『英国式庭園殺人事件』

この週末は、ブルーレイで『英国式庭園殺人事件』を見た。

英国式庭園殺人事件 Blu-ray

英国式庭園殺人事件 Blu-ray

1982年のイギリス映画。
監督はピーター・グリーナウェイ
僕が学生の頃、「グリーナウェイ・ブーム」があったような気がする。
何か、「彼の作品を知らないヤツはモグリだ」と言わんばかりの。
僕は大学1年の時、少しだけ顔を出していた映画研究会の先輩に「ピーター・グリーナウェイって有名なんですか?」と何の気なしに尋ねたら、「有名だよ」と、「知らないの?」というようなトーンで返された記憶がある。
当時、多分、渋谷のシネマライズ辺りではないかと思うのだが、よくグリーナウェイの特集上映があった。
僕は、その頃、ミニシアター系の映画ばかり、やたらとありがたがって観ていたので、グリーナウェイ作品の予告編もさんざん観たのだが、どうもピンと来なかった。
「ヘンな映画だな」という印象しかない。
後に、『プロスペローの本』だけは、シェイクスピアの『テンペスト』を題材にしているということで、少しだけ興味を惹かれたことはあったが(未見)。
という訳で、これまで1本もグリーナウェイの作品を観たことはなかった。
今回、初めて作品を見た訳だが、やはり、最初の印象通り、変わった映画であった。
主演はアンソニー・ヒギンズ
グリーナウェイの長編第1作である。
カラー、ワイド。
画質は、ブルーレイにしては甘い。
カウンター・テナーのテーマ曲。
ろうそくの灯りの下でボソボソと話す男。
何だか、『バリー・リンドン』のようだ。
舞台は名誉革命後の1694年のイングランド
高校時代、世界史の偏差値が29しかなかった僕には、時代背景がよく分からないが。
ここは貴族の邸宅。
持ち主のハーバート氏は不在だが、奥さんよりも庭(すもも園)作りが好き。
夫人のヴァージニア(ジャネット・スーズマン)も、「アムステルダムから来た客人がウチの屋敷を見てビックリした」などと自慢する。
貴族というのは、嫌味な人種だ。
そして、延々と同じような階級の人達の会話が繰り広げられるが、噂話ばかりで、実に下らん。
まあ、我が家はマンションだから庭なんかないが。
悪かったな!
で、どうもハーバート家では貴族ばかり13人ほど集まって、パーティーの真っ最中らしい。
全員、大地主。
話題は庭の話し(!)
で、主人のハーバート氏は、サウサンプトンに出掛けていて、少なくとも12日間は館を留守にするとか。
ここに呼ばれた画家のネヴィル(アンソニー・ヒギンズ)は、その間に、屋敷の絵を12枚完成させ、報酬は1枚8ポンドに寝食の保証、更に、夫人のセックスの相手をするという契約を結ぶ。
翌日から、ネヴィルの仕事が始まる。
四角い木枠の中を糸で16のマス目に分割した器具を使って、鉛筆で精密に描く。
2時間ごとに場所を移動。
羊の群れがいれば、追っ払う。
ヒマを持て余した貴族が立っていれば、移動を願い出る。
本作のセリフは本当に無内容。
貴族達の会話はつまらんし、好きな場所にいて、絵のジャマになる。
イギリスなので、晴れの日ばかりではない。
霧のけぶる日もある。
そして、合間に夫人の相手をする。
夫人は気まぐれで、「契約破棄を。あなたとはもう会いません」などと言い出す。
ネヴィルは、「何よりの喜びはあなたと過ごす束の間。それを失くせと?」などとのたまって、契約をつなぎ止める。
たらし者だな。
翌日、昨日の続きを描こうとしたら、洗濯物の位置が昨日と違う。
写真のなかった時代は、こうやって記録を残したんだなということが分かる。
大変そうだ。
そして、毎日、午後4時に夫人と密会。
時折、屋敷の随所に、彫刻のフリをした謎の全裸男が登場する。
もちろん、ペニスまで無修正である。
昨今の傾向として、芸術作品だから、おいそれと修正出来ないのだろう。
しかし、芸術作品かどうかは誰が決めるのか?
国家権力である。
その証拠に、日本製のアダルト・ビデオは局部を修正しなければ違法である。
アダルト・ビデオは芸術作品ではないのか?
もし、「グリーナウェイは芸術作品だが、アダルト・ビデオは芸術作品ではない」などとしたり顔で答える輩がいたら、そいつはクソ野郎だ!
芸術が何かなんて、全く分かっていない。
ただ、「芸術っぽいモノ」をありがたがっているだけの俗物である。
まあ、いいや。
話しを元に戻そう。
その、局部を露出した彫刻のフリをする男を、子供が眺めていたりする。
今の日本なら、「児童虐待だ!」と、一発で問題になるシーンだ。
で、この男は、屋敷の到る所に彫刻があるのをいいことに、色んな彫刻のフリをして、うろついている。
時には、本当に放尿して、小便小僧のフリもする。
シュールな映像である。
で、ヴァージニア夫人の娘サラ(アン・ルイーズ・ランバート)は、絵に描かれているシャツやマントや裂かれた上着などから、父であるハーバート氏の死体があるのではないかと推理する。
犯罪の香りがする。
父は、外出しているのではなく、失踪したのだと。
で、サラはネヴィルに「母と結んだ契約と同じ契約を私とも結ぶのよ。私の書斎へ」と告げる。
サラの要求に応えて快楽を共にする。
後の方で、サラの夫タルマン(ヒュー・フレイザー)が、実はインポであることが判るのだが。
当時は、現代と違って、性的なことはオープンでなかっただろうし、貴族なら、尚のこと、様々な制約があっただろうから、性欲の処理は大変だっただろう。
だから、こういう密通は、色んなところで行われていたに違いない。
それにしても、ネヴィルはタフだなあ。
毎日、二人のお相手をするなんて。
で、サラから耳打ちされたネヴィルは、ヴァージニア夫人に、ハーバート氏の所有している絵から謎解きをしてみせたりする。
そんな折、サウサンプトンに向かう道に、ハーバート氏の馬が残されていたという情報が入る。
タルマン氏は、サラに「ネヴィル氏と話し過ぎるぞ」と注意する。
いよいよ12枚の絵が完成。
ネヴィルは、ハーバート氏が館に戻るのを待って、ここを後にしようとするが。
完成した絵の中には、以前、サラが示唆したように、意外な物が隠されていた。
そして、屋敷の水路から、ハーバート氏の死体が発見される。
さあ、これからどうなる?
登場する貴族達の話す英語が、ものすごく格好つけのイギリス英語である。
まあ、階級によってアクセントが違うのがイギリスだから、貴族には、これ見よがしの自負があるのだろう。
こんなところに、平民の画家が入り込むのは、さぞかし大変なことだろう。
「客の分際で」なんていうセリフをぶつけられるのだから。
普通は、客人に対して、「分際」なんて言葉は使わんだろう。
そうして、最後は予想外の結末を迎える。
これはちょっと驚いた。
まあ、本作は全編を通して、貴族の欺瞞性を皮肉っていると思うのだが。
僕は貴族制度には反対だ。
でも、大したストーリーではない。
どうだろう。
面白い映画でもないし、スゴイ映画でもない。
ただ、変わっている。
これが好きな人が、一定数いるということか。

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