『裁かるるジャンヌ』

この週末は、ブルーレイで『裁かるるジャンヌ』を見た。

1928年のフランス映画。
監督はカール・Th・ドライヤー。
撮影は、『ギルダ』のルドルフ・マテ。
主演はルネ・ファルコネッティ。
僕が本作のタイトルを初めて知ったのは、小学校4年生の時、地元の図書館でキネマ旬報から出ていた『映画史上ベスト200シリーズ』という本で見た時だ。
あの有名な、峯岸みなみのような丸刈りのジャンヌの顔写真が強烈に印象に残った。
学生の頃は、早稲田通りにあったACTミニシアターで毎週、他の無声映画の名作と共に本作をオールナイトで上映していた。
僕はACTミニシアターの年間会員(1年間観放題)であったが、結局一度も観ることはなかった。
サイレント映画の最高峰」とも言われる本作を、「いつかは見なければ」と思っていたが、今回、ようやく見ることが出来た。
ジャンヌ・ダルクについては、高校の世界史で習ったはずだが、恥ずかしながら、全く覚えていない。
要するに、教会から異端とみなされ、それを認めなかったから、火あぶりになったんだな。
その前提を知らないと、全く話しが分からない。
モノクロ、スタンダード・サイズ。
画質は良い。
悲壮な音楽が流れる(僕が見たのは、2016年のサウンド版)。
ジャンヌ・ダルクの裁判」の詳細な資料が発見され、正確な記録だという字幕。
この資料が、実に細かい文字でびっしり書かれている。
彼女の真実の姿、教会権力との対決を描く。
足を鎖でつながれたジャンヌ・ダルク(ルネ・ファルコネッティ)。
髪の毛が短く、辻元清美にしか見えない。
本作は、顔のアップを多用している。
非常にインパクトがある。
登場人物の心理の動きを、表情から読み取れる。
これが、映画史上で本作が評価されている一番の理由だろう。
あと、カメラが自在に移動する。
で、いきなり裁判から始まる。
狭い裁判所の中なので、舞台を観ているようだ。
ジャンヌのことを嘲笑する異端審問官達。
全編を通して、目に涙を溜めたジャンヌの表情がスゴイ。
彼女は、自分が神の声を聞いたと主張している。
それを本気で信じている。
今考えると、頭のおかしな人である。
麻原彰晃と大差ない。
僕だけじゃなく、信仰心の薄い多くの日本人には理解出来ないだろう。
審問官は、事細かな内容を質問する。
質問というより、詰問である。
例えば、「お前が見た天使の姿はどうだったか」とか。
一人だけ、彼女に敬意を表して、ひざまずく者がいる。
しかし、審問官は、彼女の答えに「神への冒涜だ!」と怒り、つばを吐きかける。
余談だが、画質はレストアされているので非常に良いが、画面の四隅に光が当たっていない。
非常に重いトーンで、裁判のやり取り以外に説明はないから、音楽がないとキツイ。
僕は完全な無神論者なので、「信仰」というのは狂気だと思う。
「神はお前にどんな約束をした?」
「罪を認めさせろ!」という審問官の圧力。
その時、窓から差し込んで来た光が、窓の格子の陰をまるで十字架のように映し出す。
これが彼女の信仰心をより強く固めさせる。
裁判の記録は羽ペンで書かれるが、一字一字を書くのが大変そうだ。
昔の人が文章を書くというのは大変だったんだな。
ジャンヌの指輪が没収されるが、それは返してもらえる。
裁判が終わると、途端に字幕が少なくなる。
シャルル王から彼女宛ての手紙が送られて来たという(ニセモノ)。
しかし、ジャンヌは「私は字が読めません」。
シャルル王が派遣したという忠実なる司祭。
「お前は神の娘か?」
「ウィ。」
「牢屋から出られると神はお前に告げたのか?」
「ウィ。」
彼女は神による救いを確信している。
「それでは、教会は必要ないのでは?」
それに対しては、彼女に迷いがある。
「ミサを行う許可を与えて下さい」と言うジャンヌには、明白に「ノン」。
ジャンヌは男性の格好をしている。
「衣服を着替えよ」と命令されるも、拒否する。
「お前は神の娘ではない。サタンの手先だ!」
「拷問の準備をしろ!」という命令。
拷問部隊は楽しそうである。
ジャンヌは、草で作った冠をかぶせられる。
彼女は、とにかくずっと泣いている。
泣き方にも、変化がある。
映画史に残る名演だ。
そして、拷問室へ。
まるでSM部屋のようである。
あらゆる拷問の道具が揃っている。
美術を担当したのは、『カリガリ博士』の人らしい。
ジャンヌは、「(審問官よりも)神の方が賢い」と言う。
「お前の啓示は神からではなく、悪魔からのものだ!」
審問官はジャンヌに、「異端だと認めるか?」と迫る。
しかし、彼女はその書類に署名出来ない。
教会との対立。
拷問用のたくさんのトゲが付いた大きな車をグルグルと回す拷問執行係。
それでも、彼女は自分が異端だと認めない。
しかし、グルグルと回り続ける車。
やがて、彼女はその場で気を失って倒れる。
さあ、これからどうなる?
この後、生々しい瀉血シーンがある。
血がピューッと吹き出る。
中世のヤブ医者が行なった非科学的な治療法だ。
彼女はどこまでも教会を批判する。
「あなた方こそ悪魔の使いだ」と。
これが、相手を逆上させる。
ハムレット』のように墓掘りがある。
掘り出されたドクロにはウジ虫がはっている。
ジャンヌは、「きれいな土に埋めて欲しい」と言ったのに。
彼女は、生きたまま火あぶりにされるという。
信仰心は強いが、やはり死ぬのは怖い。
彼女はとうとう署名してしまう。
字は読めなくても、署名は出来るのか。
そして、終身刑を言い渡され、丸刈りにされる。
『フリークス』のような見世物の人達も多数登場する。
中世の風俗にはかなり忠実に作ったらしい。
ジャンヌは、一旦異端だと認めた後、やはり神を畏れる気持ちが湧いて来る。
本当に怖いのは教会ではない。
本作には、授乳シーンもある。
それから、群衆シーンがスゴイ。
聖女の死を知った民衆の暴動。
国家権力が罪もない一般大衆を叩きのめす。
この構図は、現代も何ら変わらない。
ジャンヌの火あぶりの過程が非常に生々しく、執拗に描かれている。
サイレント時代から芸術映画はあったのだなあ。
しかし、教会権力が一人の若い女性を残酷に殺したのは決して許されることではないが。
ありもしない神の言葉を主張して民衆を扇動するのはどうなんだろう。
宗教は人間を不幸にする。
中世のヨーロッパなんて、不幸しかない。
裁かるるジャンヌ
「パリの下院図書館に奇妙な資料がある。『ジャンヌ・ダルクの裁判』彼女を有罪とし、死刑判決を下した裁判の過程を記録した尋問調書である。」
「審問官らの質問とジャンヌの答えがここに大変正確に記録されている。」
「これを読むと、彼女の本当の姿が分かる。勇ましい武将ジャンヌではなく、ありのままの人間としての彼女。祖国のために死んだ若い女の姿である。」
「我々は感動的なドラマに立ち会う。信心深い若い女がたった一人で老練な神学者や法律家たちと対決するドラマである。」
「真実を述べることを誓います。」
「真実だけを」
「洗礼名はジャンヌ」
「郷里ではジャネットと呼ばれていました。」
「年令は?」
「19才…だと思います。」
「主祷文は唱えられるか?」
「誰に教わった?」
「母です。」
「唱えてみなさい。」
「お前は神から遣わされたと?」
「フランスを救うため…」
「そのために私は生まれました。」
「では神は英国人を憎んでいると思うのか?」
「神が英国人を愛しているか憎んでいるのか、私には分かりません。」
「1つだけ分かるのは英国人は全てフランスから追い出されるということ。」
「フランスで死ぬ者を除いて。」
「聖ミカエルがお前の前に現れたそうだが、彼はどんな姿をしていた?」
「翼があったか?」
「王冠をかぶっていたか?」
「何を身につけていた?」
「どのように男か女かを見分けることができた?」
「裸だったのか?」
「神が何か身につけさせるとはお考えになりませんか。」
「髪は長かったか?」
「なぜ彼が髪を切らせるのですか?」
「なぜお前は男の格好をしたのだ?」
「ドレスを与えられたら着るつもりはあるか?」
「神の御意志をやりとげたら再び女の服を身につけます。」
「では男の格好をせよと命じたのは神だと言うのだな。」
「神からどんな報酬を期待している。」
「魂の救済です。」
「これは神への冒瀆だ。」
「恥ずべきことを」
「彼女は聖女だ。」
「神はお前に何か約束してくれたのか?」
「それは裁判に関係ないことです。」
「審問官の決定を仰ぐことにするか。」
「評決にするか。」
「神はお前にどんな約束をなさった?」
「牢屋から出られるとでも約束して下さったのかね。」
「いつ?」
「何時だったのかも」
「分かりません。」
「素直に罪を告白しようとしないのだから、術策をもって己れの罪を認めさせねばならない。」
「シャルル王の署名入りの手紙が必要だ。」
「私の言う通りに書きなさい。」
「お前にはとても同情しているのだ。」
「王の署名が分かるかね。」
「王からお前に宛てた手紙がある。」
「私は字が読めません。」
『親愛なるジャンヌへ』
『大軍を集めルーアンを攻撃する準備をしている。』
『この忠実なる司祭をそちらに送る。彼を信頼するように。』
「イエスが神の息子であるように、お前は神の娘であると?」
「主祷文を唱えるか?」
「牢屋から出られるだろうと神はお前に告げたのか?」
「大いなる勝利をもって!」
「お前が天国に行くと神は言われたのか?」
「すると救いを確信しているのだな。」
「お気をつけなさい。その様に答えることは危険です。」
「救われると確信しているなら、お前に教会は必要ないのだな。」
「お前はすでに神の恩寵を受けているのか。」
「神の恩寵を受けているのか、答えなさい。」
「もしそうなら私がそこに留まれますように。」
「そうでないなら、どうか恩寵をお授け下さい。」
「どうか…」
「ミサを行う許可を与えて下さい。」
「ジャンヌ、ミサの許可を与えてもよいが…」
「1つ条件がある。衣服を着替えるのだ。」
「するとその衣服はミサより大切ということか。」
「その忌まわしい格好」
「神に対する侮辱だ。」
「お前は神の娘ではない。」
「お前はサタンの手先だ!」
「拷問の準備をしろ。」
「神の娘のように見えるぜ。」
「拷問室」
「審問官を見なさい。」
「この学識ある博士たちはお前より賢いと思わないか。」
「でも神の方が賢いはずです。」
「お前の啓示は明らかに神からのものではなく…」
「悪魔からのものだ。」
「善の天使と悪の天使をお前はどうやって見分ける。」
「お前がひざまずいたのは聖ミカエルではなく、悪魔だったのだ!」
「お前に顔を向けたのがサタンだと分からないのか。」
「サタンはお前を騙し…」
「そして裏切ったのだ。」
「やっと異端誓絶書に署名する気になったようだ。」
「教会は手を差し伸べる。」
「だが背を向けるなら教会はお前を見捨て、お前は一人になる。」
「一人ぼっちだ。」
「ええ、一人です。」
「神のもとで一人です。」
「あなた方が私の肉体から魂を引き抜こうとも、私は意見を撤回しません。」
「後になって撤回するようなことがあるとしても、無理やりそうさせられたと言うでしょう。」
以下、後半。

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