『素晴らしき放浪者』

連休中は、ブルーレイで『素晴らしき放浪者』を再見した。

1932年のフランス映画。
監督・脚本は、『フレンチ・カンカン』の巨匠ジャン・ルノワール
音楽はヨハン・シュトラウス
主演はミシェル・シモン
ジャン・ルノワールは、絵画で有名なあのルノワールの次男。
フランス映画の巨匠中の巨匠である。
僕は学生の頃、彼の代表作『大いなる幻影』をレンタル屋で借りたが、何故か途中で見るのを止めてしまった。
その後、大人になってから、『フレンチ・カンカン』をブルーレイで見た。
なので、彼の作品をちゃんと見るのは、これが2作目である。
本作の日本公開は1977年と、かなり後になってから。
モノクロ、スタンダード。
画質は良い。
86年前の映画なので、修復は大変だったろう。
最初に、どうやって修復したかが字幕で出る。
のどかなテーマ曲(ただし、音は揺れている)。
パリの街の書き割り風の舞台の前で、一組の男女が戯れ、キスをする黙劇。
これは導入だろう。
セーヌ河畔の本屋の主人レスタンゴワ(シャルル・グランヴァル)は、女中のアンヌ・マリに「君は妖精のようだ」と告げる。
レスタンゴワには奥さんがいる。
要するに、不倫だ。
毎晩、秘かに寝室を抜け出してマリーと逢瀬を重ねているが、「昨晩は眠ってしまった。歳には勝てん。」
一方、公園では、浮浪者のブーデュ(ミシェル・シモン)が長毛のワンコと遊んでいる。
鼻歌をうたいながらパンをかじるブーデュ。
ワンコがどこかへ行ってしまう。
必死で探すブーデュ。
浮浪者に対して、世間は冷たい。
彼が近寄ると、人は逃げる。
警官にワンコの行方を尋ねると、「お前も失せろ! さもないとブチ込むぞ!」と恫喝される。
国家権力の横暴だ。
ところが、金持ちの婦人が犬の行方を尋ねると、同じ警官が、今度は応援まで呼んで探そうとする。
国家権力の犬め!
断じて許せない!
ブルジョワの親子連れがブーデュに金を恵む。
母親が「可哀想な人に施しを」と言って、女の子が渡したのだ。
しかし、ブーデュはその金を、オープンカーに乗った金持ちの青年に渡してしまう。
金に拘泥しない彼の性格が、既に現われている。
一方、本屋で学生がヴォルテールの著書を立ち読みしている。
昔は、学生も本を読んだのだろう。
早稲田の学生が本を読まなくなって、高田馬場の芳林堂が縮小されてしまう昨今とは、隔世の感がある。
レスタンゴワは、その学生に「持って行きなさい。私の好意だ」と、本を与える。
レスタンゴワの人の良さが、ここで描かれている。
その頃、ブーデュは街をうろついている。
レスタンゴワは、2階の窓から望遠鏡で街を覗いている。
マリーが「また女の人を見ている」と嫉妬する。
すると、レスタンゴワはブーデュを発見する。
「何と素晴らしい男だ! 彼こそ一流の放浪者だ!」と、何故か称賛。
その瞬間、ブーデュがセーヌ川に飛び込む。
急いで駆けて行くレスタンゴワとアンヌ。
当時から既にパリの街には人が多かったのだろう。
黒山の人だかりが出来ている。
すごいエキストラの数である。
この時代に、既にこういった群衆シーンがあったということだ。
溺れているブーデュを助けようと、レスタンゴワも川に飛び込む。
遊覧船が横を通り過ぎる。
ボートがやって来る。
二人はボートに引き上げられる。
ブーデュは失神している。
レスタンゴワは、川の傍にある自分の家へブーデュを連れて行く。
自宅でレスタンゴワはブーデュを蘇生させる。
水を吐くブーデュ。
「死んだのか?」
「生き返ったんだ。」
「この人が命の恩人よ。」
しかし、ブーデュは「うらんでいる」と言う。
「なぜ助けた? 人生は下らん!」
しかし、その頃、外の人達は勝手にレスタンゴワを英雄扱いし、「勲章を与えよう!」などと騒いでいる。
ボロ切れのような服を着たブーデュを、自分の服に着替えさせるレスタンゴワ。
ブーデュは、レスタンゴワの奥さんのことを「女を追い出してくれ」と告げる。
なかなかわがままな野郎である。
サイズが合わないので、レスタンゴワの服を「似合わん」と一蹴。
「明日、服を買おう」とレスタンゴワ。
ブーデュに、食事としてオイル・サーディンとバター・パンと白ワインを与えるが、酒を飲み慣れていないブーデュは、白ワインを「酸っぱい」と言って吐き出してしまう。
アンヌは「不潔な男ね。早く出て行くといいわ。」
レスタンゴワは、たまたま自分のポケットに入っていた宝くじを1枚、ブーデュにやる。
泊まる所のないブーデュを、家に泊めてやることにしたレスタンゴワ。
しかし、ベッドで眠ったことのないブーデュは、「ベッドは苦手だ」と、階段の前で寝る。
夜中、階下の部屋でアンヌが待っているのに、ブーデュが邪魔でレスタンゴワは下に降りられない。
翌朝の朝食で、ブーデュはグラスを倒し、テーブル・クロスを汚してしまう。
レスタンゴワの奥さんは激怒。
今度は、片付けようとして食器を落としてしまうブーデュ。
奥さんはウンザリし、アンヌも怒っている。
さらに、ブーデュはそこら辺中でツバを吐く。
さすがのレスタンゴワも「家の中でツバを吐くのは止めろ」とたしなめる。
今度は、ブーデュはアンヌに後ろから抱き着こうとする。
レスタンゴワは「礼儀をわきまえてくれ」と言うが、ブーデュは彼のことを「アイツは偏執狂だ。オレに会ったこともないのに、なぜ助けた?」とうそぶく。
アンヌは「この恩知らず!」とののしるが、ブーデュのセクハラはエスカレートし、「キスしろ」などとのたまう。
レスタンゴワはブーデュに「床屋へ行ってヒゲを剃って来い」と命じる。
レスタンゴワは、ブーデュのせいで夜、アンヌと会えないことが不満だった。
が、レスタンゴワの大切な蔵書のバルザックにブーデュがツバを吐いていたのを見付け、「今日こそ追い出すぞ! もうガマンならん!」
さあ、これからどうなる?
後半では、ヨハン・シュトラウスの『美しき青きドナウ』が繰り返し効果的に使われている(『2001年宇宙の旅』か)。
ラストは「なるほど」という感じだ。
要するに、ブーデュは自由人なんだな。
何ということもない話しだが、世の中の世知辛さを皮肉っているのだろう。

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