『二十四時間の情事 ヒロシマ・モナムール』

この週末は、ブルーレイで『二十四時間の情事 ヒロシマ・モナムール』を見た。

1959年の日本・フランス合作映画。
監督は、『夜と霧』『去年マリエンバートで』のアラン・レネ
本作が長編第一作である。
製作は、『夜と霧』のアナトール・ドーマン
音楽は、『軽蔑』『プラトーン』のジョルジュ・ドルリュー
撮影は、『夜と霧』『去年マリエンバートで』のサッシャ・ヴィエルニ
主演はエマニュエル・リヴァ岡田英次
エマニュエル・リヴァは、僕が学生の頃、映画館で観た『トリコロール/青の愛』(クシシュトフ・キェシロフスキ監督)で、ヒロインのジュリエット・ビノシュの母親役を演じていたらしい。
全然覚えていないが。
岡田英次の方は、鮮烈な印象を受けた作品が二つある。
一つは、僕が中学生の時、深夜のテレビで放映されていたのを見て衝撃を受けた『狂った果実』(根岸吉太郎監督)の中の、ヒロイン蜷川有紀演じるブルジョア娘のパパ役で、『二十四時間の情事』と同じ建築家役であった。
主人公の本間優二演じる貧乏青年に「アントニオ・ガウディがどうのこうの」と言って煙に巻く。
もう一つは、僕が高校生の頃だったと思うが、やはり深夜のテレビで放映されていた『砂の女』(勅使河原宏監督)。
これは日本映画史上に残るスゴイ作品である。
当時、僕は安倍公房にハマッていて、『砂の女』も当然読んでいた。
映画は、あの難解な原作を完璧に映像化している。
岡田英次は主人公だ。
他にも、『山びこ学校』『皇帝のいない八月』『地震列島』など、実は知らない間に見ていた出演作も色々ある。
で、『二十四時間の情事』は、十数年前にDVDで一度見ているのだが、ほとんど内容を覚えていなかった。
今回、改めて見直してみて、なるほど、これでは覚えていないのも無理はないなと思った。
ものすごく観念的なのである。
まあ、『去年マリエンバートで』ほどではないが。
あれは、途中で猛烈な睡魔に襲われて、最後まで見るのが苦行だったからな。
モノクロ、スタンダード・サイズ。
不安げな音楽。
抱き合う二人。
「君は広島で何も見ていない。」
「見たわ。」
このやり取りが延々と繰り返される。
被爆者が収容されている病院。
広島の原爆投下を描いた映画。
関川秀雄監督作品『ひろしま』からの引用。
日教組が作った映画なので、多分、学校の平和学習か何かで観ていると思う。
それからニュース映画。
生き残った人々。
後遺症。
「君は知らない。」
『夜と霧』のアウシュビッツはヨーロッパの出来事なので、当事者意識があるだろうが、広島は遠く離れたアジアの島国の出来事だから、フランス人は記録映像だけを見て「見た」つもりになっているが、本当のところは「見ていない」と言いたいのだろう。
それを言われれば、日本人でも、戦後生まれの我々は何も見ていないが。
今度は太平洋。
第五福竜丸の映像。
デモ行進。
平和記念公園
戦後、15年経って、広島の街はかなり復興している。
原爆ドーム
9秒間で死者が20万人、負傷者が8万人。
原爆資料館の展示品も紹介される。
僕は、親父が広島出身だったので、小学校入学前から広島に連れて行かれ、原爆資料館原爆ドームも見ていた。
親父は、実家の便所の窓から原爆のキノコ雲を見たらしい。
僕の中学の修学旅行は広島で、やはり原爆資料館原爆ドームを見て回った。
で、本作は、元々は『夜と霧』みたいにドキュメンタリーの短編映画にするつもりだったらしいが。
多分、フランス人では原爆の真実を描くには限界があると監督自身が感じたのではないだろうか。
今のような形になった。
映画史上では大変評価されている作品だが、僕はイマイチ、ピンと来ない。
女(エマニュエル・リヴァ)と男(岡田英次)。
お互い、結婚しているので、不倫である。
こういう設定にした意図がよく分からない。
なお、エマニュエル・リヴァは、シャルロット・ゲンズブールにちょっと雰囲気が似ている。
「私はあなたに出会った。私を愛して。」
本作で興味深いのは、昔の広島の街並みである。
僕は、前述のように、親父が広島出身なので、幼い頃、中学の修学旅行、更には、新婚旅行でも広島に行っている。
本作で興味深いのは、昔の広島の街並みである。
もちろん、現在とは大幅に変わっているが、大まかな街の配置は分かるので、何か懐かしいような気がしてしまう。
「あなたは本当に日本人なの?」
「日本人だ。」
抱き合っている二人。
原爆が落ちた時、男は戦地にいた。男の家族は広島に。
女は女優で、撮影で広島に来ている。
その前はパリにいた。
男はフランス語の達人である。
実際、岡田英次のフランス語は、まるで吹き替えのように流暢である。
岡田英次は、フランス語が全く分からず、ただの音としてセリフを覚えたらしい。
何か、語学学習のヒントがあるような気がするが。
で、女は日本語が分からない。
広島で恋が始まる。
その日(1945年8月6日)、パリは快晴だった。
君は20歳、僕は22歳。
男は建築家である。
映画のテーマは平和。
本作のことだな。
二人が泊まっているのは「新広島ホテル」。
見るからに近代的で、おそらく当時の広島では一番立派なホテルだったのだろう。
本作は、女優がフランス人で、相手役の日本人もフランス語を話すので、広島で撮ったフランス映画といった趣である。
舞台背景だけが広島。
「明日、出発よ。」
「永遠の別れだ。」
しかし、撮影現場に男がやって来る。
日仏合作の反戦映画。
本作は、その辺のハリウッド映画なんかと違い、日本人のスタッフが関わっているので、日本の描写が正しい。
広島でのデモ行進のシーンは、ものすごい数のエキストラ。
これは皆、広島市民なのであろう。
で、男の自宅に女がやって来る。
男の奥さんは美人らしい。
今は雲仙に行っている。
女にも夫がいるという。
しかし、抱き合う二人。
女のために仕事を休む男。
抱き合う。
今度は、女がパリの前に住んでいたというヌヴェールの回想。
戦争中、私の恋人はフランス人ではなかった。
私は18歳、彼は23歳。
彼女の身の上話しを聞きながら、「君のことが分かって来た」と男。
「帰りたい」と女。
しかし、あと16時間ある。
で、ヌヴェールにいた頃、彼女の恋人はドイツ人の軍人で、非国民の私を父が地下室に閉じ込めた。
恋人は、ヌヴェール解放の日の朝、撃たれて死ぬ。
壮絶ではある。
まあ、広島とかヌヴェールのエピソードによって、戦争の悲惨さを浮かび上がらせたいのであろう。
とは言っても、「しょせん不倫じゃないか」という思いは拭えない。
二人が入る広島のカフェが興味深い。
彼らは明らかに上流階級なのだろう。
市井の人々の暮らしと全く違う。
浮世離れしている。
男は「ハイボール」を注文する。
ほう、こんな時代にハイボールか。
「Are you alone?」と言って、ナンパして来る男。
この時代に英語が話せる男もスゴイが、完璧なフランス語を話す男は超越している。
二人がさまよう夜の広島の繁華街が非常に興味深い。
和洋折衷な作りの店もあるが、どれもオシャレでそれなりに洗練されているんだな。
昭和30年代を舐めてはいけない。
広島駅のベンチのおばあさんの表情とセリフがスゴイ。
あれは絶対にエキストラではなくて役者だろう。
とにかく、戦後、日本はアメリカべったりだから忘れがちだが、原爆投下は、アメリカによる有色人種を使った人体実験であるということを忘れてはならない。
カンヌ国際映画祭国際批評家映画連盟賞受賞。

Hiroshima Mon Amour (Trailer)