『波止場』

この週末は、ブルーレイで『波止場』を見た。

1954年のアメリカ映画。
監督は、『エデンの東』のエリア・カザン
共産党員で、赤狩りの時に仲間を売ったという過去を持つ。
仲間を売ることは断じて許し難いが、作品の出来とは関係ない。
製作は、『戦場にかける橋』『アラビアのロレンス』のサム・スピーゲル。
音楽は、巨匠レナード・バーンスタイン
主演は、『ゴッドファーザー』『ラストタンゴ・イン・パリ』『スーパーマン』『地獄の黙示録』のマーロン・ブランド
共演は、『北北西に進路を取れ』『グラン・プリ』のエヴァ・マリー・セイント、『西部開拓史』『パットン大戦車軍団』のカール・マルデン、『史上最大の作戦』『ドクトル・ジバゴ』のロッド・スタイガー、『西部開拓史』『エクソシスト』のリー・J・コッブ
静かなテーマ曲で始まる。
舞台は、巨大な船も停泊する波止場。
遠くにエンパイア・ステート・ビルの影が見えることから、ニューヨークと分かる。
古い作品ながら、本ブルー・レイの画質は良い。
のっけから、マーロン・ブランド演ずるテリーが登場。
若い。
森林原人のよう。
友人ジョーイの飛ばしたハトが彼の目の前に飛んで来た。
テリーはハトを捕まえて、ジョーイの許へ飛ばす。
そして、バーへ。
その時、屋上から人が落ちた。
ジョーイであった。
彼は、波止場のボス・ジョニー(リー・J・コッブ)に立て着いたから殺されたのだ。
「何も言うな。命が危ないぜ。それが波止場の掟だ。」
ジョーイの妹イディ(エヴァ・マリー・セイント)は、現場に到着し、取り乱す。
「誰が兄を殺したの?」
ウラ社会は、真に恐ろしい。
テリーは、ジョニーから「坊や」と呼ばれていた。
彼は元プロ・ボクサーだった。
ジョニーに気に入られ、面倒を見てもらっていた。
ジョニーは、波止場の連中に睨みを利かせ、手数料を得ていた。
彼にとって、ジョーイは目障りだった。
ウラ社会の掟は厳しく、インチキをすると即座にクビになる。
テリーにとって、ジョーイは親友だったのだが。
で、犯罪調査委員会は、テリーを疑って、尋問しようとする。
だが、テリーは「何も言わないぞ!」と頑なに証言を拒否する。
この波止場の中で唯一人、正義感の強いバリー神父(カール・マルデン)は、イディから真実を聞き出そうとする。
波止場では、失業者達が仕事を求めて列を作っていた。
元締めのジョニーには、誰も逆らえないのであった。
まるで、安倍に誰も頭が上がらない、今の痔民党を見ているようだ。
兄の謀殺にテリーが関わっているのではないかと疑ったイディは、彼に殴り掛かる。
バリー神父は、波止場を支配する悪と闘おうとするが、ジョニーの復讐を恐れて誰も相手にしない。
神父は、今回の事件の真相を探るべく、教会で集会を開く。
もちろん、イディも来ている。
テリーは、その集会の内情を探るようにジョニーに命じられ、教会の後ろの席から様子を伺っていた。
「誰がジョーイを殺したのか?」
問う神父に、皆沈黙する。
ここでは「聞かざる」と「言わざる」が掟なのである。
「指す」と殺される。
言論の自由が封殺された現代の日本と重なる。
その時、教会にジョニーの一味が来襲する。
テリーは、とっさにイディと一緒に逃げる。
イディは、テリーに「どっちの味方なの?」と聞く。
「オレはオレの味方さ。」
貧乏な生い立ちのイディは、修道系の学校に通って、教師を目指していた。
戦前の日本でも、女性が自立するためには、女子師範学校に行って、教師になるしかなかったのだが、それと同じだ。
テリーは、彼女のことを昔から知っている。
「君は美人になったよ。」
要するに、テリーは彼女に興味があるんだな。
「また会いたい。」
しかしながら、イディの父親は、娘とテリーが付き合うのに反対する。
そりゃそうだろう。
大事に育てた娘を、こんなゴロツキに取られたくないわな。
しかも、息子を殺した犯人かも知れないのに。
イディの父親は、娘を学校に行かせるために、大変な苦労をした。
イディの母親は、早くに亡くなっていた。
イディは、改めて兄を殺した犯人を捜す決意をする。
ジョーイはハトが好きだった。
テリーも、アパートの屋上でたくさんのハトを飼っている。
テリーは、イディを酒場に誘った。
テリーの身の上話し。
彼は幼い時、父親を殺され、兄と一緒に施設に送られた。
そこでの生活にイヤ気が差し、逃げ出した時にジョニーに拾われたのである。
「やられる前にやれ」というのが、テリーの主義だ。
テリーは、イディのことは気に入ったが、バリー神父はキライだった。
彼女を助けたいと思ったが、彼には出来ない。
テリーは、彼女とダンスをする。
二人は、既に魅かれ合っていた。
さて、テリーはとうとう裁判所に呼ばれたが、無視する。
イディは、「ジョニーが兄を殺した。あなたは彼の一味?」とテリーに聞く。
でも、テリーは答えない。
「あなたなんて!」と、イディは彼の許から去った。
そして、テリーは、ジョニーの一味からも攻められる。
恋人と、自分を拾ってくれたボスとの間で揺れる青年の心を、下手にメロドラマに流れず、実によく描いている。
更に、肉体派(ボクサー)のテリーに対して、彼の兄は頭脳派(法学士)であった。
兄もジョニーの手下なので、それも、もちろんボスが面倒を見た訳だが。
後半、この兄弟の対決は迫真の名場面だ。
この世の不幸の原因は、みんな「貧困」なんだな。
今の日本にも、不幸のタネが溢れている。
不思議なのは、今の日本では、貧困に喘ぐニート・フリーターがネトウヨ化していることだ。
自分達を不幸にした元凶を礼賛してどうする。
しかも、この映画のボスは、ウラ社会を維持するためとは言え、子分の面倒をちゃんと見ているが、安倍痔民は何もしてくれないじゃないか!
それどころか、我々無産階級の足を引っ張るような政策ばかり推進している!
断じて許せない!
本作は、ヒドイ話しではあるが、最後に労働者の団結の重要性を訴えているのが素晴らしい。
労働者が大同団結すれば、巨悪も一撃で倒せるのである。
万国のプロレタリアよ、団結せよ!
エリア・カザンの骨太の演出。
マーロン・ブランドの演技。
映画史に残る名作。
アカデミー賞作品賞、監督賞、主演男優賞(マーロン・ブランド)、助演女優賞エヴァ・マリー・セイント)、脚本賞、撮影賞、美術監督賞、編集賞受賞。