『素晴らしきヒコーキ野郎』

この週末は、ブルーレイで『素晴らしきヒコーキ野郎』を見た。

1965年のイギリス映画。
監督は、『史上最大の作戦』のケン・アナキン
編集は、『アラビアのロレンス』『レガシー』『エレファント・マン』のアン・V・コーツ
主演は、『史上最大の作戦』のスチュアート・ホイットマン
共演は、『史上最大の作戦』『007 ゴールドフィンガー』『チキ・チキ・バン・バン』のゲルト・フレーベ、『史上最大の作戦』『シシリアン』のイリナ・デミック、『チキ・チキ・バン・バン』のベニー・ヒル、『ナイル殺人事件』のサム・ワナメイカー
なお、日本からは、我らが石原裕次郎が出演している(兄貴は右翼だが)。
細君は、「なぜ三船敏郎丹波哲郎じゃないの?」と言っていたが、日本を代表する役者の一人であるのは間違いない。
日本代表が裕次郎であることから推すに、各国を代表する役者が出ているのだろう。
インターナショナルな映画である。
20世紀フォックス
カラー、ワイド(70ミリ)。
劇場風のイラストの真ん中の四角いスクリーンにモノクロの映像が映し出される。
古代から人間の夢は鳥になること。
コミカルな音楽をバックに、空を飛ぼうとして失敗した数々の人間の映像が流れる。
これが実に面白い。
初の長距離(と言っても、ほんの数十メートルにしか見えないが)飛行成功者はイタリアのポンティチェリ伯爵(アルベルト・ソルディ)。
1910年のことだった。
ここで、画面はワイド、カラーになる。
ようやくタイトル。
バックは戯画風のアニメ。
テーマ曲は陽気な合唱。
飛行機が空を飛んでいる。
操縦しているのはイギリス人のリチャード・メイズ(ジェームズ・フォックス)。
恋人のパトリシア・ローンズリー(サラ・マイルズ)がバイクで後を追い掛ける。
「私も乗せて!」
パトリシアの父ローンズリー卿は新聞社を経営している。
彼は「大英帝国愛国心を煽る」のがモットー。
リチャードはローンズリー卿に、世界各国、特にフランスとアメリカの飛行技術はイギリスの先を行っていると訴える。
だが、「パトリシアを飛行機に乗せることは断じて許さん!」と告げられる。
それでも、ローンズリー卿は重役会議で世界各地の様々な飛行機を集めた競技会を自らの新聞社の主催で行うことを提案する。
パリとロンドン間で、賞金は1万ポンド。
イタリアのエミリオ・ポンティチェリ、フランスのピエール・デュボアら、世界の飛行家に招待状が送られる。
ここから、世界各国の代表が描かれるが、はっきり言って、ステレオ・タイプな偏見に満ち満ちている。
要するに、イギリス人から見て、他の国の人間はどう見えているか。
現代では問題になる描写も多々あるが、まあ、コメディということで大目に見よう。
割り切って見ると、本作はなかなか面白い。
フランスのデュボアは、地上でヌードの絵のモデルになっている女性に見とれて、飛行機を衝突させてしまう。
彼女の名はブリジット(イリナ・デミック)。
つまり、フランス人は女ったらしだと言いたいのだろう。
そこへ、飛行機レースの招待状が届く。
賞金は25万フラン。
ドイツでは、マンフレッド・フォン・ホルスタイン大佐(ゲルト・フレーベ)が飛行機を木に衝突させていた。
大佐は、部下のランベルストロス大尉に飛行機に乗るように命じる。
ドイツ人はガチガチで融通の利かない頑固者として描かれている。
かなりバカにしていて、ドイツ人が見たら怒るだろう。
なお、本作に登場する各国のキャストは皆、何故か英語を話す。
アメリカでは、西部劇みたいな格好で幌馬車に乗っているオービル・ニュートン(スチュアート・ホイットマン)とジョージ・グルーバー(サム・ワナメイカー)が風で飛んで来た新聞の記事で飛行機レースのことを知る。
賞金は5万ドルとある。
イタリアのポンティチェリは、度重なる失敗に「飛行機は懲りた。二度と飛ばない」とうそぶいていたが、新聞を見て、レースへの出場を決意。
一方、日本では…。
この頃の英米人の日本のイメージはこんなだったのだろう。
珍妙な鳥居や五重塔やらのセット。
ヒドイね。
バックには琴の音。
飛んでいるのはヤマモト(石原裕次郎)。
ヤマモトって、どうせ山本五十六から取ったんだろう。
しかし、セリフは日本語。
まごうことなき裕次郎の声である(ただし、この後、イギリスに渡ると、セリフは英語になり、吹き替えになる)。
賞金は1万ポンド(円じゃないのか!)。
世界中からロンドンに続々と飛行家が集結する。
イギリスからもう一人の参加者が。
アメリカのオービルは、パトリシアの服を自転車に引っ掛けてしまうが、これをきっかけに彼女に「君を飛行機に乗せてあげる」と声を掛ける。
保守的なイギリス人と改革的なアメリカ人という対比か。
一方、ローンズリー卿はリチャードにパトリシアとの結婚を許可する(ただし、未だ彼女にプロポーズはしていない)。
ポンティチェリは家族連れでやって来る。
イタリア人には大家族のイメージがあるのか。
彼は、「イタリアが先頭でないと困る!」と主張する。
イタリアは着道楽なのか(まあ、ファッションの国だし)、ものすごく立派な衣装を身につけている。
彼は資産家である。
フランスのデュボアは、早くもナンパに成功したブリジットと一緒に飛行している。
ポンティチェリの飛行機は足漕ぎ式の人力で、なかなか飛べない。
アメリカのオービルの飛行機は木のプロペラである。
このレースには、飛行機に二人乗ってはいけないというルールがあるが、誤って二人乗ることになってしまったオービルの飛行機は汚水溜めに突っ込む。
オービルは、イギリスの格納庫にモンキーレンチを借りに来る。
ここで、リチャードと知り合う。
イギリスでは、モンキーレンチのことを自在スパナと言うという豆知識。
オービルはパトリシアに色目を使う。
夜のカフェ。
デュボアは、店の店員であるドイツ女性マレーネ(イリナ・デミック)をナンパする。
一方、席に座っていたパトリシアに声を掛けるオービル。
彼は、この飛行機レースに出るためにアリゾナから借金してやって来た。
負けたら無一文である。
パトリシアが「私を同乗させて」と言うと、「いいよ」と答える。
しかし、そこへリチャードがやって来る。
彼は、恋人に近寄るヤンキーに動揺している。
今度はデュボアが飛行している。
隣に座っているのは、店でナンパしたマレーネ
とは言っても、イリナ・デミックが何度も名前を変えているだけだが(一人六役!)。
ドイツ機は、飛行前に尾翼が外れ、飛ばずに走り回る。
止まらない。
オービルが飛び乗り、燃料タンクをナイフで刺して停める。
オービルは、自らの飛行機に馬力を上げる仕掛けを施している。
そこへ、パトリシアがやって来て、「あなたが好き(I like you very much)」と告げる。
翌日、一行はロンドンからドーバーへ。
しかし、我らが日本は未だ到着していない。
ドーバーで乾杯するオービルとパトリシア。
リチャードはオービルに「彼女に近付くな」と。
オービルはリチャードの顔面に一発食らわせる。
そこへ、ヤマモトが飛行機で飛んで来る。
この飛行機には全体に、火を噴く獅子やら、菊の御紋やらが描かれていて、ものすごい外観である。
これが日本のイメージか。
飛ぶだけでも一苦労の各国は、ヤマモトがドーバーまで飛行機でやって来たことに驚愕する。
「これじゃあ誰も勝てない」と。
日本は技術力があるというイメージなのだろう。
一方、パトリシアはオービルに「私を(飛行機に)乗せて」と懇願。
その頃、デュボアとホルスタイン大佐はつまらないことから、気球に乗って決闘していた。
オービルとパトリシアは二人乗りバイクで飛行場へ向かう。
それを見付けたローンズリー卿は激怒。
だが、既にパトリシアを乗せたオービルの飛行機は飛んでいる。
その時、翼の支柱が折れる。
危機一髪。
オービルは、折れた支柱に自分のベルトを巻いて応急処置。
無事着陸したものの、ローンズリー卿は「あの男は失格だ!」と。
リチャードはオービルを殴る。
ローンズリー卿はパトリシアに「今後は飛行も車も許さん!」と言い渡す。
オービルはローンズリー卿の家へ出向き、「とにかく卿に会わせてくれ。このままじゃ破産だ」と懇願するが、取り付く島もない。
しかし、パトリシアが「私が父に話すわ」と。
一方、フランスとドイツの決闘は失敗に終わっていた。
さあ、これからどうなる?
ここで「INTERMISSION」。
この後、イギリス人のずる賢いアーミテージ卿が部下のコートニーと共に他の参加者の妨害工作を働く。
我らが裕次郎には、下剤入りのワインを飲ませようとするが、裕次郎は「水割りしかやらないので」と断る。
さすがに、大スターを下痢にさせる訳には行かなかったのだろう。
しかしながら、アーミテージ卿の妨害で日本機はあっと言う間に墜落する。
裕次郎の出番がちょっとしかないのが残念だ。
まあ、色々と言いたいことはあるが、全体としては夢のあるエンターテインメントである。
撮影は大変だっただろう。
特に、スタントが。
人が死ぬシーンなどはないので、コメディーとして、安心して最後まで見ることが出来る。
今ではもう、こういう映画は作れないだろう。
最後に、「この時代に25時間11分かかったロンドン・パリ間は、今では超音速旅客機でわずか7分間である」と字幕が出る。
技術の進歩は恐ろしい。