『暗黒街の弾痕』(1937)

この週末は、ブルーレイで『暗黒街の弾痕』を見た。

1937年のアメリカ映画。
監督はドイツ映画界の大巨匠フリッツ・ラング
当時、ナチスの台頭で、ユダヤ人だったラングはアメリカに亡命していた。
本作は、彼のハリウッド映画第2作である。
フリッツ・ラングと言えば、僕が小学生の頃、大阪・梅田の今は亡きOS劇場で観た『メトロポリス』の印象が強烈であった。
これは、1984年に作曲家のジョルジオ・モルダーが音楽を作り、フィルムに着色して公開された再編集版である。
オリジナルの『メトロポリス』は1927年に製作された、SF映画の古典中の古典だ。
製作総指揮は、『クレオパトラ』の大プロデューサー、ウォルター・ウェンジャー。
音楽は、『怒りの葡萄』『わが谷は緑なりき』『荒野の決闘』『頭上の敵機』『イヴの総て』『七年目の浮気』『王様と私』『西部開拓史』『大空港』の巨匠アルフレッド・ニューマン
撮影は、『頭上の敵機』『王様と私』『アラスカ魂』『クレオパトラ』『猿の惑星』の巨匠レオン・シャムロイ
主演は、『オーメン2/ダミアン』のシルヴィア・シドニーと、『地獄への道』『怒りの葡萄』『荒野の決闘』『逃亡者(1947)』『アパッチ砦』『戦争と平和(1956)』『間違えられた男』『十二人の怒れる男』『史上最大の作戦』『西部開拓史』『ウエスタン』の大スター、ヘンリー・フォンダ
本作は、アメリカン・ニューシネマの大傑作『俺たちに明日はない』(アーサー・ペン監督)と同様、1930年代に実在した銀行強盗カップル・ボニーとクライドをモデルにしている。
しかし、『俺たちに明日はない』とは設定もトーンも大分違うので、両者を比較するのも面白いかも知れない。
どちらも、映画史上に残る作品だが。
『暗黒外の弾痕』の方は、ドイツ表現主義の流れを汲んだラングの、光と影の効果を活かした映像について言及されることが多い。
モノクロ、スタンダード・サイズ。
優雅な音楽から始まる。
法律事務所の助手として働いているジョー(シルヴィア・シドニー)。
彼女は前科者で服役中のエディ(ヘンリー・フォンダ)と結婚の約束をしている。
周囲はこの結婚に、いい顔をしない。
彼女の姉は「好きにしろ!」と突き放す。
俺たちに明日はない』との違いは、彼女が比較的お堅い職業に就いているということだな。
俺たちに明日はない』の方が、実際のボニーとクライドに近いようだが。
まあ、弁護士事務所の助手と前科者の方が両者の落差がクッキリと出るが。
現実社会には、あまりいなさそうな組み合わせだ。
「似た者夫婦」と言うように、夫婦というのは、同じような境遇の場合が多そうだが。
エディは3年間、服役していた。
エディは模範囚であった。
出所の際、「過ちを再び犯さなければ」まともな人生が送れると言われる。
彼は前科3犯で、自動車の窃盗が2回、前回は銀行強盗で捕まった。
今度やったら終身刑だ。
エディは「二度と戻りません」と誓う。
仕事も探してもらった。
「頑張る」と言う彼の顔は、しかし、何故か浮かない。
この先の不安を予感しているのか。
刑務所の仲間達は、「しょせんお前は俺達と同類だ!」という言葉を投げ付ける。
エディは、お世話になった神父に挨拶する。
この神父を始め、本作に登場する脇役は、性善説の人が多い。
だが、「シャバは恐ろしい」とつぶやくエディ。
ジョーが刑務所にエディを迎えに来ている。
抱き合い、キスする二人。
弁護士と神父が二人を見送る。
弁護士は彼女のことを心配している。
そりゃそうだろう。
カタギのお嬢さんが前科3犯で出所したばかりのチンピラと結婚するなんて、ちょっと普通は考えられないからな。
宿屋に泊まっている二人。
二人は、既に婚姻届を提出して、正式に夫婦になっている。
宿屋の主人は、「あの男の顔は見たことがある」と言うが、どこで見たかは思い出せない。
一方、ジョーとエディは宿屋の庭の池のカエルを眺めている。
「カエルは連れ合いが死ぬと自分も死ぬんだ」とエディ。
これが重要な伏線。
二人は部屋で愛し合うが、その頃、主人が愛読している犯罪雑誌(そんなもん愛読するな!)にエディの写真を見付ける。
宿屋の主人と奥さんが二人でジョーとエディの泊まっている部屋に行き、「出てけ!」
「わかった。」
とは言うものの、世間の辛い対応に「同じことの繰り返しだ」と嘆くエディ。
彼が紹介された仕事は運送会社の運転手であった。
勤務中に、彼は売りに出ている小さな家を発見し、ジョーと一緒に購入手続きをする。
彼女とは週末に再会する約束をして、別れた。
途中、ガソリン・スタンドに寄ると、会社からの伝言が。
エディは会社に電話する。
「1時間半も何してた? クビだ! 前科者め!」
「辞めてやるよ!」
「車は置いてけ!」
その場から立ち去るエディ。
世間の冷たさを痛感する。
仲間の家に泊まっているエディの元へ、ジョーから電話が掛かっている。
彼女は、何と早くも新しい家に荷物をまとめて引っ越していたのであった。
エディを驚かせようと思ったのであったが、そんな彼女に、心苦しくて「クビになった」とは切り出せないエディ。
彼は枕の下にピストルを隠していた。
エディは会社に謝罪に行く。
しかし、全く相手にされない。
昔の悪い仲間から誘いが掛かっていると雇い主に訴えても、「慈善事業じゃない!」
そして、刑務所が出した紹介状も返してくれない。
エディはとうとう、頭に来て雇い主を殴ってしまう。
「真面目に働こうと思っていたのに!」
雨の夜。
銀行の前に停めてある車の中から、じっと見つめる目。
現金輸送車がやって来る。
先の車の中の男は、カバンの中からガスマスクを取り出して着用し、手榴弾を持ち出す。
エディのイニシャルが入った帽子がある。
現金輸送車の前で爆発が起きる。
犯人は手榴弾を投げまくる。
どうやら、催涙ガスのようだ。
男は現金輸送車を奪い、警官を倒れていた警官をひいて走り去る。
だが、「DANGER」の看板に気付かぬまま、危険な場所へ。
そして、爆発音。
ジョーのいる新居に、雨の中、窓から入って来るエディ。
「サツは来てないな。」
「どうしたの、エディ?」
既に、新聞は「銀行強盗で6人の犠牲者。犯人の帽子か?」と報じていた。
「誰かが(オレの帽子を)盗んでオレに罪を着せた。信じてくれ」と訴えるエディ。
この作品の構成が巧みなのは、この時点では、先の犯人がエディであるかそうであるかをはっきりと観客に示していないことだ。
観客は、物語の流れからは、またもエディが銀行強盗に手を染めたとも取れるし、また、エディの言うことを信じたならば、冤罪だとも受け取れる。
ジョーは彼の無実を信じるが、「自首して」と懇願する。
無実ならば、訴えれば相手はきっと分かってくれると。
これもまた性善説なのだが、周防正行の映画を観れば分かる通り、痴漢だって、疑われた時点で必ず「有罪」になる。
濡れ衣を晴らそうと駅員室に行った時点で「負け」なのである。
容疑者を人とも思っていない警察が、前科3犯の無実の訴えを聞き入れる訳がない。
そんなやり取りをしている間に、警察がやって来た。
エディに向けて銃を構える警官達。
裁判の結果、エディは有罪となり、電気椅子へ送られることに。
アメリカの裁判は、日本と違って、すぐに判決が出る。
裁判所の前に集まった物見高い野次馬連に、「よく見とけよ、バカども!」と叫ぶエディ。
エディの旧知の弁護士が必死で救済に動く。
ジョーは妊娠していた。
彼女が接見に来る。
エディは会う気はなかったが、神父に説得される。
「私にできることなら何でもするわ!」
「銃を手に入れろ。」
驚くジョーだが、「オレが殺されてもいいのか?」と問い詰められ、心が動く。
明後日が最後の面会の日であった。
ジョーは骨董屋に行き、銃を購入。
最後の面会の日、ジョーは神父と連れ立って、エディの元へ。
ところが、金属探知機が反応してしまう。
とっさにジョーを庇う神父。
神父は彼女の考えていることを見抜いていた。
「銃を出しなさい。」
ジョーは最早、面会に行くことも出来ない。
神父に「カエルの話しは覚えていると彼に伝えて下さい」と託す。
一方、エディは「妻に会いたい」と檻の中で懇願するが、締め切り時間は過ぎてしまっていた。
「ダメだ、規則にない」と監視官に却下される。
まあ、奥さんに最後に一目会いたいという気持ちはよく分かるよ。
僕も昨年、某感染症で2週間入院した時、面会も一切許されなかったから、とにかく一刻も早く退院して、自宅に帰って細君に会いたいと願ったものだ。
料理人が最後の晩餐をエディに運んで来る。
しかし、この料理人は、実はかつての仲間であった。
彼はエディに目で合図をする。
食器の下に、「銃は病棟のベッドの中」というメモ。
急いでそれを飲み込み(!)、ブリキのカップを破って手首を切る。
檻の中で出血するエディを見て、「医者だ!」と血相を変える監視官。
どの道、死ぬのに、自殺はダメで、刑を執行しないといけないらしい。
国家権力というのは何だろうか。
なお、僕は死刑制度に反対である。
如何なる理由があっても、国家権力が人間の命を奪ってはいけない。
日本では、これは少数意見のようだが。
「自分の身内が殺されても、同じことを言えるか?」とよく問われる。
確かに、大切な家族を殺された方の本当の気持ちを推し量ることなど出来ないし、自分がそうなった時のことも想像したくないが。
基本的には、変わらないつもりでいる。
僕は、国家権力を信用していない。
で、エディは緊急輸血を受ける。
が、「処刑は予定通り」と告げられ、逆上し(たフリをし)て、医務室で暴れ、個室へ連れて行かれる。
本作は上映時間が86分と短いが、非常にテンポ良く各エピソードが展開し、全く飽きさせない。
導入部に出て来る八百屋のオッサンだけ、ちょっと冗長だったが、後は一切無駄がない。
クライマックスは特に、一気に進む。
後半に出て来る赤ん坊とニャンコは名演である。
さて、エディは個室のベッドの敷布団の綿の中をさぐる。
果たして、銃があった。
医者が巡回に来た時、エディは「手を上げろ!」
さあ、これからどうなる?

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