『北ホテル』

この週末は、ブルーレイで『北ホテル』を見た。

北ホテル マルセル・カルネ Blu-ray

北ホテル マルセル・カルネ Blu-ray

1938年のフランス映画。
監督・脚本はフランス映画界の巨匠中の巨匠マルセル・カルネ
映画史上のベストテンを選んだら、よく1位になる、あの『天井桟敷の人々』の監督だ。
マルセル・カルネと比べたら、ゴダールなんて小僧みたいなもんだろう(もちろん、ゴダールも巨匠だが)。
と言いつつ、僕は学生の頃、飯田橋ギンレイホールで『天井桟敷の人々』を観たが、ほとんど印象に残っていない。
今ならどう感じるだろうか。
セットは、『アパートの鍵貸します』(美術)のアレクサンドル・トローネ。
本作の撮影のために、実物大のパリの街並みのセットを作ったらしい。
ポンヌフの恋人』みたいだ。
主演は、アナベラ、ジャン=ピエール・オーモン。
共演は、『史上最大の作戦』のアルレッティ。
モノクロ、スタンダード。
舞台はパリ。
サン・マルタン運河に沿った石畳の街。
ベンチに座る若い男女。
この界隈に北ホテルはある。
見たところ、そんなに高級なホテルではない。
客は小市民階級。
食堂では、客達がにぎやかに食事をしている。
当時は、ホテルでも大食堂で同じテーブルで知らない者同士が食事をしたんだな。
で、売血の話題などが行われている(字幕では「献血」と出るが、血を売ってカネに換える話しをしているから、明らかに売血である)。
雷が鳴る。
上の階に宿泊している街娼のレイモンドの部屋にタルトの分け前を届ける女の子。
一緒に泊まっているヒモの中年男エドモンの分はない。
それが原因でケンカになるレイモンドとエドモン。
エドモンは写真家を目指している。
旧式の木製のカメラが出て来る。
レイモンドだけ階下へ降りて来る。
そこへ、冒頭の若い男女が一夜の宿を求めてやって来る。
部屋(16号室)へ。
キスをする二人。
ピエールは失業しており、寄る辺ない孤児のルネはピエールの他に頼る者もいない。
不幸な社会の縮図である。
ピエールはポケットからピストルを取り出す。
二人は、思い余って心中を企てたのであった。
ルネを撃って、すぐに後を追うと約束するピエール。
しかし、銃声に気付いた隣の部屋のエドモンが、ドアを蹴破って入って来る。
死ぬ勇気もなく、呆然とたたずんでいるピエールを、エドモンは「行け」と促して逃がす。
ピエールはピストルを運河沿いの公園に捨てて逃げる。
ホテルへ警察がやって来る。
第一発見者のエドモンは事情を聞かれる。
「部屋には女しかいなかった」とウソをつくエドモン。
警察は明らかに彼を疑っている。
で、何故かレイモンドが事情聴取で署に連行される。
一方、逃げたピエールは、陸橋の上から走る列車に向かって飛び降りようとするが、それも出来ない。
余談だが、この頃のパリには未だ馬車が走っていたんだな。
他方、ルネは実は死んでおらず、病院に運ばれて、ベッドの上で意識を取り戻す。
ピエールだけ死んだと思い込んだルネは取り乱す。
ところが、自首したピエールが手錠のまま警察に連れられて、ルネの病室へ面会にやって来る。
病室でルネに事情を聞く警察。
ルネは21歳になるまで孤児院にいたという。
彼女は、「撃ったのは私よ」とピエールをかばう。
が、信用されず、ピエールは警察に連行される。
その頃、運河で遊んでいた子供が、ピエールの捨てたピストルを見付けるが、傍を通り掛かったエドモンは、子供に小遣いを与えて、それを引き取る。
4日間も拘留されていたというレイモンドが、ようやくホテルに戻って来る。
カルロス・ゴーンもビックリの、フランス警察の非人道ぶりである。
エドモンは、ピストルを部屋の引き出しにしまう。
エドモンはレイモンドに、「南へ行こう」と、旅に出ることを提案する。
喜ぶレイモンド。
しかし、エドモンは、実は彼女のいない間に、ホテルのメイドのジャンヌと乳繰り合っていたのであった。
本作には、当時のフランス庶民の、解放的な男女関係が幾つも描かれる。
さすが恋愛の国フランスである(皮肉)。
レイモンドは娼婦なので、そういうことにはいちいち目くじらを立てない。
そこへ、全快したルネがホテルを訪ねて来て、支配人夫婦にお礼を言う。
支配人は彼女に酒を振る舞う。
未だにピエールを忘れられないルネは、「もう一度だけ16号室へ入らせて」と頼む。
他に行く当てもないルネに、支配人夫婦は「良かったら、ここで働いて」と言う。
ルネがホテルに戻ったことを知ったエドモンは、レイモンドに「旅は中止だ」と告げる。
ぶっきらぼうエドモンだが、実は秘かにルネを想っていたのであった。
ホテルでメイドとして働き始めたルネの方は、合間を縫って、ピエールの刑務所に会いに行っていた。
そんなルネにピエールは「新しい男を見付けろ」と冷たく言い放つ。
さあ、これからどうなる?
何と言うこともない庶民達の人間ドラマだが、当時のパリで暮らす人々の様子が生き生きと描かれている。
この頃のパリの街には、浮浪者が多かったんだな。
全体として切ないトーン。
物語もよく出来ているし、単なるメロドラマではなく、最後までしっかりと見ることが出来た。
天井桟敷の人々』も、もう一度、見てみたいな。