『ハリーとトント』

あけましておめでとうございます。
今年も拙ブログをよろしくお願いします。
さて、新年最初の、と言いたいところですが、実は、2017年最後のブルーレイ鑑賞は『ハリーとトント』。

1974年のアメリカ映画。
監督はポール・マザースキー
スタンリー・キューブリックの元相棒で、彼のデビュー作『恐怖と欲望』にも出演している。
音楽は、『ロッキー』『ロッキー2』のビル・コンティ
主演はアート・カーニー。
共演は、『エクソシスト』のエレン・バースティン
本作は、アメリカン・ニュー・シネマの1本とされている。
そして、作中でも触れられるが、明らかにシェイクスピアの『リア王』を下敷きにしている。
20世紀フォックス
カラー、ワイド。
穏やかな音楽。
タイトル・バックにはジジババが多数登場。
舞台はニューヨーク。
ニャンコのトントを連れて歌いながら街を歩く老人ハリー(アート・カーニー)。
雑貨屋へ。
店主とは顔なじみ。
ニャンコのエサを買う。
年老いて、下半身の方は引退したという会話。
売店で新聞を買い、公園へ。
ベンチに座り、隣に座っているポーランド人のジイさんと会話。
ハリーは、区画整理のために、長年暮らしていたアパートを強制的に立ち退かされることになったと明かされる。
国家権力の横暴は断じて許せない!
ハリーは補聴器を付けている。
愛猫トントも結構な年のようだ。
猫は人間の6倍のスピードで年を取るからな。
ハリーを襲う若者。
逃げて行く。
老人を食い物にするなんて許せない。
黒人のジイさんと話す。
アパートの婆さんと挨拶。
立ち退きになっても、新しい部屋は未だ見付かっていない様だ。
アパートの部屋の中へ。
トントに水をやる。
トントは名演だ。
ハリーは昔を懐かしむ。
部屋で一人、まどろむ。
パトカーがやって来る。
アパートの下で、お廻りが拡声器で叫ぶ。
「降りて来い!」
国家権力の犬め!
ハリーはソファーに座ったまま、部屋から出される。
何と非情な!
強制執行だ!
国家権力には血も涙もないのか!
断じて許せない!
そこへ、ハリーの長男バートが迎えに来る。
目の前で破壊されるアパート。
あさま山荘のように鉄球で破壊される。
革命の闘士を追い詰めた国家権力め!
絶対に許せない!
いかん、ついつい話しが逸れる。
ハリーはバートの車に荷物を積んで引っ越し。
車の中で、ハリーはバートに「ずっと『リア王』のことを考えていた」と語る。
「年寄りが家をなくせば、ただの放浪者だ。」
バートの家へ。
トントは、新しい家で気が立っている。
バートの長男ジュニアとハリーは反りが合わない。
バートの嫁とも険悪な空気。
バートの次男ノーマンはヤクをやっているらしい。
そして、無口でハリーとは筆談する。
バートの家族仲は最悪のようだ。
トントはノーマンに馴染んでいる。
ハリーが夜中にトイレに起きると、泥棒と間違えたバートが父親に銃を向ける。
ハリーはノーマンの部屋で寝ている。
ノーマンに「お前はいい子だ」と。
無口でヤク中の若造のどこがいい子なのか分からんが。
公園へ。
例のポーランド人のジイさんと会話。
ハリーは、バートの家で、家族の前でピアノを披露する。
一緒に踊る黒人のジイさん。
家族には大ウケ。
しかし、バートの嫁は「部屋をあげたくても余裕がない」と実につれない。
ハリーは「今週中に部屋を探す」と決意する。
部屋探し開始。
適当な安アパートを見付ける。
だが、大家のバアさんは、トントを見るや、「動物はお断りよ!」とスゴイ剣幕。
それでも、未だ乞食のジイさんに物を恵む余裕はある。
ハリーは決意する。
シカゴの長女シャーリーの所へ行くと。
自分の子供の所をたらい回しにされるのが、正にリア王だ。
リア王が、如何に普遍的な話しであるか分かる。
ハリーは、例のポーランド人のジイさんの遺体と面会する。
このジイさんには身寄りがない。
孤独な老人の死に涙するハリー。
シカゴへ向かうハリー。
トントはカゴの中へ。
飛行機に乗ろうとすると、「規則だから」と、トントをX線検査に掛けられそうになる。
断ると追い出される。
仕方がないので、タクシーを呼ぶ。
ハリーは昔、猫の行商人をやっていたらしい。
そんな商売があったのか。
僕は、実家で飼っていた猫は迷い猫か、ペットショップで買ったのだから。
ハリーは、バスに乗ってシカゴへ行くことにする。
バスで隣の席になったオッサンと喋る。
オッサンはトントにサンドイッチを分けてくれる。
いい人で良かった。
動物好きに悪い人はいない。
このバスは長距離バスなので、後ろにトイレが付いている。
運転手に「猫がトイレをしたい」と訴えると、すげなく「猫は乗車禁止」と言われる。
でも、人間用のトイレではうまく用が足せない。
バスを停める訳には行かない。
それでも、トントは頼み込んでバスを停めてもらう。
運転手は「オレがクビになっちゃうよ!」
今なら、規則違反の動物を乗せ、しかも、その用足しのためにバスを停車させたとなれば、動画をツイッターにアップされて、一瞬で炎上するだろう。
何と、世知辛い世の中になったものだ。
バスが停まったのは墓地の前。
用を足すように促すと、トントは行ってしまう。
あ〜あ。
ネコっていうのは気ままな生き物だから。
犬みたいに人間に付いて来ない。
ハリーは、ずっとトントをリードで繋いでいたが。
用足しのために外してしまったんだな。
仕方がないので、ハリーはここで下車することにして、運転手に荷物を降ろさせる。
すると、トントが戻って来た。
ところが、トントのカゴをバスに忘れて来たのであった。
道を歩いていると、「中古車ニック商店」を発見。
店主のニックはズラ。
ハリーはここで車を買う。
モーテルに泊まる。
ハリーが自分の免許を確認すると、1958年に切れている(現在は1973年)。
ハリーの妻アニーは、病気で苦しんで死んだらしい。
翌日、ハリーが車を運転していると、ヒッチハイクカップルが。
免許が切れているので、ハリーは若い兄ちゃんに運転させる。
けれども、ほどなくして彼と別れる女の子。
聞けば、カップルではなく、単なる同乗者だという。
この娘ジンジャーは、家出をして来た16歳。
二人はモーテルへ。
今の日本なら、この時点で未成年者誘拐で逮捕されるな。
更に、風呂上りのジンジャーのトップレス姿が映る。
16歳の少女の裸は児童ポルノだ。
ということは、本作のブルーレイを持っている僕は、児童ポルノ所持で逮捕だな。
国家権力め!
と思って調べたら、ジンジャー役のメラニー・メイロンは1952年だから、本作撮影時点で、おそらく20歳を越えている。
良かった。
こんなことで逮捕、実名報道されて、人生を棒に振りたくない。
国家権力め!
ハリーとジンジャーは同室に泊まるが、もちろん、やましいことは何もない。
そこでハリーは昔の恋話しを。
妻と結婚する前の恋人ジェシーの話しをし、ふと思い立って、彼女に会いに行くことにする。
既に『リア王』の話しで分かるように、ハリーは大のシェイクスピア好きだった。
ジイさんが放浪するだけのロード・ムービーだが、実に味がある。
この後、長女と会い、次に次男の所へ行く。
正にリア王なんだが、この次男はコーディリアのように出来が良い訳ではない。
最後は、リア王のように悲劇的な結末ではない。
それでも、大筋はリア王を下敷きにしている。
本作の公開時より、少子高齢化で、身寄りのない老後はもっと深刻な問題になっている。
社会問題としても大きいが、単純に映画としても楽しめる作品。
アカデミー賞主演男優賞(アート・カーニー)受賞。