『赤い航路』

連休中は、『赤い航路』をブルーレイで見た。

赤い航路 Blu-ray

赤い航路 Blu-ray

1992年のフランス・イギリス合作映画。
監督は、『ローズマリーの赤ちゃん』『チャイナタウン』の巨匠ロマン・ポランスキー
音楽は、『炎のランナー』のヴァンゲリス
撮影は、『続・夕陽のガンマン』『ウエスタン』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』のトニーノ・デリ・コリ。
出演は、ヒュー・グラントクリスティン・スコット・トーマスピーター・コヨーテエマニュエル・セニエ
この作品は、ちょうど僕が大学に入学した年に公開された。
僕は、「ロマン・ポランスキーの作品だから」という理由で観に行った記憶がある。
しかし、「官能的な作品だった」ということ以外、内容は全く覚えていなかった。
今回、改めて見返してみて、「こんな衝撃的な作品だったのか」とショックを受けた。
一緒に見た細君には、「こんなスゴイ映画をどうして覚えていないの?」と言われた。
まあ、いつものことだが。
カラー、ワイド。
洋上。
嵐の前の静けさのようなテーマ曲。
イギリス人のナイジェル(ヒュー・グラント)とフィオナ(クリスティン・スコット・トーマス)の夫婦は、結婚7年目の記念でイスタンブールへ向けて豪華客船でのクルーズ旅行中であった。
フィオナがトイレに行くと、体調の悪そうな若い女性がいる。
吐いたりしたので、船上で休ませる。
なお、本作のセリフは英語。
ナイジェルは一人でバーへ。
セクシーな女性が壇上で踊っている。
その女性がナイジェルの隣に座る。
実は、先ほどトイレで倒れていた女性であった。
ナイジェルは話し掛けるが、彼の話しがつまらないので、女性は行ってしまう。
彼が船上で一人、海を眺めていると、車椅子の中年男が話し掛けて来る。
「彼女に気を付けろ。男を破滅させる。私は彼女の夫だ。妻とファックしたいんだろ?」
男はアメリカ人でオスカー(ピーター・コヨーテ)、その妻はフランス人でミミ(エマニュエル・セニエ)といった。
昨今と違ってバリア・フリーではない船内を、車椅子を押して、オスカーの船室へ行くナイジェル。
オスカーとミミは、何故か夫婦別々の船室だという。
オスカーは、初対面のナイジェルに、夫婦の出会いについて語り始める(ここから回想)。
数年前のパリ。
オスカーは作家志望だったが、親からの遺産を受け、パリで暮らしていた。
ある日、96番バスの中で新聞(『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』)を読んでいると、車掌が検札にやって来る。
オスカーは、隣の席に座っていた若い娘がキップを持っていなかったので、こっそりと自分のキップを渡す。
バスを降りた後も、は彼女のことが頭から離れなかった。
それから、彼は96番バスに乗って、パリ中を彼女を求めて捜し回る。
ある時、洋服屋若い女性店員をナンパして、食事に行くと、レストランの店員が例の彼女であった。
オスカーは彼女を食事に誘う。
アジア人の給仕のなまったフランス語を二人で笑う。
なまった外国語を笑うというのは、大変失礼な行為なのだが、本作にはそういう部分が多々、見受けられる。
公園で飲むミネラル・ウォーターはコントレックス
エッフェル塔や、先日、消失したノートルダムの尖塔なんかが見られる。
さすがパリだ。
で、オスカーはミミを自分の部屋に連れて来る。
抱き合う二人。
それから三日間、ヤリまくった。
まあ、そういう時期はあるわな。
オスカーは、ミミと離れたくなくて、彼女に仕事を辞めさせる。
彼は、彼女こそ「運命の女だ」と確信する。
遊園地でのデートの後、オスカーの部屋で激しく踊るミミ。
シースルーの衣装で官能的な彼女。
で、ここで現在に戻る。
オスカーの語りの赤裸々さに、辟易しているナイジェル。
自分の船室に戻る。
翌日、ナイジェルがフィオナにオスカーのことを話すと、彼女も呆れている。
しかし、ナイジェルとフィオナが食堂へ行くと、オスカーと鉢合わせする。
仕方がないので、一緒に食事をすることになる。
ミミは最初、別行動であったが、合流する。
テーブルの下で、ナイジェルに足を絡ませ、挑発するミミ。
オスカーは、ナイジェルを誘って、話しの続きを聞かせる。
オスカーがミミの尿を飲んだ話しを聞かされ、ナイジェルは「聞いてられない」と呆れる。
そう言えば、某Jニーズの人気グループAのMメンバーは、愛人であったAV女優のAから尿を飲まされていたというので話題になったな。
で、オスカーとミミはSMショップに行く。
尿を飲まされて、自分の中のM性に目覚めたオスカーは、「美女にいたぶられる喜びを味わってみたい」と願っている。
二人は数週間、部屋にこもって、SMプレイにふける。
が、やがて、それにも飽きる。
性欲だけの結び付きが一巡すると、相手の内面を見始めるんだな。
そこで、オスカーははたと気付く。
ミミは言った。
「私の英語力じゃ、あなたの作品の内容は理解できない。」
まあ、ミミはフランス人だから、日常会話程度の英語力しかないということだ。
それだけでも大したものだと思うが。
フレンチ・コネクション2』なんかを見ると、フランスでは全く英語が通じていなかったからね。
多少、時代は違うが。
昨今は、もう少し事情が違っているかも知れないが。
フランス人の国語愛は世界一だからな。
日本人も見習った方がいい。
日本人は、自分達が世界一の英語ベタだと卑下し過ぎだ。
外国語なんだから、難しいのは当たり前である。
日本では、すぐ英会話のことばかり話題になるが、本作の例でも分かるように、本を読むのはもっと難しい。
もっとも、ポランスキー自身はかなり語学に堪能らしいが。
いかん、話しが逸れた。
自分の書いている小説の内容すら理解してくれないので、オスカーは次第にミミのことが疎ましくなる。
まあ、出版の見込みのない小説ばかり書いている作家志望者だから、せめて自分の近しい人には認めて欲しいわな。
こう言っちゃ何だが、やはりカラダの相性だけじゃなくて、オツムの程度も一致していないと、カップルというのはうまく行かんということか。
で、彼女との生活に息が詰まり始めたオスカーは、アメリカ人の友人のところに彼女を連れ出す。
友人は出版業界関係者だが、ウェイトレス出身のミミは、知的な話しに付いて行けない。
それどころか、オスカーが他の女性と話していると、(たとえ仕事の話しであっても)嫉妬したりする。
まあ、こういうことはよくあることだが。
余談だが、オスカーは、タバコはジタンを吸っている。
如何にもフランスかぶれだ。
僕が以前の会社で同僚だったフランス語学科出身の人にジタンを勧めると、喜んで吸っていたな。
で、嫉妬したミミは、同席していた黒人ダンサーと一緒に踊り出す。
しかも、官能的に。
怒って帰宅したオスカーは、自室で一人、テレビを見ている。
ちなみに、この時、テレビに映っているのは、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(セルジオ・レオーネ監督)だ。
ロバート・デ・ニーロの顔が一瞬、映る。
帰って来たミミは、「私にはあなたしかいないの」と泣いてオスカーにすがり付く。
オスカーは、先の黒人ダンサーとのダンスを「ファック同然の踊りだった」となじる。
オスカーのミミに対する情熱は次第に薄れ、SMプレイも噛み合わなくなる。
ここで再び現在に戻り、ナイジェルがうんざりしている所へ、ミミが船室に戻って来る。
ナイジェルは部屋を後にするが、ミミのことが気になる。
ナイジェルが自分の部屋に戻ると、フィオナが焼いている。
まあ、女の勘は鋭いからな。
二人は船上へ出る。
寒いので、ナイジェルがフィオナのコートを取りに部屋へ戻ろうとすると、ミミが彼のことを誘惑した。
フィオナにウソをついて、ミミの誘いに乗るナイジェル。
しかし、ミミの部屋に行ってみると、ベッドで待っていたのは、何とオスカーだった。
「エイプリルフール~!」とおどけるオスカーとミミ。
夫婦に騙されたことに頭に来たナイジェルであったが、オスカーが諭す。
「私は妻を抱けないから、浮気は認めている。ただし、私の認めた男限定だ。」
さあ、これからどうなる?
本作は、前半は官能的な描写が続くので、官能映画扱いをされている。
が、後半はミミに感情移入してしまう。
後半は、官能描写はすっかり影を潜め、精神面の描写が中心になる。
これが、非常によく出来ている。
長く付き合った男と女なら、(ここまで極端でなくても)これに似た場面は少なからず経験しているだろう。
世間によくある薄っぺらい恋愛映画と違い、男女の精神的な結び付きを、ここまで深く掘り下げた映画はなかなかないのでは。
そして、とんでもない結末を迎える。
なお、エマニュエル・セニエポランスキーの奥さんである。
自分の奥さんに、よくこんな役をやらせたものだ。
最後にまたまた、語学絡みの余談を一つ。
後半に、オスカーとミミの大ゲンカがある。
オスカー「英語が苦手なら母国語で話せ!」
ミミ「8年もパリにいてあの程度のフランス語力。英語も下手だから本が出せない!」
まあ、これでオスカーがブチ切れるのだが。
この会話でも分かるように、如何に語学が難しいか。
英語とフランス語は同じインド・ヨーロッパ語族で、英単語の7割はフランス語起源だと言われている。
それで、8年間住んでいても、なかなかマスター出来ないのだから。
ましてや、日本語と英語は、言語系統的には、全く別である。
それで、現地にも行かず、学校で週何時間か習ったくらいで、マスター出来る訳がない。
それを逆手に取った、よくある英会話学校の勧誘(「学校英語じゃ話せるようにならない」)なんか、詐欺そのものである。

Bitter Moon - Trailer