイツのヴィシー政権の管理下に置かれていた。
当たり前だが、第2次大戦の最中に作られた映画である。
しかし、こんな生々しい政治状況を背景にした映画だとは思わなかった。
ドイツ政府連絡員2名を殺害した犯人がカサブランカに入ったとの情報が流れた。
ドイツ軍のシュトラッサー少佐(コンラート・ファイト)は犯人を追ってカサブランカへ。
それにしても、多数の現地の人々は、皆貧しそうである。
彼らを蹴散らして我が物顔で走る白人支配階級のジープ。
何というゆがんだ構図であろうか。
町に溢れる看板はフランス語で書かれているが、役者のセリフは英語である。
ドイツの将校も英語を話す。
まあ、アメリカ映画だからな。
ウーガーテ(ピーター・ローレ)は今夜、アメリカ人リック(ハンフリー・ボガート)の経営する「カフェ・アメリカン」という店へ。
店内では、ゆったりとしたジャズが流れる。
いかにも古き良き時代のアメリカ映画の光景である。
ここにいる客は誰も、早くカサブランカから脱出したがっている。
リックはのんびりと一人でチェスをしている。
彼は、ウーガーテからドイツ軍の通行証を預かる。
実は、先のドイツ政府連絡員の殺害犯はウーガーテなのであった。
殺されたドイツ兵は、通行証を奪われていた。
アメリカへ渡るためには、これが必要なのだ。
だが、リックは一々詮索しない。
ここに、彼の性格が表れている。
本作の語り口は、少しずつ謎解きをして行くというものである。
もっとも、脚本の執筆が撮影と同時進行だったらしいので、ストーリーが全部固まっていなかったからかも知れないが。
リックは女嫌いである。
店に現われた女から「昨夜どこへ行っていたの?」と聞かれても、「そんな昔のことは忘れた。」
「今夜の予定は?」と聞かれても、「そんな先のことは分からない。」
有名なセリフである。
実に素っ気ない。
今の僕なら、昨夜のことを忘れたら、認知症かと悩んでしまいそうだが。
リックは何故、カサブランカへ来たのか。
どうやら、エチオピアやスペインで抵抗活動に関わっていたことがあったようだ。
フランス側の警察署長ルノークロード・レインズ)は、リックの店にやって来て、「今夜、ここで犯人を捕まえる」と告げる。
反ナチ運動を率いるヴィクトル・ラズロ(ポール・ヘンリード)が今夜、大金でウーガーテから出国ビザを買いに来ることになっているのだ。
そこまで分かっているのなら、とっとと捕まえりゃいいのにと思うが、まあ、犯人を泳がせているのだろう。
そこへ、シュトラッサー少佐がやって来る。
ウーガーテは、逮捕されそうになって発砲する。
彼はリックに「助けてくれ!」と懇願するが、リックは「巻き添えはごめんだ」と冷たく言い放つ。
ウーガーテは抵抗むなしく、連行されて行った。
リックは、シュトラッサー少佐に対しても冷たい。
「政治には興味ありません」と言う。
さて、ラズロがイルザ・ラント(イングリッド・バーグマン)という女を連れて店にやって来る。
店中の人達が彼女のことを見る。
男なら誰もが振り向く美女だと言いたいのだろう。
正直、僕には、彼女はちょっとイモ臭くて、あまりいい女とは思えないが。
シュトラッサーはラズロに、「明朝10時に警察署へ来るように」と命じる。
待ち合わせをしていたウーガーテは既に逮捕されたと知って、驚くラズロ。
「時の過ぎゆくままに」が店内に流れる。
誰でも一度は耳にしたことがある、有名な曲である。
もちろん、ジュリーの歌ではない。
余談だが、ジュリーには映画からタイトルを拝借した曲が多い。
勝手にしやがれ」とか「灰とダイアモンド」とか。
で、「時の過ぎゆくままに」が店内に響き渡ると、リックは飛んで来る。
「その曲は禁止したはずだ!」
黒人ピアニストが目で促すと、一人の女性が。
イルザであった。
驚くリック。
この二人には、かつて何があったのか。
どうでもいいが、バーグマンを写す時には、かなりソフト・フォーカスになる。
ラズロとイルザは帰った。
閉店後の店で一人グラスを傾けるリック。
アメリカのことを想う。
先の黒人ピアニストに、「時の過ぎゆくままに」を弾かせる。
以下、リックの回想。
パリにいた頃、イルザと一緒に車に乗っているリック。
楽しそうなデート。
イルザの身の上については聞かない約束だった。
で、有名な「君の瞳に乾杯」というセリフ。
しかし、その頃、ドイツ軍がパリに迫っていた。
フランス語の放送が流れる。
リックはドイツ軍のブラック・リストに載っているので、ここから逃げなくてはならない。
「カフェ・アメリカン」の黒人ピアニストは、この時からリックと一緒だった。
リック、イルザ、黒人ピアニストの3人は乾杯し、酒を飲み終わる前に、「ドイツ軍が明日、パリに入城する」との情報が。
リックはイルザに「一緒に逃げよう」と言う。
彼女と駅で待ち合わせ、戦争が終わったら結婚しようと。
そして、二人はキスして分かれる。
だが、駅でリックが待っていても、約束の時間を過ぎても彼女は来ない。
この時、土砂降りの雨。
リックはトレンチ・コートを着て、濡れ鼠になっている。
以前、『メンズ・エクストラ』か何かのオッサン向けファッション誌で、バーバリーだかアクアスキュータムだかのトレンチ・コートを紹介した記事で、このシーンについて触れていた。
トレンチ・コートは軍隊用だから防水機能があるというのだが、まさかこんな激しい雨だとは思わなかったよ。
イギリスの雨と言えば、もっと霧雨の様なものを想像するじゃないか。
しかも、リックのトレンチ・コートはかなり着古した感じで、クタッとしている。
まあ、トレンチ・コートはパリッとしているよりも、その方が逆にお洒落なのかな。
それはさておき、リックの所へ黒人ピアニストがやって来て、「彼女は置き手紙をしてホテルを引き払っていた」と告げる。
手紙には「もうお目にかかれません。理由は聞かないで。」
「離れ離れになっても、愛しています。」
雨で流れるインク。
めちゃくちゃベタなシーンだが、後のメロドラマがみんなこれを真似たんだろうな。
ここで、回想が終わり、現実に戻る。
リックの店にイルザが一人で現われる。
人妻が、こんな深夜に旦那を放って出歩いていいのか。
果して、「お互いの素性は何も知らない」という恋愛は成立するのか。
どうも、都合良く出来たストーリーという気はする。
この後、物語はサスペンスも含みながら、複雑に絡み合う。
今見ると、結構とんでもないメロドラマだな。
まあ、あのジュリーが「あんたの時代は良かった」と歌うだけあって、ハンフリー・ボガートはかなりのカッコ付けに映っている。
第二次大戦中に作られた連合軍のプロパガンダ映画だけあって、終始ナチスには批判的である。
特に、結末にはビックリ。
アカデミー賞作品賞、監督賞、脚色賞受賞。