『神々のたそがれ』

連休中は、ブルーレイで『神々のたそがれ』を見た。

2013年のロシア映画
監督はアレクセイ・ゲルマン
原作は、『ストーカー』のストルガツキー兄弟
主演はレオニード・ヤルモルニク。
僕は、この作品について何の予備知識もなかった。
2013年と、比較的最近の映画であることも知らなかった。
SFであることと、巨匠の遺作であるということは、ブルーレイのパッケージの裏の解説で分かった。
モノクロ、ワイド。
2013年の映画が何故モノクロか。
始まって少し経てば分かる。
モノクロと言っても、クラシック映画とは違って、異様に鮮明だが。
雪が降りしきる集落。
まるで、『楢山節考』のようだ。
「ここは別の惑星。地球より800年ほど遅れている。似た惑星の中では近くて小さく、街並みがルネサンス初期を思わせたので、学者30人が派遣された。だが、ルネサンスはなく、むしろ反動傾向にあった。王国の首都アルカナルでは、まず大学が破壊された。大学は知の象徴だからだ。知的な者も狩られた。賢者、読書家、優れた技術者…。隣国イルカンへ逃げた者もあったが、あとは自滅か処刑。処刑するのはドン・レバ大臣の遊撃隊。隊員は商人たちだ。皆、灰色の服装で、大臣もそうだった。街並みと同じ陰うつな色だ。王の親衛隊は無力だった」という、長いナレーション。
ただ、本編が始まると、ここで述べられたことは単なる設定に過ぎず、すぐにストーリーなんかどうでもよくなる。
土砂降りの雨の中、泥まみれの人々。
七人の侍』みたいだ。
この星では、雨が短く、霧が多い。
しかし、この街では排泄物は垂れ流しで、歩いていると、上の小屋の便所(穴が開いているだけ)から、クソが降って来る。
何だ、これは?
だが、こんなのは導入に過ぎない。
で、主役は地球から送られて来た観察者の一人で、ゴラン神の子を自称しているドン・ルマータ(レオニード・ヤルモルニク)である。
彼は17代続く貴族ということになっている。
だが、住んでいる小屋が、脂でギトギト、ヌメヌメしたような強烈に不衛生な環境である。
床はぬかるみ、天井からは豚の腸詰めがぶら下がり、テーブルの上には大きな魚の骨の残骸が放置され、ハエが飛びかっている。
伝染病が蔓延しそうである。
これが貴族なのだから、庶民の暮らしは…。
ルマータがクラリネットを吹く。
ちょっとメロディアスで良いのだが、これも冒頭とラストだけ。
ここから、延々と汚物・吐瀉物まみれの、臭って来そうで吐き気を催すような映像が延々と繰り返される。
ルマータは人を殺す夢をよく見るが、地球人は、この星の人々に実際に手を下すことは許されていない。
この星では、文献を発見されたら、捕まって、便所の穴に沈められる。
こういう蛮行が平気で行なわれているのである。
まあ、実際の中世も、こんなだったのかも知れない。
普通の映画では、ここまで克明には描写されないが。
首都の三方は悪臭を放つ沼。
隣国イルカンを目指しても溺れ死ぬ。
ルマータは賢者をかくまっていた。
本作に出て来る登場人物は皆、相当に個性的と言うか、強烈な外見である。
主人公のルマータこそ、アル・パチーノを髣髴とさせるハンサムだが、他の人達はスゴイ。
ちょっと、大昔のカルト映画『フリークス』を思い出した。
特に、歯がない人が多い。
志村けんのコントみたいに黒く塗っている人もいるが、本当に歯抜けの人も多い。
これだけ強烈なキャストを集めるのは大変だっただろう。
で、地球人の集会所では、来る者は減り、酒量は増えた。
芸術の兆しはどこにもない。
ルネサンス
時々、状況説明のナレーションが入るが、そんなものは最早、意味を成していない。
とにかく、ストーリーなんかより、映像が強烈過ぎる。
死人は吊るして、鳥に目をつつかせる。
よく聴く古典的な死刑の方法だ。
鳥が寄って来るように、死体に魚のうろこを掛ける。
登場人物達は時々、カメラに向かって話す。
これも独特。
殴る。
ムチ打ち。
臭いがヒドイ。
貴族ドン・レバが医者を連れて来るが、偽医者であった。
聖歌隊にロバの糞を投げる。
魚を投げ返す。
中華料理の淡水魚のようなデッカイ魚。
そして、排泄。
馬車の中で小便。
鳥と魚。
汚物のイメージが延々と続く。
人々は皆、辺り構わず痰を吐く。
ニュー・シネマ・パラダイス』に出て来るメガネのオッサンみたいだが、もっと汚らしい。
もうストーリーはさっぱり追えない。
裸の女。
奴隷は首に枷。
娼婦のアリは、「神の孫を宿りたい」とルマータとまぐわう。
ブタの頭で宴会。
吊るされた大量のウサギ。
ちょっとホドロフスキーの映画みたいだ。
あんなに哲学的ではないが。
僕は恥ずかしながら見たことがないのだが、パゾリーニの映画はこんな感じなのか(スカトロジーという意味で)。
本作の監督は、フェリーニが好きだったらしいが。
フェリーニは、『道』みたいな名作も撮っているが、『サテリコン』みたいな不条理作も多いからな。
で、ルマータは、不潔な人々に「風呂に入れ」と説き、香水を振り撒く。
あんたも大概、そんなに清潔そうには見えないが。
と言うより、こんな星に清潔な人がいれば、一瞬で何かの伝染病に罹って死んでしまうだろう。
何故か、持っているハンカチだけは真っ白。
ルマータは、神の子なのに逮捕者リストに載せられている。
なお、本物のペニスからの放尿シーンがある(無修正)。
大虐殺の下、ルマータの逮捕が行なわれる。
網を掛けられるルマータ。
さあ、これからどうなる?
中世風のセットは非常にリアルで、これだけの生活感のある街並みを作るのは大変だったと思う。
撮影も、1カットを撮るのに、エキストラ含めた全ての登場人物がカメラとタイミングを合わせて演技をしなければいけないから、リハーサル等も含めると、膨大な時間が掛かっただろう。
実際、製作開始から完成までに13年を要したという。
監督は完成間近に死去。
エンディングは、これまた異様に芸術映画っぽい。
映像のパンチが強烈で、スゴイ映画だというのは分かるが、名作と言ってもいいのかは微妙(と言うより、僕には言えない)だし、相当見る人を選ぶだろう。
う~ん。
あと、英語なら、まだ「Fuck」とか「Shit」とか言われても分かるが、ロシア語は全く分からんからな。
ブルーレイ付録の小冊子を読んでも、受け入れるのは難しい作品だ。

Hard to be a God - Official Trailer