『セルピコ』

連休中は、ブルーレイで『セルピコ』を見た。

セルピコ [Blu-ray]

セルピコ [Blu-ray]

1973年のアメリカ・イタリア合作映画。
監督は、『十二人の怒れる男』『狼たちの午後』『評決』の社会派シドニー・ルメット
製作は、『戦争と平和(1956)』『天地創造』『バーバレラ』『バラキ』『キングコング(1976)』の大プロデューサー、ディノ・デ・ラウレンティス
脚本は、『真夜中のカーボーイ』のウォルド・ソルト
編集は、『ゴッドファーザー PART II』『地獄の黙示録』のリチャード・マークス。
主演は、『ゴッドファーザー』『ゴッドファーザー PART II』『狼たちの午後』『スカーフェイス』『ゴッドファーザー PART III』の我らが大スター、アル・パチーノ
なお、僕は「好きな俳優は?」と訊かれたら、「アル・パチーノ」と答えることにしている(ちなみに、好きな女優はシャルロット・ゲンズブール)。
アル・パチーノは、『ゴッドファーザー』『セルピコ』『ゴッドファーザー PART II』『狼たちの午後』『ジャスティス』『ディック・トレイシー』『摩天楼を夢みて』でアカデミー賞にノミネートされているが、なかなか受賞出来なかった。
しかし、1993年、『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』で、ようやく念願の主演男優賞を獲得する。
僕は、この映画を、当時、僕のアパートの隣の部屋に住んでいた高校時代の友人と観に行った。
そして、観終わった後に、アル・パチーノの演技に感服したのであった。
彼は、出演作を選んでいる。
セルピコ』に話しを戻す。
共演は、『新・猿の惑星』『レッズ』のM・エメット・ウォルシュ。
僕は、本作を10年くらい前に一度、DVDで見ているが、内容はおぼろげにしか覚えていなかった。
今回、廉価版でブルーレイが出たので、購入し、再見することにしたのである。
パラマウント映画。
カラー、ワイド。
サイレンの音が聞こえる。
1971年2月、ニューヨーク市警の警官フランク・セルピコアル・パチーノ)が撃たれた。
同僚の警官のしわざだという。
セルピコは恨まれていたからな」と彼の上司。
雨の中、セルピコを乗せたタクシーは走り、救急病院へ。
希望と使命感に燃えて警察学校を卒業した時のセルピコの回想。
現在へ。
地区総監グリーンが病室に見舞いに来る。
再び回想。
セルピコは最初、ブルックリンの82分署に配属された。
出勤するセルピコ
目付きが鋭い。
彼は自分の考えを貫くタイプであった。
事件が起きても、先輩は担当地区じゃないと行こうとしない。
セルピコは黒人の集団レイプの現場に駆け付ける。
全力で、逃げようとした犯人の一人を捕まえる。
被害者の黒人女性が証言する。
セルピコの先輩刑事は、黒人レイプ犯のキンタマを蹴り上げる。
暴力三昧である。
今なら大問題になるだろう。
相手が黒人だしな。
「お前もやれ」と促されたセルピコだが、暴力は忌避した。
セルピコは、黒人レイプ犯と手錠ナシでコーヒーを飲み、仲間の名前を聞き出す。
そして、非番の時に連中を見付け出すが、「応援を寄越せ」と頼んでも断られる。
仕方がないので、私服で犯人を逮捕する。
後に、無断だったので、「俺達に任せろ」と怒られてしまう。
組織内で、早くも自分の理想と現実の間に苦しむセルピコの姿が映し出される。
まあ、僕は警察じゃないけど、会社でも、仕事をしないヤツなんて幾らでもいるから、ここは大いに感情移入出来るところだ。
セルピコは、友人の靴修理屋へ行くが、ここで、仕事が忙しくて、友人達と食事をする時間も取れないことが示される。
鑑識局の勤務になり、セルピコは上司から、「指紋一つに時間を掛け過ぎだ」と注意される。
セルピコは母親に会いに行く。
ここで交わされるのは、どうやらイタリア語のようだ。
母親は、何かの足しにと、セルピコに貯金通帳を手渡す。
母親というのはありがたいものだ。
ある日、セルピコが帰宅すると、家の前で女の子が子犬を売っていた。
彼は5ドルで子犬を引き取る。
この子犬は長毛種で、後には大きく成長して、最後まで彼のパートナーであり続ける。
と言うより、この子犬だけがパートナーとして残るのだが。
切ないね。
セルピコは、向上心を満足させることと息抜きを兼ねて、ニューヨーク大学に通うようになった。
まあ、こんな腐った組織にいりゃあ、外で勉強したいと思うわな。
で、おそらくスペイン文学の講義だろう、セルバンテスの『ドン・キホーテ』の話しを教授がしているクラスで見掛けた女子大生をナンパして、自分のバイクに乗せる。
いいのか、警官がノー・ヘルでバイクに二人乗りして。
彼女はレズリーといい、バレエ・ダンサーであった。
セルピコも、彼女の影響で、バレエの勉強を始める(ヘタクソだが)。
ある夜、セルピコが署でトイレに行くと、窓から双眼鏡でノゾキをしている同僚がいた。
そこへ、たまたまやって来た上司に、セルピコはホモと間違えられてしまう。
これが、後に禍根を残すのだが。
まあ、現在では一見、LGBTに対する理解が深まったように見えるが、根底には、差別意識が根強く残っていると思う。
セルピコは、「あそこにいても未来はない。転属したい」と強く望むようになる。
彼は、レズリーとパーティーへ出掛けた。
彼女が友人達にセルピコのことを「彼は刑事よ」と紹介すると、皆に引かれる。
余談だが、このパーティーの雑談の中で、ある女の子が「日本の文化や絵画は細かく様式化され過ぎ」と語る。
転属先で最初、セルピコは上司から「ヒゲを剃って髪を切れ」と言われるが、「俺達はもっと町へ出て話しをすべきだ。そのためには、この格好じゃないと溶け込めない」と言うと認められる。
セルピコは同僚に「俺は刑事になりたい」と語るが、「ウソだろ」と一笑に付される。
ある日、セルピコが黒人の泥棒を見掛けて、捕まえようとしたら、同僚に警告ナシで発砲される。
「俺は警官だ!」
「その格好で分かるかよ!」
発砲した警官は、問題になることを避けるため、「この犯人を自分が捕まえたことにしてくれ」とセルピコに頼む。
セルピコは仕方なく認める。
硬直した組織内の論理だな。
セルピコは、私服刑事になるための訓練を受け始める。
マリファナを嗅ぎ分けるために、試しに吸わせてみる講習会なんかがある。
そこで、ブレアというプリンストン大学出身の同僚と仲良くなる。
訓練が終わると、セルピコは93分署に、政治に関心があったブレアは、コネでニューヨーク市長直属の調査部に配属されることになった。
セルピコは、ブレアから「町を浄化するために、一緒に組まないか」と誘われる。
ある夜、セルピコはレズリーから「あなたが結婚すると言わないから、私は別の男と結婚する」と告げられる。
ブルックリン93分署に配属された初日、セルピコは、ユダヤ人のマックスからとして、現金300ドルを渡される。
どう処理したら良いか分からないので、ブレアに相談し、調査部長に報告すると、「このことは忘れろ」と言われる。
セルピコは、この件で転属を余儀なくされる。
何度も転属して、大変だ。
その頃、自宅の隣で働いていたローリーに声を掛け、恋人にする。
今度は、ブロンクスの第7分署へ。
ここで、昔の同僚と再会し、「ホシを挙げに行こう」と誘われる。
車の中で、セルピコは同僚から「お前はカネを受け取らないから、信用できない」と言われる。
この同僚は、ギャンブルの金を幾らか受け取っているのであった。
最初から、ワイロまみれの汚い職場であることが示される。
腐敗堕落している。
けしからん!
セルピコは、ローリーに「俺は警官に憧れていた。しかし、カネをもらわないと悪人か?」とグチる。
彼は新しい相棒と組まされ、集金の仕事を担当させられる。
要するに、ワイロの回収であった。
同僚は、黒人を車で追い回し、「ワイロを払わなければパクるぞ」と恐喝する。
そうして、そのワイロでいい部屋に住んでいた。
それを見て、セルピコは心底、呆れる。
そんな時、警察のトップから「信頼できる男が現われた。情報を署内で集めよ」という指令がセルピコに下される。
しかし、待てど暮らせど、委員長から連絡がない。
ここでは、足を洗おうとしても仲間から責められるので、誰もワイロを受け取ることを止められないのであった。
セルピコの立場は次第に孤立する。
しびれを切らしたセルピコとブレアは、市長に訴えようとするが、「警察を敵に回せない」として、相手にしてもらえなかった。
さあ、これからどうなる?
後半は、いよいよ大変な展開になる。
まあ、結末は最初に示されている通り、セルピコは同僚にハメられて、撃たれてしまうのだが。
市民を守るべき警察の内部が、ここまで腐り切っているのを見せられると、怒りがふつふつと沸いて来る。
正義を貫くセルピコが、この腐った組織の中では悪人なのだ。
告発するのは大変な勇気が要っただろうし、アル・パチーノ演ずるセルピコのヒーロー振りは、称賛せずにはいられない。
本作は実話の映画化である。
映画化された当時は、未だ記憶に新しい事件だったから、この映画自体を製作するのも大変だっただろう。
最後までぐいぐいと見せる、社会派映画の傑作である。
さすがシドニー・ルメットだ。

SERPICO - Trailer ( 1973 )